ポーンギルドの付与術師   作:キョウさん。

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4話-メイリオの短剣~くずの集まり~

 

 

 部屋を与えられた。

 

 もともと廃教会ということもあって部屋数はそれなりにあるらしく、ただし広くはないし質素だ。よくある六畳半ってところだろう、あんまり掃除ができてなかったらしいのだが今チャーニーちゃんがぱぱっとお掃除をしてくれたおかげで、見るも違えるような匠の演出を垣間見ているとこだ。

 

「……ホウキに“付与(エンチャント)”してくれたのはありがたいケド、それなら手伝ってくれてもよかったと思うんだけどナー」

 

 わざとらしいカタコトの言葉遣いをする赤毛ダブルおさげ、おまけに眼鏡ときて属性がほどよく盛られたチャーニーちゃん……通称店主ちゃんがぼやく。すいませんそういうのは専門の業者に任せたほうが足手まといにならないかなって思って。

 

 掃除をしているときに話しかけたら嫌々な声で答えてくれたが、彼女が単純に計算が得意なことから経理をしていることのほかにギルドの経営管理を一括でしている、外部への供給、拠出もすべて請け負っていることから店主ちゃんと呼ばれているらしい。本人としてはもともと商人志望だったらしく、まんざらでもないらしいのでこれからも呼ぼう。

 

「さーてできたヨっと、ここがキミの生活拠点になる場所だかラちゃんと管理するんだヨー、今後はウチは掃除しないからそのつもりでネ」

「ゴミ出しの日を教えてくれればダストシュートには捨てに行くよ」

「なんだいゴミ出しの日っテ……ナマモノとか燃えるモノならまとめて裏の焼却炉の脇においといてくれれば、当番制でニッサかアーリンが焼いといてくれるかラそこだけ覚えといてネ。ビンとかは洗って各商店に自分で返すよーに」

「ビンの使い回しするんだ……」

「ビンをいちいち割ったりまた作り直しできるなんテ、それこそ大商人のヤローとか貴族サマのお屋敷くらいしかないノっ。ウチはそんなに余裕ないんだから節約できるモノは節約節約! ……まァ、キミが来たことでそれが好転するといいナーっては思ってるけどネ」

 

 そう言い、店主ちゃんは自分よりもさきに部屋に入ると椅子に遠慮なく座った。

 だから自分も、しかたがないのでベッドに座るのだ、無言で。

 

「……からかいがいのないヒトだよネ」

「つっこんだら負けかなって」

「へいへいー、まァ、ちょっとお話と、お願いと、お誘いでもしたくってネ」

「そういうお誘いはちょっとよくないかなって……」

「だァれがキミなんぞに」

 

 ぷんぷくりんといった感じでジト目を向けてくる店主ちゃん、なんとなく似合っている。

 しばし感情のこもらない目で見つめ返すとしかし、はぁ、とため息をついてから切り出してきた。

 

「ギルドの仕組みとか、どんなギルドがあるかとか、ここがどーいうとことか、そーいうのッテーだ聞いてないんだよネ?」

「まったく、いやまったく」

「はぁー……メイリオも悪い子じゃないんだケドそーいうとこがなァ」

「じゃあ、店主ちゃんが聞かせてくれるってことかな。しょうみ自分もこれから当面の目標っていうものが決まってないから、行き当たりばったりになるまえにいろいろ聞けることは聞きたいかなって、人生当たって砕けろかもしれないけど、知ってることがあるに越したことはないし」

「そりゃァー聞かせるヨ。だってそのまんま放り出したらキミあぶなっかしすぎるもん」

 

 よーく聞いてねメモの準備ーと言う店主ちゃん。

 あいにくUIにメモ機能はない、テキストエディタをよこしてほしい、あるいはWordだとなおいい。

 

 とはいえないものはないので丁重に頭を下げなければ、このオルカ、礼儀は知っている。

 

「あー冗談冗談、まあしっかり覚えてってネ。 ……行商人やってたのかいいとこのオボッチャンなのかは知らないしケド、わざわざ民間人って言い張るにはそれなりの理由はあるんだろうシ……聞かないケドさ。とかく、商業組合(ギルド)や冒険者組合(ギルド)……マジックサークルとかも、そのあたりは知ってルよね?常識でショ」

「知らない」

「うっそォ……どこで付与術学んだんヨ……えー、ごほほん。”ギルド”っていうのはネ、いろんなジャンルの人たちがネ、それぞれ互助組合を組んで(まつりごと)や王政の気まぐれに対抗しようっテなったのがはじまりなノ。そこはおいといていいとして、今はそうねェ……“いろんな制度や規則、階級を内々で決めて、互いに順風な経営をするために手を組みましょ”っていう……まあ困った時はお互い様組合だネ」

「ああ会社か、わかりやすい」

「かい……?んまァ、そういうことで冒険者は冒険者の、商人は商人の、漁業は漁業!みたいな感じでおっきな組合を作ってるわけヨ。でももちろんそこに入るのが規則でもないシ、特定のジャンルを決めてギルドを作らなきゃいけないって法もないワケ」

「ほほうほほう……読めてきたぞ」

「ほんとにィ?まァ冒険者ギルドは広く依頼を集めたり冒険者を組合に所属させたりしていろーいろ手広くやったり、商業ギルドも金融とか、相場の調整とかいろーいろ悪どくやってるみたいだけどサ。 ……“ここ”がどういうギルドか、わかル?」

「うーん……」

 

 所属人数七人、みんなバラバラだけど戦闘系、暮らしは貧相そうで……。

 うーんわからん!このオルカ、敗者である。

 

「ここのメンツはネ、ウチが例えば商業ギルドの爪弾きモノ……ってとこで察してくれるかもしれないケド、そーいうので構成されてるのサ。ただ共通することは“正義感”……どこかの悪さや悪どいあれこれに耐えきれなくって、誰かを助けたいっテ、あるいはせめて誰かの役に立ちたいッテ……そんなのだけが集まって、最初に“なんでもギルド”なーんて、ふふっ、今思い出すとほんとに安直な名前だったなあッテ、そんなふうにできたものなのヨ」

「いいことだ」

「ありがとネ。でもだから最初理想を追いすぎちゃってサ、何度も経営破綻になりかけたりしたシ……いまじゃ自分たちの首の皮つなぐのが精一杯、そんなうちに呼ばれ出したのがはぐれ者のより集まり、転じてクズ、一人じゃ何もデキない連中の集まりってんで“ポーンギルド(くずギルド)”なんて呼ばれてサ」

「続けて」

「……でもなら、いっそそれを名乗ってやろう、“駒”でも将を討ち取れるんだって証明するために名乗ろうってなっていまになるノ。だからサ、そんなトコなんだヨ、ここ。アーリンが誘った時は止めなかったケド、キミがいて心地いいところかっていうとそうじゃないんだよネ」

 

 なるほど道理で。

 自分は喉から手が出るほど欲しかったっていうのはそういうこともあったんだな。

 

 でも。

 

「だから出ていくなら今のうち、ってことかな」

「そそ、ウチが責任はとるヨ、キミがいてくれて嬉しいことはいっぱいあるケド、キミがここにいていいことは多分そうそうないからネ。キミほどの人間なら、どこへいっても通用するはずだシ……なにより、ウチで“扱える自信がない”」

「ふむ」

 

 なるほど弱気な言葉だが、確かに言われてみるとそうだ。自分の能力がこの世界で”それなりに“強いことはわかった。金を稼ぐことに腐心するならどうにかなるだろうし、身を護ることだってそれにモノを言わせればどうにかなるだろう。

 

 ―――されど、このオルカ、直感は鋭い方である。

 決して理論的に考えるのが苦手かというと否定はできないが。

 

「むしろその話を聞いて、自分は安心してここにいられると思う」

「……不安要素しか伝えてない気がするケド」

「ここにいる人間は自分の正義を信じて行動を起こせるタイプなんだろうに、それならよっぽど自分のパワーを振るうに安心できるってものさ。少なくとも自己の利益のために最大限自分を絞り尽くすような連中じゃないなら、安心して身を任せられると言うか……なんというか、アレだと思う、アレ」

「公正明大っぽい、とかじゃないだろうネ」

「それで行こう」

 

 褒めても何も出ないヨッ、と言う店主ちゃんにぐっとガッツポーズをする。

 事実そうだ、右も左もわからないこの世界に引っ張り出されてあわわ死んじゃうウグーーーーーってなっていたところを手を引いてくれたメイリオといい、こういった言葉を包み隠さずこっそり打ち明けてくれた店主ちゃんといい、信用に足るというもの。信頼はこれからお互い積み上げていくとして、寝泊まりして三食昼寝するのにいい環境はないだろう、たぶんここには掃除機をかけるためにドアをバーン!と開けてくるような人や謎の集金業者はいないはずだ。

 

 打算的に考えても、自分はここがいい。

 このオルカ、策略家である。

 

「んまァ~……そういうことなら、ウチは全力サポートさせてもらうことにするケド。ほんとにいいノ?当分いい暮らしできないヨ?部屋も狭いし、食事はギデオンがいるからけっこうイケるけどサ」

「筋肉すごい……」

 

 あの人が作ってたのか……。

 素敵、抱いて、やっぱやめて。

 

「んじゃ、ここからはお願い」

 

 あらたまったように座り直し、店主ちゃんがこちらを向く。

 ベレー帽が可愛らしいアクセントで、スカートはロングなのでゆったり感がある、なるほど非戦闘員と言うと即座に伝わりそうな感じだ。眼鏡も相まってなかなかどうしてベテランキャリアなOL感を……。

 

「キミが付与(エンチャント)した装備品は、すべてウチを通して売ったりしてほしいのヨ」

「勝手にそこらにばらまいたら死刑ってことか……なきそう」

「いや死刑にはしないケド……メイリオが言ったとおり、キミのその“みっつの付与”はそれだけで強烈だからネ、そこらに転がってる状態になっちゃうと列強ギルドのメンツが確実にキミを引き抜いたり……最悪消しにくる可能性はあるからネ」

「こわいなきそう……」

「冗談じゃないのヨ、付与装備自体はありふれたものだケド、数が多いものってそうそうお目にかかれないものだからサ……もし自分の売り物よりいいモノを作るのがいて、そいつのせいで自分のモノが売れなくなるなんて目の上のたんこぶになったらどうすル?」

「それ以上にスキルレベルを上げて、相場を読んでいいものを売りさばきます」

「努力家だってことはわかったヨ。でも簡単にはいかないってコト、とりあえずまぁ……このあたりの相場をぶち壊す懸念とかも兼ねて、しばらく売りさばきは待って欲しいってコト。しばらくいい暮らしができなくて大丈夫、ってのはそういうことネ、ウチもキミが作るモノの値打ちを判断しきれてないシ」

 

 なるほど了解、このオルカ、倹約家である。

 ガチャ以外はだ。ただもやし生活はもうしたくない。

 

「んま、あとのこまごましたとこはあとから教えるかラ、そこだけ覚えといてくれれば!……てネ!みっつも付与できる付与術師(エンチャンター)がいてくれるとこっちも心強いヨ、みんなの装備も改良できるなら生存性や効率がぐーっと上がるからネ」

「八つまでエンチャントはできるぞ」

「またまたー、神話級で五つなんだからなんだかラ。キミも冗談がうまいなあこのこの」

 

 まあ、スロットの空いてる装備がないとそこまでぶちこめないが……そこでオーラを出してるホウキも確かにスロット1だったな、最低でも身につけられるアイテムに関してはスロットが1空いているらしい、なんでも強化できるのはとても便利だ。あとで光量の足りないランプを思いっきり光らせてやろう。

 

「んじゃ、最後にお誘いでも言おっか」

「だからそういうお誘いは……」

「もうちょいウチ好みになってからおいでおいデ。んまァ、ちょっとキミの目を鍛えるために……隣街まで行って取引先との商売を見ないかナってコト。そのために―――“みっつ”の装備をひとつ、作ってもらえないかなってコト、あとニッサが一緒に行くヨ」

「ああ、あのフードの」

 

 緑髪のフードちゃんか、顔をよく見たことがなかったな。

 

「いろいろ言ったケド、キミにはなにより経験を積ませてみるほうがいいって思うからネ。大丈夫、話は全部ウチがするかラ見ててくれるだけで大丈夫だヨ、隣町も歩いて2時間くらいだしあっというまあっというま」

「ほほう……旅行ですか」

「旅行……」

 

 そういえばこの世界にきて初日だけど、広い場所に出てはなかったなあ。

 地平線はちゃんと見えるんだろうか?オルカ気になります。

 

 自分はふたつ返事で了承すると、しかしはっと、思い出したようにインベントリを見た。

 

「そういえば歩いて二時間ってことだけど、いいものがある」

「へェ、また面白い付与(エンチャント)?」

「いや、乗り物さ」

 

 このオルカ、便利なものは使っていく主義である。

 

 

 




店主ちゃんは知ってる人は知ってそうなあの娘がベースです
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