ポーンギルドの付与術師   作:キョウさん。

8 / 15
7話-メイリオの短剣~トロールとろとろ~

 

 

 

 いつも下を向いているのは、人が苦手だから。

 いつも目をそらすのは、見られるのが怖いから。

 いつもフードをかぶっているのは、見られたくないものがあるから。

 

 だから人の多い場所は苦手なの、いつもはケイと組んで狩りには出るけど、こういうふうに街に出ることはめったにしない。今日はケイが用事で出てるしみんなも依頼にてんてこまいだし、リリーはあれだしで人手がないから仕方なくチャーニーのあとをついていくことになった。

 

 一緒に行くのは昨日ここにきたばかりのオルカさん。

 一言で言えば何を考えてるかわからないひとで、でも確かに実力のある付与術師(エンチャンター)。“みっつの付与”を簡単に成功させたうえに、精霊術が少し使えるわたしにも知らない付与を知っているひと。だからますます怪しくなって、でもなんとなく悪いひとじゃないっていうのがわかるからいつもみたいに縮こまって様子をうかがってた。

 

 でも彼の“すごいとこ”、それだけじゃないの。

 

 なにもないところから突然乗り物を出した、乗り物って思うのは彼が出してすぐ乗ったからで、今まで見たこともないような形と音。なんでも“オフロードバギー”っていう彼のふるさとの乗り物らしくて、彼の説明はまったくわからなかったけどでも、火と雷の複合魔法で動くものなんだなっていうのはわかった。

 

 えっ、あっ、わたしも乗るの、えっ。

 やっ、はやいはやい!ひゃあ!

 

 こわかったけど、はやかった。オルカのいるところではこういうのが当たり前に走ってるらしい。こんなに速いとぶつかったら危ないなっておもったけどでも、ちゃんと法律があるそうだ。文明がすごーく発展したところなんだなあ、って思いつつ、でもまだやっぱり彼の人物像がぜんぜん見えてこなかった。

 でもそうしていると、ふとオルカが体調の悪そうな顔をする。

 だからつい身体が勝手に動いてヒールはいるかな、って声をかけちゃった。

 

 ―――わたしの悪い癖で、イヤな想い出。

 気分の悪そうな人がいるとつい声をかけちゃう、でもオルカはなんでもないみたいだからよかった。

 

 冒険者ギルドは相変わらず苦手、こわい人ばかりだし。だからわたしがチャーニーを守るためにここにいるのにチャーニーについていくだけになっちゃって、オルカのことを置き去りにしちゃった。でもオルカはなんでもなく冒険者の人をいなしてついてきたみたいで、やっぱりわたしと違って普通の人はこうなんだなあ、って痛いほど思う。

 

 ……商談はすぐ終わった。ギルドマスターさんはあんまりこわくない。

 見た目はこわいけどでも、他のひととは違う気がする。

 

 またオルカが冒険者の人に絡まれてたけど多分大丈夫だろうって放って、足早に外に出る。フードをいつもかぶってるから目立つのはわかってるけどでも、だからなおさら外せない。わたしの顔をあんまり人に見られるわけにもいかない。こんなだからみんなに比べるとわたしはできることが少なくて迷惑かけちゃってるのが、ちょっと、つらい。

 

 だから今日はつかれたって、人と関わるだけでつかれるなあって帰りたい気持ちが勝って。だからぴょんってオフロードバギーにのって、それがうかつだったってまたひゃあーってすごい速度で走るのに振り回されながらでも、ここでわたしは今日一番の大仕事をすることになった。

 

 

 ―――トロール。

 

 西の森に最近湧き出した魔物、本来はもっと奥地やマナの濃い場所に出て、そしてなにより他の魔物すら食し糧とし間引きと肥大化の双方を行う厄介な魔物。わたしの三倍の背丈を持ち、熊どころかオークですら比にならない筋肉の鎧を身にまとう、いわゆる“力”を象徴するかのような魔物。

 

 こんな街道に出るなんて……信じられないと思いながらも、でも弓を射る。

 綺麗に吸い込まれた矢は傷を与えるけどでも、やっぱり効かない。そうだ、トロールには傷を勝手に塞ぐ能力がある、だから浅い傷はまるで意味がないんだ。わたしの弓矢は狩猟のためのものでそして、私自身が持つ能力は回復に寄ったもの。

 

 逃げなきゃやられる……!考えるころにはオルカがわたしに呼びかけてくれてて、わたしがかがむと勢いよくオフロードバギーを動かしていちもくさんに逃げる……速さは倍以上もあって、トロールはぐんぐん引き離されていった。

 ……どっと緊張感がとけるとともに、自分が無力だったことが脳裏に走る。わたし自信、もともと戦闘能力はギデオンやメイリオ達に比べて低いから、こんなみんなを守らなきゃいけないときなのに弱くて、つい落ち込んじゃう。

 

 このまま逃げるのかな、わたしはいつだって、逃げるのかな。

 そうしていると不意に、まだトロールを見てたらしいオルカが声をかけてきた。

 

「フードちゃん、トロールが反転する理由ある?」

 

 ……? 魔物が目の前の目標を振り切って動くなんて……それもトロールみたいな知性の低いのがするなんて。待ち構えて“狩り”をするか、あるいは……違う獲物を見つけたとき、ああっ、なんてこと!絶対に勝てない相手に出会ったこんなタイミングでこんなに不運が重なるんだ。わたしはやっぱり“誰も守れない”。

 

 ごめんなさい、仕留められるなら仕留めたい、でも力不足。

 わたし弱いよね、ごめんね……って、言いかけたところでチャーニーがフォローしてくれて。

 

 ―――でも、それをオルカが止めた。

 

 自分のかわりに戦ってくれって言われて、混乱する頭でできますって答えて、謝りもして。そしたら矢筒をよこしてって言うものだから渡すの。

 

 わたしの矢筒はかつてエルフの木工師が作ったもので、軽くてしなやかで、装飾もきれいで―――なにより、想い出の品だ、この弓も。だからもし“付与(エンチャント)”を行うなら絶対に失敗はさせたくないって思ってたから、ここにオルカがいたのはきっと成功だったのかもしれない。とっさで状況を選んでられなかったのもあるけどすべてをオルカに任せて、矢筒がぼうっと緑色に光ったのを見て、確信する。

 

 矢筒に入れた矢そのものを変化させる“付与”――― これも知らない。

 

 オルカはこれを“当てればいい”って言ってくれた。

 当てるだけなら、わたしは誰にも負けない自信はある。だからそう言ってくれたなら全力で期待に答えるのが義務なんだってふたつ返事で戦いを引き受けて、弓を構えてオフロードバギーの加速に追従するんだ、もうこの挙動には慣れたから走りながらでも弓を構えることができた。

 

 この乗り物すごい、馬と違ってずっと平行に動き続けるし、四人まで乗れるし……弓の使い手にとってだけじゃない、これがぶつかるだけでとてつもない武器になるしそれに、三人の遠距離攻撃手が乗ったらそれこそ動く弓やぐらだ。こんなものが沢山生産されているなんて、オルカの国は軍事力もすごいんだろうな。

 

 ……いけない、気を集中しなくちゃ。

 

 弓を射るのは簡単、でもコツを掴むまでが難しい。

 とりわけむずかしいのはふたつ、弓が持つクセと、風だ。わたしの弓は弦の引きに対し勢いが強すぎるからそれにあわせて使わなきゃならないし、風を読むことができないと風に吹かれて曲がる矢は狙いに当たらない。

 

 ……わたしはずっとやってきたから、こんな大きな的を外すわけないと、弦を引いて矢を射る。放物線を描いて食い込む爪のように差し込まれる矢はトロールに一撃を加えてでも、傷が浅かった。やっぱりわたしじゃダメなのかなって思いながらでも、もう一度、きっと何かが変わると思って矢を射る―――そしてそれは現実のものとなった。

 

「オルカ、きいてない……!」

「大丈夫、もうきいてる」

 

 わたしが狼狽するのをよそに、オルカは力強く言い切った。

 事実そうだ、わたしに射られたトロールはその身体を硬直させて動けなくなっていたから。

 

 オルカが言うには“硬化の”のエンチャントらしくて、それにさらにどっと?ダメージが付与されているらしい。つまり毒を塗ったような効果でトロールの回復を低下させたうえでダメージを与えているんだってことで、ならまだまだと、わたしは矢を続けざまに射る。

 

 矢を六本も射ったころだろうかな。

 トロールの様子が急激に変わる、目を剥いてまるで窒息するネズミみたいになって、口から泡を噴き始める。それでもまだ死なないんだということが、この魔物が“力”を象徴する所以なんだろうなと思ったほどだった。

 

 でもすぐ、トロールの硬直が解けて沈み込んだことが自分が勝ったことを思わせる。

 

 チャーニーは喜んで自分を抱き寄せて、でも自分はほぼ呆然で、簡単にトロールを仕留められたことがその時はぜんぜん信じられなかった。“自分でもできた”ってことが信じられなかった……オルカって人はまだよくわかってないけど、でも。

 

 

 ―――わたしたちにとって心強い、ってことだけ、わかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ポーンギルドに戻ってきた頃合いでもまだ日は高く、さてはて今日は次はなんの予定が入っているのか、おゆうはんはどんなものかなどと考えつつ扉を開いてただいまを伝える、も、ポーンギルドには誰もいないではないか。あるのは鎮座する黒色全身鎧の飾りだけだ。

 

「おかえり三人とも、ずいぶん早かったね?」

 

 ヒエーッ、アーリン団長だった。ぴくりとも動かない全身鎧で廃教会の中央に立っている姿はなかなかにホラーチックである、イベント戦闘で戦う系のボスだ。鎧を倒しても中身を浄化しないことには倒しきれないのだ。

 

「こいつの乗り物が、すごーく速くってネ。アーリンも一度乗せてもらうといいヨ」

「う、うん……」

「ほう……それは楽しみだ、君の“インベントリ”にはさまざまなものが入っているみたいだがそんなものまであるとは……自慢じゃないがかつては乗馬も嗜んでいた身でね、今度私が出るときにでも乗せていっておくれよ、大抵の乗り物は乗りこなせる自信がある」

「アッ…はい」

 

 意地悪そうに言う店主ちゃんと、素直に答えるニッサ、実に対照的だがアーリン団長は素直に受け止めてくれているのだろうか。だがオフロードバギーの乗り心地は自分としてもなかなか良かった、次の機会があったらまた使おう。

 実際の車の運転もこんなものなのかな、と思いつつ、免許取得を諦めていたことを思い出す。こっちで何か取れそうな資格でもあったらちょっと手を出してみようか、一級トロールハンターとか。

 

「さてはて、報告~っテ前に、見せたほうが早そうだネ」

「いい成果は得られたってことだねチャーニー、君なら安心だ」

「んにゃ~見たら驚くヨー、ね、ニッサ~♪」

「うゃぅ~やめてー……」

 

 後ろからニッサを抱き、うりうりと撫でる店主ちゃん。百合の花園はここにあったのでありますかわ?華が咲き乱れるでございますわ、そう形容したい景色を前にしつつ自分は自分でインベントリを開き、いつものように端末操作の要領で今回の“成果”をアーリンの前に出した。

 

 ドスン、と音を立ててまず置かれるのはトロールの脂だ。あまりいい臭いはしないものだが四角くほとんど豆腐のように綺麗に切り出されており、職人技を感じる――― というよりどうやら、ドロップアイテムに関してはある程度自動で回収されるらしい。トロールからアイテムを回収したとたんトロールのどでかく固い胴体がインベントリに吸い込まれ、次の瞬間にはアイコンに落ち着いていたのだ。

 ”トロールの肉”、”トロールの脂”となるふたつのドロップアイテムで、これもかつてのネットゲームにあったものだ。肉はゴミ箱行きだったが脂は特に、上等な消耗品を作るのに役に立っていたから使えるだろう、この世界の素材に関しても知っておかねば。

 

「詳しいことはあとで聞くとして……さて」

 

 アーリンはほほう、と唸ると脂を丹念に見た。

 全身鎧がぶよぶよの脂を観察する姿というのはなかなかにおもしろい。

 

「上等なトロールの脂だ、いい値段で売れると思わないか店主ちゃん」

「そうねェ……こんだけあったラ金貨でニ十枚いけるんじゃナイ?肉も売れるシ」

「えっ肉売れるんだ……こわい」

「アンタの故郷じゃどうだったか知らないケド、こっちじゃトロールの肉は珍味よ珍味、好事家やその手の業者に売りつけりゃそのうちジャーキーとか角煮になっテまたそのへんで見られるんじゃナイ?」

 

 角煮にするのか……言われてみると臭みはあるがいい色をしていてうまそうにも見えなくもない、いややっぱ見えない、あのトロールと思うとやっぱ見えない。ネットゲームの頃はアイコンとフレーバーテキストで見ていたものが目の前にあるとなんとも言えない気分になるものだ……なきそう、ないた。

 

 さて、これはどうするんだろう、ここに置いておいていいのかな。

 

「すまないが、よかったらもう少し持っていてもらえると助かる。急な入手だったもので手配がなくてね……ただインベントリなら持ち運びは楽だろうし、明日にでもメイリオか店主ちゃんと一緒に加工業者のギルドにでも売りにいけばスペースも開けて一石二鳥だろうさ」

「ほほう」

「まァーた出張かヨー、ウチ以外書類仕事できるヒトおらんでショー」

「私がやっておくから、たまには外でも回っておいで」

「はいはいはーィ、んじゃ費用は経費もちネー」

 

 暗に遊んでこいってことなんだろうか。なるほどここでの娯楽、気になる。

 最大の娯楽である隔週のネトゲアップデートがなくなった以上、匹敵する何かを探さねばなるまい。このオルカ、ギャンブル中毒である、ガチャは回したいのだ。金銭を賭けるほんとの賭博ではない、ガチャを回したいのだ。

 

 それっぽいものがないだろうか……というか、ガチャがないだろうか。

 A賞でかわいいパートナーやめちゃつよなお洋服が手に入るのだ。

 

「ううっ……」

「ん、どした?ダイジョブ?キツかった?」

「いやホームシック」

「あァ……そういうのあるよネ。大丈夫大丈夫、軌道に乗ったら一度帰ったりしヨ」

「そう、です……!帰るところがある、って、それだけでいいとおもいます……!」

 

 ううありがとうみんな、なきそう、ないた。

 店主ちゃんがぽんっと肩を叩いてくれるのがうれしい。

 

 っというと、メイリオはどこにいったのか。端で煙草吸ってるリリアナしか見えないが。

 

「ああ、メイリオは確か……」

「―――ちょっとアーリン!?すぐ来て!?」

 

 はてさて、聞き覚えのある声だ、メイリオっぽい声で、メイリオだ。

 廃教会には四方に通路があり、それぞれ厨房や二階、出口といった部分につながっている。そしてもうひとつもまあ、当然必要なところにつながっているのだ、人間的な生活に必要なものとうと当然決まりだろう、浴場である。メイリオの声はその方角から聞こえ、全員が一様に目を向けた。

 

「蛇口がおかしいんだけど!?こう、お湯が出るっていうかしゃわわー!って水が裂けるっていうか!?こう、すごい“付与されてる”って感じがするんだけど!!なんかした!?なんか、こう……こう……あっ……」

「ああ、その付与は“シャワーの”だな。蛇口に使うと温水シャワーが出るようになるやつで先にやっておいたやつさ。便利だとは思うんだが確かに……無断でやったことは詫びよう、もし水風呂がいいなら解除するし、なんならデュアルシャワーにしても……」

「いや、オルカなら納得だけど……うん、わかったわ、また浴びてくるから」

 

 バスタオル姿のメイリオがひょこっと顔をのぞかせこちらを見て声をかけてきたので、心当たりがある自分が即座に答えるとメイリオがひょひょっと、萎縮した様子を見せる。

 

 店主ちゃんが掃除をしている間に行ったトイレついでにやっておいたもので、あとで使おうと思っていたものだ。試運転を済ませていなかったことだけが気がかりだったがどうやら、メイリオが使って大丈夫だったということは使えるものだったらしい……実験台にしてしまったような部分は悪いことをしたな。

 

「悪い、試運転をさせるような形になって」

「それはいいんだけど、その」

「おう」

 

 ふむ、言いたいことがあるようだ。

 さてはて、不備があったか……なら早急に直したいものだが。

 

 続くメイリオは、ぼそりとだけ口にした。

 

「……謝るとこ違くない…?」

 

 隠していた身体をさらにひょいっと奥へと寄せ、戻っていくメイリオ。

 赤のセミショートが揺れ、あとに水滴が一瞬飛んだ。

 

 えっ……完璧身体隠れてたし、事故だし自分悪くはなくない?

 どうなのどうなのそこんとこ、とふと右を見て、左を見て。

 

 ニッサは縮こまり、アーリンは笑っていて。

 ―――店主ちゃんには笑いながら頭をはたかれた。 

 

 




浴室は廃教会の流用ということもあって本来女子用しかないです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。