紅蓮の流星記   作:夢雨麻

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第四記

 ここは、どこだ?俺は、入試会場で戦っていたはず………………。

 そうしたら、兄さんを殺した奴が、美詠さんを殺そうとしていて。

 そして、身体が勝手に動いて、優勢になったけど、逃げられて。

 ここは一体、どこなんだ?

 真っ暗で、どこまでも闇しかなくて。

 体を包んでいる浮遊感から、上下左右の感覚は掴み取れなくなっている。

 

『………える…聞こえ……聞こえるか?』

 

 自分から見て右前方に、紅い光が見える。そこから、声が聞こえる。

 

「聞こえる………、ここはどこなんだ?」

 

 紅い光から聞こえる問いに対し応え、こちらも問う。

 しかし、紅い光から聞こえる声はその問いには応えず、どんどんと自分勝手に話を進めていく。

 

『お前には、やるべきことがある。ソレが何かは、今は言えないが。いずれ、自分で気づくはずだろうし、な』

 

 やるべきこと、恐らく皇国軍と戦うことである。

 もしも、俺がまだ生きているならば、あの事はきっと帝国軍の上層部に伝わるはず。

 そうなった場合、兄さんの弟、更にかなりの数の敵を蹴散らしたんだ。

 少なくとも、目はつけられる。

 

『お前には、俺の意志を継いでもらいたい。戦友(なかま)を、そして、(とも)を救うための戦を。世の中の不条理をぶち壊すための、世界最後の争いを』

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 今、なんと言った?敵を救うって?

 確かに、俺は敵も味方も、誰にも死んでほしくない。

 ただ、ソレは救いではなく自己満足でしかない、実現不可能なことだ。

 

「敵を救う?冗談じゃない」

 

 最も至極なことを言ったつもりだった。

 しかし、紅い光から聞こえる声が続けた言葉に、何も言えなくなる。

 

『何故だ………?同じ人間じゃないか。何を忌み嫌う。嘗ての因縁など、俺たちには関係のないことだ。何の利益も生まない。生むのは悲劇だけだ』

 

 何を忌むのか。悲劇しか生まれない。確かにその通りだ。

 

『どちらかに軍配があがっても、誰も喜ばない。帝国側の人間にも皇国側の友人はいるはずだ。逆も然り、その人たちは争いを望んでいないはずだ』

 

 誰しもが嫌い合っているわけではない。中立国は様々な人種が手を取り合って、毎日を楽しく過ごしているらしい。

 その人たちにとっては、争いこそ忌むべき存在じゃないか?

 

『結局のところ、争いをして利益を得るのは軍の上層部や、国の主だけだ。俺たちみたいな一般人が、何故死ななければならない』

 

 俺は、兄さんを失った。あの時までの均衡を築き上げたのは兄さんだった。

 そして、兄さんは死んだ。

 

『もう、誰にも悲しんでほしくない。だから、悲しみを終わらせるための戦を、俺の意志を、俺の夢を継いでほしい』

 

 しかし、ここであることに気付く。

 

「そのための争いをしたら、結局同じじゃないのか?」

 

 争いを終わらせるための争い。

 確かに、他に手はないかもしれない。

 だが、ソレでは意味がないのではないか?

 

『だからこその、世界最後の争いにするんだ』

 

 世界、最後の争い……………………。

 

「もし、ソレを成し遂げたとき俺は、俺は何になれる?英雄か?それとも伝説か?………………そんなのいらない。だったら俺は現状維持を──────────」

 

 俺の言葉の先は、とある人物の出現によって遮られた。

 懐かしい、懐かしいよ。どうして、とか、何故ここに、とかはどうでもいい。

 

「お前には、俺の意志を継げる。家族も、俺の彼女も。皇国にいる友人も。誰とかそんなのは関係なく、救うことができる」

 

 また、逢うことができた。もう逢えないと、逢えるわけないと思っていた。

 

「何故ならお前は、()()()()()()()()()()!!」

 

「兄、さん?」

 

 そこにいたのは、紛れもない。

 

 

 

 俺の兄さん、赫宮双司だった。

 

 

 

「双葉、今までよく頑張ったな!これからもっと頑張ってもらうことになるけどな」

 

「ちょっと待ってよ!俺はやるなんて一言も………………」

 

「やるよ。お前はやってくれる」

 

 何だよ、その目は。俺を信じてるっていう目だ。

 そんな目で見られても困る。

 

「俺には、できない………………!」

 

「昔から、お前の方が運動神経よかったよなぁ。俺なんか、ライフもオースも使い切れなかった。あの()()に振り回されてばっかでな」

 

 どういう意味だ?兄さんは強くて、でも剣には振り回されてばっか?

 何を言っているのか、全く理解ができない。

 

「お前になら、任せられる。俺の護りたかったモノ、全てをな」

 

「無理だ。兄さんに出来ないことが、俺に出来るわけ」

 

「甘ったれんなッ!」

 

 突然、兄さんに一喝され言葉を失う。

 

「お前は逃げてるだけだ。お前は、俺よりも優れてる。悔しいけど、お前の方が俺より強いッ!!」

 

 兄さんの顔が、段々と苦いものになっていく。

 

「お前には、楽しく生きてほしかったッ!!だから、俺は強くなろうとしたッ!!!!だけど、俺は死んじまった………!」

 

 泣いていた。兄さんが泣くとこなんて、一度も見たことがない。

 

「頼むッ!!俺の代わりに、恋水(なみだ)を救ってくれ!!!!」

 

 恋水(なみだ)雨峰(あまみね)恋水。兄さんの恋人だ。

 そして、帝国軍総帥、雨峰雷龍太(あまみねらいりゅうた)の一人娘である。

 

「あいつは、笑ってる顔が可愛いんだ。その笑顔を、護りたかった。でも、俺にはもう、護れない。だからッ!!お前が護ってくれないか………………?」

 

 そんなこと言われたって、泣きながら頼んでる兄さんの、俺の愛しい兄さんの頼み事を、断れるわけねぇだろッ!!

 

「わかった。俺のやれることは、やってみる」

 

「ほ、本当か!?」

 

 兄さんの顔が、一気に明るくなる。

 

「あぁ、男に二言はないからな」

 

「ありがとう。これで俺は、漸く、ゆっくり寝ることができる」

 

 兄さんの身体が、淡い紅い光に包まれていく。

 

「おやすみ、双葉。頑張れ!」

 

 兄さんは、苦しみから解き放たれて、眠ることができる。

 

「うん」

 

 だったら俺は、その眠りを妨げちゃダメに決まってる。

 だから、俺が言うことは決まっている。

 

「おやすみ、兄さん。俺はなる。兄さんが、紅焔なら俺は──────────」

 

 そこで一度言葉をきる。

 そして、息を吸い込んで、はっきりと宣言する。

 

 

「俺は、紅蓮の流星(ぐれんのりゅうせい)になってやる!そして、世界を救って、英雄(ヒーロー)になってみせる!!!!」

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