ここは、どこだ?俺は、入試会場で戦っていたはず………………。
そうしたら、兄さんを殺した奴が、美詠さんを殺そうとしていて。
そして、身体が勝手に動いて、優勢になったけど、逃げられて。
ここは一体、どこなんだ?
真っ暗で、どこまでも闇しかなくて。
体を包んでいる浮遊感から、上下左右の感覚は掴み取れなくなっている。
『………える…聞こえ……聞こえるか?』
自分から見て右前方に、紅い光が見える。そこから、声が聞こえる。
「聞こえる………、ここはどこなんだ?」
紅い光から聞こえる問いに対し応え、こちらも問う。
しかし、紅い光から聞こえる声はその問いには応えず、どんどんと自分勝手に話を進めていく。
『お前には、やるべきことがある。ソレが何かは、今は言えないが。いずれ、自分で気づくはずだろうし、な』
やるべきこと、恐らく皇国軍と戦うことである。
もしも、俺がまだ生きているならば、あの事はきっと帝国軍の上層部に伝わるはず。
そうなった場合、兄さんの弟、更にかなりの数の敵を蹴散らしたんだ。
少なくとも、目はつけられる。
『お前には、俺の意志を継いでもらいたい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
今、なんと言った?敵を救うって?
確かに、俺は敵も味方も、誰にも死んでほしくない。
ただ、ソレは救いではなく自己満足でしかない、実現不可能なことだ。
「敵を救う?冗談じゃない」
最も至極なことを言ったつもりだった。
しかし、紅い光から聞こえる声が続けた言葉に、何も言えなくなる。
『何故だ………?同じ人間じゃないか。何を忌み嫌う。嘗ての因縁など、俺たちには関係のないことだ。何の利益も生まない。生むのは悲劇だけだ』
何を忌むのか。悲劇しか生まれない。確かにその通りだ。
『どちらかに軍配があがっても、誰も喜ばない。帝国側の人間にも皇国側の友人はいるはずだ。逆も然り、その人たちは争いを望んでいないはずだ』
誰しもが嫌い合っているわけではない。中立国は様々な人種が手を取り合って、毎日を楽しく過ごしているらしい。
その人たちにとっては、争いこそ忌むべき存在じゃないか?
『結局のところ、争いをして利益を得るのは軍の上層部や、国の主だけだ。俺たちみたいな一般人が、何故死ななければならない』
俺は、兄さんを失った。あの時までの均衡を築き上げたのは兄さんだった。
そして、兄さんは死んだ。
『もう、誰にも悲しんでほしくない。だから、悲しみを終わらせるための戦を、俺の意志を、俺の夢を継いでほしい』
しかし、ここであることに気付く。
「そのための争いをしたら、結局同じじゃないのか?」
争いを終わらせるための争い。
確かに、他に手はないかもしれない。
だが、ソレでは意味がないのではないか?
『だからこその、世界最後の争いにするんだ』
世界、最後の争い……………………。
「もし、ソレを成し遂げたとき俺は、俺は何になれる?英雄か?それとも伝説か?………………そんなのいらない。だったら俺は現状維持を──────────」
俺の言葉の先は、とある人物の出現によって遮られた。
懐かしい、懐かしいよ。どうして、とか、何故ここに、とかはどうでもいい。
「お前には、俺の意志を継げる。家族も、俺の彼女も。皇国にいる友人も。誰とかそんなのは関係なく、救うことができる」
また、逢うことができた。もう逢えないと、逢えるわけないと思っていた。
「何故ならお前は、
「兄、さん?」
そこにいたのは、紛れもない。
俺の兄さん、赫宮双司だった。
「双葉、今までよく頑張ったな!これからもっと頑張ってもらうことになるけどな」
「ちょっと待ってよ!俺はやるなんて一言も………………」
「やるよ。お前はやってくれる」
何だよ、その目は。俺を信じてるっていう目だ。
そんな目で見られても困る。
「俺には、できない………………!」
「昔から、お前の方が運動神経よかったよなぁ。俺なんか、ライフもオースも使い切れなかった。あの
どういう意味だ?兄さんは強くて、でも剣には振り回されてばっか?
何を言っているのか、全く理解ができない。
「お前になら、任せられる。俺の護りたかったモノ、全てをな」
「無理だ。兄さんに出来ないことが、俺に出来るわけ」
「甘ったれんなッ!」
突然、兄さんに一喝され言葉を失う。
「お前は逃げてるだけだ。お前は、俺よりも優れてる。悔しいけど、お前の方が俺より強いッ!!」
兄さんの顔が、段々と苦いものになっていく。
「お前には、楽しく生きてほしかったッ!!だから、俺は強くなろうとしたッ!!!!だけど、俺は死んじまった………!」
泣いていた。兄さんが泣くとこなんて、一度も見たことがない。
「頼むッ!!俺の代わりに、
そして、帝国軍総帥、
「あいつは、笑ってる顔が可愛いんだ。その笑顔を、護りたかった。でも、俺にはもう、護れない。だからッ!!お前が護ってくれないか………………?」
そんなこと言われたって、泣きながら頼んでる兄さんの、俺の愛しい兄さんの頼み事を、断れるわけねぇだろッ!!
「わかった。俺のやれることは、やってみる」
「ほ、本当か!?」
兄さんの顔が、一気に明るくなる。
「あぁ、男に二言はないからな」
「ありがとう。これで俺は、漸く、ゆっくり寝ることができる」
兄さんの身体が、淡い紅い光に包まれていく。
「おやすみ、双葉。頑張れ!」
兄さんは、苦しみから解き放たれて、眠ることができる。
「うん」
だったら俺は、その眠りを妨げちゃダメに決まってる。
だから、俺が言うことは決まっている。
「おやすみ、兄さん。俺はなる。兄さんが、紅焔なら俺は──────────」
そこで一度言葉をきる。
そして、息を吸い込んで、はっきりと宣言する。
「俺は、