少女に5万円を握らせる中年に差し掛かった男、憲兵さんこっちです。
『金剛型 3番艦 戦艦 榛名』はその美貌故か他の艦娘よりも手ひどく扱われ、まだ体調が万全ではなかったことから他の姉妹たちより1週間遅れて大阪鎮守府に戻ってきた。待ち合わせをしていた霧島に案内され、様変わりした鎮守府の中を少し濁った目で眺めながら金剛型に用意されたという宿舎の部屋へと向かう。扉を開けて中に入ると、大好きな金剛お姉さまが抱きついてきて「おかえり、これでみんな揃ったネ」と声をかけられる。肩越しに以前よりもずっと顔色が良くなった比叡お姉さまの姿が見え、4人で抱きしめあって静かに喜びを分かち合う。一段落したところで綺麗になった部屋に備え付けられたテラスに移り、憧れていた歓迎会含むお茶会となった。
「あの・・・お姉さま、ここに戻ってきたということはまた新しい提督様からの仕事はどうなるんでしょうか?」
「あー、榛名それなんデスがなんと言ったらいいのやら・・・」
「お姉さま、ここはわたくし霧島からご説明をさせていただきます。
まず『提督様』ですが、今後は呼称が変わり『CEO』になります。そしてわたくし達艦娘は全て、『軍属』から『会社員』へと立場が変わりました。現在はCEO傘下の『艦コーポレーション』という企業の一般社員として働くことに決まりました。主な業務内容は西日本南部の近海警備とわたくしたち艦娘による広報活動が仕事になります。」
その言葉にポカンとした顔になる榛名と周りで苦笑を浮かべる愛しき姉妹たち。その後、霧島から資料を渡され詳細な説明をされる。終わった頃には姉妹揃って「うむむむ・・・」と首を傾げてしまう。それもそうである、彼女たちは『元軍艦』であり、軍属では無くなったと言われてもいまいちピンとこない。雇用契約書には事細かくガイドラインが書いてあり、この書類を信用するのであれば以前のような目に合うようなことは今後はおそらく無いのであろう。
落ち着いたところで金剛から「ひとまずアポはとってあるから会ってみるネ。」と言われ、霧島がここにきてから支給された背面に霧島に似た妖精さんに似た姿がプリントされた端末を手に取りおそらくCEOへと電話をかける。すぐにでも会えるとのことなので4人揃ってゾロゾロと執務室に向かい、ノックをすると電が扉を開けてくれてそのままソファへと誘導される。ここでも紅茶を出されて暫く経つと案の定榛名も提督の姿を見て惚け、挨拶をして体調などを心配されてから簡単な質疑応答をこなした。
「それで・・・えーっと、CEOでいいんでしょうか・・・?近海警備は以前と変わりはないので問題ないのですが、広報活動というのはどういったものでしょうか?」
「あぁ、私のことはそれで構わない。
そうだね、広報活動というのは主に私が経営する会社の様々な商品のアピールやこの国を守る君たち艦娘たちがどういったことをしているかなどを国民に向けて情報を発信するような仕事になる。直近の仕事として君たち金剛型は過去のあの大戦の中でも歴戦の軍艦とのことなので、是非我が社が発行する『艦娘通信』の第一号として表紙を飾って欲しいのだがどうだろうか?」
これには姉妹たちも聞かされていなかったのか4人揃って絶句する。榛名は少し過去のことを思い出し、俯いて膝の上で小さく拳を握りしめ絞り出すように声を出す。
「榛名は・・・その・・・汚いです。」
「ふむ、私はそうは思わない。君はちゃんとお風呂にも入っているだろう?
あぁ、昔のことは言わないでくれ。あの汚物たちのことは報告でも貰ったが聞くに耐えんからこの国に住む病に苦しむ子どもたちのためにその身をもって治験のお仕事に従事してくれるそうだ。まぁうちの科学者達以外は今後二度とお目にかかることはないだろうけどね。君たちは汚いものに触ったら手を洗うだろう?それを一ヶ月も綺麗な病室でこなしてきたんだ、全く問題にはならない。
それでも気になるというのならば、ほら。」
榛名は顔を上げ、その目の前には微笑みながらこちらに手を差し伸べるCEOの姿があり「握手だ。」と言われる。その手をとっていいのか迷うが、CEOの瞳の奥に宿る暖かな光を見つめて恐る恐る手を握る。すると大きな両手で榛名の手は暖かく包み込まれる。
「やはりきれいな手じゃないか、駆逐艦の子たちから聞いたが榛名君はその身を挺して小さな子たちを守ってくれていたらしいね。
君の身も綺麗だとは思うが、それよりも更に綺麗な君の魂に私は敬意を払う。私はその高潔な魂を全ての国民に対して自慢をしてやりたいんだ。もちろんこれは強制ではないよ?他にも我が社では様々な分野で活躍できる場所がある。是非とも前向きに考えてくれたまえ。」
敬意を払うと言われ涙がこぼれ、CEOのその一言一言が胸に染み渡っていくたびに声にならない思いが溢れ出す。気付けば一番上のお姉さまが向かいのソファに移り「食らいついたら離さないネー!」と言いながらCEOに抱きつき、比叡お姉さまと霧島が左右から抱きしめてきて、これまで辛い時に流した涙を流す。『あぁ、嬉しいときにも涙は出るんですね』と思い、これが私達『金剛型4姉妹』のあるべき姿なんだと胸に刻みながら榛名は笑顔を向ける。
「はい、榛名は大丈夫です!」
一番綺麗な笑顔を見てCEOは嬉しそうに笑顔を返す。その後、第一次秘書官戦争と呼ばれる戦争が執務室で起こるが、守勢に回ったCEOは劣勢を課せられるが『暫定秘書官ばりあー』という第六駆逐艦隊による攻勢により提督の貞操は守られた。
金剛型が騒がしくも自分たちの部屋に戻っていき、一息ついたところで横から電が淹れたてのコーヒーをデスクに置いてくれる。二人は視線を合わせ、優しく微笑みあう。あの日この子に出会わなければ私はここにはいなかっただろう。
陸軍経由で密偵を送り込み、周辺地域の土地を軒並み立ち退きさせて犯罪履歴を洗い出し、危険のあるものは地域から締め出した。海軍上層部へと圧力をかけ、膨大なデータをまとめ総理や大臣を含む閣僚会議を開き一斉検挙へと踏み切った。検挙後は手配していた建設業者とともに現地入りし、そこで提督にしか見えないと言われる『妖精さん』を何故か遭遇し、甘くて厚い福利厚生を約束すると建築計画が10分の1へと短縮するという驚愕の事態へ。
提督適正と短縮した建造計画を盾にわずか半月で大阪鎮守府へ着任。その後、電のところにお見舞いにいき、これまでとこれからの経緯を話して同室の第六駆逐隊の協力を得ながら受け入れ体制の準備。病室にて呼ばれた『5万円お兄さん』というあだ名は忙しさの間にダストシュートし、電を筆頭に確かな信頼関係を築いてこれた。
「これからだ、ここからやっとここは『鎮守府になる』、これからもよろしくたのむよ電。」
「CEOは少し休みをとってほしいのです。電が着任してから休みの日が一日もないのです。」
「そうそう、CEOはもーっと雷に頼っていいのよ?CEOのためにもっともっと働いちゃうんだから!」
両サイドがポジションとかしてきた2人の茶髪の女の子に心配されながら新しく備え付けられたリクライニングチェアの上でぐっと背筋を伸ばす。ソファへと目を向けると帽子を被った同型の『暁型 1,2番艦 駆逐艦 暁と響』が高速強襲戦艦による攻撃によりぐったりした姿で寝転がっている。3人でその姿を見て苦笑しながら「そろそろお昼にしようか。」と声をかける。
「不死鳥の名は伊達じゃ・・・食堂まで連れってってくれないかい、CEO?」
「金剛ぉ・・・レディーだと思ってたのに、許さない、許さないんだから・・・『5万円お兄さん』私も連れてって。べっ、別に疲れたわけじゃないんだから。」
雷は「やれやれ」と言いながら右隣にてCEOの服の袖を掴み、電は反対で優しく微笑みながら今後の予定を歩きながら打ち合わせする。そして暁と響を小脇に抱えながら5人で食堂へと向かう。
ちなみに暁、いくら電が艦娘のみんなに広めたといってもCEOはそのあだ名は大丈夫じゃないです。
引っ越してからすぐにマンションの一斉改装が始まりました。
ベランダが外壁工事でホコリだらけやん・・・。
こんなん洗濯物干されへんやん・・・。
休みでも日中に外壁を削る音等が聞こえてくるためおちおち昼寝もしてられません。