この作品はMSなどは特に登場予定は無いです。
その日の朝、彼女は自室で困っていた。前日は海外艦仲間のタシュケントと『艦娘の絆』について盛り上がり、一緒にCEOから貰ったお菓子を分け合いながらモニターの感想を二人して考え、明日こそは一緒にCEOの元へと報告に行こうと約束をしたまではよかった。
久しぶりにぐっすりと眠りにつき、朝起きて顔を洗うために鏡を覗き込むと、なんと自分の姿が変わっていたからだ。
思わず小さな悲鳴を上げ、すぐに自分に割り当てられたベッドへと潜り込み、声に気付いて起きた潜水艦のリーダーの『海大VI型 1番艦 潜水艦 伊168(イムヤ)』が心配してくれているが、カタツムリ状態から抜け出せる状態ではない。
泣き出してしまった自分を心配してくれてか、関わりがあったタシュケントも呼び出され部屋に集まるがどうしても自分はここから動くわけにはいかない。
更に集まる艦娘達、八方塞がりの状態になってしまい『UボートIXC型 潜水艦 U-511(ユー)』は更に泣き声を上げるのだった。
いつものように雷のモーニングコールから始まり、寝室横の執務室で朝のコーヒーを電に入れてもらってからそろそろ食堂に向かおうかと思った瞬間に響が執務室の扉を勢いよく開く。いつもクールな彼女が大きく取り乱し、話しを聞けば艦娘が緊急事態だと伝えられ。すぐさま第六駆逐隊に医療スタッフと技術スタッフ両方を艦娘寮に呼んできてもらうように伝言を頼み、一足先に潜水艦の子たちに割り当てられた部屋に駆け込む。
そこには朝も早い時間だというのに大勢の艦娘が集まり、皆その子のことを心配して駆けつけてくれたのだと仲間思いな彼女たちの優しさに嬉しくなる。
部屋に入るとカタツムリ状態になった艦娘が嗚咽を漏らし、タシュケントが中にいるユーにCEOがきたことを伝えると大声を上げて泣き始める。
これはいけないとタシュケントだけ部屋に残して他の艦娘には退出してもらい、必死の説得によってなんとか布団の中から出てきてもらうことを了承させる。
「yapaaaaaaa!!!どどど、どうしたんだい同志ユー!?日焼け!?焦げちゃったのかい!?ハッ!もしかして昨日食べたチョコレートかい!?CEO!なんてものを食べさせてくれたんだ!あれだけ色白だった同志ユーが秋にこんがりグリルしたサンマァのようになってしまったじゃないか!」
いくら普段冷静沈着な男でも動揺する時は動揺するものである。ユーの姿を見たCEOはまるで電池の切れたおもちゃの如く固まり、目の前のユーはグズグズと泣きじゃくり、タシュケントは動揺してCEOにしがみついて意見を求める修羅場が出来上がっていた。
騒ぎに駆けつけた技術スタッフ主任の明石が入室を求め、ユーの同意をもらい入ってきてもらう。
「あー、これは明石の出番無いですね。ユーちゃんおめでとうございます、あなたは日本仕様の『呂号潜水艦 潜水艦 呂500(ろーちゃん)』へと生まれ変わりました。新しい艦装については大本営から取り寄せておきますので早ければ3日で艦隊には復帰できると思いますよ。」
寝癖により爆発したピンク頭の改造悪魔がユーをひと目見てボソリとつぶやく。
詳しく聞いてみれば、ユーは『改造』という謎現象によっていわゆる『進化』した姿になったらしい。練度を積んだ艦娘に稀に起こる現象らしく、明石によれば『出撃回数が他の艦娘に比べて多かった』のと、『昨日の演習を観たことにより戦闘経験値が貯まり改造に至った』のではないかとのこと。
改造という現象には諸説あり、妖精さんの数が多い鎮守府に起こりやすく、全国でも発見されたのは横須賀鎮守府と舞鶴鎮守府に続きこれで4例目とのことになるらしい。それだけ少ない目撃数にも関わらず明石に動揺が無かったのは、建造で艦娘が出ない場合は変わりに艦装だけが出現するケースが有り、その中で未だに現行で出現している艦娘には装備が出来ないものが多々発見されるたびに情報が共有されることになっているからであるらしい。
そうして安心したろーちゃんとタシュケントを両手にそれぞれ手を繋いで食堂へと遅くなった朝食をとりに行く。集まったたくさんの艦娘たちの前にろーちゃんが心配掛けたことを謝る。
「UボートU-511改め、呂号第500潜水艦です。ユーちゃん改め、ろーちゃんです! CEOにみんな、よろしくお願いしまーす。」
たくさんの艦娘たちから『改造』を羨ましがられ、愛されるろーちゃんは新たに『ちょこ娘』という可愛らしいあだ名がつけられた。
朝の大騒動から少しして役員によるテレビ電話での定例会議を開くと、東京へと出向したあの日の運転手、CEOが尤も信頼する彼の右腕から報告があるとのことで全員に顔写真付きの資料がデータ添付されてパソコン上に展開される。
「現在CEOが関東本社から大阪鎮守府に拠点を移したことにより、こちらの資料に写っている大本営の将官級が怪しい動きを見せております。こちらは以前の大阪鎮守府にいた提督と繋がりがあると噂されていた人物でしたが、直接の取引の痕跡が無く検挙には至りませんでした。現在我が社の警備部門の人間が潜り込んでおりますが、情報の共有がし辛い状況にあり十分気をつけたしとの暗号がこちらへ送られてきております。」
「まったく、関西へ目が向けられたことで以前からマークしていた奴がここにきて台頭してきたか。ふむ、予想される動きはなにか考えられるかい?」
「表には出ておりませんが艦娘の違法建造及び売買、あと考えすぎかもしれませんが『あの計画』について気付かれた可能性があります。」
その一言に情報部門を担当している役員が苛立ちのこもった声で「クソッ、あの『戦争屋』共はどこにでもいやがる。」と呟き、すぐさま後ろに控えていた部下へと声をかける。
ここに映し出されている役員たちは全てCEOに救われるか拾い上げられ、全員が硬い結束で結ばれている。更に半数以上は過去に艦娘や深海棲艦絡みで『何か』があった人間で構成されており、以前の大阪鎮守府の現状を知った時は怒号が飛び交う中で6時間にも渡り会議が続けられた。
情報部門担当の彼は元海軍佐官であり、上司の汚職を告発する際に事実上の解雇をされて、とある事情によりこちらに引き込んだ経緯がある。更に彼は過去に救えなかった艦娘がいて、この長い間起こる深海棲艦との『戦争ごっこ』をただひたすらに憎んでいる。
「ひとまずそういった裏方の情報は君に任せるよ。今後何かあればいいたまえ、こちらで出来ることは全面的に協力しよう。
『あの計画』に関してはすでに大阪鎮守府にて実験が開始されている。こちらには新たに発生した妖精さん達による協力があるのでプランが大幅に前倒しになったよ。まったく妖精さんというのはほんとにトンデモ存在だね。それに付随して医療部門の協力により例の艦娘専門の病棟がもうまもなく完成予定となっているから、君のもとにいる『彼女』をこちらに連れてくるといい。」
「本当ですか、CEO!?ありがとうございます、では近日中にそちらに伺わせていただきます。」
ずっと身を粉にして働き続ける情報部門担当の彼には嬉しい報告だっただろう。目の下にくっきりと隈が浮かび、健康を心配してしまういつもの顔色からはこれまでになかった活力が漲っている。
鎮守府本館から少し離れたところにある完成間近の病棟は、入渠では治しきれない怪我や異常を回復させるための施設であり、艦娘や妖精さんなどのいわゆる『オカルト的な存在』に対する研究が行われている。新たに医療妖精さんと魔術妖精さんの監修の元、これまで唯一の回復手段であった『入渠』というシステムを更に研究して作られた新たな設備は、以前の提督による暴挙によって回復が見込めなかった艦娘も現段階で若干ではあるが回復の兆候がある。
逐一情報のやり取りもしていたので、『彼女』の身が心配で仕方がない彼にはこれは嬉しい誤算だっただろう。
防諜面では鉄壁要塞を誇るこの大阪鎮守府ではあるが、物理的なところは完璧とは言えない。
『戦争屋』といわれる自己利益を考える危険思想の持ち主達はさまざまな問題を引き起こし、この深海棲艦により『閉鎖された国』となってしまった日本のいたるところで活動をしている。奴らが物理的手段でこちらに攻撃をしてこないという保証は無いため、あらゆる防衛手段をとらなければならない。
ここにいる子達はこの『『私』』が守り通すと決めたのだから。
この後、木曾が自室でチョコレートを貪り食う姿を球磨ちゃんが見てしまったようです。
チョコを食べて強くなれる(迷信)
ちなみにCEOへの報告にきたのは海外艦勢と駆逐艦、赤面する木曾と神通だったらしいです。
不知火は素知らぬ顔をしていたそうです。
サンマァ。