すでに今日の授業はすべて終了し早々に帰宅したものもいれば、最近は日の入りが早くなってきたにもかかわらず遅くまで部活に励むものもいる。どこの部かはわからないが外から掛け声などが聞こえ、なんの曲かもわからないが吹奏楽部の練習が廊下から聞こえてくる。苧巻はそれらをBGMに空をみていた。
六時間目の授業中に小説を読むのに没頭していたせいで教師が見ているのにまったく気付かず結果として小説は没収された。流石に真面目に授業を受ける気のない苧巻でもそんなことをされた後に別のことをする気にもならず、授業終了まではおとなしくしていた。
ホームルームまで終わり職員室に小説を返してもらいに行き、担当教師に謝った。注意を受け反省文を書かされることになった苧巻はさっさと書いて帰ろうと思ったが職員室を出るまでの間に授業の担当教師数人に声をかけられ『お前だけ今日の授業でやらせたプリントが出てない』『これ今日までに提出だから』『終わったら俺のところに見せに来いよ』と課題をいくつか押し付けられ数時間の拘束を余儀なくされた。
普段だったら
「昨日用事あったんで帰りました」
とか適当な言い訳を翌日会ったときにして、そのときに課題を提出するのだが、流石にあれだけの教師に課題を出されると帰るときに遭遇する可能性が上がるため面倒くさい。
というわけで最初はおとなしく教室で課題と向き合っていたが今は途方に暮れていた。反省文は10分位で書き終わったが、普段まともに授業を聞いてない苧巻が教科書をみたくらいで簡単に問題を解けるはずもなく、なんなら今どの辺の範囲をやっているのかすら把握していない。合計三枚のプリント全てにとりあえず手をつけ、どのプリントも八割近くが空欄の状態であった。
すでにプリントを破り捨てて帰宅しようか本気で考えているが、その方が後々面倒くさいとこれまでの経験でわかっているのでなんとか思いとどまっている。終わらせないと帰れないと思っていながらも、全くやる気の起きない彼は気分転換のために廊下に出た。
教室の扉を乱雑に開け放つとそこに美咲がいた。勢いよく扉を開けたせいでビクッと肩を震わせた美咲は音を出した人物に気付くと恨めしそうな目を向けた。
「あれ? なんでいるの? 今日部活とかバンド練習ないの?」
「部活はあったけどもう終わった。それで忘れ物してたから取りに来た」
「なに取りに来たの?」
「数学のワーク。今日の授業で明日までにやってこいって言ってたから」
「へーそうなんだ」
「やる気がないのがすごい伝わってきた……こんな時間まで苧巻はなにしてたの? いつもならすぐ帰るか友達と遊びに行ってるじゃん」
「職員室に小説回収しに行って、その流れで課題やらされてる」
「ふーん」
苧巻が教室に戻るとそれを追うように美咲も教室に入った。
「なんで教室に入ってきたの? 部活終わって帰るんじゃないの?」
「ん? どうせ全然進んでないんだろうなーと思って見にきた」
「見るくらいなら教えてくれよ」
「いいよ」
「まじで?」
「嘘ついてどうすんの。あんた一人じゃ終わんないでしょ」
「ありがとう。帰りにファミレスでなんか奢るよ」
「じゃあ、早く終わらせてね。遅くなってもあれだし」
自然にこの後ファミレスに行くことが決まり、苧巻は再び自分の席に着いた。美咲は自分の席ではなく苧巻の前の席に座り、椅子を彼の机の方に向けた。美咲にとっては今日すでに一回やった問題なので特に詰まることはない。間違っている可能性もなくはないが、苧巻の場合、教師にしっかり提出しに来るかも疑われるレベルなので、数問間違っていようが特に問題はない。
何も考えずに一番上に置いてあったプリントから始めることにした。美咲が問題解き方を最初から丁寧に教えてくれる。苧巻も教えてもらってる立場なのをしっかり理解しているので、さっきまでの時間が嘘のように集中して問題に取り組んだ。
二枚目をプリントもすでに終わり、残り一枚のプリントも半分くらい終わらせた。時間的には約一時間といったところで、ここまでほとんど休まずに進めてきたため流石に疲労を感じ、凝り固まった全身を伸ばそうと立ち上がった。少し体を動かすと腰や首から小気味いい音がなり、集中してたなと思い彼は自分を誉めた。集中を乱さないように話しかけないでいた美咲は休憩を始めたことに気付き、彼に声をかけた。
「おつかれ、やっぱりやれば普通にできるじゃん」
「まだ終わってないけどな。少し休憩したら再開する」
「最初の数問で解き方教えたら、後は自分で解き進めるんだもん。あたしいる意味あった?」
「美咲がいなかったらどの教科もその最初の数問で詰まってたんだ。それにわかんないところ聞いたら教えてくれたじゃん」
「それはそうだけど……」
その後に何か言葉が続くわけでもなく、会話は途切れた。苧巻は特に気にした様子もなく体をほぐしていた。
美咲はずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「……ねえ、なんで高校生になってからこんなになったの? 中学の頃は普通に授業受けてたのに」
「なんか面倒くさくてさ。別にテストで良い点をとろうとか思わないし」
「それにしたって「早く終わらせたいしそろそろ再開するわ」……うん」
この質問を苧巻がされたのは別に美咲が始めてではない。中高一貫であるため、顔ぶれがあまり変わらない花咲川ではこの事を疑問に思った人間が数人いた。だがそれに対する返答はいつも『面倒だから』『眠かったから』『続きが気になって』『今イベント中で周回したい』など。寝ていたことや本やゲームをやっていた理由であり、変わった理由ではなかった。友人達の疑問は解消されなかったが、特に深く探ることもせず、今まで通り関わっていった。
はぐらかされてしまったが、今は苧巻が残りの課題を終わらせるのが優先だと思い、美咲はこの話題を追求しなかった。
十八時ちょっと前にようやく全ての課題が終わり、二人は帰り支度を済ませ教室の施錠をしてから職員室に向かった。
美咲を廊下に待たせて苧巻が職員室の扉をノックし名前を名乗ってから入室した。扉の近くにいた担任から笑いながらもう少しちゃんと名乗れと言われたり、プリントを提出しに行った教師達から一人一言ずつ軽い注意を貰い、教室の鍵を返却して職員室を退出した。
「お待たせ」
「意外と遅かったね」
「説教が長いんだよ。みんな『次からはちゃんとやれよ』みたいなことを言うし」
「あんたがちゃんとやらないからでしょ。じゃあ、ファミレス行こう。約束忘れてないよね」
「おう、バイト代入ったばっかりだし余裕」
「じゃあデザートも奢ってもらおうかな」
「太るよ」
「……少しはデリカシー学んだ方がいいんじゃない?」
会話を続けながらも、すでに靴も履き替え終わり、二人で校舎を後にした。周りに彼らの友人がいればからかわれそうな距離感だが、幼なじみの二人とっては普通の感覚だった。仮にからかわれてもそこは幼なじみ、内心どんな感情を持っているかは置いとて、お互いに友人達をあしらうのは慣れている。
長い付き合いなだけあって、そこから会話は途切れることは無く、互いに気分の高揚を感じていた。日は沈んですでに辺りは暗く、少し冷たい風が吹いていたが、二人は寒いなんて全く思わず、並んで歩いた。
最近は美咲に部活やバンド練習があり、帰る時間があまり合わなかったため、ほとんど毎日一緒に帰っていた中学時代と比べると結構久しぶりな気がすると思いながら、そこそこ久しぶりに寄るファミレスに向かった歩を進めた。
高校卒業から数年たってるから高校生ってどんなだっけと思いながら書いてます。
ハロハピのメンバーを出す機会も作りたいのに、こいつらまだ学校出たばっかりだし(多分次もファミレスで喋って終わります)←ネタバレ
あと美咲の口調が難しい。
次も出来るだけ早く上げるのでぜひ。
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