二人は店に着き、運よく空いてる席が有りすぐに席に案内された。四人掛けの席でお互いが正面に来る位置に腰かけ、テーブルの上に置いてあるメニューの適当なページを開いて真ん中に起き、二人で見た。彼らはよくこのファミレスに来ているので、ある程度メニューは覚えている。そのため別にメニューを見る必要はないのだが、何となく店に来る度に見てしまう。
お互いに注文する品が決まり、備え付けのベルを押して店員を呼んだ。
「カルボナーラ一つと……」
美咲は目線で続きを促した
「えっと……彩り野菜のミラノ風ドリア一つ、あとドリンクバーを二つ」
注文をして、店員が去ったあと席をたち苧巻が美咲に飲み物を何が良いか訪ねた。
「ドリンク持ってくるけど何が良い?」
「うーん……野菜ジュースお願い」
「おっけー」
いつも通り、両方のグラスに氷を入れて、片方に野菜ジュース、もう片方にメロンソーダを入れてストローを差した。グラスを両手に持って席に戻り、野菜ジュースを美咲の前に置いた。
「ありがとー」
「いやいや、こっちこそ今日はありがとう。おかげで明日怒られなくてすんだ」
「やっぱり終わる前に帰るつもりだったんだ……後で怒られたり、補習やらされる方が面倒じゃない?」
「補習してるときはそう思うんだけどね。でも今日は珍しく授業中にやる気出したんだよ」
「そのわりにはいつもと変わんなかったけど」
「筆記用具忘れたと思ったら萎えた」
「シャーペン貸すって言ったじゃん」
「その時はもうやる気の無くしてた」
「はやっ……そういえば今日部活のとき、先輩に試合で勝ったんだよ」
美咲が珍しく高いテンションで部活の話をしてきた。何でも今日は基礎練ではなく、試合中心の練習をしたらしい。
苧巻も中学のときはテニス部に所属していたが、去年から高等部の顧問が変わったらしく、練習がハードになったとテニス部の同級生から聞いていた。
そこまで部活を本気でやる気のなかった彼は悩んだ末に、入部せず帰宅部に落ち着いた。
料理が運ばれてくるまでテニスの話で盛り上がった。運ばれてきたタイミングで話を切り、二人は冷めないうちに料理に手をつけた。
「あっつ!」
美咲に笑われた。
「そういえばハロハピのライブ見に来たことなかったよね?」
一足先にパスタを食べ終わり、手持ち無沙汰だったのかストローをマドラーのようにクルクル回していた美咲がそんなことを聞いてきた。
「お前が来ないでって言ったんだろ」
もうすでに冷め始めているドリアを無駄に慎重に食べるせいで食べるのが遅い苧巻はスプーンを持ったままそう答えた。
「え!? ……あー、そんなこと言ったかも」
「忘れてたのかよ」
そもそも彼女がライブに来ないでと言ったのはハロハピに加入させられた直後。"異空間"と呼ばれるクラスメイトに目をつけられたことをここで愚痴った時だった。その時はどうやってハロハピを抜けるかを考えていた時期だったため、恥ずかしさもあり、見に来るなと言った。
苧巻のほうも、美咲が段々と真剣にバンド活動に取り組むようになっていたのはわかっていたが、あまり自分からは触れないようにしていた。
「日曜日ひまだったらライブ見に来ない?」
「どうしようかなー」
「なんか予定でもあった?」
「予定は特にないけどライブってのが若干怖い」
「そんなことないでしょ。どんなライブ想像してんの」
「鼓膜が破れそうな声量のデスボとベドバンする観客。果ては客席にダイブかますボーカル」
「そんなわけないでしょ!? なにそのイメージ? ……でもこころなら客席ダイブくらいやりそう」
「え? 冗談だったんだけど、あるの? ダイブ」
「いやいやないから。まずさせないから!」
絶対に阻止するという意気込みを感じる。客の心配をしてるのかボーカルの心配をしているのかわからないが、とりあえずそういうのは無さそうだ。
(それにしても、人前に出るのが好きじゃない美咲がバンドか。……まあ、話だとキグルミ着るらしいけど)
彼女は"ほどほど"という言葉を好み、周囲から外れた行動を嫌う。そのくせ、他人が悲しむことが苦手で、物事の筋は必ず通すという性格からこういうことに巻き込まれた。
巻き込まれた側であるのに最終的にはやると決め、それを成し遂げられる行動力と根気がある。それをとても凄いと思うし、羨ましくもある。
「わかった。ライブ見に行くよ」
「そっか。じゃあ時間と場所は後で送るから」
「よろしく」
週末の予定が決まり、自宅で無意味な時間を過ごすことを回避した。
ハマってたソシャゲもやることが減ってきて、開かなくなっていたところだった。彼のゲームのレベルはある程度やり込みはするが、トップレベルのガチ勢というレベルではないため、長くても約一年くらいで飽きてしまう。
よく一緒にいる友人達も今週は部活で忙しいらしく、引きこもっている間にまた月曜日を迎えるところだった。
休日ぼっちを回避したことに対する安堵と、行ったことないところに一人で行くことへの不安感が同時に芽生えた。まあ、一緒に見に行く人はいないので、ぼっちと言えばぼっちだが。
時間もそこそこ経って学生の数も減ってきた。彼らも話したいことは大体話し、お開きにしようという空気が流れ始めた。幼なじみなだけあって家も近いため、帰り道も一緒なのだが。
「デザート頼むなら頼んでいいよ。それ食ってそろそろ店出よう」
「今回は遠慮するよ」
「もしかして太るって言ったの気にしてる?」
「……別にしてない」
「ふーん。俺はデザート食べるから、欲しかったら一口あげるよ」
「……いらない」
美咲は拗ねたような表情でそう口にした。それを見て少しいたずらしようと思った苧巻は彼女に向けて言葉を掛けた。
「美咲は十分痩せてるし、かわいいよ」
ベルを押した。
「なっ……!」
誉められることに慣れていない美咲が顔を赤くした。普段彼はこんなこと口にしないし、美咲もからかわれているのかなと思っている。だが少なからず好意的に思っている男子に、しかも不意打ちで言われればさすがに照れる。
照れた美咲が数回口をパクパクさせた後、何とか口を開こうとしたとき『お待たせしました。ご注文をどうぞ』という声に反応して口を閉ざした。
「プリンとティラミスの盛り合わせ一つ」
淡々とした態度で店員に注文をする苧巻。だが美咲は彼の口角が若干上がっているのを見逃さなかった。
「どうしたの? 顔が赤いよ」
なに食わぬ顔をしながら、語尾に(笑)でも付いていそうな言葉を告げる彼に美咲も何か仕返しをしようと企むが何も浮かばない。意外に頑固な彼女はなんとかしてやり返そうと機会を伺った。
そしてその機会がやってきた。
「はい、一口あげる」
運ばれてきたデザートの皿の上に乗ったプリンとティラミスを器用に両方同時にスプーンに乗せ、ニヤニヤ顔で美咲のほうにスプーンを向けてくる。
美咲はあーんされる恥ずかしさをこらえ、出来るだけ表情にでないようにして、差し出されたスプーンに口をつけた。
特に躊躇いもなくあーんを受け入れた彼女を苧巻は意外そうに見た。もう少し恥ずかしがるか、そこまで行かなくても狼狽えるくらいはすると思っていたからだ。
「そのスプーン使ったら間接キスだね」
その言葉を聞いて、今度は苧巻のほうが怯んだ。
考えないようにしても意識してしまうもので、既に彼の頭の中には別のスプーンを使うという考えすら浮かばなくなっていた。
その反応を見たときは、美咲は謎の達成感に包まれた。だがその様子を見ているうちに段々と羞恥の感情を持ち始めた。
結局、苧巻がデザートを食べ終わるまで、彼らは一言も喋らないままだった。店を出る頃には少しは回復し、帰り道も会話はしたが、美咲を家に送り届けるまで、彼らの間には妙な空気が流れていた。
このアカウントは響け!ユーフォニアムを応援しています。……いや弁明させて欲しい。誓いのフィナーレが素晴らしいのが悪い。とりあえず五回見に行きました。オリ主が奏ポジなのは仕方なくです。久美子のポジションには美咲置きたかったし。……奥沢相談所(ボソッ
店名出してないし、大丈夫だよね?
一話の冒頭も紺青の拳見たときに書き始めたので、あんな感じになりました。
初めてまともに恋愛っぽい描写書いたけど難しかったです。書き始めたらすんなり進んだけど、そこに行くまでが大変でした。
今回も読んでいただきありがとうございます。
評価や感想、誓いのフィナーレの感想もお待ちしてます。
追記:アンケートにご協力していただきありがとうございました。