やれやれ系幼なじみ   作:French

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どうしたんだろう……

 普通じゃない。ハロハピのライブを見にきた俺が最初から最後まで感じていたことだった。

 

 

 

 俺がライブ会場に着いたのは、最初のバンドの演奏開始直前だった。会場内に入ると意外と人が多くて驚いた。言い方は悪いが、アマチュアのライブということで舐めていたのかもしれない。

 

 今回のイベントはいくつかのバンドが集まって順番に演奏していく形式らしいが、正直ハロハピ以外まったく知らないので一番後ろで聞いていた。音楽の知識なんてないので知らないバンドの演奏を聞いても『すごいなー』くらいの薄い感想しか浮かばない。

 

 そこそこの数のバンドが終わり、時間的にそろそろかと思っていたら、予想通りハロハピのメンバー達がステージに出てきた。会場の観客たちは待っていたというように、静かに熱を持ち始めた。

 美咲の話では最近、知名度が上がってきたらしいが、あれを見たら、演奏に関係なく記憶に残るだろう。

 個性的で目を引くメンバー、ステージのセッティングをする数人の黒服、ピンクの熊。

 

 全員の準備が整ったようで、やっと始まると思って真面目に演奏を聞こうと思った瞬間……

 

 

 

 バズーカみたいな形をした巨大なクラッカー(?)をぶちまけた。

 

 

 

 今までのバンドが王道だっただけに、度肝を抜かれた。その後すぐに曲の演奏が始まった。何のためのクラッカーだったのかは全くわからなかったが観客全員が目を離せなくなったのが、なんとなくわかった。

 

 

 

 その後は驚きの連続だった。いきなりミュージカルのようなことを始めたり、ピンクの熊が踊ったり、会場全体を巻き込んだパフォーマンスをしたり。もはや何のイベントかわからなくなったが、俺には他のバンドよりも輝いて見えた。身内贔屓かもしれないが、やりたいことがはっきりしていて、それを実行できる彼女達が俺にはとても眩しく見えた。……俺には少し眩しすぎるくらい。

 

 ハロハピのライブが終わってもしばらくその場に留まり、ボーッと考え事をしていたタイミングで、ズボンのポケットに入った携帯が振動した。

 メールが届き、美咲から『メンバーを会わせたい』という内容のメールが届き、行くかどうか悩んだが『わかった』と短い内容を送り、指定された控え室に向かった。

 

 

 

 

 

 控え室の前に到着し、深呼吸をしてから扉をノックした。はーいという返事が向こう側から聞こえるのとほぼ同時に、扉が開いた。

 

「あら、紫園じゃない」

 

 目の前に弦巻こころがいた。すごく自然に名前を呼ばれたが、同じクラスというだけで、俺は彼女と話したことはほとんどない。

 弦巻の背後には一部見たことのある顔ぶれが机を囲んで座っていた。

 

「ちょっとこころ、誰か確認してから開けようよ」

 

 すでに熊のキグルミから出ている美咲が弦巻に注意をした。何で注意されたかわからず、首を傾げている弦巻の横を通り、控え室の中に入った。

 室中には美咲と、花咲川で見かけたことのある人が二人と、学校では見たことない長身の人が一人いた。美咲の話から名前の予想はある程度できるが、間違っていたら失礼なため、相手が名乗るまでは話しかけないでおこう。

 

「もしかしたら聞いてるかも知れないけど、苧巻紫園です。美咲に誘われて見に来たんですけど……ライブ良かったです」

 

 相手に先に名乗らせるのも悪いかなと思い、名前を名乗り、全く語彙力のない感想を述べた。もう少しないのかと自分でも思ったが、少し緊張していたせいで頭が働かなかった。

 

 その後ハロハピのメンバーの自己紹介を一人ずつ順番に聞いた。

 

「ベースの北沢はぐみだよ。みーくんの幼なじみなんだよね?家が商店街でお肉屋さんやってて、コロッケがおすすめだから今度食べに来てね」

 

「えっと……ドラムの、松原花音です。花咲川の一年生だよね? 今日は、見に来てくれてありがとう。これから、よろしくね」

 

「ギターを担当していた瀬田薫だ。ああ……今日もまた私の儚い演奏で、罪無き子猫ちゃんを数多く魅了してしまった。私に会いに来たということは、君もその内の一人なんだろう。……儚い」

 

 ……濃い。キャラクターが濃い。美咲から聞いてはいたが、想像よりもメンバーの癖が強い。同じクラスであり、よくぶっ飛んだ話を友人から耳にする弦巻に負けず劣らず強烈な人たちだ。

 

 インパクトの強い人たちだが、あのステージを見ていた限り、少なくとも全員楽しんでやっていたのだろう。個性豊かすぎるメンバーたちだが、息はぴったりと合っていた。ライブ中に言っていた、世界を笑顔にという言葉も、恐らく本気で実現させようとしているのだろう。彼女たちには目標があり、本気で実現させようという思いがあるのだろう。

 そんなことを考えていたら弦巻が言葉を発した。

 

 

 

 

 

「ねえ紫園。どうしてそんな辛そうな顔をしているの?笑ったほうが楽しいわよ!」

 

 

 

 

 

 急にそんなことを言われ、体が動かなくなった。何を言ってるんだと、否定しようとした口が開かない。体温が急激に下がっていくような錯覚に陥る。自分が今どんな表情をしていたのかわからない。無意識に感じていたことを見抜かれたような恐怖に襲われた。心の底に沈めていた感情を掘り起こされたような不快感を覚えた。

 様々な感情が一気に押し寄せてきて、まるで自分の体じゃないかのように、自由に動かせない。

 なんとかして目線を動かすと他のメンバーは不思議そうにしていた。なにか違和感を感じ取ったのは弦巻だけのようだ。

 

 体の自由が徐々に戻り、なんとか口を開いた。

 

「初めてライブなんて見たから、ちょっと疲れちゃって。とりあえず自己紹介も終わったし、悪いけど今日のところは帰るよ」

 

 途中で口を挟まれないように、矢継ぎ早に言葉を発し、控え室から退出した。後ろから何年も聞いている声が聞こえたが、聞こえなかった振りをして出来るだけ早くその場を離れた。

 

 

 

 途中から走って会場を飛び出した。一人になりたかった。今の俺は冷静じゃない。

 

「なにやってんだよ……」

 

 大した距離でもないのに走り疲れて、人通りの少ない路地に座り込んだ。あまり綺麗なところではなかったが、そんなことを気にする余裕はなかった。

 

 あんな立ち去り方、何かありますと言っているようなものじゃないか。美咲以外は初対面みたいなものなんだから、もっとましな誤魔化し方もあっただろう。

 

 その美咲も、例え違和感を覚えたところで、あの場での追及はされなかっただろう。彼女は場の空気を乱すのを嫌う。何か聞かれるなら二人になった時だろう。

 

 

 

 ここはあまりライブ会場から離れてはいないが、少しここで休もう。彼女のことだ。漫画のように追いかけてきたり、探したりはしないだろう。あるとしたら、『後で私から聞いておくよ』とメンバーに言うくらいだろう。

 

(美咲に迷惑かけたかな……でも美咲だったらフォローくらい簡単にできるだろう)

 

 

 

 すでに暗くなってきて月の出ている空を見上げ、自己嫌悪に陥る。沈めて、考えないようにしていたことが溢れだす。

 そんな俺を月が照らすことはなかった。

 




今日ほぼ丸一日かかりました。
ようやく書きたかったストーリーが書けそうなのですが、納得できるクオリティにならなくて苦戦しました。

今回は主人公の内面を書きたかったので、一人称で進めましたが、一人称か三人称視点どっちかにしたほうが読みやすいですかね?無知な質問ですがアンケートつけるので投票していただけるとありがたいです。

何とか24時間以内に1話投稿できているのでこのペースを保てるよう頑張ります。
評価や感想いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

追記:アンケートにご協力していただきありがとうございました。
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