苧巻に拒絶されてから美咲は目に見えて暗くなっていた。本人としては表に出さないように努力していたが、学校に来ても彼とは一言も話さず、部活やバンド活動に参加しても心ここにあらずといった感じだった。
急に元気がなくなった美咲をハロハピのメンバーたちも気にしていた。変化にはすぐ気付いたが美咲に気を使って話題に出さないようにしていた。
だがいくら待っても改善せず、流石に放っておけなくなった。
今日は練習の日だが、まだこころも来ていないし、最近あまりにも調子の悪い美咲の心配をして、話を聞こうとメンバー全員が思った。
「みーくん、最近元気ないけど、どうしたの?」
「ライブをやった次の日辺りからだよね? もしかして苧巻君と何かあったの?」
「まあ、ちょっとこの間揉めちゃって……」
「それは辛かっただろうね。揉めた理由は何だい?」
「それがわからなくて……ライブの日に控え室であったことを聞こうとしたら、お前には関係ないって言われて……」
そう言いながら美咲はまた泣きそうになった。それにこんな風に簡単に悩みを打ち明けるなんて、相当参っていたのだろう。普段の美咲だったら、メンバーに心配をかけないように誤魔化すかなにかしていただろう。
美咲からすればホントに急なことで全く解決の糸口がまったく見えないでいた。
「そうだったんだ……」
「でもどうして急にそんなこと言ったんだろうね?」
「それが全然わかんないんだよね……」
そのときスタジオの扉が開いて中にこころが入ってきた。
「やあこころ。少しの時間とはいえ君が遅れるなんて珍しいじゃないか」
「ええ、さっきまで教室で紫園と話していたの!」
「「「「えっ!?」」」」
* * * * *
美咲と揉めてしまってから、苧巻の方も何にも集中できないでいた。そんな日々が続き、この現状をどうにかしたいと思いつつもどうにも出来ないもどかしさに胸を締め付けられた。
放課後、どこかに気晴らしに行ったりする気にもならず、荷物をまとめて、家にまっすぐ帰ろうとしたとき声をかけられた。
「やっぱり苦しそうな顔をしているわ」
弦巻が笑顔で、苧巻の机の前に立っていた。何を考えてるのか全く読めないことに不安を覚え、こちらの心を読まれているかのような態度に苛立ちが募った。
「だったらなんだよ」
「笑顔じゃないなんてもったいないわ!」
「綺麗事ばっかり言うなよ。こっちにだって理由があるんだよ」
「だったらその笑顔になれない理由を私たちが取り除いてあげるわ!」
「へー、どうやって」
「さあ? それはまだわからないけど、絶対に紫園を笑顔にして見せるわ」
「理由も解決法もわからないのによくそんなことが言えるな。帰る」
これ以上話していても時間の無駄だと思い、鞄を持って帰ろうとした。だが弦巻は話を終わらせるつもりがないらしく言葉を続けた。
「解決出来ないのなら、自分一人で抱え込まないで周りと一緒に解決策を探せばいいじゃない!」
思わずその言葉を聞いて、足を止めてしまった。
弦巻が言っているのが『一人で悩むな』という意味か『私だけで解決できないなら他の人を頼る』という意味かそれ以外の意味かはわからなかったが、苧巻にはその言葉が心に刺さった。
この事を誰かに相談したことがなかったから。
「大して話したことない奴らに言うような内容じゃない」
「? 紫園には美咲がいるじゃない」
「……美咲にだけは言えない」
「どうしてかしら?」
「こんなに情けない自分を見せたくないんだよ」
「美咲は紫園が話してくれないことで悲しそうにしていたわ。話すことで美咲も笑顔になるし、紫園の問題も解決するかもしれないわ。それでみんな笑顔になれるじゃない!」
「言ったところで美咲は笑顔になんて……」
「少なくとも言わなければ美咲は笑顔にならないわ」
尻すぼみになっていく言葉を掻き消すように弦巻が声を発した。今の美咲を笑顔にするのは苧巻が適任だと確信しているようだった。
「あら?もうこんな時間なのね。美咲のことよろしく頼むわ!」
自分から話しかけてきて、時間が来たからと話を打ち切って颯爽と帰っていった。
弦巻の身勝手さに呆れながらも、苧巻は先程言われた言葉を思い出した。
(話さなければ美咲は笑顔にならないか……)
そう言われて、ここまで来たら話そうという思いと、情けない自分を話すのが怖いという思いがせめぎあっていた。
だが弦巻が言っていた通り、もう話すしかないかもしれない。
* * * * *
こころが苧巻と話した内容をハロハピのメンバーに伝えた。こころの自由な発想とフットワークの軽さを知っているハロハピのメンバー達も、まさか苧巻本人のところに突撃するのは予想してなかった。
「紫園には美咲と話をするように伝えてきたわ。後は美咲次第よ」
「あたし?」
「ええそうよ。紫園は情けない自分を見せたくないと言っていたわ。何があるのかわからないけど、美咲がそれを受け入れれば問題は解決よ!」
「こころちゃん。それは少し極端なんじゃ……」
「でもそれが解決への一番の近道さ。シェイクスピアもこう言っている。『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ』とね」
「とりあえず苧巻君とちゃんと話さなきゃね!」
結局のところ解決するには美咲と苧巻が話し合うしかないのだ。美咲もそれはわかっていたが、また強く拒絶されたらと思うとどうしても踏み出すことが出来なかった。
「話さなきゃ解決しないのはわかってるんだけど、また関係ないって拒絶されたら……」
「大丈夫よ美咲! 勇気なら私たちがあげるわ」
こころがそう言うと他のメンバーも同意を示した。
「みーくん大丈夫だよ! 私たちがついてるからね!」
「そうだよ美咲ちゃん! それに苧巻もきっと、美咲ちゃんと喧嘩しちゃったこと後悔してるよ」
「シェイクスピアもこう言っている。『所詮は人間、いかに優れた者でも時には我を忘れる』とね。つまり……そういうことさ」
そう言われてようやく決心がついた。何を言われるかわからないが、苧巻の抱えているものを受け入れて、出来ればそれを解決すると決めた。
「みんな、その……ありがとう。苧巻ともう一回話してみるよ」
正面からお礼をすることに少しの気恥ずかしさを感じながらも、ここまでしてもらって礼を言わないのは流石に人としてどうかと思い、素直に感謝を告げた。
その顔は少しの照れ臭さで赤くを染まっていた。そして表情には久しぶりに本心からの笑みが浮かんでいた。
「ふふ、その意気だ。シェイクスピアもこう言っている。『天は自ら行動しない者に救いの手をさしのべない』とね」
「……どうでもいいけど薫さん、今日シェイクスピア使いすぎじゃない」
そう言ってツッコミをするのが、今の美咲に出来る最大限の照れ隠しだった。
* * * * *
自室の机の上に置いてあった携帯が震動した。その音を聞いて、苧巻は帰宅してからずっと続けていた思考を中断した。
届いたのはメールで送り主は美咲。内容はシンプルに『20時に公園に来て欲しい』という内容だった。この公園とは昔よく一緒に遊んだ公園のことだ。
ここ数日お互いに避けていたのに、このタイミングで会おうと連絡してきたのは、間違いなくこのいざこざに終止符を打とうとしているからだろう。
放課後の弦巻との会話もあって苧巻のほうも連絡するつもりだったので、了承の旨をメールで伝え約一時間後に備えて心の準備をした。
あっという間に20時になり、苧巻はほぼちょうどの時間に目的地に着いた。既に美咲は着いており、緊張したような面持ちだった。
近づいて行くと美咲も苧巻に気付き、片手を上げてぎこちなく声をかけた。
「……急に呼び出してごめん」
「いや……大丈夫」
言葉だけ聞けば告白でもしそうな雰囲気だが、二人の内心はそんな浮かれた状態ではなかった。昔から一緒にいるのに、こんな状態は初めてでその後しばらく沈黙が続いた。
先に発言して、沈黙を破ったのは苧巻の方だった。
「……まず、この間はごめん。流石に言い過ぎたって反省してる」
「いや、大丈夫。かなりショック受けたけど、もう落ち着いたから」
若干のやせ我慢を感じる言葉だった。よく見れば美咲は少し震えていた。今日はそこまで寒いわけではないので、緊張しているのだろう。
それでも会って話をしようと思い、メールを送ってきた美咲はやっぱりすごいと苧巻は思った。
美咲は目を閉じて深呼吸をした。はあ……という呼吸の音が耳に届き、そのあとゆっくりと目を開き苧巻をまっすぐ見据えて口を開いた。
「苧巻が抱えているものをあたしに教えて」
さっきまで震えていた美咲の唇はすでに震えが治まり、強い覚悟を秘めた言葉が苧巻の耳に届いた。
苧巻は言葉を選ぶようにゆっくりと口を動かした。
「俺は……」
今日もなんとか投稿できた。
正直な話今日の投稿は諦めていたのですが、気付いたら評価バーに色がつき(しかも赤)モチベが爆上がりしました。
本当に嬉しいです!
内容の話としてはキャラの口調の書き分けが難しかったです。ハロハピで二番目に好きな薫はめちゃくちゃ書きやすかったんですけど……
次の話が一番の書きたかった話になるので、もしかしたら明日は投稿出来ないかもしれないですが、できるだけ早く投稿するのでお待ちください。
評価や感想していただけると励みになります。
それではまた次回。