チイロノミコ   作:SnowWind

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第4話
第4話 前編


カザキリノウイジン

 

 

 

 

小型輸送艦『サナギ』に乗り、カミナの里から工業都市マギアディールまで向かう道中。

チコたちは簡単な昼食を終えて一休みした後、あることを確認するために格納庫を訪れていた。

そこで正座状態で格納されていたヨゾラノカゲヒメを見つけたチコは、さっそく操手槽へと乗るために胸部のハッチを開く。

 

「あの時と同じで動くなら、水晶に手を置いて念じれば・・・。」

 

操手槽に乗ったチコは水晶に手のひらを乗せ、立ち上がるイメージを思い描く。

だがヨゾラノカゲヒメは微動だにせず、その場に座り込んだままだった。

 

「よし、スズ。操手槽に乗ってみろ。」

 

「わかった。」

 

レンジの指示を受け、スズはチコの乗る操手槽へと向かう。

 

「チコさん、失礼します。」

 

一言断りを入れ、やや身を屈めながらチコの隣へ寄る。

 

「チコ、その状態でもう一度やってみろ。」

 

「言われなくても分かってるわよ。」

 

スズが操手槽にいる状態で再び水晶に手を置きイメージを思い描くと、ヨゾラノカゲヒメがゆっくりと立ち上がったのだ。

 

「・・・これで決まりみたいね。」

 

カンナの言うことは正しかった。

未だに理由はわからないが、スズがいなければヨゾラノカゲヒメは起動しないのだ。

するとレンジがひと飛びで開いたままのハッチに足を乗せ、操手槽の中を覗きこむ。

 

「チコ、ちょっと手をどけろ。」

 

人にものを頼む態度か、と内心毒づきながらもチコは水晶から手をどける。

そしてレンジが水晶の手を置き歩くように念じてみるが、ヨゾラノカゲヒメは一歩も動かず、続いて無遠慮にも操手槽に足を入れて足踏板を踏んでみるが、それでも動作しなかった。

 

「チコ、こいつに『個人識別情報』を読み込ませた記憶はあるか?」

 

個人識別情報とは、特定の個人の認証に使う情報であり、網膜、指紋、声紋、魔力反応等を差すものである。

国や軍の重要施設における入退場、機密度の高い兵器、兵装の使用認証などに採用されており、第三者による無断使用及び介入を簡単には許さない。

普通に生活をしている分にはお目にかかることは滅多にないが、チコとスズにしか扱えない以上、ヨゾラノカゲヒメにはこの機能が備わっている可能性がある。

 

「私は覚えがないわけじゃないわ。この水晶に手を乗せたときに初めてカゲヒメが動いたから、その時に私の情報を読み取ったのかもしれない。

でも、スズはないわ。」

 

「なに?」

 

「最初に乗った時、この子はずっと私に抱きついていたもの。」

 

「チッ、チコさん!!」

 

ここでチコがレンジの目の前で堂々とあの時の様子をカミングアウトするものだから、スズは大いに慌ててしまう。

 

「どうしたの?なにか違ってたっけ?」

 

「いっいいえ!違ってませんけど違ってませんけどそんなあっさりと・・・。」

 

「どうして?」

 

だがチコが素知らぬ顔であっさりとそう聞き返してくるものだからスズは自分の中で一気に熱が冷めていくのを感じる。

 

「いいえ、なんでもないですよー。」

 

「?変なスズ。」

 

「はあ・・・。」

 

チコはわけがわからず首を傾げ、スズは拗ねてそっぽ向き、レンジは呆れた様子でため息を吐く。

 

「とにかく、私だけならまだしも、スズは個人認証できたところは・・・あれ?」

 

「待てよ・・・?」

 

ここでチコとレンジは、話が微妙にズレていることに気が付く。

そもそもここを訪れた本来の目的は、『スズがいなければ』ヨゾラノカゲヒメは動かせないことを確認することだ。

それなのになぜ今、『チコでなければ動かせない』ことに話が傾いているのだ?

 

「待って・・・カンナが言ってたのは・・・。」

 

「カンナがあの時言ったのは・・・。」

 

レンジとチコが同じタイミングで思考を始め、そして同じタイミングで1つの答えにたどり着いた次の瞬間

 

「ねえ、レンジ!」

 

「おい、チコ!」

 

「え?」

 

「ん?」

 

全く同じタイミングで話しかけ、全く同じリアクションを取ってしまう。

 

「・・・何よ。」

 

「何だよ。」

 

それが無性に面白くないから、つい喧嘩腰な態度になってしまう。

 

「なんで喧嘩になってるの!?」

 

その様子を見かねたスズが2人の間に割って入る。

 

「もう!どうせ2人とも同じこと考えてたんでしょ!?

だったら答え合わせなんてしなくていいから本題に入ればいいじゃない!」

 

そして2人が全く同じ思考を辿っていたことを直感的に悟ったスズはつい声を荒げ、でも話の腰を折らないように促していく。

 

「じゃあチコ、お前そっから出ろ。」

 

「分かってるわよ。スズ、私が出たらカゲヒメを動かしてみて。」

 

「え?分かりました。」

 

スズにそれだけ指示し、チコはヨゾラノカゲヒメから飛び降りる。

そしてスズは操手槽の椅子に座り、両手を水晶の上に置いてみた。

 

「あれ?動かないみたいです。」

 

「・・・やっぱり。」

 

「決まりだな。」

 

チコは天を仰ぎ、レンジも複雑な表情を見せる。

確かにカンナはあの時、スズ『が』いなければ動かせないと言った。

だが、スズ『じゃ』なければ動かせないとは言ってなかった。

そう、スズだけでも、ヨゾラノカゲヒメを動かすことは出来ない。

ヨゾラノカゲヒメを動かすための鍵は、『もう1人』いたのだ。

 

「ねえ、カンナ。」

 

「なに?」

 

いつの間にかカンナが自分の隣に立っているが、この子の神出鬼没にも慣れたチコは、特に気にせずに話を続ける。

 

「ヨゾラノカゲヒメは・・・『私とスズ』じゃないと動かせないの・・・?」

 

「うん。」

 

声を震わすチコの問いに、カンナは静かに頷くのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

時刻は夕方に差し掛かり、直に日も傾き始める頃、チコたちを乗せたサナギは荒野の通過していた。

 

「ここを乗り切れば、マギアディールまであともう少し。

日はとっぷり暮れるだろうけど、まあ夜分にお邪魔するには問題ない時間につくんじゃないかな?」

 

操縦室の様子を見に来たチコたちは、ミリアからおよその到着時刻を聞く。

まだ到着まであと数時間はかかりそうだが、今のところ敵襲も魔獣の襲撃もなく、旅路は順調だ。

 

「そう言えば、リクドウさんってどんな人なんですか?」

 

ここでカンナを除けば、この中で唯一リクドウと面識のないスズが、彼の人物像について尋ねてきた。

 

「そっか、スズちゃんはあったことないんだっけ?

リクドウさんはね、君のお父さんの旧知の人だよ。」

 

「え?そうだったんですか?」

 

父の交友関係についてはイマイチ詳しくないスズは、旧知と言う言葉に驚きを隠せないでいる。

なにせ父であるムラサメ・サキミと言えば、厳格と威圧感の塊のような人物だ。

無論、とても優しくて頼りになる父であることはわかっているのだが、その威厳溢れる表情と声色は、家族である自分でさえ未だに怖いと思う。

正直、母はよくこの強面の父と結婚する気になったな、だなんて失礼な感想を抱いたのも一度や二度ではなく、そんな父と旧知な人がいると言うだけでも珍しいと思ってしまうのだ。

 

「そうそう、口の堅い人で、職人気質な整備士さんだよ~。」

 

「え・・・?」

 

そしてミリアから続けざま語られた人物像に、スズは緊張した面立ちを見る。

あの父の旧知にして口の堅い職人気質。

スズがどのような人物を想像してしまったのか、それこそ想像に難くない。

 

「ミリアさん、スズを怖がらせないでください。」

 

スズの様子を見ながら必死で口元を抑えているミリアを、チコが呆れた表情で窘める。

 

「まーまー、嘘は言ってないんだし?」

 

だがミリアは素知らぬ顔だ。

確かに先ほどの言葉に嘘はないが、肝心な情報が抜けている。

チコとしては、スズの初めての旅に怖がらせるような要素は極力排除したいので、今一度ミリアを窘めようとする。

 

「だからって、スズをからかうような・・・。」

 

だがその時、チコとミリア、そしてレンジの3人の表情が途端に険しいものへと変わる。

 

「え?」

 

急な空気の変化を感じ取ったスズが首を傾げると、ミリアが突然サナギを急停車したのだ。

 

「ミリアさん!」

 

「やっこさんのお出ましだ!」

 

ミリアに確認を取るよりも前に、答えが返ってくる。

チコとレンジが感じた魔力に間違いなかった。またあの2人組が現れたのだ。

 

「チコ!カゲヒメに乗って出撃しろ!」

 

そう指示をしながら、レンジは操縦室の窓際へと駆け出す。

 

「レンジは!?」

 

「先に出てやつらを引きつける!」

 

「死んだら殺すわよ!」

 

「死なねえし殺されねえよ!」

 

レンジは刀を手に、窓から外へと飛び出した。

 

「いくよ!スズ!」

 

「はっ、はい!」

 

ここまで来ればスズにも何が起こったのか分かる。

これから戦いが始まると言う恐ろしさに強張りながらも、スズは気丈に返事をしてみせた。

 

「ミリアさん!カンナを部屋に!」

 

「はいよ!」

 

最後にカンナをミリアに託してから、チコはスズの手を引き急いで格納庫へと向かうのだった。

 

 

 

 

・・

 

 

 

 

少し遡り、荒野の岩場に身を潜めているバレットとクレアは、軽食を取りながら待ち伏せしていた。

クレアはチーズを食し、バレットは干し肉を豪快に噛み千切りながらウィスキーを呷っている。

 

「いつ戦いがあるかもわからないのに、お酒なんて飲んでいいの?」

 

「多少、酔いが回った方が戦いに集中できるのさ。酔拳って言うだろ?」

 

クレアが怪訝な表情を浮かべて注意するも、バレットはどこ吹く風だ。

 

「あれは本当に酔うわけじゃないでしょ。」

 

「堅えこと言うなよほら、お前も一杯どうだ?」

 

「頂くわ。」

 

だがクレアも、真顔で戦闘前の飲酒を注意していたかと思えば、表情1つを変えずにウィスキーを受け取り、バレットと同じように一気に呷る。

 

「・・・いつもより弱いわね。」

 

「まっ、戦闘前だからな。」

 

「その気遣い、いるの?」

 

「飲み過ぎにはご用心ってこった。」

 

「じゃあ残りの酒は私がもらうわ。」

 

そう言いながらクレアはウィスキーを飲み干し、バレットはもう一本の酒を取り出して再び呷る。

何の気回しにもなっていない気回しを終えた2人は結局、戦闘前に飲酒をしたわけだが、全く酔った様子を見せずにひたすら待ち伏せを続けていた。

その時、遠方から輸送艦特有の重々しいホバー音が聞こえてきた。

 

「おい見ろよクレア。あの芋虫面、街で見かけた輸送艦と同じだぜ。」

 

「まさか張り込み1日目で出会えるだなんて、ラッキーだったわね。」

 

マギアディールを尋ねるためにここを通過すると言う確証こそあれど、当然時間までは知りようがない。

正直なところ、向こう数日はここで張り込みを続ける予定だったが、初日で功を成したのだから、運が傾いているとしか思えない。

そう自分たちの幸運を喜ぶ2人は、さっそく襲撃の準備に取り掛かる。

バレットは軽くリボルバー銃の弾倉を回し、問題ないかを確認する。

クレアは体内のエーテルを感じ取り、十分に補給されていることを確認する。

 

「それじゃあ、このまま・・・。」

 

「待て、クレア。」

 

だが操兵に乗り込もうとしたクレアをバレットが呼び止める。

そして次の瞬間、2人とも目を見開く。

視界に入った輸送艦が突如として急停止したのだ。

 

「まさか・・・またバレたの!?」

 

「おいおい嘘だろ。まだここまで距離があるのにか?」

 

小型輸送艦とは言え、ここからならまだミニチュアサイズの大きさにしか映らない。

それほどの距離が空いているためか、急停車したのは輸送艦に問題があった可能性もあると、バレットもまだ半信半疑であった。

だが次の瞬間、操縦室の窓から1人の少年が飛び降り、こちらに向かって一直線に駆け出してきた。

 

「クレア!ペネトレーターへ!ボウズは俺が!」

 

このままでは操兵に乗るよりもやつがここへ到達する方が早い。

バレットは端的にクレアに指示を飛ばし、岩陰からレンジへと銃を放った。

 

「わかったわ!ああもう!なんでわかるのよ!」

 

クレアは愚痴を零しながら、バレットが囮になっている隙にペネトレーターへと搭乗する。

 

「この位置がバレてんなら、岩陰でコソコソする意味はねえか。」

 

あの少年の得物は刀だけ。間合いはまだこちらが有利だ。

岩陰に姿を隠して撃つよりも、いっそ正面から見据えて弾幕を張った方が牽制になるだろう。

そう思い当たったバレットは岩陰から飛び出し、こちらに向かってくる少年、レンジを真正面から狙い撃つ。

だがレンジは手に持つ刀を鞘に納めたまま振り上げ、弾丸を弾き飛ばした。

 

「チッ。」

 

舌打ちしながらもバレットは2度、3度連射する。

するとレンジは刀を腰に構え、居合の構えを取った。

 

「カナド式刀剣術、『アクメツ流』。」

 

アクメツ流。

それはサキミ家に代々伝わる剣術であり、抜刀術を主とする流派だ。

その太刀は心に巣食う悪を写し、その技を以って己が邪心と敵を斬れ。

『己が悪を滅する』を極意とするアクメツ流は剣術にして剣道であり、心・技・体の全てが要求される流派である。

ちなみにカナド式刀剣術とは、カナド人をルーツとする刀を武器として用いた剣術の総称であり、アクメツ流もまた、カナド式刀剣術に分類されるのだ。

 

「『序の型、剣閃(けんせん)』。」

 

レンジが抜刀すると同時に柄のルーンが緑の光を帯び、風を纏った刀の一撃が迫りくる弾丸を全て斬り払う。

 

「おいおい、刀でもそれをやるか。」

 

以前木刀で弾丸を弾かれたことを思い出したバレットは苦笑しながら、レンジの持つ刀『風魔』を観察する。

 

「上質なミスライト鋼で打たれた魔力を帯びた刃、柄に刻まれた風の簡易術式(ルーン)

なるほど、所謂ワザモノってやつか。」

 

初戦で木刀を持っていた時よりも、更に強くなっていると見ていいだろう。

厄介な相手だと思いながらも、バレットは今の状況さえも楽しむ余裕を見せるのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

バレットとレンジが戦っている最中、チコとスズはヨゾラノカゲヒメに搭乗し、外へと躍り出た。

操手槽の操縦席は1人用であり、スズが隣に座るスペースは当然ないため、前回同様スズはお姫様抱っこされた状態で乗ることになり、顔を赤くする。

そしてこちらに向かって来た機操兵と、長い距離を開けた状態で対峙する。

 

「あの機操兵、あの時参道で戦ったのと同じやつね。」

 

「はい、間違いありません。」

 

敵を補足したことでスズの羞恥も吹っ飛び、緊張した様子で正面の敵を捉える。

一方、相対する機操兵ペネトレーターは、右手の弓剣をヨゾラノカゲヒメに向かって構えた。

 

「今回は前みたいにはいかないわよ。得体のしれない操兵ちゃん。」

 

通信機は閉じているためこちらの声は聞こえないが、クレアは相手に話しかけるように1人呟く。

前回はカミナの里を戦場にしたくなかったから、この機体の本懐を発揮することはできなかったが、今回はその遠慮もいらない。

ペネトレーターの真価を十分に発揮することが出来る。

一方でチコは、ペネトレーターの構える弓を見て不審に思う。

 

(弓・・・でも矢も矢筒も見当たらない・・・。)

 

長弓ほどの大きさとなれば矢もそれなりの長さはあるだろうが、敵の形状からして内部に収納できるスペースは見当たらず、そもそも弓には弦すら張られていない。

あれでは完全に見掛け倒しだが、これだけ空いた間合いで弓を構えたと言うことは単なる脅しではないだろう。

それならば、思い当たる節が一つだけある。

 

(『魔法』を用いた弓矢、『魔導弓』ね。)

 

魔導弓とは、魔法によって精製した矢を、あたかも弓を引くように放つことができる武器である。

そして魔法とは、新人類であれば誰もが扱える、物理法則を無視した超常現象のことだ。

この世界には『魔素(マナ)』と呼ばれる魔法の元素となる物質が大気中に存在する。

新人類はそれを取り込み『魔力』へと変換して蓄える器官があり、魔力を『エーテル』と呼ばれるエネルギーに変換することで、魔法と言う名の奇跡を引き起こすのだ。

そして高位の術士、または魔法を扱うことに特化した機操兵による魔法は、機操兵の装甲さえ撃ち抜くと言われている。

機操兵についてはそこまで詳しくないチコは、敵の機操兵の兵種は勿論、操手の術士としての習熟度もわからない。

レンジなら一目みて兵種も分かるのだろうか、なんて忌々し気な思いが頭の片隅を過るが、少なくとも魔導弓を得物とする時点で敵はそのどちらか、あるいは両方である可能性が高いだろう。

ならば常に最悪を考慮し、チコは敵の魔法による攻撃に備え、力強く水晶を握る。

 

「チコさん、気を付けてください。」

 

こちらの緊張が伝わって来たのか、スズも神妙な面立ちで敵を見る。

 

「あれ、弓です!」

 

「・・・え?」

 

だが続けて出た言葉が余りにも当たり前過ぎたせいで、チコは敵前にも関わらず思わず呆けてしまう。

 

「きっと、矢を射ってくるはずです!遠距離攻撃に気を付けてください!」

 

「・・・いや、見ればわかるけど?」

 

「えっ?気づいてたんですね!流石チコさんです!」

 

弓を構えた相手の矢を警戒する。こんな当たり前のことを褒められるとは思っても見なかったチコは、ジットリした目でスズの顔を見る。

 

「いや、どう見ても弓でしょ、あれ。」

 

「えっ?どう見ても剣じゃないですか?」

 

だがスズにはあれが弓でなく剣に見えたようだ。

確かに弓の両端に曲剣を備えた複合武器ではあるし、前回の戦いでは専ら剣として運用されたので斬りかかられた印象の方が強いかもしれない。

だが形状から基となっているのは弓であることは見れば明らかなことである。

 

(はあ~・・・。)

 

チコは内心、ため息を吐く。

スズは普段は聡明なのだが、やや感性が独特と言うか、ズレているところがあり、所謂『天然ボケ』な発言をすることが時折ある。

だが何も敵と真っ向から睨みあっている状況でこんなボケを言わなくても良いのに、・・・。

 

「ととっ、いけない。」

 

そこでチコは今が戦闘中であったことを思い出し、再び敵に向けて意識を集中させる。

こんなことで敵から先手攻撃を受けてしまっては、レンジから何を言われるかわかったものではない。

幸いにも、こちらの呆けは敵には伝わっていなかったようで、あちらも弓を構えたままだ。

すると敵の弓が発光しだし、左手も光を帯び始めた。

 

「光よ、駆けろ。『スターロード』!」

 

クレアの唱えた呪文に呼応し、ペネトレーターは魔法による光の矢を精製して放ち、ヨゾラノカゲヒメはその一撃を回避する。

 

「流石に速いわね。でもまだまだよ。光よ、駆けろ。『スターロード』!」

 

2射、3射とクレアは次々とスターロードを発動していく。

魔法の発動とは即ちイメージの具現化だ。

『術式』と呼ばれる、術者が脳内で思い描いたイメージをエーテルを消費して具現化することで、初めて魔法は効力を発揮する。

そのイメージの具体化するために、魔法の効力を言葉で唱えることで、より洗練されたものへと昇華するのが『詠唱』だ。

故に魔法を表す呪文が長ければ長いほど、より強力かつ複雑な魔法を発動することができ、呪文が長いと高位の魔法を発動できるのはこれに起因している。

クレアが先ほど唱えた呪文は『光よ』、『駆けろ』の2節詠唱であり、所謂下位魔法に分類されるが、唱える呪文が短い分連射が効くので、小手調べには十分だ。

 

「かわし続けてもキリがないわね。」

 

一方でスターロードを回避し続けながら、チコはヨゾラノカゲヒメを跳躍させ、空中に陣を展開して足蹴にする。

 

「また来たわね。魔法による空中歩方。」

 

クレアの駆るペネトレーターが上空へと狙いを定めるが、空中を縦横無尽に飛び回るヨゾラノカゲヒメは中々補足出来ない。

 

「よし、ここだ!」

 

ヨゾラノカゲヒメは空を飛び回りながらの接敵に成功し、そのままペネトレーターの懐に飛び込む。

 

「甘いわね!」

 

だがペネトレーターは弓剣の刃を向け、ヨゾラノカゲヒメの蹴りを受け止めた。

ヨゾラノカゲヒメの鋭い爪先と、弓剣の切っ先が、鍔迫り合いを起こす様に火花を散らす。

 

「確かに動きは速い。でも反応できない速さじゃない。」

 

クレアはそう言いながらも、やや自嘲気味な笑みを見せる。

正確には、前回戦えたおかげで相手が仕掛けるタイミングを見切れたため、反応することができただけだ。

あの速度に対して見てから反応するのは厳しいだろうが、補足すら困難だった以前とは異なり、今回は相手の動きに対応することが出来る。

するとヨゾラノカゲヒメは後方へと飛び、空中に陣を作りその場で停滞した。

そして

 

トン、トン。

 

陣の上を左右で足踏みし、まるで呼吸を整えているような動きを見せる。

 

「あの動き、確か巫女の舞と同じ・・・。」

 

クレアは儀式を盗み見ていた時を思い出す。

あの足捌きは、奉納演舞で巫女が見せたのと同じものだ。

それに以前、通信機越しに聞こえてきた声も少女の声だった。

と言うことは、あれに乗っているのはあの時の巫女で間違いないだろう。

 

「あの時、痛いじゃ済まさないって言ってたわね?

全く、口の悪い巫女さんもいたもんだわ。」

 

確かにあの時は踵落としを受け、多少だが痛いじゃ済まない目にあった。

ならば今日は、あの時の意趣返しと行こうではないか。

 

「聖なるの光よ、天を照らし、地を芽吹き、邪悪を清める、恵みの雨をもたらさん!」

 

5節詠唱の中位魔法。クレアが最も得意とする魔法。

 

「セイクリッド・レイニー!!」

 

ペネトレーターは上空に目掛けて光の矢を放つのだった。

 

 

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