バレットの放つ弾丸を斬り落としながら、レンジは距離を詰めていく。
そうして接近に成功したレンジは、風を纏った突きを繰り出す。
「おっと。」
バレットは身を反らしてかわし銃を放つが、レンジは左手に鞘を持ちそれを弾く。
「器用なボウズだ!よっと。」
するとバレットは両手に銃を持ち、『弾倉を撃ち尽くした』はずなのに引き金を引いた。
次の瞬間、爆炎が発生し、その反動を利用してバレットは後方へと飛び退いた。
(火の
爆炎の範囲は狭く、レンジにも届かない。
爆風を利用した反動で距離を開けるためのものだろう。
レンジは急ぎ距離を詰めようとするが、バレットは器用に空中で弾倉を交換しているため、一度様子を見るためにその場に留まる。
「普通に撃っても弾かれるってんなら、こんなのはどうだ?」
するとバレットは右手のリボルバー銃をまるでヌンチャクのように振り回し始めた。
「愛しの
四方八方に銃を乱射するが、放たれたのは弾丸ではなく火球。それもバレットの周辺で停滞していく。
「宴の時間だ!」
(詠唱?魔法か!)
バレットの狙いに気付いたレンジは刀を構えて斬りこもうとするが、火球の停滞に紛れて時折こちらに実弾を撃ってくるため、うまく斬りこめずにいる。
「情熱的なキスで、歓迎してやれ!」
やがて火球の停滞を終えたバレットは、銃を回しながらレンジに狙いを定める。
「バレット・パーティ!!」
そして放たれた実弾と同時に、停滞した火球が一斉にレンジへと襲い来る。
(・・・変な呪文だな。)
そんなことを内心思いながら、レンジは降り注ぐ火球を回避する。
呪文の詠唱は術式を洗練させることが目的であるが、あくまでも『術者本人』のイメージが具体化すれば良いため、呪文と言うのは術者の個性が非常に光りやすいものだ。
こんな型破りな呪文でも術者にとっては効果絶大なのだが、一見して呪文とは分かりづらい分、相手をする側からすればやりづらいことこの上ない。
レンジがバレットの意図に気が付くのが遅れたのもそのせいである。
レンジは火球をかわし、刀で落として捌いていくも、やがてかわし切れない量の火球に囲まれる。
「ゲームオーバーだ。」
バレットの言葉とともに、火球が一斉にレンジへと襲い来るが、レンジは刀を逆手に持ち、地面へと突き刺す。
「風よ、我が身に纏え。」
バレットとは異なり、淡白な2節詠唱を静かに唱える。
「
次の瞬間、周囲に竜巻が発生しレンジを包み込み、バレットの放った火球を全て吹き飛ばしたのだ。
「何っ!?」
バレットが驚き怯む。
バレット自身は決して魔法が得意な方ではないし、火球の半分ほどはかわされ斬り落とされていたのでバレットパ・パーティの威力も下がっている。
それでも4節詠唱の中位魔法が、2節詠唱の下位魔法によって防がれたのだ。
(シンプルな呪文によるシンプルな魔法・・・なるほど、そのせいか。)
バレットは苦い表情を浮かべながらも冷静に状況を分析する。
簡素な呪文による魔法は単純な効果しか持てないが、直感的なイメージをストレートに表現できることは、それだけで高い効力が望める。
そして何よりも、術者の熟練度を直接的に反映させられる。
2節詠唱の下位魔法とて、侮ることなかれ。
単純な魔法と言うのは、術者がこれまでの鍛錬で研ぎ澄まして来た術式を、最高のパフォーマンスで発揮することができるのだ。
まさにシンプル・イズ・ベスト。
レンジの得意とする魔法系統であり、同時に好みでもある。
「風よ、我が刃に宿れ。」
竜巻が消えると同時に、レンジは風魔に風を纏わせ鞘に納め、居合の構えを取る。
「抜刀術か。」
だが構えを見せてくれるなら回避も容易い・・・と思った次の瞬間、風を纏ったレンジが高速で距離を詰めてきた。
「なっ!」
余りの速度に完全に意表を突かれたバレットは、反射的に後退する。
「アクメツ流。」
レンジが抜刀し、風魔を薙ぐ。
それは紙一重で届かず、バレットはニヤリと笑うが、次の瞬間バレットの身体が強風に煽られて吹き飛ばされる。
「なにっ!!?」
風魔に纏わせた風が抜刀と同時に強風を引き起こし、刃が届かぬ間合いへは強風による攻撃を同時に行う。
風の魔法と組み合わせた2段構えの抜刀術。
「
葉巻を飛ばされ、はるか後方へと飛ばされたバレットは、突然『何もない空間』へとぶつかった。
その様子をレンジは訝しむが、バレットは怪しげな笑みを浮かべる。
「こいつは参ったぜ。どうやら白兵戦じゃあ、分が悪い見てえだな。」
口ではそう言いながらも、バレットは余裕な様子だ。
そんな彼の様子と、以前彼らがどうやってカミナの里へと侵入してきたのかを思い出したレンジは目を見開く。
「ちっ!」
「おせえよ。」
レンジが再び刀を構えるが、バレットの姿さえもどこかへと消え、次の瞬間何もない空間からバレットの操兵トリガーハッピーが姿を見せた。
視覚隠蔽を使って機体を隠していたのだ。
もしかしたら火の
「わりいなボウズ。だが俺たちの目的はチャンバラごっこじゃない。
遊びはこれで終わりだ。」
そう言いながらバレットはヨゾラノカゲヒメとペネトレーターが交戦している方へと操兵を向ける。
だがレンジは慌てた様子を見せず、静かに左手を横へと突き出した。
バレットはその様子を見て眉を顰める。
レンジの左手首には、風の
「来い!カザキリ!」
そしてレンジがカザキリの名を叫んだ次の瞬間、ここより遠くにあるサナギの格納庫から、カザキリが出撃し、一直線にレンジの元へと飛んできた。
「なんだあの操兵は?」
バレットは初めて見るカザキリに動揺するが、次の瞬間さらなる驚愕が襲う。
こちらに飛んでくるカザキリの操手槽は開いており、中には『誰も乗っていない』のだ。
「
機操兵は操手のエーテルを動力としているが、これは機操兵に貯蓄させることはできない。
だがカザキリのバックパックには、『液体エーテル』が搭載されている。
これは『魔石』と呼ばれる魔素が結晶化した鉱物と、『聖水』と呼ばれる特殊な水を用いてエーテルを液状に保管したものだ。
人間、または魔獣の体内でしか生成できないエーテルを、液体として保管できる万能燃料として重宝しており、これにより機操兵の予備燃料を確保することができるのだ。
そしてレンジの腕輪に刻まれた
カザキリの液体エーテルを探知できる範囲であれば、腕輪の
これがカザキリに実験的に搭載された兵装、『
「チッ!」
バレットがトリガーハッピーの魔導砲を放つが、カザキリの纏う風のバリケードによって遮られる。
レンジはその場で跳躍し、後方から迫りくるカザキリの操手槽へと飛び乗った。
そして操手槽のハッチが閉じ、レンジは操縦桿に手を入れ、足踏板に足を置く。
「魔導炉の起動を確認、エーテル伝導率良好、各部異常無し。」
カザキリの両目にあたる『魔晶球』から青色の光が点灯し、操手槽内の映像版にトリガーハッピーの姿が映り出す。
「さあ、行こうぜカザキリ。」
カザキリが腰の刀を手に取り、居合の構えを取る。
「初陣だ。」
そしてバレットの駆るトリガーハッピーへと駆けていくのだった。
・・・
ペネトレーターが上空に放った矢は、やがて大きな光となって弾けた。
その光景をチコは警戒心を強めながら眺めていたが、次の瞬間、弾けた光が無数の矢へと変わっていく。
「範囲攻撃!?」
そう直感したチコはヨゾラノカゲヒメを走らせた途端、空から無数の光の矢が雨のように降り注ぐ。
進行方向へと矢の雨が降り立ち、慌てて旋回して降り注ぐ矢の中を潜っていくが、ついに回避が間に合わず、矢が肩部へと着弾した。
「きゃああっ!」
「スズ!」
操手内に衝撃が伝わり、チコの肩を抱くスズの力が強まる。
やがて矢の雨が収まり、チコが態勢を立て直そうとしたその時。
「セイクリッド・レイニー!」
再び空へと矢が放たれ、矢の雨が降り注ぐ。
チコが回避に気を取られている間に、クレアは第2射の詠唱を終えていたのだ。
「長い呪文を必要とする魔法は、どうしても隙が生じるからね。」
クレアは操手槽内で1人愚痴る。
その点では下位魔法は融通が利くが、中位以上の魔法ともなれば、操兵相手にも十分な威力を発揮できるのだ。
だがここでクレアは、相手の肩部を見て眉を顰める。
「傷一つついていない・・・?」
セイクリッド・レイニーは矢の一発当たりの威力こそ控えめだが、それでも並の操兵相手ならダメージを与えることは容易いはずだ。
「見かけによらず、頑丈みたいね。」
とは言え、今更あれの得体のしれなさ1つくらいで驚くこともない。
それに目的はあくまでも奪取だ。破壊し難いのであればむしろ好都合だし、矢が着弾した時に相手が態勢を崩していたから、手応えはあったはずだ。
攻撃の手を緩めなければ、衝撃で操手槽にいる操手の意識を奪うこともできるかもしれない。
ヨゾラノカゲヒメは再び回避を試みるが、先ほどと同じように退路を封じられ、降り注ぐ矢をかわし切ることが出来ずに被弾する。
そのタイミングを見計らって、クレアはペネトレーターの弓剣を構えて斬りかかる。
だが態勢を崩しながらもヨゾラノカゲヒメは陣を足蹴にして脚部を大きく伸ばし、弓剣の腹を蹴って受け止める。
「この期に及んで、まだ『両腕を使わない』だなんて、舐められたものね。」
クレアはペネトレーターの弓剣を構え直し、再び斬りかかる。
「もう!なんで『腕が使えない』のよ!!」
一方でチコは溜まりに溜まった不満をぶちまけながらも、何とか足だけで応戦する。
そう、ヨゾラノカゲヒメは今まで両腕を使わなかったわけではない。使えなかったのだ。
足でさえ、足踏板を踏まずとも水晶に念じるだけで動かせるのに、肩部装甲が折りたたまれ指まですっぽりと隠れた両腕はどれだけ念じても、うんともすんとも言わず強制的に『気を付け』の姿勢のままである。
もしも動かすことが出来たら近接戦で後れを取るようなことはなかったのだが、結果として足だけで応戦せざるを得なくなったチコは、万全な態勢かつ魔法も織り交ぜてくるペネトレーターに押されていく。
「まあいいわ。これでも舐めてかかるって言うのなら、自分の愚かさを嘆くことね。
聖なるの光よ、天を照らし、地を芽吹き、邪悪を清める、恵みの雨をもたらさん!」
クレアが再び呪文を唱え、セイクリッド・レイニーを放つ。
「また・・・あれ?」
とここでチコは、2度に渡って放たれたセイクリッド・レイニーに共通点があることに気が付く。
再びヨゾラノカゲヒメを走らせるが、またしても退路を封じるように進行方向に矢が降って来る。
「もしかして、この術。」
範囲攻撃かと思ったが、降ってくる矢に規則性があるのでは?
チコは記憶を辿りながら2度に渡って着弾した寸前までの動きをなぞる。
そして・・・。
「なるほどね。」
降り注ぐ矢を前にして、静かに微笑むのだった。
・・・
バレットはトリガーハッピーの魔導砲を放ち、カザキリの小手先を調べる。
するとカザキリは刀を抜き、手首を回転させて弾丸を斬り払った。
「もう驚かねえよ。」
いい加減慣れてしまったバレットは慌てることなく、両手に持つ魔導砲を連射する。
まるで操手の動きをなぞるかのように、カザキリは巧みに弾丸を斬り払いながらトリガーハッピーへと距離を詰めていく。
「どの国の機操兵にもねえ規格だな。オーダーメイド機か。
各部に刻まれた風の
なるほど、風の魔法と刀を振るうことに特化している。ボウズ専用機ってわけか。」
辺境の地に住む少年が、自分に合せて徹底したチューニングされた専用の機操兵を持つ。
何とも贅沢な話だと、バレットは1人ごちる。
ジャンクパーツをせっせとかき集めて造りだした自分のトリガーハッピーとはエライ違いである。
やがて距離を詰めてきたカザキリと、トリガーハッピーが正面からぶつかり合う。
衝撃が両者の操手槽に伝わるも、レンジもバレットも怯まない。
「はっ!」
カザキリが刀を袈裟懸けに薙ぐ。
「甘い!」
トリガーハッピーが肘でカザキリの手を受け止め、もう片手の魔導砲を連射する。
だがカザキリの肩部のルーンが輝き、突風を引き起こして弾丸を回避する。
その後も続けざま放たれる魔導砲を、カザキリは風を纏いながらかわし続ける。
「簡易版のウィンドフローか。」
操兵に風による推進力を付与させる一般的な下位魔法。
熟練した魔法師であれば機体を浮かせるほどの推力を得ることができるそうだが、
その代わりにカザキリは全身の至るところに
加えて
全方向、あらゆる角度に風の推力を向けることができる。
「魔導炉のエーテル出力は特に飛び抜けてはいねえ。
装甲強度もさっきの鍔迫り合いでそこまで頑強でもねえ。」
何かと高性能なイメージが付きやすいオーダーメイド機だが、カザキリと呼ばれた操兵の『基本性能』はそこまで優れたものではない。
だが
乗り手が優れていれば優れているほど、あの機体は数値以上の性能を発揮するのだ。
「こりゃ、底が知れねえわ。」
益々羨ましい話であるが、バレットは付け入る隙があることに気付く。
あの操兵は操手の戦術を再現することに特化している。
裏を返せば、操手に出来ない戦い方は考慮していない。
「それなら、こんなのはどうだ?」
カザキリが再び接敵し、トリガーハッピーと取っ組み合う。
だが次の瞬間、トリガーハッピーのバックパックから補助腕が現れ、後部に収納している予備魔導砲を構えた。
「なにっ!?」
完全に意表を突かれたレンジは、敵からの攻撃を許してしまい、ついに被弾する。
魔法を火薬代わりに利用して弾丸を射出する魔導砲は、威力自体は大したことはないが、衝撃で機体を揺らされたカザキリは隙を晒してしまう。
「もらったぜ!」
バレットは魔導砲の弾丸を実弾へと切り替え、火の
「ちっ!」
一方レンジは舌打ちしながらも、肩部を稼働しウィンドフローを全面に展開し、弾丸の威力を削ぐと同時に機体を後方へと退避させる。
肩部に着弾し銃痕こそ残ったが、何とか持ち直すことは出来たようだ。
「思った通りだ。『人間同士』の行儀の良い戦いにしか慣れてねえようだな、ボウズ。」
だがこれは操兵による戦いだ。
先ほど見せた『4本腕』による銃撃等、人には出来ない戦い方だっていくらでも出来る。
カザキリは操手に合わせて造られたのが災いして、人の域に収まる戦いしか出来ないのだ。
ならばその域から外れた土俵に立たせてしまえば、こちらが負ける道理はない。
「ようボウズ。親切心で警告してやる。大人しく撤退して輸送艦に引っ込め。
ピカピカの操兵にこれ以上傷は付けたくないだろう?
俺たちの目的はあの黒い操兵だけだ。それさえ渡せば命までは取りはしねえよ。」
トリガーハッピーが4本腕による魔導砲を構え、人非ざる戦いであることを強調しながら、バレットは通信機を使い、撤退を呼びかける。
だがカザキリからの返事はなく、再び腰の刀を構えた。
「やれやれ、無口だねえ。モテねえぞそんなんじゃ。」
トリガーハッピーが4本腕で魔導砲を乱射する。
(大きなお世話だ。)
レンジは内心、大きなため息を吐きながら、弾丸の雨の中へ飛び込むのだった。