チイロノミコ   作:SnowWind

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第5話 後編

 スズたちが大量のチョコレートを手に工房へと戻ってくると、全てを察したレンジによるお説教が始まった。

 久しぶりに兄からこっぴどくお叱りを受けたスズはようやく我に返り、レンジに何度も謝り続ける。

 

「お前らバカだろ・・・。」

 

「ごめんなさい・・・お兄ちゃん・・・。」

 

「おいチコ、お前がついていながらどうしてこうなった?」

 

「だって・・・カンナがどうしても買いたいって聞かないから・・・。」

 

「ガキに気圧されてんじゃねえぞ。何やってんだよ・・・。」

 

 レンジは頭に手を当ててすっかり呆れ果てるが、今回ばかりはチコも反論に熱が籠らず、レンジからの説教をスズと一緒に甘んじて受けるしかなかった。

 そんな中でもカンナだけはマイペースにチョコを口にしながら、ご満悦な笑顔を浮かべている。

 

「がっはっは!まあいいじゃねえか!ここのチョコは他と比べても絶品だもんな!

 それよりもみんな、直にダリアが飯出来るってよ。」

 

「おやっさん。わりい、ゴチになります。」

 

 リクドウが来たことでレンジも説教を止め、ミリアを含めた一同は彼の案内の元、工房にある食卓へと向かう。

 その間、説教を受けて落ち込みムードだったスズは昼食と言う言葉を聞いて一転、明るい笑顔を取り戻す。

 スズは美味しいご飯を食べることが何よりも好きなほど食道楽であり、それが転じて料理の腕前を磨いているほどである。

 そんな食に関して余念がないスズにとって、他郷の食文化と言うのは非常に興味を惹かれるものだ。

 一体どんな料理が出てくるのか、期待を込めて食卓を訪れると、テーブルの上には野菜のスープとパン、そして羊肉の丸焼きが置かれていた。

 

「さあ、遠慮せず召し上がれ。」

 

 それぞれ席に着き、ダリアの言葉に合わせて、いただきますを合唱する。

 だがここでスズは、人の生活における衣・食・住の内、最も大事にしている食の文化に置いて盛大なカルチャーショックを受けることになる。

 まずパンだが、スープに浸けて食べるように聞いたが、正確にはスープにでも浸けなければ食べられないほどにパサついて喉を通りにくい。

 そのスープは一体どれほどの量の塩を使ったのかと思うほどにしょっぱく、具材の野菜は大きく切られているだけでなく、火が通っているのか疑問に思うほど固いせいで、とにかく食べづらい。

 そしてメインであろう羊肉は、皿の上にドロドロの脂が滴り落ちており、見ているだけで胃が重たくなりそうである。

 

「スズちゃん、ひょっとして口に合わなかったかい?」

 

「えっ?いえ・・・そうゆうわけでは・・・。」

 

 ダリアが心配そうにこちらを見るが、決して食べられないものではない。

 最初の内は驚きながらも、カミナの里ではまず食べられない新鮮さのおかげでスプーンが進んでいたものだ。

 だがこう言ったしょっぱく、重く、味が濃い料理と言うのは飽きが来るのも早く、すっかり舌と胃が悲鳴をあげてしまい食事のペースが見る見る内に落ちていく。

 ふとチコを見ると、彼女も普段より食の進み具合が遅く、カンナに至っては最初の一口目で堂々と「マズい!」と言ってのけ、それ以降一切口にしないものだから、チコが平謝りに平謝りを重ねて台所を借りて、スープを薄めて千切ったパンと羊肉の脂身の少ない部分を入れた即席ミネストローネに作り直してようやく口にしたほどだ。

 それでも野菜だけは頑として食べようとしないものだから結局、初対面の人から出された食事を食べ残すと言うカンナの無礼に対して、彼女に代わってチコが再度陳謝することになった。

 

「がっはっは!やっぱ里の飯に慣れてる人からすりゃあ、ここの飯は味が濃いか。」

 

「ごめんなさいねえ。この人からその話を聞いていたから、普段よりは薄く作ったつもりだったんだけど。」

 

 その言葉にスズは目を丸くする。

 これで味が薄いとなると、一体この人たちは普段どんな味の濃い料理を食べているのだろうか?

 だが無礼を働いたのはカンナなのにダリアの方が謝って来たものだから、チコはもう居た堪れない気持ちになって食卓に突っ伏してしまった。

 スズも流石に残すわけにもいかず、頑張って食してみるが、それでも胃の許容量に限界が訪れ、羊肉だけは食べきることが出来なかった。

 

「スズ、腹いっぱいなら無理して食うな。オレがもらう。」

 

「ごめんなさいお兄ちゃん・・・。」

 

「まっ、ワシも初めて来たときは驚いたが、1週間もすればこの味にも慣れた。

 結局は慣れだよ。慣れ。がっはっはっは!」

 

「慣れ・・・ですか。」

 

 彼の言う通り、結局は慣れと好みの問題なのだろう。

 現にミリアとレンジは文句ひとつ言わないどころかパクパクと食し、レンジに至っては自分の食べ残しを食べた後、羊肉のお代わりまで貰っている。

 だが里の質素ながらも味わい深い料理が好きなスズにとって、ここの料理の味に慣れていく自分の姿と言うのは中々想像出来ないものだ。

 マギアディール到着から半日もしない内に、衝撃的な話や出来事が多く続いていたが、滞在期間中に一番記憶に残った出来事は間違いなくこの食文化の違いだろうと、スズは確信するのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 その後、昼食を終えたスズたちは再び商業地区へと観光に行き、レンジはリクドウの話を聞きながら点検作業の手伝いをする。

 それぞれが一日を過ごして夕方に差し掛かった頃、商業地区からスズたちが帰ってきたのを頃合いに、一同は早めの夕食を終えた後、滞在中に宿泊するホテルへと案内された。

 ちなみにミリアはサナギの中が一番落ち着くと言い、格納庫に納めたサナギへと戻っていった。

 だがここで1つの問題が発生する。

 カムイ家とサキミ家は里でも格式の高い家柄であることを知るリクドウが、宿泊代を全額負担すると言って聞かないのだ。

 元々何の連絡もなしに突然ヨゾラノカゲヒメを見て欲しいと頼みに訪れ、それを快諾してくれたばかりか食事までご馳走になった。

 それだけでも返し切れない恩があるのに、その上で滞在期間が未定な宿泊代を全額負担すると来たものだから、流石にこれ以上の厚意に甘えるわけにもいかず、レンジもチコもやんわりと断ろうとした。

 だが普段は豪快な笑い方が特徴の朗らかなリクドウだが、ミリアの称する職人気質、と言う言葉に間違いはなく、一度決めたことは譲らない頑固な面があり、結局、2部屋のみを借りて2人ずつ分かれて泊まる形で何とか妥協してもらったのだ。

 だがここで更なる問題が生じる。それは部屋の割り振りである。

 まず大前提として、チコとレンジが同じ部屋を使うことは当然、誰の選択肢にも入っていない。

 となると残る組み合わせの1つはチコとスズ、レンジとカンナだが、如何な年端もいかない幼女とは言え、カンナとレンジを相部屋にすることをチコが許さず、レンジ本人からも御免と言われた。

 そのため自動的に残りの組み合わせに決まり、一同はそれぞれの部屋へと戻ったわけだが・・・。

「むう・・・なんでお兄ちゃんと同じ部屋なのさ。」

 

 スズは1人、仏頂面でベッドの上に体育座りをしていた。

 ここに来るまでは昼間の観光で真新しい景色を多く見てきてご機嫌な様子だったが、ホテルの部屋割りが決まった途端、あからさまに不機嫌な態度を見せたのだ。

 それは勿論、如何な兄妹とは言え、異性であるレンジと同じ部屋にされたから・・・ではない。

 

「文句があるならカンナに言え。」

 

 チコと相部屋じゃないからである。

 当然、こんなつまらない嫉妬心でカンナに当たることなんてできないものだから、スズはレンジに対して八つ当たりに近い文句を言う。

 だが文句を言われた当人からこんな言葉が返ってくるあたり、すっかり内面を見透かされているものだから、スズは一層不機嫌な表情を浮かべながら、近くに置いてあったお土産用の板チョコレートを手に取る。

 そしてその包み紙を雑に破り捨て、チョコレートに齧り付いた。

 

「夜食ったら太るぞ。」

 

「ふとらないもん。」

 

 口元をチョコレートで汚しながら、スズは何の根拠もない反論をする。

 腹いせにヤケ食いを始めた妹に対してレンジは露骨に呆れた様子のため息をつきながら、着替えを手に取りシャワールームへと向かう。

 

「シャワー浴びてくる。言っておくが覗くなよ。」

 

「それ私のセリフ!!」

 

 そんなレンジの冗談でも気休めにならず、スズはチョコレートを貪り続けるのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 チコはカンナと一緒にシャワーを浴びた後、ベッドの上でカンナの髪を手入れする。

 右手に櫛を持ち、左手に意識を集中させて魔法を起こす。

 魔法はこの世界における生活の一部。スズも料理をするために火の魔法を心得ているほどに、人の暮らしの中に浸透している。

 これから魔法を使って、カンナの髪を乾かすのだ。

 熱風を生み出す魔法はスチームドライと言う1節唱えるだけで簡単に発動できるものが一般的に広まっているが、チコは魔法の訓練のために、風と火の魔法を自ら生み出して熱風を作り出す。

 それも詠唱に頼らず、自分のイメージのみで魔法を具現化させる。

 深呼吸を繰り返し、意識を左手だけに集中させて、風と、風の温度を高めるための熱をイメージする。

 やがてチコの手のひらには小さな風が起こり、それは火の魔法と組み合わさることで熱風へと変わる。

 

「・・・よしっ。」

 

 櫛を持ったままの右手で少し触れ、温度も風力も問題ないことを確認する。

 その熱風をカンナの髪に当てながら、櫛で解いていく。

 

「カンナ、熱くない?」

 

「うん。」

 

「くすぐったくない?」

 

「うん。」

 

 カンナは静かにチコに身を委ねる。

 チコ自身も髪が長い方なので、手入れに時間がかかることには慣れているが、カンナのそれは爪先まで届くほどに長い。

 乾かすまでに相当な時間がかかるので、チコは集中力を切らさないように心掛ける。

 バランスを崩して風力を強めてしまっただけならまだしも、火の魔法で発火させてしまっては大変だ。

 チコは慎重に、カンナの髪を丁寧に解いていく。

 

(本当に、綺麗な髪・・・。)

 

 透き通るような銀色、滑らかな手触り、手を離せば小川の流れのように靡く。

 これだけ細く、長いのにまるで痛んだ様子が見られない。

 自分と出会う前は、カンナは誰に髪の手入れをしてもらっていたのだろう?

 勝手だが、カンナが自分で手入れをしている姿は想像できない。

 それこそ、身だしなみの全てを使用人に任せている方が、よっぽど自然に思い浮かべる。

 そして今更ながら、チコはカンナのことを何ひとつ知らないことに改めて思い当たる。

 チコだけじゃない。カンナだって自分自身のことを何も知らないのだ。

 愛らしい容姿に我儘な性格は、どこか異境のお姫様と言われても違和感はない。

 あるいはスズの言う通り幽霊なのか、それとも本当にチノヨリヒメなのか。

 それに、カンナを初めて見たときの妙な既視感。自分はこの子を知っていると訴えるような感覚。

 あれは一体、何だったのだろうか?

 ヨゾラノカゲヒメについて何かわかれば、その中で眠っていたカンナについても何か掴めるかもしれない

 実はチコは内心、そんな淡い期待を抱いていたのだ。

 

「チコ・・・?」

 

 こちらの動揺を感じ取ったのか、カンナが不思議そうな様子で少し振り向く。

 

「ううん、なんでもないよ。」

 

 いけないいけない。集中力を切らしてはダメだと思った側から、思考の渦にハマるところだった。

 カンナの正体が何なのかは、追々調べてみればいい。

 今は、彼女の髪を解くことに集中しよう。チコは気を落ち着かせて、魔法を再び調整する。

 やがて髪を乾かし終わり、チコはカンナの頭を優しく撫でる。

 

「お疲れ様。終わったわよ。」

 

 ふうっ、とため息を1つ吐き、チコは軽く身体を伸ばして緊張を解く。

 スチームドライならここまで疲れることはないのだが、これも訓練の一環と思えば心地よい疲労である。

 

「ありがと、チコ。」

 

「どういたしまして。」

 

 何かと我儘ばかり言って自分を困らせるカンナだが、礼を言うときはちゃんと言える子だと言うことも最近わかってきた。

 この子にお礼を言われるのは何だか気恥ずかしいが、根は良い子・・・。

 

「ねえチコ、あたしチョコ食べたい。」

 

 かもしれない思った瞬間、さっそく我儘を言ってきた。

 

「ダメ。」

 

「なんで。」

 

「こんな夜に食べたら太るし、もう歯を磨いたでしょ?虫歯になるわよ。」

 

「やだ。」

 

「明日にしなさい。」

 

「やだ、今食べたい。」

 

「明日ご飯食べ終わったら、食べてもいいから。ほら、今日はもう寝ましょう。」

 

 こうなるとカンナは自分が良いと言うまで我儘を言い続けるだろう。

 だから明日なら食べてよい、と言う条件を付けた上で、今日は寝るように促す。

 

「むう・・・。」

 

 するとカンナは不満そうな表情を浮かべながらも、寝る支度をし始めた。

 我儘を言う子は頭ごなしに否定せず、妥協できる案を挙げた上で上手く丸め込む。

 以前、親戚の子どもの世話を任されたスズが、この方法を使って我儘を諫めたのだ。

 あの時隣で見ていて、こんな形で役に立つ日が来るとは思っても見なかった。

 

「それじゃあ、お休みカンナ。」

 

 チコが自分のベッドに戻ろうとしたその時、不意にカンナがチコの手を掴んだ。

 

「いっしょに、寝ないの?」

 

「えっ?」

 

 カンナの手を握る力が強くなる。

 

「・・・一緒に寝たいの?」

 

 わざわざ聞き返すまでもないことだが、チコがそう問いかけるとカンナは静かに頷いた。

 

「・・・もう、しょうがないわね。」

 

 我儘を言い出したかと思えば、甘えてくる。

 だけどカンナの立場からすれば、幼い身でありながら記憶を失い、自分が何者かも分からない内に、ヨゾラノカゲヒメを巡る戦いに巻き込まれてしまったのだ。

 外見からの推測でしかないが、まだ母親にべったりでもおかしくない子どもだ。

 もしかしたら内心、とても心細い思いをしているのかもしれない。

 そして甘えてくると言うことは、自分に対して多少なり好意を抱いてくれているのだろう。

 それはチコとしても、決して悪くないことだ。

 2人で同じベッドに横になり、一緒に布団を被る。

 するとカンナが嬉しそうに微笑むものだから、チコの方が顔を赤くしてしまう。

 

「チコ、ぎゅってして。」

 

「えっ?」

 

「昨日、スズがそうしてくれた。だから、ぎゅってして。」

 

 そう言えば昨日、スズとカンナが一緒に寝たとき、スズはカンナのことを優しく抱いて寝ていたか。

 だけど一緒に寝るならまだしも、小さな子どもを抱いて寝ると言うのは、とても気恥ずかしい。

 

「・・・チコ?」

 

 そんなチコに、カンナは不安そうな表情で上目遣いに見てきた。

 その表情は反則だ。断ろうにも断れない。

 

「・・・しかたないわね。」

 

 戸惑いながらも、チコはカンナのことを優しく抱く。

 

「えへへ、おやすみ、チコ。」

 

 嬉しそうに笑いながら、カンナは静かに目を閉じる。

 

「おやすみ、カンナ。」

 

 眠りにつくカンナを優しく抱きながらも、チコは気恥ずかしさから中々寝付けない。

 いつになったら自分は寝られるだろうか、なんて詮の無いことを思うのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 翌朝。

 チコとカンナが部屋から出ると、ちょうどレンジとスズが通りかかった。

 

「おはようございます。チコさん、カンナちゃん。」

 

「おはよう、スズ。」

 

 レンジには挨拶しないが、向こうもしてこないのだからおあいこだ。

 

「チコ、早くチョコ食べたい。早くごはん食べよ。」

 

「カンナちゃん?」

 

「朝起きてからずっとこれよ。

 聞いてよスズ。カンナったら昨夜寝る前にチョコ食べようとしたのよ。」

 

「えっええ・・・?」

 

「明日の朝ごはん食べた後ならいいよって何とか聞かせたけど、スズからもちょっと注意してあげて。

 夜にお菓子は食べちゃダメだって。」

 

 カンナはチコに対しては我儘を多く言い反抗的だが、スズの言うことならもしかしたら聞いてくれるかもしれない。

 チコはそう思ってスズに声をかけたのだが。

 

「そっそうだねーカンナちゃん。よるにチョコレートなんてたべたらだめだよー。

 むしばになるしふとっちゃうよー。あは、あはははは。」

 

 なぜか酷く棒読みな上、目の焦点がまるで合わないものだから言葉にも態度にも説得力が伴わない。

 ふとレンジの方を見ると頭を抱えてため息を吐いていた。

 一体何があったのか、少し気になるところだがこの様子だと話してもらえそうにないだろう。

 チコはカンナを落ち着かせるためにも、工房へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 工房へと着くと、何やら神妙な面持ちでいるリクドウの姿があった。

 

「リクドウさん、おはようございます。」

 

「ああ、チコちゃん。みんな、おはよう。」

 

「何かあったのですか?」

 

「ああ、実はだな・・・。」

 

 リクドウが言いよどむその姿は、普段の豪快な姿からはかけ離れている。

 何か良からぬことがあったのかと思ったその時。

 

「チコちゃんたち、もしかしたら明日にも帰ることになるかもしれん。」

 

「えっ・・・?」

 

「すまない。あの操兵については、ほとんど分からなかったんだ。」

 

 リクドウの言葉に、チコとスズは息を飲む。

 レンジだけは、特に変わった様子を見せなかった。昨日の内に何か聞いていたのだろう。

 

「分からなかって、どうしてですか?」

 

 声を震わせるチコは、ついリクドウを責めるような口調で質問してしまう。

 だがヨゾラノカゲヒメのことを調べるために来たのに、一日目で既に分からないと言われた。

 何より職人気質のリクドウがそう簡単に根を上げるはずがないことを知っているから、彼の言葉を受け入れられずにいるのだ。

 

「なんて言えばいいんだろうな・・・。とにかく、調べることが出来なかったんだよ。」

 

 それもリクドウの説明はあまり要領を得ていない上に、本人からも困惑の色が見て取れる。

 

「解体出来なかったんだ。あの操兵。」

 

 そんな中、レンジがリクドウに代わって状況を説明してきた。

 

「オーバーホールして内部を調べてみようと思ったが、装甲が張り付いているように離れねえんだ。

 溶接を試みても、熱を一切通さねえ。

 多少粗い真似をすれば無理やりにでもひっぺ剥すことは出来たろうが、そんなことして壊したら元も子もねえだろ。」

 

「そんなこと・・・。」

 

 あり得ない。と言い切ることはチコには出来なかった。

 そもそもヨゾラノカゲヒメ自体、操縦機構からし規格外の箇所が多くあるのだ。

 

「操手槽は?あそこの装甲だけは開閉するはずよ。」

 

「それなんだが、あの操手槽だけは操兵から切り離された機構で作られてたんだ。

 胸部にだけポッカリ穴が空いてあって、そこに操手槽が収まっている。

 だけど切り離された先は何もない空洞だ。

 筋肉筒どころか配線1つ見当たらなかったよ。」

 

「足踏板は?あれを踏めば確かにカゲヒメは動いたはずです。」

 

「ありゃ恐らくダミーだ。チコちゃん、本当に足踏板で足を動かしてたか?」

 

 そう言われてチコは息を飲む。

 確かに自分が足踏板を踏んでカゲヒメを動かしたのは、最初の時だけだ。

 それ以外は水晶で念じて動かしている。

 だけど最初、足踏板を押したとき、自分は水晶を掴んでいた。

 もしもあの時、本当は足踏板を踏むことで機操兵を動かすという『自分のイメージ』を水晶が読み取っていたとしたら・・・?

 

「足踏版がカゲヒメの脚部と連動して動くってんなら、オレやスズが踏んでも動いたはずだ。

 だけど動かなかった。

 おやっさんの言うようにダミーか、あるいはイメージを具体化するための補助だと見て間違いないだろうな。」

 

 レンジの言葉が、チコは動揺するが、話はこれだけで終わらなかった。

 

「唯一、分かったことがあると言えば、この操兵には『筋肉筒』も『黒血油』もねえってことだ。

 それだけじゃねえ、こいつには操兵の心臓に当たるはずの『魔導炉』の反応すらなかった。」

 

「ウソ・・・。」

 

 魔導炉が操手のエーテルを吸い上げ出力を増幅させ、それが操兵の全身に黒血油を送り、その油圧を持って人で言うところの筋肉に当たる『筋肉筒』が伸縮する。

 それで機操兵が稼働するはずだが、ヨゾラノカゲヒメにはそのいずれも存在しない。

 機操兵の機構として、あり得ない話だ。

 

「一体どうやって動いているのか、誰がこんなものを作ったのか。

 今回分かったことがあるとすれば、分からないことが増えたってことだけだ。」

 

 リクドウの言葉が、今回の旅の全てを物語っている。

 ヨゾラノカゲヒメに関する謎を解明しようと思い始めた旅は、更なる謎を呼び覚ます結果に終わるのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 次回、チイロノミコ第6話

 

「シダイノゲンソ」

 

 運命の糸が、物語を紡ぐ。

 

 

 

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