チイロノミコ   作:SnowWind

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第6話 中編

 その日の夜、カナチ工房で夕食を終えたチコたちは、マギアディールを離れる支度をしていた。

 本来ならば明日の朝に経つ予定だったが、深夜帯に移動した方が、コソ泥たちが襲撃してくる可能性も低いだろうと言うミリアの提案を受けて、早朝目掛けてカミナの里に帰ることになった。

 

「リクドウさん、ダリアさん、デミルさん。短い間でしたがお世話になりました。」

 

「いやいや、遠くから来てくれたのに、力になれなくて悪いな。」

 

「いえ、カゲヒメについて少しでも触れることが出来て良かったです。」

 

 申し訳なく言うリクドウに、チコは今一度頭を深々と下げる。

 何もわからなかった、と聞いた時には確かに失礼ながらも落胆してしまったが、ここに来なければヨゾラノカゲヒメについては本当の意味で何も分からなかっただろう。

 操手槽どころかそもそも各部の造りすら違う。更には魔導炉も積んでいない。

 機操兵を模して造られた何かである可能性がある。

 それがわかっただけでも一歩前進である。

 

「チコちゃん、またいつでも遊びにおいでね。」

 

「はい、ダリアさん。また必ず来ます。」

 

「スズちゃんとカンナちゃんも元気でね。またいつか会いましょう。」

 

「はい、お世話になりました。」

 

「えと・・・お世話になりました。」

 

 スズに倣い、カンナがぎこちない様子で礼をする。

 

「レンジ君、カザキリ大事に使ってくれよ。」

 

「それはちと保証できませんね。でも壊さないように気を付けますよ。」

 

「みんな~、挨拶済んだなら出発するよ~。」

 

 ミリアの言葉を締めに、一同はマギアディールを離れるのだった。

 

 

 

 

 サナギの客室で一息ついたチコたちは、遠くなるマギアディールを窓の外から眺める。

 すっかり夜も更けているのに、そびえ立つ建物にはいくつもの明かりが灯っている。

 故郷であるカミナの里よりも遥かに広大なその都市は、今も星空と同じくらいに輝いていた。

 

「スズ、初めての旅はどうだった?」

 

「・・・とても、楽しかったです。里では見れないものをたくさんみることができて。」

 

 カミナの里を出るつもりはないとずっと言い続けて来たスズは、少し躊躇いうように間を置き、はにかみながら素直な感想を述べる。

 

「そう、良かったわ。」

 

「お前、里を出る気ねえってばかり言ってたからな。正直心配だったぜ。」

 

「えへへ・・・。」

 

 照れくさそうに笑うスズだが、初めての旅は目に映る景色が全て新鮮で、驚くことばかりだった。

 広大な都市を巡回する大型蒸気列車、大勢の人種で賑わう商店街、甘くて安いチョコレート、味の濃い食べ物。

 きっと世界には、マギアディールと同じかそれ以上に大きな都市が幾つもあるのだろう。

 そこではどんな人が住んでいて、どんな建物が並んでいて、どんな食生活を送っているのか。

 もっと世界を知ってみたい。そんな欲求が芽生えたのも決して嘘ではない。

 

(・・・でもやっぱり私は、カミナの里が一番好きかな。)

 

 その一方で、今回の旅はスズの持つ郷土愛を一層に強めた。

 里から出たことがないスズにとって、生まれ育った故郷にあるものは全てが当たり前のものだと思っていたけど、それは違っていた。

 澄んだ空気、綺麗な自然、そして何よりも美味しい食べ物。

 カミナの里の10倍の土地面積を誇り、大勢の人が住むマギアディールには、カミナの里に当たり前のようにあるものがなかった。

 里に住む人の中には、カミナの里は小さくて何もない街だと言う人も少なくはないが、旅に出たスズにははっきりとわかったことがある。

 スズの故郷は、カミナの里は、自慢したいものに溢れた素敵な街なのだと。

 住めば都と言う言葉があるように、暮らし始めたらいずれは慣れるのかもしれない。

 リクドウがそうであったように、自分もマギアディールで暮らすことになれば、その土地の風土にいずれは順応していくのかもしれない。

 それでも暮らせる場所を選ぶことが出来るなら、自分は迷いなくカミナの里を選ぶだろう。

 無論、里に留まりたいと思う一番の理由は別にあるが、スズにとってはやっぱり生まれ育った故郷こそが、最も落ち着いて暮らせるところなのだ。

 

「それじゃあ、早いけど今日のところはもう寝ましょう。

 明日の早朝にはもう里には着く予定だし。」

 

「コソ泥たちの襲撃だってないと決まったわけじゃねえ。

 寝られる内に寝ておこう。」

 

 ひとしきり話し終えたところで、チコとレンジがそう提案する。

 夜間の移動で少しでも敵側の襲撃が来る確率を抑えたとはいえ、ゼロではない。

 休める内に休んでおかなければ、戦闘に支障が出るだろう。

 今晩はミリアが寝ずにサナギを走らせてくれるので、チコたちも寝ずの番をせずにしっかりと就寝できる。

 ミリアの厚意を無下にしないためにも、大人しく就寝した方が良い。

 

「はい、わかりました。カンナちゃん、一緒に寝よ。」

 

「ふわあああ・・・。」

 

 スズが一昨日と同じようにカンナの手を引きベッドに移動する。

 ちなみにレンジは今晩のために、わざわざ商業地区で安物の寝袋を購入しており、チコの敷いた布団の隣で寝袋に包まった。

 

「レンジ、ここから先に入ってきたら殺すわよ。」

 

「お前こそ、こっから先に寝返り打ったら斬るぞ。」

 

「斬れるものなら斬ってみなさいよ。寝袋に入って芋虫になるくせに。」

 

「布団被って丸くなる猫が偉そうに言うな。」

 

「2人とも!早く寝ますよ!」

 

 早めに寝るよう提案したはずの2人が終わりなき口喧嘩に入る予兆を見せたので、スズが一喝して中断させる。

 布団越しにピリピリとした空気を感じながらも、一同はそれぞれの寝床で一夜を明かすのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 空が白み始めた頃、早めに起床したチコたちは最低限の身だしなみと朝食を終え、いつでも出撃できるように準備していた。

 無事に一夜を明けたと言うことは、以前やつらが仕掛けてきた荒野では待ち伏せされなかったことになるが、カミナの里に到着するまではまだ油断ならない。

 

「この草原を抜ければもうすぐ里だが、次にやつらが仕掛けてくるとしたらここの可能性が高いな。」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「これ以上先に進むと近隣の町村に入るだろ。そこにも操兵を持つ自警団がいる。

 やつらがオレたちにだけターゲットを絞り込みたいなら、不用意に周りを警戒させるような真似は控えてえはずだ。」

 

 レンジの言葉にチコは内心、頷く。

 連中は以前も、周囲に街は愚か魔獣の気配すらない荒野で待ち伏せしていた。

 戦闘を仕掛ける場所を吟味していることは間違いなく、加えてやつらは以前カミナの里を訪れている。

 里の周辺にある町村についても調べがついていると見ていいだろう。

 となれば少しでも不安要素の募るような場所は避けたいと思うはずだ。

 そうなればこの草原でやつらが待ち構えている可能性は十分にある。

 最も、何事もなく過ぎてくれればそれに越したことはないわけだが。

 

「まっ、このまま何もなく素通り出来るのが一番・・・。」

 

 と、自分が思ったことと全く同じことを言いかけたレンジが突然言葉を遮り、後方を振り返る。

 微かだが、こちらに向かって来る魔力反応が感じ取れたのだ。

 

「おーいみんな!またお客さんのお出ましだ!!」

 

 程なくして、部屋中に通信機越しのミリアの声が響き渡る。

 

「レンジが余計なこと言うから。」

 

 内心同じことを考えていたチコは、自分のことを全力で棚に上げながらレンジを責める。

 

「オレのせいかよ。」

 

 そんな細やかな言い争いをしながら、チコとレンジは格納庫へと走り、スズも慌ててその後を追う。

 やがて格納庫に辿りついた一同は、それぞれの乗機へと向かう。

 

「スズ、行くわよ。」

 

「え?はっはい・・・あわわ!」

 

 チコはスズをお姫様抱っこで抱きかかえながら跳躍し、ヨゾラノカゲヒメの操手槽へと乗り込む。

 

「行くぞ、カザキリ。」

 

 レンジは左手を差し出しカザキリに呼びかけ、自動操縦(オートパイロット)で操手槽を開いて飛び乗る。

 

「みんな!気を付けてね!」

 

「はい!」

 

「うっす。」

 

 通信機から聞こえるミリアの声に返事をした後、格納庫の扉が開く。

 ヨゾラノカゲヒメとカザキリは出撃し、サナギから遠く離れた場所まで移動すると、魔力反応は、こちらの方に真っ直ぐ向かって来た。

 これならサナギを戦闘に巻き込む心配はないだろう。

 

「チコ、気づいてるか?」

 

「ええ、前のやつらとは違うみたいね。それも今回は4つ。」

 

 こちらに向かって来るものは、以前対峙したコソ泥たちの魔力反応ではなかった。

 

「だがサナギをほっぽってこっちに向かっている以上、狙いは同じだろうな。

 やつらの仲間か、それとも噂を嗅ぎつけた同類か。」

 

「どっちだっていいわ。全員ぶっ飛ばして帰るわよ。」

 

 チコは水晶を握る力を強める。

 やむを得ないとは言えスズをまた戦いに巻き込んでしまうことに、チコは苛立ちを募らせているのだ。

 これ以上、スズに怖い思いをさせたくない。敵が向かって来るならば、早々に蹴散らすまでだ。

 

「そろそろか。」

 

 4つの反応が大きくなるごとに、遠方から4つの機影が見えてくる。

 

「っておい、なんだあれは?」

 

「えっ・・・?何あれ?」

 

 だがその姿が目に映った瞬間、レンジもチコも驚いて目を見開く。

 エーテルの出力からして、あれは機操兵であることは間違いないだろう。

 だがそのいずれも、『異様な外見』をしていた。

 赤い機体は手足が4つあり、車輪の駆動音を高鳴らし、粉塵を巻き上げながら地を走る。

 青い機体は手足すらなく、長い胴体に鰭の付いた尾を揺らしながら、赤い機体の隣を走っている。

 土色の機体は上半身及び両腕が身体の大半を占めるほどに大きく、両腕で大地を掴むように4足歩行している。

 緑色の機体は自ら動かず、土色の機体に乗せてもらっているが、手の代わりに翼のようなものが両端に取り付けられており、口部が円錐状に尖っていた。

 そう、4機とも全て『人の型』をしていないのだ。

 

「ゲテモノ揃いだな。チコ、不意打ちに気を付けろ。」

 

 以前の戦いで4本腕による銃撃を受けたレンジが、チコに注意を促す。

 

「分かってるわよ。」

 

 チコも警戒し、こちらに向かう4機を見据えるが、やがて赤い機体が速力を上げてカザキリの方へと向かって走り来るのだった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「あの緑色のやつが、少年剣士の乗る操兵か。」

 

 赤い機体に乗るフレイは操手槽の中で好戦的な笑みを浮かべ、カザキリに目掛けて速度を上げる。

 

「んじゃっ、予定通りあのサムライさんはもらってくぜ!」

 

 カザキリに急接近した後、前方の片輪を強引に回転させ、機体を前後を反転させる。

 そして機体後部に尻尾のように取り付けられた『剣』を、カザキリに目掛けて振り回した。

 

「剣だと!?」

 

 レンジは咄嗟にカザキリを動かし抜刀し、赤い機体の尾を模した剣と切り結ぶ。

 

「ははっ!良い反応してんじゃないの!」

 

 フレイは益々楽しそうに笑いながら、そのまま機体を逆方向に回転させ、尾の剣を振り回す。

 車輪で地を走る4足の機操兵の、尻尾の剣と斬り結ぶ。

 初めてどころかこの先まず2度と同じタイプの剣士とはお目にかかれないであろうが、それだけに挙動が読みづらく、レンジは相手のペースに翻弄され始める。

 

「レンジ!」

 

 チコの駆るヨゾラノカゲヒメが援護に向かおうとするが、その眼前を青い閃光が走る。

 

「援護はさせませんよ。」

 

 アクアの乗る青い機体が、ヨゾラノカゲヒメを狙って水流を放つ。

 続いてグランの乗る土色の機体が、背に負う擲弾筒から爆撃を放つ。

 ヨゾラノカゲヒメはそれを跳躍してかわすが、立て続けに砲撃を回避したためカザキリと距離を離されてしまう。

 

「キミの相手はアタイたちだよ。巫~女ちゃん。」

 

 緑の機体に搭乗するウィンは特に何もしていないのに、挑発的な口調でヨゾラノカゲヒメを視野に捉える。

 一方でレンジと離され、3体の機操兵に睨まれたチコは、緊張した面持ちで映像板を睨みつける。

 

(しまった、敵の狙いは最初からこっち・・・。)

 

 3機の敵に囲まれ、チコは焦りを覚える。

 魔導弓を扱う機操兵と戦った時でさえ、1対1で苦戦を強いられたのだ。

 それなのに今回はあちらに数の分がある。

 赤い機体が真っ先にレンジを狙ったところを見ると、敵は最初から3機で自分を囲むのが目的だったのだろう。

 この機体が敵の最優先とする目標であることがわかっていながら迂闊だったと、チコは自分を恥じる。

 

「チコさん。」

 

「大丈夫よスズ、心配しないで。」

 

 不安げな様子で見上げるスズにチコは優しく声をかけ、こちらの不安を悟られないように顔を引き締める。

 自分がやらなければ、スズの身も危険に晒される。

 

(スズのことは、私が必ず守る。)

 

 その思いを胸にチコは闘志を燃やし、戦う覚悟を決める。

 人数に差がついているとか、過ぎたことはもうどうだっていい。

 スズを守るためならば例え3機相手だろうが100機相手だろうが、まとめて壊してやるだけだ。

 その一方で、冷静に相手の様子を観察する。

 異様な風体をした4機の機操兵だが、そのいずれも『動物』の姿を模っている。

 かつてこの世界には、人間以外にも多くの動物が生息していたようだが、現代では人に飼われている家畜くらい以外はほぼ絶滅したと聞いている。

 だが自由都市同盟は旧時代の文明を積極的に調査していることもあり、旧時代の動物図鑑が複写されて国中に広まっているのだ。

 カミナの里の図書館にもそれがあり、チコも読んだことがあるので、動物に対する知識は人並みにある。

 そして動物を模した機操兵となれば、思い当たるものが1つある。

 

(動物型の機操兵、『獣操機』かしら・・・。)

 

 獣操機とは、自由都市同盟に広く住まう亜人が造り出した、動物を模した機操兵のことだ。

 外見だけでなく骨格から筋肉筒の形状まで全て基となった動物を模して造られており、その動作には動物的特徴が幾つも散見されるとレンジから聞いたことがある。

 だがそうなると、敵対する4機には妙な点が幾つも見られる。

 赤い機体の元となった動物は恐らく『蜥蜴』だろうが、胴体についている両手足は地にすらついていない『飾り』であり、実際には手足の先端についている車輪で走行している。

 緑の機体は『鳥』を模して造られているのだろうが、現代の技術では飛翔できる機操兵はまだ造られていない。

 飛行能力は鳥類の最大の特徴であり、それが再現できないのであれば鳥を基にする意味はほとんどない。

 土色の機体は恐らく『ゴリラ』が基だろう。

 外見及び走行中の動作にもその特徴が見られるが、背に大型の擲弾筒を負っているところを見ると、あの形状は固定砲台としての姿勢制御を行うためだろう。

 ここでもわざわざ動物を模する理由が見当たらない。

 青い機体は細長い胴体と色合い、そして鰭の存在から『海蛇』を似せて造られたのだろうが、水辺に生きる動物が地上にいる時点で動物的特徴もへったくれもあったものではない。

 

(そうなると、あれは獣操機じゃない。でも、何か意味があるはず・・・。)

 

 無意味なものなんてない。どんなことにも必ず意味がある。

 出なければ、獣操機でもないのに動物を模った機操兵を駆る理由はないはずだ。

 

「チコさん、あれ・・・。」

 

 チコがその意味について考えている最中、スズが神妙な面持ちでチコに話しかけてくる。

 

「どうしたの?スズ。」

 

「きっと、フトアゴヒゲトカゲとダイナンウミヘビとアフリカシロクロオオタカとマウンテンゴリラです!」

 

 こんな状況下でまたしてもスズの天然ボケが炸裂し、チコは臨戦態勢にも関わらず頭痛がしてきた。

 

「いや、そこまで明確な模型はないと思う。」

 

 だが幼馴染の条件反射とでも言うべきか、しっかりとツッコミを入れてしまう。

 

「え?じゃあ爬虫類と魚類と鳥類と霊長類でしょうか?」

 

「いや、そこまで大雑把でもないと思う。」

 

 なんで0か1の思考しかできないかなとスズに呆れながら、チコは今一度、映像板に映る3機を見据える。

 数で不利を取っている以上、こちらから迂闊に攻めるのは網にかかりにいくようなものだ。

 一先ずは相手の出方を伺った方が良いだろう。

 

(大丈夫、カゲヒメの速さならどんな攻撃にも対応できる。)

 

 チコは気持ちを落ち着かせながら、敵からの攻撃に備え身を構えるのだった。

 

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