第7話 前編
マホウノマイ
マギアディールからカミナの里までの帰還中、チコたちは4人組の傭兵ギルド、フォウ・フォースと交戦することになった。
魔法攻撃と白兵戦、
「サラマンダー、
レンジと交戦するフォウ・フォースの火剣士フレイは、乗機のサラマンダーを
そしてレンジの搭乗機であるカザキリの足元を走り回り、尾の剣を何度も叩き付けた。
対してカザキリは刀を逆手に持ってその剣撃を受け続けるが、不意にサラマンダーが立ち上がり
「チッ。」
レンジは舌打ちしながらも、素早く両肩のウィンドフローを展開して後退し紙一重で避ける。
「いいねえ、レンジ君。いい反応だ。魔法の扱いも慣れたものだね。」
思考ではなく反応の域で魔法を扱うレンジに、フレイは素直に感心する。
「だけど、まだ甘いね。」
だがフレイは一転、不敵な笑みを浮かべた後、サラマンダーの持つ剣を地面へと突き刺す。
「燃え盛る龍よ、天焦がす吐息と、熱帯びた雄叫びと共に、その姿を顕現せよ!
天翔龍・レイジング・ドラゴン!」
サラマンダーの突き刺した剣から2つの火柱が生まれ、龍へと姿を変えてカザキリに襲いかかる。
「なにっ?」
2匹の炎龍に挟み撃ちされたカザキリは、刀に纏わせた風を振るい追い払う。
だがその隙をつき、サラマンダー本体が突きを繰り出してきた。
カザキリは咄嗟に刀でそれを受け止めるも態勢を崩してしまい、そこへサラマンダーが蹴りをお見舞いする。
「ぐっ。」
衝撃で揺れる操手槽内でレンジは苦悶の声を上げるも、全身のウィンドフローを展開して強引に姿勢を立て直す。
「レンジ君。君さ、魔法を能力強化のための
サラマンダーの持つ剣を片手で器用に回し遊びながら、フレイは通信機でレンジに話しかける。
実際、レンジの魔法は補助的な役割が多く、風を直接攻撃として扱うことは少ないため言い返せない・・・基、レンジの方は会話する気など更々ないが。
「違うんだよね~これが。
魔法ってのはね、『何でも出来る』ものなんだよ?
術者の発想1つで様々な戦術を構築できる。こんな風にね。」
魔法を使い、2匹の炎龍を生み出しての波状攻撃。
疑似的な『3対1』の状況に追い込まれたレンジは、カザキリの刀で片方の炎龍を受け止め、もう片方の炎龍が逆方向から襲い来るところをウィンドフローで抑え込む。
だがサラマンダー本体が更なる追撃を仕掛け、ウィンドフローで抑え込める許容量を突破されたカザキリは、再び後方へと弾き飛ばされた。
「火の壁!ファイヤー・ウォール!」
続けざま、フレイが新たな呪文を唱え、周辺を囲うように巨大な火柱が次々と立ち昇る。
それはサラマンダーの攻撃を受けて弾き飛ばされたカザキリの背後にも現れ、灼熱の壁となってカザキリを受け止めたのだ。
「ぐああっ!」
ウィンドフローで威力が軽減されているとはいえ猛烈な熱気が操手槽を支配し、レンジは苦悶の声を上げる。
「君の魔法はね、バカ正直で、単純過ぎるんだよ。
魔法だけじゃない、剣技だって一直線。真っ向から敵を叩き斬る以外考えない。
そんなんじゃダメダメ。剣も魔法も最大限に活用して敵の意表を突く。
それが賢い戦いってもんさ。」
フレイは自身の戦術論を得意げに話しながら、切っ先をカザキリへと向ける。
「あの2匹の火蜥蜴、自律型じゃねえな・・・。
蜥蜴野郎との連携が完璧すぎる・・・ってことは・・・。」
一方でレンジは高熱の中でもギリギリ意識を失うことなく、フレイの操る魔術を分析する。
生物を模った魔術の行使は大抵の場合、簡単な命令を与えて自律行動させるか、『術者自ら操る』かだ。
そして自律式のものは、術者の練度に左右されるものの、単純なルーチンを繰り返す程度しか出来ない。
それが攻撃命令であれば、攻撃に一定の間隔が生じるもの。
だがあの炎龍は、まるで術者本人が仕掛けるタイミングを毎回測っているかのように、攻撃が正確だ。
「それなら・・・『3対1』なんかじゃねえ。」
サラマンダーが背部から炎を噴出させ、突きかかる。
カザキリはよろけながらも、突きの一撃を刀の鎬で受け止める。
「仕掛けてくるならここだろ!」
再び炎龍が襲い来ようとした次の瞬間、レンジはカザキリの全身から風を一斉に噴射し、サラマンダーを一瞬だけ押し戻す。
「アクメツ流、序の型。剣閃!」
そして一度刀を鞘に納め、噴出した風を一気に収束させ、抜刀とともに強大な鎌鼬を引き起こした。
「なっ!?」
フレイは咄嗟に剣を構えて鎌鼬を防ぐが、2匹の炎龍は乱気流に飲みこまれ身を切り刻まれていく。
それだけに留まらず、カザキリの引き起こした鎌鼬は周辺を囲っていた火の壁さえも一斉に両断してみせた。
「おいおいおい、そんな力技で押し切るかい?」
全身に刻まれた
呆れるほどの力任せな突破方法を前に、フレイも肩をすくめるしかない。
その一方で、こちらの術が自律型ではなく、遠隔操作型であることを見破り、攻撃を仕掛けるタイミングを見抜いてきた。
炎龍による挟撃と高熱に当てられた状況下で、それだけの判断が瞬時に出来たレンジに、フレイは驚きを隠せずにもいるのだ。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ、さっきから。
これが戦いだってんなら、知っておくことは1つだけでいい。」
先ほど得意げに戦術論を話されたレンジは極めて不機嫌な声色とともに、フレイに言い返す。
「先に倒れた方が負け。それだけで十分だ。」
余りにも単純明快、シンプル過ぎるその返答にフレイはつい大声で笑う。
「はっはっは!いいねえ~そうゆうシンプルな考え、嫌いじゃないよ!」
それでもバカにしている様子はなく、殊更楽しそうな様子で、再び剣を構え直す。
「んじゃま、お望み通りとことんやりあいましょうや!どちらかが先にぶっ倒れるまでな!」
荒れ狂う強風を纏うカザキリと、燃え盛る業火を纏うサラマンダーは、文字通り正面からぶつかり合うのだった。
・・・
レンジとフレイが対峙する一方、チコは残る3機の操兵を同時に相手していた。
チコとスズの乗るヨゾラノカゲヒメを前に、フォウ・フォースの風使いであるウィンは、乗機フレスヴェルグで特に意味のない屈伸運動を始める。
「いっちに、さーんし!せ~のっ!どん!!」
ウィンの掛け声と同時に、フレスヴェルグは風を纏い空高く跳躍する。
先ほどまでは仲間であるグランの乗機ゴライアスの砲塔から射出されていたが、
「フレスヴェルグ、
飛び上がったフレスヴェルグはそのまま空中で鳥の姿へと変形し、先ほどまでと同じようにヨゾラノカゲヒメめがけて滑空する。
「またさっきの攻撃。」
風の魔法で浮力と推力を得ての突進攻撃。
ヨゾラノカゲヒメはその一撃を回避するが、フレスヴェルグは着地と同時に再び
「ふんっ!」
グランの力強い掛け声とともに、ゴライアスが鉄槌を振り払う。
距離は大きく離れているが、鉄槌から生み出された風圧がヨゾラノカゲヒメへと襲い来る。
「なにっ?今の攻撃?」
ヨゾラノカゲヒメの足元が僅かに風に煽られた感覚こそあったが、機体への損傷は皆無だ。
だけどそれならば、これだけ離れた間合いから鉄槌を振るう意味が見当たらない。
「地を揺らすばかりが俺の魔法ではない。」
一方、先ほどウィンに『役立たず』と言われたことをちゃっかり根に持っていたグランは、ヨゾラノカゲヒメに向けて鉄槌の柄を向ける。
ゴライアスの持つ銃が轟音と共に『特殊弾』をヨゾラノカゲヒメへと放つ。
そしてそれを『回避された』のを見計らい、グランは新たな呪文を唱える。
「磁石、引き寄せろ。
『アース・マグネット』。」
次の瞬間、ヨゾラノカゲヒメは足元に着弾した弾丸に、吸い込まれるように引き寄せられた。
「きゃあっ!」
「この力・・・まさか磁力!?」
突然機体が地面に引き寄せられ、スズは叫び、チコは力の正体を見破る。
磁力を自在に操ることが出来るのは、土属性の特徴の1つだ。
魔法でN極とS極の特性を物質に付与させることができ、磁気を帯びないものでも磁石に変えられる。
先ほど足元に撃ち込まれた弾丸に、恐らく1つの磁極が付与されているのだろう。
そして対極となる特性が、いつの間にかヨゾラノカゲヒメにも付与されていたのだ。
「グラン君、そのまま押さえてて。」
「うむ。」
アクアの機体レヴィアタンが右腕をヨゾラノカゲヒメへと向ける。
「迸れ、蒼き死線よ、汝が敵を
『
砲身から水流が光線のように放たれ、磁力で身動きの取れないヨゾラノカゲヒメへと襲い来る。
「こんのおおおおおっ!!」
だがチコはヨゾラノカゲヒメの両足に魔法陣を展開し、力任せに足蹴にして無理やり磁場から逃れる。
「なんて強引な・・・。」
「だが、動きを鈍らせることは出来る。」
その光景にアクアは呆れるが、グランの言う通り磁石の魔法なら一瞬、相手の動きを縛り付けることができる。
それならば次は逃さない。このまま攻撃の手を緩めずに隙を見つけるまでだ。
(さっきの鉄槌による攻撃・・・。
空振りかと思ったけど、もしかして磁極を付与する魔法を風圧に乗せて、煽られたものを磁石に変えたと言うの・・・?)
そんな芸当が可能だとすれば、敵は間違いなく熟練の魔導士だ。
いや、あの土色の操兵だけではない。
風力で自在に空を飛び回る緑の操兵。
大地を抉り大雨を降らすほどの水圧砲を放つ蒼の操兵。
今戦っている敵は全員、恐らく魔術のエキスパートなのだろう。
以前戦った魔導弓使いと同等か、恐らくはそれ以上の・・・。
(とにかく、早く解呪の魔法を使わないと。)
「解呪させる暇なんて与えないよ!」
チコの思考を先読みしたウィンが、
「ばっさり、ザックリ、クルクル回れ~!
『旋風ブーメラン』!」
後退するヨゾラノカゲヒメに対して、両手に持つVの字の刃物に鎌鼬を纏わせブーメランのように投げつけた。
「手裏剣!?」
文化の違いから似て非なる感想を口にするチコだが、飛んでくる手裏剣もといブーメランは物理法則ではあり得ない動きで迫りくる。
風を操り、投擲の挙動を自在に制御しているのだ。
その変則的な動きを追い切ることが出来ず、ついに肩を霞めてしまう。
だが肩部装甲に傷こそついたものの、姿勢が崩れるまでには至らず、何とか態勢を立て直す。
「ん?アクア姐の魔法を受けても凹むだけだったのに、あの程度の攻撃で傷つくんだ?」
一方でウィンは、敵の耐久性に違和感を覚える。
鎌鼬を纏わせていたとはいえ、ただの投擲でしかない攻撃よりは、アクアの魔法の方が圧倒的に破壊力は上だ。
それにも関わらず、被弾時の損害にはそれほど大差がないように見える。
むしろこちらの攻撃は掠めただけのことを考えれば、直撃時の威力は投擲の方が有効なのだろうか・・・?
「まっ、目的は破壊じゃなくて捕獲だからどっちでもいっか。」
思考を切り替え、ウィンは再びブーメランを操り、ヨゾラノカゲヒメを追い詰めていく。
その反対側から、
両者の挟み撃ちをギリギリのところでかわし続けながらも、チコは敵の魔法に翻弄されるがままの現状に苛立ちを募らせる。
(もう!こっちだって両手が使えれば、『攻撃の魔法』が扱えるのに!!)
チコも攻撃用の魔法を扱うことが出来るが、それらは手または武器に纏わせるイメージを以って具現化させるもの。
両手が封じられた今の状況では、魔法陣を足蹴にして空を飛び回る『空駆』以外の魔術を使うことが出来ない。
加えて敵は、個々の実力も去ることながら連携も巧みだ。付け入る隙を一切与えてくれない。
何よりもこちらは魔法が一切使えないのに、敵からは一方的に魔法が飛び交ってくる。
そんな受け身な状態が続き、チコは焦りで唇を噛み締める。
だからチコは、ゴライアスから放たれる爆撃の中に『磁石弾』が織り交ぜられていたこと。
そしてフレスヴェルグのブーメランを避け道が、その『着弾地点』に追い込むためのものであったことに気付くことができなかった。
「グラン!追い込んだよ!」
「磁石、引き寄せろ。
アース・マグネット。」
ヨゾラノカゲヒメは再び、磁力で大地に引き寄せられ身動きを封じられてしまう。
「しまった!」
「我が水よ、仇なすものを
『
そして
チコは先ほどと同じように空駆で逃れようと一瞬思ったが、完全に不意を突かれた現状ではそれも間に合わない。
「スズ!ちょっとだけ我慢して!」
「はい!」
チコはスズに呼びかけ、ヨゾラノカゲヒメの肩部を敢えて敵に晒す。
次の瞬間、肩部装甲にプレッシャー・キャノンが着弾したが、それと同時にチコは魔法陣を展開し勢いよく蹴る。
そして着弾と空駆の反動を利用して、無理やり磁場から脱出したのだ。
「きゃあああっ!」
スズが悲鳴を上げながら目を瞑り、チコに身を寄せる。
ヨゾラノカゲヒメは着弾と空駆の反動のまま吹き飛び、地面に叩きつけられる。
もう片方の肩部装甲が凹み、衝撃で操手槽が大きく揺れこそしたもののスズに傷はない。
だがあのまま磁場に縛られていたら、敵の総攻撃を受けることになっていただろう。
この程度で済んだのだから儲けものだ。
不思議な力で守られている操手槽と、ヨゾラノカゲヒメの耐久を利用した、捨て身の策である。
「なるほど、致命傷にはならないと思い自ら受けましたか。ですが。」
「何のために、アタイたち3人いると思ってるの?」
だがアクアたちは余裕を崩さない。
こちらは3人。1人が意表を突かれたらもう1人がカバーすればいい。
ヨゾラノカゲヒメの不穏な動きをいち早く察知したウィンは、フレスヴェルグを宙に飛ばせて
「これで終わりだよ。」
フレスヴェルグが嘴をドリル状に回転させながら、上空から一気に降下する。
チコは一瞬で思考を張り巡らす。
ヨゾラノカゲヒメを起こして逃れるか、いや間に合わない。
空駆は?魔法陣を展開する時間をくれないだろう。
それならばこの状況を逃れる方法は1つしかない。
「はああっ!」
チコは仰向けのままのヨゾラノカゲヒメで、両足を敵へと向ける。
そしてそのまま両足を閉じ、剣のように尖った爪先でフレスヴェルグの嘴を挟みこむように受け止めたのだ。
「ちょっ、えええっ!!?」
目の前で起きたことが一瞬、理解できなかったウィンは驚き目を見開く。
「おおうりゃあああああああっ!!」
その隙を逃さずチコは雄叫びをあげながら両足を横に倒し、フレスヴェルグを地上へと引きずり降ろす。
そして反動を利用して宙を飛び、何とか危機を脱出したのだ。
「ちょいちょいちょ~い!!白羽取りって手でやるもんじゃないの!!?」
まさか足で嘴を白羽取りの如く受け止められるとは思いもよらなかったウィンは、何とも間の抜けたツッコミを1人ごちる。
「ウィンちゃん、切り替えて。」
「へいへーい。」
アクアに窘められ、ウィンはフレスヴェルグを
それにしても、とウィンは1人思う。
3人がかりに寄る攻撃を巧みにかわし続ける反射神経。
アクアの魔法を敢えてその身に受けての捨て身の離脱を思いつき実践する胆力。
そしてこちらの攻撃に対して『足で白羽取り』をする動体視力。
敵の強さは何も、黒い操兵の異様な性能だけに由来しているわけでもないようだ。
(操手の巫女ちゃん・・・結構強い子なのかもね。)
そんなことを考えながら、ウィンは人知れず舌なめずりをするのだった。