チイロノミコ   作:SnowWind

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第3話 中編

家に戻り、スズに話を伝えたレンジは、父親に呼び出されて道場を訪れる。

 

「親父、一体何の用だ?」

 

「話は聞いた。マギアディールにいるリクドウのとこを尋ねるのだろう?」

 

威圧感のある低い声が道場に木霊する。

見るだけで相手を委縮させるほどの鋭い眼光。屈強な骨格の目立つ強面な顔立ち。

刻まれた皺も、白髪んでいるオールバックの髪も、老いた証よりも老成された威厳へと変えている。

190cmを超える背丈。服の上からでわかるほどに鍛え上げられた筋骨隆々とした身体。

既に50に差し迫る年齢にも関わらず、全く衰えを見せないこの巨漢こそ、レンジの父であり、師であり、現サキミ家の当主、『ムラサメ・サキミ』だ。

 

「お前に託さなければならないものがある。ついて来い。」

 

そう言いながらムラサメは道場の地下に通じる階段を下り、レンジもそれに続く。

 

「ここは?」

 

「お前も話には聞いただろう。サキミ家の当主は代々『操兵』を持つことが許されると。」

 

カミナの里では、兵器である機操兵の個人保有は禁じられている。

機操兵を持つことが許されているのは、街の自警団に所属する『機操部隊』と・・・

 

「チノヨリヒメ様の『防人』として、使命を果たすためにな。」

 

カミナの里を、チノヨリヒメを守る『防人の一族』。サキミ家だけだ。

 

「まさか、ここに?」

 

この話を聞けば、なぜムラサメが自分を呼び出したのか察しが付く。

 

「そうだ。お前にこれを託す時が来たようだ。」

 

階段を下り、明かりを灯すと、レンジの目の前に1体の機操兵が格納されていた。

一般的な機操兵と比べると胴がやや細く、腰から脚部にかけては鋭利なデザインで細長い印象を与える。

一方で上半身は細い胴と長めの両腕から、一見すると肩幅が広く映る。

そして腰には機体の全高とほぼ遜色のない長刃の刀が納められている。

そんな逆三角形状のデザインは見るからに、これが『特別規格』で造られていることを物語っていた。

 

「オーダーメイド機か。」

 

「そうだ。お前が乗ることを想定して徹底的に調整されている。

お前の得意とする風を帯びた高速剣技を、最大限まで活かすことのできる機操兵。

その名も、『風切』」。

 

「カザキリか・・・気に入った。」

 

レンジは高揚を抑えきれずに口元に笑みを浮かべる。

 

「それから、この刀を。」

 

続けてムラサメは、カザキリの足元に置かれていた刀をレンジに差し出す。

 

「これは?」

 

「名刀『風魔』。

これもお前に合わせて新たに打ったものだ。柄には風の簡易術式(ルーン)を刻み込んでいる。

奥義を皆伝したお前ならば、この刀の威力も最大限に発揮できるだろう。」

 

専用の機操兵に加えて専用の太刀。至れり尽くせりな現状にレンジは思わず喉を唸らせた。

 

「珍しく褒めてくれるじゃねえか。こんなプレゼントまで用意してくれてよ。」

 

「その分、お前の双肩には『責任』がのしかかる。」

 

だがここで父の語る責任と言う言葉に、レンジは口元を引き締める。

 

「昨日、チコ様に狼藉を働いた賊が現れたそうだな。」

 

機操兵を駆る2人の盗人は、ヨゾラノカゲヒメに撃退された後、この街から姿を消した。

今日になってわかったことだが、やつらは一昨日旅館に旅人偽って宿泊しており、昨日の夜、逃亡の最中に旅館に堂々と姿を見せ宿代と謝礼金だと言って大金を置いて行ったそうだ。

妙に義理堅い連中だが、それでも儀式を盗み見、ヨゾラノカゲヒメを奪おうとした不埒な盗人であることに変わりはない。

 

「そやつらがまた、現れる可能性も十分に考えられる。

レンジ、その時にお前が何をすべきか、当然分かっているだろうな。」

 

レンジの覚悟を見極めるかのように、ムラサメは殊更威圧感のある声で問いかける。

 

「チノヨリヒメ様に血を捧げたチコ様は、謂わばチノヨリヒメ様の現身。

防人の一族として、必ずやチコ様の身を守り抜け。」

 

「あいつのことを様付けでなんて、死んでも呼びたかねえけどな。」

 

「守る覚悟があるのなら、それでいい。」

 

防人の一族の使命は、街を守ること。そしてチノヨリヒメの巫女を守ることだ。

レンジは幼い頃から、父の後を継ぐことを決意した。

戦乱の世の中でも平和を保てるこの街を、ずっと守っていきたいと思ったからだ。

そのために誰よりも鍛錬を積んできた。

剣術も、体術も、魔術も、機操兵の操縦訓練も、己が力に変えられる全てをレンジは鍛え続けて来た。

全てはこの街を守るために。

そのために、大嫌いなチコの身を守るなんて余計な使命もついてきてしまったが、レンジはその事を後悔したことはない。

 

「当たり前だろ。チコのことは必ず守る。防人の一族として。」

 

防人の一族を継ぐことを選んだのは、自分の意思だから。

街を守るついでにチコのことも守り抜く。それが自分で選んだ道なのだから。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ふ~ん、それでマギアディールまで行くことになったんだ。」

 

「そうみたい。」

 

自室でユミと談笑していたスズは、家に帰ってきたレンジから事情を聞きマギアディールまで付いて行くことになった。

ユミには流石にヨゾラノカゲヒメに乗るために、とは言えないので、適当な理由を付けて旅の仕度を手伝ってもらっている。

着替えに洗面用具、化粧品も少々、後は長旅になるからと聞いているので漫画と小説を数冊。

小腹が空いた時の菓子類と、ユミから助言を得て水筒も持参。

後は近い内に試験があるので、教科書も数冊持って行こう。

 

「あんまし荷物詰めすぎると、歩く時大変だよ?

道中はまだしも、都市に着いたら徒歩でしょ?」

 

「あっ、そうだね。え~とじゃあこの漫画は置いといて・・・。」

 

「後着替えも、多分そんなにいらないと思う。」

 

「じゃあ、これは置いてって・・・。」

 

何せ初めての旅なものだからどれほどの重量が適量なのかわからず、ユミから助言を貰いながら旅支度をようやく終える。

 

「ありがとう。ユミはどこか旅に出たことあるの?」

 

「どういたしまして。隣町に親戚が住んでて、そこに何日か泊まりに行ったことがあるだけだよ。

流石にマギアディールなんて遠いところは行ったことないなあ。」

 

「それでも凄いじゃない。街の外なんておっかないもん。」

 

街を一歩外に出れば、そこは『魔獣』が蔓延る無法地帯。

旧人類の負の遺産と言えるその生体兵器群は非常に凶暴であり、かつ生殖能力を保持しているため今も繁殖を繰り返している。

多少なり知性はあるようで、人が集まる集落に襲い来ることは滅多にないようだが、集落から離れ孤立した人に対しては容赦なく牙を剥く。

戦う力を持たない一般人が街の外を出歩くことは自殺行為に等しく、街から出る時は魔獣退治を生業とする人に護衛を依頼するのが一般的だ。

これまで大きな戦禍に巻き込まれたことがないカミナの里でも、魔獣の脅威は存在している。

決して長くない隣町までの旅路であっても常に危険と隣り合わせであり、街から出たことのある子ども、と言うのはそれだけで英雄視されるのである。

 

「まっ、その点スズは心配無用だよね。

何せお兄さんとチコ先輩が一緒だもん。」

 

「そうだね。」

 

だが今回の旅でスズは魔獣に対する脅威や不安と言うのはあまり抱いていなかった。

チコとレンジ。スズの尊敬する人にして、カミナの里でも1、2を争う実力者と一緒だからだ。

特にレンジは自警団とともに魔獣退治に向かったことも多くあるので、実績もお墨付きだ。

それに今回はヨゾラノカゲヒメを輸送するための輸送艦に乗っての旅なので、魔獣も下手に近寄らないと聞いている。

結果、不安よりも初めての旅と言う高揚感の方が勝ってしまい、こうして旅支度の最中も少し心を躍らせていたのだ。

 

「ふふっ、それにしてもスズ、あんた気づいてる?」

 

「え?」

 

ニヤニヤと笑いながら、ユミが何やら意味深な言葉を投げる。

 

「スズにとっては初めての『街の外』だよ?

あれだけ街から出る気はないって言ってたのにね。」

 

「あ・・・。」

 

ユミに指摘されてスズは初めて気が付く。と言うよりなぜ思い当たらなかったのだろう?

今日が初めての旅となる。つまり自分は生まれて初めて、『街の外』に出ることになるのだ。

だが諸般の事情があってやむなくであり、自主的に出るつもりはなかったとしても、スズはこれまで頑なに街から離れるつもりはないとユミに言い続けて来たので、気恥ずかしさと気まずさが合わさって思わず硬直してしまう。

 

「まっ、今回はチコ先輩も一緒なんだから、そこはそんなに重要じゃないんじゃない?」

 

スズの沈黙を感じ取ったユミがそうフォローするが、それはそれで心の内を見透かされてしまっているので余計に恥ずかしい。

 

「小難しい事考えないで、初めての旅、楽しんできなよ。」

 

そしてこうも気を遣われては、街から出る気がない、なんてつまらない拘りで気落ちするのも失礼な話である。

 

「そうだね。ありがとうユミ。」

 

だから今回の旅は、せめて心の行くまま楽しもうとスズは誓う。

すると襖をノックする音が聞こえ、返事をするとレンジが部屋に入ってきた。

 

「スズ、準備は出来たか。」

 

「うん、今終わったところ。」

 

「ならもう出るぞ。チコのやつは先に行ってるらしい。」

 

「うん、わかった。」

 

それだけ言い終え、レンジは襖を閉める。

 

「お兄さん。相変わらずカッコいいね~。」

 

「え?」

 

するとユミがどこか羨ましそうな視線をこちらに送りながらそんな感想を口にした。

確かに妹である自分から見ても、レンジは整った容姿の持ち主だ。

やや不良じみた雰囲気も、曰くちょい悪の方がカッコイイらしく、校内でも女子人気が高い方である。

ユミの視線は、そんな女子に大人気なイケメンを兄に持つなんて羨ましいと言う意味が込められているのだろう。

 

「・・・もう、ただ目つきが悪いだけだよ。」

 

それを認めてしまうのも妹として恥ずかしいので、スズは照れ隠しに口を尖らせて返す。

 

「じゃっ、私もお暇しますか。

カンナちゃんだっけ?あの子についてはこっちで情報集めてみるね。」

 

明朗快活で誰とでも分け隔てなく接することのできるユミは、スズの学年のムードメーカーであり、男女問わず友達が多い。

こういう時、顔の広い親友の存在はとても頼りになるのだ。

 

「うん、お願いね。」

 

「その代わり、お土産ちゃんと買ってきてよ~。」

 

「もちろん。」

 

「美味しいお菓子を所望するぜ!」

 

「わかってるって、それじゃあ行ってくるね。」

 

ひとしきりユミとの会話を終えて、スズは家を後にするのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

それぞれ身支度を終えたチコたちは、街の運送業者の元を尋ねる。

チコとスズたちの両親、それからカンナも、見送りのために一緒に来ている。

 

「よっ、待ってたよ。チコちゃんたち。」

 

「ミリアさん、ご無沙汰してます。」

 

『ミリア・サンドウ』。

年齢は30代、背丈はチコより少し上。

小型輸送艦『サナギ』を狩り、遠方からの物資の運送を生業とする女性だ。

チコに対しても特に畏まることなく、気さくに接するその性格は見た目通り大らかで細かいことは気にしない主義。

ちなみに女手一つで魔獣の脅威が蔓延る外の世界を往来しているだけのことはあり、彼女自身も武術の達人であり、徒手空拳による戦いを得意とする。

自警団による魔獣狩りにも時折同行しており、素手で魔獣をなぎ倒していくその姿に畏怖したものも多いとか。

ちなみにチコは一時期、体術を学ぶために彼女から教えを乞うたことがあるので、その実力は身を以って知っている。

そして体術における師に当たる人物なので、今でも敬意を払っているのだ。

 

「急なご連絡でしたのに、引き受けて下さって有難う御座います。」

 

チコが深々と頭を下げてお礼を言い、レンジたちもそれに倣う。

 

「別にいいってことよ。

事情は掻い摘んで聞いているし、今日は仕事も無くて暇を持て余してたからね。」

 

整備士の人から連絡が渡った時、ミリアは二つ返事で引き受けてくれた上に、都合がつくならすぐにでも出発できると言ってくれたのだ。

チコたちからすれば願ってもない言葉であり、それだけにミリアに対しては感謝の気持ちでいっぱいである。

 

「それにマギアディールまでの長旅なんて久しぶりだもんね。

最近は近所の街をウロウロするだけで身体が鈍ってたし、ひっさびさにこの子を存分に飛ばせるって思うと腕が鳴るってもんよ。」

 

そう言いながらミリアはサナギを親指で指す。

ミリアは所謂『走り屋』の気質があり、運送業を営んでいるのも輸送艦を存分に走らせることに生き甲斐を感じているからである。

つまり今回の件はミリアからしても願ってもない申し出であり、ここまで張り切って今日の内に立とうとしたもの、単純に早くサナギを駆って飛ばしたいだけなのだ。

 

「あはは・・・同乗者もいますので、お手柔らかにお願いします。」

 

急な依頼を申し出たことに引け目を感じていたチコは、思いの外ミリアの方がノリノリであることを知って苦笑しながらも一先ず安堵する。

そして今度はスズの方に心配そうな眼差しを向けて話しかけた。

 

「スズ、本当にいいの?」

 

「何がですか?」

 

「何がって、街の外は魔獣の危険があるし、あのコソ泥たちがまた現れるかもしれないのよ。」

 

実際には輸送艦による移動のため、野良の魔獣程度ならばそこまでの脅威にはならないが、相手が機操兵持ちの盗人であれば話は別だ。

そんな危険にスズを巻き込んでしまうことにチコも、そしてレンジも抵抗を覚える。

 

「大丈夫ですよ。私、カンナちゃんがウソをつくとは思いませんし。

それに戦闘になる可能性があるなら、猶更ついて行かないわけにはいきません。

カンナちゃんの言う通り、私がいないとカゲヒメが動かないなら、お兄ちゃん1人で戦うことになっちゃうじゃないですか?

そっちの方がよっぽど危険ですよ。」

 

「それは・・・。」

 

「・・・。」

 

だがスズの思いの外、理論整然とした言葉に、チコもレンジも黙り込んでしまう。

確かにあの連中が再び現れた場合、狙いは間違いなくヨゾラノカゲヒメの奪取だ。

であれば間違いなく機操兵を駆って出るだろう。

そんな時もしもヨゾラノカゲヒメが稼働しなければ、レンジの機操兵一機で迎え撃つことになるわけだが、レンジは度重なる訓練こそ積めど、機操兵による実践経験は皆無だ。

初めての機操兵戦で熟練の操手を2人相手に戦って勝てる自信があるほど、レンジは己惚れてはいない。

つまり戦闘になることを想定した場合、ヨゾラノカゲヒメが稼働することは絶対条件であり、それにスズが必要であれば、彼女を置いていくわけにはいかないのだ。

 

「でも・・・。」

 

だがそれが、カンナによる曖昧な情報に基づいたものであるため、チコは未だに難色を示している。

勿論チコも、カンナがウソをついているとは思えず、だからこそスズにこの話を持ち掛けることには反対しなかった。

それでも不安は払拭できず、出来ればスズには街に残って欲しいと思っている。

 

「いつまでもうだうだ言うなよ。めんどくせえ。」

 

そんな煮え切らないチコの様子にレンジが食ってかかる。

 

「レンジ!あなたスズのことが心配じゃないの!?」

 

「心配だったらオレたちで守ってやりゃあいいだけだろ?

それとも、自信ねえのかお前?」

 

「なっ・・・!」

 

レンジの挑発にチコは顔を赤くして口元を震わせる。

 

「スズの護衛程度には役に立つかと思ったが、やっぱ腰抜けだなお前。

自信がねえならお前こそここに残れよ。目障りだ。」

 

「減らず口だけは達者で、実力の伴っていないあなたが偉そうに言わないで!」

 

「はっ、いざって時に腰が砕けて役立たずに成り下がるやつが何を偉そうに。」

 

「継承の儀は昨日終えました!

あなたこそ、新しい機操兵と武器に舞い上がって足元掬われたりしないでしょうね?」

 

「んなガキみてえなヘマするかよ。

とにかく、スズはオレが守るからてめえは大人しく引っ込んでろ。」

 

「いいえ、あなたなんかに任せられないわ。スズのことは私が守る。」

 

「ふっ2人とも!その辺にしてよ!!」

 

レンジがいつも通り喧嘩腰の口調でチコを叩きつけるはずが、なぜか自分の護衛役を巡る口論に発展してしまい、予期せぬ『私のために争わないで状態』に陥ってしまったスズは、羞恥で顔を真っ赤にしながら2人を止めに割り込む。

 

「スズ、私の側から離れないでね。こいつの一緒だと危なっかしいわ。」

 

「スズ、オレから離れるなよ。この腰抜けと一緒にいたら命が足りねえぞ。」

 

「も~!!いい加減にしてよ!!」

 

周りには両親もカンナもミリアもいると言うのに、恥ずかしさで穴に入りたくなるような言葉の総攻撃を受けたスズは、とうとう爆発してしまう。

 

「いや~スズちゃん、大事にされてるね~。」

 

そんなやり取りを見たミリアがニヤニヤ笑いながらスズをからかう。

 

「スズ、かお、真っ赤だよ?」

 

そしてカンナからの無邪気な追い討ちに、スズはその場に屈みこんでしまうのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

恥ずかしさが臨界点突破して屈みこんでしまったスズの回復を待つ間、輸送艦にヨゾラノカゲヒメとカザキリが格納され、ようやく出発の準備が整った。

 

「お父様、お母様。行ってきます。」

 

「行ってらっしゃいチコ。気を付けるのですよ。」

 

「お父さん、お母さん、行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。大変かもしれないけど、初めての旅、楽しんできなさい。」

 

「レンジ、防人としての使命、しっかり果たすのだぞ。」

 

「わかってる。行ってくる。」

 

それぞれの両親に出発の挨拶を交わした後、チコはカンナの頭を撫でる。

 

「それじゃあカンナ、しばらくの間離れるけど、お母様の言うことをちゃんと聞くのよ。」

 

「え?」

 

だがチコの言葉にカンナは首を傾げる。

 

「あたしも、ついてくよ?」

 

「え?」

 

だがまさかカンナまで付いてくるつもりだとは思わなかったチコは、彼女を諭す。

 

「何を言ってるの。さっきも話したでしょ?

街の外は危険でいっぱいなの。流石にあなたまで連れていくことはできないわ。」

 

「でもあたし、あの子から離れられないよ?」

 

「離れられないって・・・?」

 

あの子、と言うのはヨゾラノカゲヒメのことだろうか?

だが離れられないとはどういう意味だろう?

 

「カンナちゃん、チコには懐いているみたいだもの。きっと離れるのが寂しいのでしょう。」

 

言葉の意味を測りかねているチコが思考していると、チコの母がカンナの両肩に手を置いた。

 

「カンナちゃん、チコはちょっとお仕事で遠くまで行っちゃうけど、すぐに帰ってくるからお家で待ちましょう。」

 

「そっそうよ、カンナ。

お土産に美味しい食べ物買ってきてあげるから、お家で待ってなさい。」

 

とりあえず無理にでも母の言葉に便乗し、チコはカンナの説得を試みる。

 

「む・・・。」

 

だがカンナは口をへの字に曲げてしまい、そっぽを向いてしまった。

 

「チコ、何やってる。早く出るぞ。」

 

そんなチコを見かねたレンジがサナギの入り口から声をかけてくる。

カンナの機嫌を損ねてしまったことは気になるが、機嫌を直している時間もない。

 

「それじゃあカンナ、行ってくるね。」

 

この場は母に任せて、チコはレンジの後に続きサナギに搭乗する。

そしてサナギからけたたましい音と共に宙に浮きあがり、カミナの里を出発するのだった。

 

「それじゃあ、カンナちゃん。お家に帰りま・・・あれ?」

 

だがサナギを見送ったチコの母が振り返ってみると、先ほどまでその場にいたはずのカンナが忽然と姿を消すのだった。

 

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