1話 誕生
2020年12月25日
今日は何の日?
考えるまでもない。
クリスマスだ。
十字教徒たちが教会に足を運び、日本中のリア充がイチャイチャする日である。
そんな日の病院。
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ…
とてもせわしない足音が廊下に響いていた。
その原因は1人の男性。
黒髪のツンツンがトレードマークの彼は、10mにも満たない狭い範囲を行ったり来たりしていた。
時折、立ち止まってはツンツン頭をガシガシと掻き毟って、また歩き始める。
そんなことを、かれこれ1時間以上続けていた。
「オイ、上条ォ!」
見かねた友人が彼を呼ぶ。
「いい加減、鬱陶しいンだよ!心配なのもわかっけど大概にしとけ」
「そうだぞ、大将」
もう1人の友人も彼に続いて言う。
「こういう時、旦那ってのは落ち着いてどっしりと構えとくもんだ」
「でもよぉ…」
上条当麻(現在26歳)は2人の友人・一方通行と浜面仕上に、情けない声で言い返す。
「大丈夫だっつってンだよ」
一方通行がいつも通り無愛想を装いつつも当麻を勇気づける。
自分が数ヶ月後に同じ状況に陥ることになるとも知らずに。
「心配しなくても母親ってのは強いんだぜ」
仕上も当麻を励ますべく言葉を掛ける。
自分が数ヶ月前に同じ状況に陥っていたことも忘れて。
「いや、わかってるよ。わかってるけどさ…」
その時、彼らの耳を劈くような甲高い音が響き渡った。
「オギャー!」
「おー!」
分娩室から聞こえる元気いっぱいの産声に、当麻は先ほどまでの緊張を忘れて顔を綻ばせる。
「終わったみてェだな」
「やったな、大将」
「ああ!これで俺も父親だ!」
テンションが上がった当麻が今にも踊り出さんばかりの時、分娩室の扉が開き、手術衣姿の“冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)”が現れた。
「先生、美琴は?」
即座に駆け寄った当麻が質問する。
「そう心配することもないね。ちゃんとした健康診断はそれからだけど、僕が見たところじゃ、母子ともに大丈夫だよ。まあ、これまでの経過を見ても安産なのは目に見えてたしね」
「ハァ…。ありがとうございました」
当麻は安心したように嘆息する。
「いやいや、大したことじゃないね。君の高校生時代の方がよっぽど苦労させられたよ」
「アハハハハ…」
後頭部を掻きつつ苦笑する当麻。
「君のかわいいお嬢さんが同じように無茶ばかりするようなことは勘弁願いたいね。何と言っても僕はもう年だ。長時間の施術となるとこっちの体力が保たないよ」
冥土帰しは握り拳で肩をトントンと叩いてみせた。
10年間で顔の皺も増え、すっかり老いた彼だが、それでもまだ現役の医者である。
『この病院の霊安室は僕の予約席だからね』
そんな台詞を吐きつつ、担ぎ込まれてくる重病患者・重症患者たちを五体満足に治療しては退院させ続けているため、未だに息を引き取った者はいない。
「上条さ~ん」
「あ、はい!」
冥土帰しと話していた当麻に、部屋から顔を覗かせた看護婦が声を掛ける。
「もう入って大丈夫ですよ」
「すぐ行きます。それじゃ、先生…」
「いいから早く行きなさい」
「はい!」
当麻は最愛の妻と子の待つ部屋へと駆けた。
「廊下は走らないでほしいんだけどね。まあ、言うだけ無駄かな」
「美琴!」
「とう…ま…」
当麻は疲れ切った表情で笑う、御坂…改め上条美琴(現在24歳)の手を握る。
「よく頑張ったな」
「うん…」
「元気な女の子ですよ~」
「あぁ…」
看護婦が当麻に産まれたばかりの赤ちゃんを抱かせた。
感無量といった様子で、当麻の口から息が漏れる。
「お名前はもう?」
「ええ」
当麻は振り向いて美琴に目配せする。
美琴は小さく頷いて返した。
「麻琴です。上条麻琴」