11話 光の柱
2010年7月20日
冥土帰しの病院
とある病室の前で、上条麻琴とカエル顔の医者が話していた。
「じゃあ、お願いしますね、先生」
「うん…。まあ、子供たちも木山くんも僕に任せてくれればどうにかするけどね…。一体、君は何者なんだい?アレイスターとは…」
「それ以上は答えられないから聞かないでください」
「ふん…、そうかい…」
「ごめんなさい…」
「いや、僕の方こそ聞くべきではなかったね。これからも困ったことがあれば来るといい。僕は医者で大人で、君は患者で子供なんだからね」
「ありがとうございます」
(私のこと取り上げたのはあなたです、とは言えないわよね…)
「じゃあ、そろそろ行きますね」
麻琴は一礼すると、カエル医者の元を辞した。
「麻琴ー!」
「あぁ…、軍覇くん…」
麻琴が病院から出たところで、削板が文字通り飛んできた。
おそらく近くにいたのだろう。
「偶然だな」
「そうね…。軍覇くんは何でこんなとこに?」
「この先で騒ぎがあったとモツが言っていたんでな。さっき見てきたところだ」
削板が後方を指差しつつ答える。
木山春生と“警備員”が交戦した辺りを指していた。
「ああ、“警備員”の銃撃戦か。それなら…」
「ん?“警備員”?」
「あれ?違うの?あっちの方にある高架路であったんだけど…」
「おぉ、そうなのか。だが、俺が言っているのはすぐそこだ」
「ふ~ん、そうなんだ。ケガ人とかは?」
「いや、幸いいなかったらしい。痕を見た限りでは、かなり大きかったようなのだがな。目撃者もいなかったとモツは言ってたぞ」
「目撃者がいなかった…」
麻琴が削板が指した方向に視線を送る。
表通りで、まして今日は夏休みの初日だ。
誰もいなかったなどということがあり得るだろうか。
「そんなことより!麻琴、勝負だ!もう用事は済んだだろ」
「あぁ…」
(誤魔化し作戦、失敗か。仕方ない)
話を伸ばして誤魔化そうとした麻琴だったが、削板の頭の中では常に最重要であることを忘れるはずもなかった。
「ハア…。じゃあ、やりましょうか」
「おっしゃー!」
削板が気合い充分といった様子で拳を突き上げる。
「ここじゃ危ないから飛ぶわよ」
麻琴の言葉の通り、病院の前で戦闘はマズい。
特に削板軍覇はマズい。
「いつもの河原でいいわよね?」
「おう!」
削板の言質を取った麻琴は、シュンッと音を立てて、自身と削板をテレポートさせた。
第7学区・河原
「よぉし!始めるぞ!」
「よっしゃー!どっからでも来い!」
人気のない河原で、麻琴と削板は対峙していた。
なんだかんだ言ってやる気満々な面持ちの麻琴である。
「すごいパーンチ!」
先手は削板。
右拳を突き出して衝撃波を飛ばす。
「効かないわよ…って、うゎッ!」
衝撃波は麻琴には当たらず、足元の土を吹き飛ばした。
驚声をあげた麻琴は後方に跳躍する。
(直接狙っても消されるから、足場吹き飛ばしたか。軍覇くんって意外と考えてる?)
「おらぁ!」
気迫の籠もった声をあげつつ、削板が一瞬で麻琴との距離を詰める。
そのまま、能力は使わずに麻琴に右拳を叩きつけにかかった。
「甘いッ!」
それに対して、麻琴は身体を僅かに右に逸らし、両手を削板の右腕に回して、一本背負いの要領で後ろに投げ飛ばした。
「おっと!」
投げられた削板は、左手を地面に叩きつけて跳び上がり、麻琴から距離をとる。
音速の数倍での攻防だ。
麻琴も後方へ跳んで削板から距離をとりつつ、ポケットに手を入れた。
「新技いくわよ!」
麻琴は右手に帯電すると、ポケットから取り出したコインを“超電磁砲”として打ち出した。
「おぉッ!」
麻琴に向き直った削板は、彼女の右手から放たれた光線を真正面から受け止める。
「えっ?顔…じゃなくて口?歯?軍覇くん、だいじ…」
「しゃーッ!」
「…ょうぶだよね、うん」
少し驚き、削板を心配してしまったことを後悔するように呟く麻琴。
「何だ?今のは。初めて見たぞ」
「そりゃ、初めて出したからね」
「また新技か!お前はすばらしい根性をしているな!惚れ直した!」
「惚れ直さなくていいから!むしろ、私以外の女の子も見て!へそ出しカチューシャで“~けど”が口癖な女子高生とかオススメだけど!」
「知らん!今の俺にはお前しか見えん!何としても、お前のお父さんを倒してお前をオトしてみせる!」
削板の思いを象徴するかのように、彼の背後でドーンと七色の爆煙があがった。
(不幸だ~。芹亜さん、ホントにごめんなさい)
「じゃあ、取りあえず、今日のところは返り討ちよ!」
「やってみろ!まだまだ勝負はこれからだ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
数分後
「くそ~。まだ俺の根性は足りなかったか!」
地面に倒された削板が心底悔しそうに声をあげた。
「軍覇くんも強くなったわよ。でも、私はまだまだ負けないわ」
そんな削板に麻琴が話し掛ける。
服こそ汚れているが、無傷な麻琴であった。
因みに、地面が捲れ上がったり、大穴が開いていたりと、周りの被害は凄まじいものである。
「また根性を鍛え直して、次こそは勝つ!」
「アハハハハ…」
やっぱり諦めない削板に苦笑いの麻琴。
その時、遠くからドーンと凄まじい音が響いてきた。
「何だ!」
「えっ…」
削板は驚いたように口を開いたが、麻琴の口からは呆然とした声が漏れた。
夜空に一筋の光の柱が打ち上がっている。
(あっちは小萌先生のアパートがある方…。嘘でしょ。早すぎる…。まさか!)
そこで、ハッとしたように、麻琴は見つめる先を変えた。
(何かしたのか!)
麻琴の見つめる先には、怪しい輝きを放つ高いビル。
アレイスター=クロウリーの居城・窓のないビルだ。
しかし、そんなことをしている場合ではない。
「軍覇くん、私…」
「いいから行け!」
「うん!」
麻琴の表情からただならぬ雰囲気を感じ取った削板に背を押され、彼女は小萌のアパートに向けて連続テレポートを開始した。
「当麻くん!」
ものの数秒で麻琴は小萌の部屋に到着した。
その瞬間、彼女の目には最悪の光景が飛び込んできた。
力尽きたように床に倒れているインデックス。
インデックスを庇うように覆い被さる当麻。
呆然として立ち尽くす神裂とステイル。
そして、部屋の中を舞う無数の輝く羽。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」