2010年7月21日
窓のないビル
日付が変わってすぐ、アレイスター=クロウリーの元に1人の“来客”が現れた。
「アレイスター!」
いや、“来客”というより“カチコミ”と言った方が正確だろうか。
鬼の形相とでも言うべき表情を浮かべた上条麻琴がアレイスターの前に立っていた。
「君から私に会いに来るとはな」
アレイスターはいつもの薄ら笑いを浮かべながら麻琴に応じる。
「よくもやってくれたわね」
「何の話だ?」
「危うく、お父さんの記憶がなくなるところだったって話に決まってんでしょ!」
「ふむ。上条当麻と禁書目録との“ストーリー”が君の知るものより早く進んだのは私にとって有益だったが、あくまで偶然だ。私が意図したことでは…」
「じゃあ、何で私にあの子たちの情報を寄越したのよ!」
「気紛れだと言っただろう?」
「嘘よ。アンタが情報を寄越さなかったら、私はカエル先生の病院に行く途中で、お父さんと火織さんが戦ってるところに出くわした。そしたら、インデックスさんの記憶のことはもっと簡単に片付いたから、お父さんが記憶をなくしかけることもなかった」
だから、情報を与えて麻琴の進行方向を変えた。
それだけではない。
削板が通りがかるように仕組んだのもアレイスター。
当麻がインデックスの“首輪”を破壊するのを早めるように仕組んだのもアレイスター。
裏から工作し、上条当麻の記憶が消されるように仕組んだのは、統括理事長・アレイスター=クロウリー、その人だ。
「偶然さ」
アレイスターは表情を崩すこともなく、平然と嘯く。
「ふざけんじゃないわよ!」
当然、麻琴は納得しない。
そもそも、アレイスターは麻琴を舌先で丸め込もうとは思っていない。
「ではどうする?私が何かを画策したとして、君はどうするのだ?」
「くっ…」
「君は既に私と契約しただろう?」
麻琴は黙る。
アレイスターに対して返す言葉がなかった。
3年間、アレイスターの掌の上で過ごした麻琴はそんな言葉を持っていない。
「結果的に上条当麻が記憶をなくすことはなかった。今回のところはそれでいいと思わないか?私にとっても、“幻想喰い”が“幻想殺し”と同じように“処理落ち”を起こすという事実を確認できたことは大きな収穫だ」
「この…」
アレイスターを睨み付けていた麻琴の眼光がより鋭くなる。
「いつか…」
「ん?」
「いつか、アンタをそこから引きずり出してぶち殺してやる。その日が来るまで首を洗って待ってなさい!」
「フフッ…、その意気だ。楽しみに待っているよ」
「フンッ!」
鼻息も荒く、麻琴はテレポートで窓のないビルから姿を消した。
「フフフフフフフフフフフフ…」
1人残されたアレイスターの笑い声が室内に響く。
「“幻想殺し”の記憶など、今となってはどうでもいい。“幻想喰い”・“上条麻琴”、彼女の前には全てが些事だ。“サブプラン”に過ぎない」
相も変わらず、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、気持ちの悪い考えを巡らせているらしい。
「彼女の覚醒と共にプランは完遂する」
冥土帰しの病院・1028号室
「入院なんて大袈裟ですって…」
「医者として、今晩は帰す訳にはいかないね。本当なら、あと数日は経過を見たいところなんだけどね」
上条当麻は、カエル医者によって、ベッドに寝かされていた。
「だから、大袈裟…」
「全身に多数の裂傷、打撲傷、火傷、それから噛み傷みたいなのまであったんだよ?」
裂傷と打撲傷は神裂、火傷はステイルと“竜王の殺息”、噛み傷はインデックスの仕業だ。
「うっ…」
「まったく…。君はもう少し自分の身体を労った方がいいだろうね」
「すいません…」
「とにかく、今晩はここで寝ていてもらうよ。わかったね?」
「はい…」
「やれやれ…」
意気消沈した当麻を残し、カエル医者は嘆息しつつ部屋を後にした。
「…という訳さ」
「そう…」
窓のないビルから出た麻琴は、ステイルと神裂から、一連の騒動の事情について説明を受けていた。
もちろん、説明など受けるまでもなく、麻琴は今回の出来事については知っているのだが、端から知っていたのでは怪しすぎるため、ステイルと神裂に洗いざらい話してもらった。
「それで?これからどうすんの?」
「僕らはイギリスへ戻る。インデックスの“首輪”について“上”の方を問い詰めてみるよ」
「じゃあ、インデックスは私と当麻くんが預かるってことでいいのよね?」
「ええ。あなたがたに負担をかけるのは申し訳な…」
「気にしなくていいわよ、火織さん。私は好きでやってるんだし、当麻くんだって、きっと同じこと言うと思うわよ」
「ですが…」
「そんなことより…」
さらに言い募ろうとした神裂を、ステイルが遮った。
「僕は君の力について聞きたいんだけどね」
「私はLEVEL0無能力者よ。当麻くんと同じで」
「アレがLEVEL0というのにも納得がいかないが、君のは尚更だ。“竜王の殺息”をたたき落とし、あまつさえ放ってみせた。何者だい?君は」
「内緒」
「何だと?」
「秘密よ、秘密」
「ふざけるなよ」
「私は真面目よ。私の力のことは教えない」
しばし、麻琴とステイルの睨み合いが続いた。
麻琴としては、アレイスターに口止めされているため話せない。
ステイルとしては、インデックスを託す相手のことが不透明なのは不安だ。
「はぁ…」
そんな2人の睨み合いを終わらせたのは神裂だ。
「ステイル、そこまでです。私には、彼女が悪人であるには思えません」
「フゥ…。わかったよ。彼女を守れるだけの力だというだけで充分だ」
「ありがと」
「上条当麻には?」
「朝になったら私から話しとく」
「わかりました」
「またね、火織さん、ステイルくん」
「ええ。頼みましたよ、上条麻琴」
「非常に不本意だが、彼女のことは君たちに任せるよ」
「それじゃ、私は当麻くんの病院に…って、おっとっと…」
神裂とステイルに別れを告げ、当麻の元に向かおうとした麻琴だったが、そこで足をもつれさせてしまった。
「おっと」
よろけた麻琴が転ぶ前に、ステイルが彼女の身体を支える。
その拍子に、柔らかいものがステイルに押し当てられた。
「…気をつけろ」
ステイルは慌てて麻琴を引き離す。
「ごめんごめん」
謝る麻琴だったが、ステイルの頬が赤みを帯びていることには気付かない。
「じゃあね」
麻琴はシュンッとテレポートして、その姿を消した。
「ったく、何だと言うんだ」
麻琴を見送ったステイルは、イラついたように煙草に火をつけた。
HAPPY NEW YEAR!
読者のみなさん、明けましておめでとうございます。
今年からも、自分の作品をよろしくお願いします(^_^)ゞ