2010年8月1日・朝
第7学区・とある高校の男子寮
「ギャアァァァァ!不幸だー!」
とある男子生徒の悲鳴が寮内にこだましていた。
「何で噛むんでせうか!」
「とうまはやっぱりとうまなんだよ!」
頭の傷をさする当麻と、ぷいと憤慨したように顔を背けるインデックス。
何が起きたのかは、読者の皆様のご想像にお任せすることにしよう。
「またやってるの?」
そんな彼らの元を、1人の少女が訪ねてきた。
「はい。お弁当だよ、インデックスちゃん」
「うわーい!やっぱり、まことはわかってるんだよ!」
呆れ顔の麻琴から受け取った弁当箱──もちろん特大サイズ──にがっつくインデックス。
「当麻くん、頭大丈夫?」
麻琴はインデックスから当麻に視線を移す。
「おぉ…、何とかな。助かったよ、麻琴」
「ホントに当麻く…」
「ごちそうさまなんだよ!」
「早ッ!」
麻琴の言葉を遮ったインデックスの手の中には、キレイに空っぽになかった弁当箱。
米粒1つとして残されていないのは見事と言うべきか。
「インデックスちゃんには、まだちっちゃかったかな…」
「うん。でも、今はこれくらいで我慢するんだよ」
「おい、インデックス。お前なあ…」
「当麻くん、補習に遅れるわよ」
「おっと!そうだった」
カバンを掴みドアに向かう当麻。
「じゃあ、行ってくる。麻琴、インデックスのこと頼んだぞ。インデックス、麻琴と仲良くしろよ」
「行ってらっしゃい、当麻くん」
「行ってらっしゃいなんだよ、とうま」
「おう」
麻琴とインデックスに送られ、当麻は夏休みの補習へと出発した。
これから昼まで、机に突っ伏したまま過ごすことになるのだろう。いつものように。
数分後
「ねえ、まこと」
当麻が小萌の授業に頭を悩ませているであろう頃、ゴロゴロとテレビを見ていたインデックスが麻琴に話し掛けた。
「ん?どうしたの?インデックスちゃん」
掃除機をかけていた麻琴が手を止めて応じる。
「つまんないんだよ」
「カナミン見てたんじゃないの……って終わっちゃったのか」
「うん。今、私は退屈なんだよ」
「ふぅ~ん…。じゃあ、遊ぼっか?」
「子供扱いしないでほしいんだよ!」
「うっ…」
(だって、私が知ってるインデックスさんよりもずっと子供なんだもん。しょうがないじゃない…)
憤慨するインデックスに苦笑いの麻琴であった。
「ねえ…」
「ん?何々?」
「まことに聞きたいことがあるんだよ」
そう言うインデックスの顔が真剣みを帯びている。
「まことって…」
(これは絶対に聞かなきゃいけないんだよ)
「とうまのこと好きなの?」
「好きよ」
「そんなあっさり!?」
「うん。愛してる」
驚くインデックスに対して事も無げに告げる麻琴。
インデックスの明るい表情がみるみるうちに曇っていく。
(やっぱり私が入る隙間なんてなかったんだよ…)
「じゃあ、まことととうまは恋人同士なんだね…」
残念そんな、悔しそうな顔のインデックス。
「えっ?違うよ」
「……………………………え?」
麻琴の言葉に、再びインデックスの顔に驚きの色が浮かぶ。
「だって、今…」
「うん。私は確かに当麻くんのこと愛してるよ」
“でも”と言って麻琴は続ける。
「付き合いたいとか、そういうのじゃないんだよねぇ…」
(だって親子だし…)
達観したような顔をする麻琴だったが、インデックスは頭上に疑問符を浮かべたままだ。
「むぅ…。意味がわからないんだよ」
「フフフ…。ちょっと複雑だからね、私と当麻くんは。まあ、当麻くんの方はそんなこと思ってないんだろうけどさ」
「ふくざつ?」
「うん」
「どういうことなの?」
「内緒」
「むぅ~」
「ごめんごめん。怒んないでよ」
「まことは内緒が多いんだよ」
「ごめんね。でも訳があるのよ」
「ふーんだ」
麻琴が宥めるも、インデックスはそっぽを向いてしまった。
「ハァ…、不幸だ」
やっちゃったとばかりに麻琴が黒髪を掻く。
(大人のインデックスさんはちゃんとしたシスターさんなのにな…。お父さんはずっと寮に居候させてたって言うけど、やっぱりスゴいわ)
「ねえ、インデックスちゃん…」
(取りあえず、ここは話題を変えて…)
「お出掛けしよっか?」
「お出掛け?」
「そ。お出掛け。当麻くんが帰ってくるまでには戻んないといけないけど」
「うん!行くんだよ!」
さっきまでのやり取りはどこへやら、インデックスが顔を輝かせて立ち上がった。
「よし!」
(良かった…。機嫌直った…)
ほっと胸をなで下ろした麻琴も立ち上がり、インデックスを連れ立って部屋を後にした。
鍵はあらかじめ当麻から預かっていたので問題ない。
第7学区・街中
「ん~!学園都市はおいしいもので溢れてるんだよ!」
すっかりご機嫌になったインデックスが通りを走り回っていた。
時折、店の中に入っては、ブラックホールのごとく食べ物を吸い込んでいる。
「インデックスちゃ~ん、ほどほどにね~」
インデックスの後ろからには、若干引きつった表情の麻琴がいた。
(よせば良かった…。請求書……、ステイルさんに回せばなんとかなるか…。なんたって、未来の旦那さんなんだし)
そんなことを考える麻琴だったが、彼女の元に怪しい人物が接近していた。
シュンッ!
「お姉様!」
「キャッ!」
空気を切り裂くような効果音と、聞き覚えのあるセリフがしたのと同時に、麻琴に何者かが飛びかかった。
「あぁん!私服に着替えたからと言って、この白井黒子の目と鼻は誤魔化せませんわ!その全身からビシビシ来るお姉様オーラ!そして……あら?まあまあ、お姉様!黒子の知らぬうちにこんなふくよかなものがお胸に!」
「ヒッ!ちょ、ちょっと、黒子さ……黒子ちゃん、ダメ、私…」
麻琴が振り払おうとするのを歯牙にもかけず、黒子は彼女を押し倒し、胸に頭を擦り付け始めた。
「いいですわ!素晴らしいですわ!黒子は黒子はもう!我慢できませんの!」
「やめ……、ちょっ……、待っ……、あぁ!」
一方通行を瞬殺し、削板に無傷で勝利した、LEVEL6・上条麻琴が、完全に白井黒子に押さえ込まれていた。
「く~ろ~こ~」
そんな時、麻琴にとっての救世主が現れた。
「は!お姉様!?何故そちらに?」
「“何故”はこっちのセリフよ…」
黒子を追って現れた御坂美琴は、プルプルと身体を震わせている。
「何やってんだ、アンタは!」
美琴が叫ぶと同時に、黒子に高電圧の電撃が襲いかかる。
「あばばばばばばばばば!」
躱せずに電撃をその身に受けた黒子の身体が、自身の名と同じく真っ“黒”に焦げる。
「あ、ありがとう、美琴ちゃん」
「アンタ、大丈夫?」
黒子の拘束から漸く逃げ出した麻琴に、美琴が心配そうに声を掛ける。
「うん。こんくらい、どってことないから。あはは…」
乾いた笑いを漏らす麻琴の目は、まるでこの世の闇を覗き込んだかのように光を失っている。
「大丈夫、大丈夫。私も最初の頃はヒドい目に遭ってたから気持ちは分かるわ」
「うん…」
美琴が励まそうとするが、麻琴が立ち直るにはしばらく時が必要なようだ。
「ああ!大きいお姉様と小さいお姉さ…」
「アンタは黙ってろ!」
ビリビリッ!
「あぁん!やはり、お姉様はこうでなくては!」
彼女たちが、自分たちが好奇の視線に晒されていることに気付くのは、もう少し後のことであった。
やっぱり麻琴にとっての天敵は、ペンデックスよりアレイスターより黒子ですよね(~o~)