とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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16話 遠征

2010年8月1日

 

 

 

窓のないビル

 

 

 

 

シュンッ!

 

 

「来たか」

 

「アンタが呼んだんでしょうが」

 

テレポートして現れた麻琴は、いつものようにイライラした様子で、逆さまに浮かぶアレイスターと対峙する。

 

「君に仕事があってね」

 

「何よ?こないだまで3年も音沙汰なかったのに、夏休みに入ってから人使い荒くない?」

 

「フフッ…、そう言うな。この資料を見てくれ」

 

アレイスターの言葉に合わせ、どこからともなく現れた茶封筒がポトリと床に落ちた。

 

「何これ?」

 

封を切り、中から書類を取り出した麻琴がアレイスターに訊く。

 

「リストだ」

 

「だから何のリストよ?」

 

「現在、学園都市にとっての危険分子と見なされている“魔術結社”のリストだ。もちろん、それに載っているのは氷山の一角に過ぎないがね。すべて、今にもこの街に攻め込もうとしている過激派の集まりだ」

 

「……潰してこいってこと?」

 

「話が早くて助かる」

 

麻琴はリストに載っている内容に目を通す。

 

10もの魔術結社についての情報が書かれていた。

全て拠点はヨーロッパ。

どれもこれも、非人道的な実験や儀式を繰り返し行っている組織である──アレイスターの情報がどこまで信用できるものかは疑問だが──ため、麻琴にとっても解散させる分には抵抗はあまりなかった。

 

そこで、麻琴の頭に1つの疑問が浮かんだ。

 

「おかしいわよね?」

 

「何がだ?」

 

「夏休みには色々トラブルあったみたいだけど、こんな魔術結社の襲撃なんて1回もなかったわよね?」

 

麻琴が言っているのは“父親”が若いころの話だ。

 

確かに、本来の歴史では魔術結社の襲撃事件も襲撃未遂も起こっていない。尤も、この時期に限った話では、だが。

 

「それは私が止めたからだろう。この街を落とそうとする魔術師など、別段珍しいものでもないさ」

 

「じゃあ何で、これは私が潰してこなきゃいけないのよ?」

 

「さてな……。どうにも、裏工作が上手くいかなかったのだよ」

 

(……絶対わざとだ)

 

飄々と言うアレイスターだが、嘘を隠そうというつもりはないようだった。

 

「それならそうで、暗部を投入すれば済むのだがね。どうせなら、君のスキルを増やすために利用する方が有益だろう?」

 

(そっちが本命か…)

 

木山春生の一件により、麻琴が使える超能力は急増した。

基本的なものは網羅したと言っても過言ではないだろう。

 

しかし、魔術の方は逆にほとんど使えない。

“竜王の殺息”と炎系の魔術がいくつかだけだ。

 

そこに来て、この魔術結社の討伐任務だ。

10も潰せば、基本的な魔術なら、大概のものは“写す”ことができるだろう。

 

「尤も、君に拒否権などないがね」

 

思案顔の麻琴に、アレイスターが命じる。

 

「第23学区に行け。飛行機までは土御門元春に案内させる。2時間弱でフランスに到着するだろう。以後の指示は追って下す。帰国は8月9日の予定だ。以上だ。早く行け」

 

「えっ、今から?すぐ?」

 

「今だ」

 

「でも、旅支度とか…」

 

「荷物なら既に機内だ」

 

(乙女の持ち物に何してくれてんのよ!)

 

「お昼まだ…」

 

「それも機内で摂れ」

 

「超音速で飛んでる時にご飯は…」

 

「“一方通行”で何とかしろ」

 

「9日までに10個も潰すのって…」

 

「なら尚更、早く出発しろ」

 

「うぅ…」

 

どうにか、出発の阻止まではいかなくとも、時間稼ぎ程度なら可能かと思った麻琴だったが、アレイスターにことごとく返されてしまった。

 

(学園都市離れるのは不安だけど、8月の頭って“実験”以外には特に何にもなかったわよね……。あーくんは“実験”に参加してないからそれも大丈夫だし……。魔術も使えるようになった方がいいだろうし……。コイツが何考えてるのかわかんないのが気味悪いけど……、しゃあないか…)

 

「……あぁ、もう!行きゃあいいんでしょ、行きゃあ!」

 

怒鳴った麻琴は、テレポートしてビルを離れた。

 

 

 

「フゥ……」

 

1人残されたアレイスターは人知れず嘆息する。

 

「“彼”について知らないのは幸いだったな…」

 

 

 

 

 

第7学区・街中

 

 

 

 

シュンッ!

 

 

ドンッ!

 

 

 

「きゃッ!」

 

「何だッ!」

 

ビルから飛んだ麻琴は、テレポート先でとある男性とぶつかってしまった。

 

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

「当然。この程度でどうにかなることなどありえない」

 

緑色の髪の毛をオールバックにし、白いスーツを着た男性は麻琴に答える。

 

「間然。娘よ、突如、空中に出現するとは何者だ?」

 

「あぁ……、私、能力者ですから」

 

「瞭然。そうだったな。この街はそういう場所だった。では失礼する。少々、急ぐ用があるのでな」

 

「そうですか。では、私もこれで…」

 

麻琴は再びテレポートして姿を消した。

 

 

 

「悄然。ようやくここまで来た。待っていろ、インデックスよ」

 

 

 

 

 

第23学区・飛行場

 

 

 

 

「あれが、学園都市特製の超音速機だにゃー。これに乗るんだぜい」

 

「はーい。じゃあ、行ってきま~す」

 

土御門に送られた麻琴は、心底面倒くさそうな様子で飛行機に乗り込む。

 

「随分と軽いんだにゃー。これから悪名高き魔術結社を、それも10個も相手どらなきゃならないんだぜい?」

 

「まあ、そんくらいなら、どうってことないからね」

 

「ハァ……。まったく、呆れたもんぜよ…」

 

サングラス越しに疑わしげな視線を向ける土御門を尻目に、麻琴の姿は機内へと消えた。

 

 

 

「上条麻琴……。貴様は本当に何者なんだ……」

 

飄々とした笑みを顔から消した土御門の呟きは、機内の麻琴の耳までは届かない。

 

「まあ、今のところはどうでもいいか…」

 

飛び立とうとする飛行機に背を向け、土御門は家路についた。

 

「さぁ~て、舞夏の昼飯が楽しみだにゃー」

 

 

 

 

 

この後の麻琴の戦いは、ここに書くまでもなく。

リストに載せられた魔術結社は全て解散の憂き目を見た。

 

 

 

 

 

しかし、麻琴が知らないうちに、当麻がインデックスに関する争いに巻き込まれたのであった。




ええっと……、申し上げにくいお知らせです。
三沢塾篇はカットさせていただきます。
アウレオルスと麻琴が戦う訳にはいきませんから。
麻琴が“黄金錬成”まで使えるようになったら、大変なことになるので。

アウレオルスのことを麻琴が知らなかったのは、未来にはいなくて、一方通行の記憶にもなくて、親が子供に聞かせるような話題でもないからってことで。
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