2話 上条麻琴、12歳
2033年9月18日
第7学区・とある郵便局
バンッ!バンッ!バンッ!
「キャーッ!」
「オラ!静かにしやがれ!」
局内に銃声と悲鳴と怒号が響く。
え~…、私こと上条麻琴は、現在進行形で強盗に巻き込まれております。
うん、意味がわからない。
でも、取りあえず言っとくとしますか。
読者の皆さん、ご唱和下さい。
せ~の…
「不幸だ~」
少しだけ時は遡り…
第7学区・常盤台中学女子寮前
「ん~!」
常盤台中学の制服に身を包んだ少女が、頭の上で手を組み、身体を伸ばしていた。
母親が同年代だったころと瓜二つな顔立ちと髪型、そして父親譲りの黒髪の彼女の名は上条麻琴。
現在12歳にして、常盤台中学1年生である。
日曜日の朝なので、これから街へ繰り出そうかというところである。
「さてと、百合子たち誘ってみようかな」
独り言ちながら、少女は携帯電話をポケットから取り出した。
次の瞬間、突風が発生し、少女のスカートを捲り上げた。
「ひゃっ!」
慌てて押さえつけるが、時すでに遅く、犯人の目的は達せられてしまった。
「ふむふむ…」
「百合子ー!」
麻琴は、感慨深げに顎に手を置いて何度も頷いている同級生を睨み付ける。
母親譲りの黒髪ロングを、花を象った髪飾りでとめ、麻琴と同じ制服を着た彼女の名は佐天百合子。
佐天涙子と一方通行の娘にして、常盤台中学の1年生。
LEVEL5の“空力使い(エアロハンド)”である。
「いやあ、麻琴がちゃんとパンツ履いてるか心配でさあ…」
「アンタに心配されなくたって、ちゃんと履いてるわよ!」
「アハハハハッ」
スカート捲りの常習犯たる彼女は、いくら麻琴が睨もうが叫ぼうが笑みを崩さない。
彼女を止められるのは、女子寮の“寮監”くらいのものだろう。
「麻琴は今日は白か…」
「アンタいい加減にしなさいよ!」
懲りずに言う百合子に堪忍袋の緒が切れかけた麻琴は、左手に紫電を纏って威嚇する。
「おお?電撃?」
しかし百合子は尚も面白そうに続ける。
「この距離だよ?当たらないと思うなあ…」
彼女たちの距離はおおよそ20m。
電撃は速いが、もちろん手加減なしで放たれる訳ではないため、トップスピードとはいかないだろう。
LEVEL5の“空力使い”たる百合子の高速回避の方が速いかも知れない。
しかし、百合子の余裕もここまでだった。
「そうね…」
麻琴は、電撃を使えるが、“電撃使い(エレクトロマスター)”ではない。
「なら…」
シュンッという音と共に、麻琴の姿が百合子の視界から消える。
「どこ?」
「ここ」
パシッと百合子の肩に背後から手が置かれる。
「あ…」
恐る恐る振り返ると、麻琴が右手を肩に置いていた。
左手の紫電はそのままである。
「“空間移動(テレポート)”とかズルくない?」
「LEVEL5の能力使ってスカート捲りするアンタには言われたくない」
明るく喋る百合子だったが、彼女の身体を大量の冷や汗が伝う。
(ヤバい…。ちょっとやりすぎたかな…)
「さてと…」
そんな百合子に、麻琴はとてもにこやかな顔を向ける。
詩菜からの隔世遺伝だろうか、すごく怖い。
「待って、待って、麻琴の電撃とか食らったら私死んじゃうかも…」
「大丈夫よ…」
麻琴の台詞に、ほんの少しだけ減刑を期待する百合子。
「ちゃんと手加減するから」
淡い希望は脆くも崩れ去った。
麻琴に“触れられ”ているからには、能力を使って脱出することも叶わない。
(うん、今度からスカート捲りに能力を使うのはやめよう。ちゃんと手で…)
百合子は覚悟を決めて、どうでもいいことを心に誓うのだった。
そんな時、ドカーンッという轟音が辺りに響き、カラフルな爆煙が巻き上がった。
「そんくらいにしとけば?麻琴」
煙の中心から、カチューシャをつけた少女が現れる。
「芹菜…」
(助かった…)
「いくらなんでも、本当に電撃浴びせることもないと思うけど?」
「ハア…、わかったわよ~」
少女に促されて麻琴は百合子から手を離す。
「うんうん。素直な麻琴はいい麻琴。やっぱりいい根性してるわ」
「何じゃそりゃ?」
カチューシャの彼女の名は削板芹菜。
削板軍覇と削板(旧姓:雲川)芹亜の娘。
父親譲りで解析不能かつ強大な能力を宿した、LEVEL5の“原石”。
今し方、空から降ってきて、ド派手な着地を決めたのも能力によるものだ。
そして、やっぱり麻琴と百合子の同級生である。
「おお~!芹菜ー!心の友よ~!」
そんな彼女に百合子は大袈裟な台詞を発しつつすり寄る。
まったく反省の色は窺えなかった。
「やっぱ、灼いといた方がよかったかな…」
「灼くくらいでコイツの性癖が治れば苦労しないけど?」
「それもそうよね…」
「「ハア…」」
「ちょっと、ちょっと!何よ、2人して私を変態みたいに…」
「事実そうだけど?」
「毎日、毎日、飽きもせずに、女の子のスカート捲るようなアンタが変態じゃなくて何なのよ?」
「チッチッチ。お2人さん、わかってないなあ。私がスカートを捲るのはね、女の子のパンツに興味があるからじゃなくて…」
「さっさと行こ。理上(みちたか)と督利(まさとし)がいつもの場所で待ってるけど?」
「そうなの?じゃあ急がないと」
「聞いてよ!」
百合子がスカート捲りについて熱く語ろうとするも、麻琴と芹菜は耳を貸さずにとっとと歩き出した。
そして、“いつもの場所”で女子たちの到着を待つ男子が2人。
「遅ぇな…」
腕時計を見やりながらボヤく茶髪の少年の名は垣根督利。
垣根帝督と垣根(旧姓:初春)飾利の息子。
能力は父親と同じ、LEVEL5の“未元物質(ダークマター)”。
「どうせ、百合子が何かやらかしたんだろ?そんなイラつかなくたってすぐ来るって」
督利を宥める少年の名は浜面理上。
浜面仕上と浜面(旧姓:滝壺)理后の息子。
能力はLEVEL0。
2人とも長点上機学園中等部1年生である。
「お待たせ~」
理上の言葉が正しかったと証明するかのように、麻琴の声が聞こえた。
「ん?」
しかし、周りを見渡しても彼女の姿が見えない。
「まさか…」
イヤな予感がして視線を上へ向けると、3人の女子が空から落ちてきた。
「ヤッホー」
「ん~、このスリルがたまらないけど!」
「俺がキャッチするのを前提に降ってくるな」
“未元物質”の羽で百合子と芹菜の2人を受け止めた督利が彼女らに毒づく。
「キャーッ!」
「ぐほっ!」
そして、LEVEL0の理上は腕力のみで麻琴をキャッチする。
その際、2人の顔が最接近したために理上が赤くなったのだが、麻琴はまったく気づいていない。
理由は…“上条”だからとだけ言っておこう。
「お前ら、お嬢様学校に通ってるんじゃなかったのかよ?」
ジェットコースター気分で降ってきた女子たちに理上が問う。
「もうちょっと、おしとやかさとか…」
「無理」
「…だよな」
しかし、一言の元に斬り伏せられてしまった。
「まあまあ、変わらないってのもいいことだと思うけど?」
「うんうん、芹菜はいいこと言うねえ」
「そういうもんか?」
「そういうもんなの」
「だからってアレはないだろ?」
「いいじゃん、面白かったし」
「受け止める方の身にもなってくれ」
「何よ、理上。根性が足りないけど?」
「そうだよ。督利は2人も受け止めたのに、アンタは麻琴だけでしょ?」
「俺は“無能力者”だ!」
そんな理上に芹菜が耳打ちする。
「あんまり聞き分けがないと、麻琴を抱きしめて真っ赤になってたって本人に言っちゃうけど?」
「ごめんなさい。いつまでも今のまま、元気いっぱいの女の子でいて下さい」
「うん、わかればいいけど」
「どうしたの?2人してコソコソ…」
「な、何でもねえよ!」
芹菜は、母親と同じく策士としての頭角を現しつつあった。
理上は、父親と同じく苦労人となる兆しを見せつつあった。
「そんなことより…」
理上を見かねた督利が話題を変える。
「これからどこ行く?」
「ゲーセンでいいんじゃない?」
「うん」
「私も異存ないけど」
「決まりだな」
麻琴が答えて百合子と芹菜が和し理上が纏めた。
「それじゃあ、行く前に金下ろさねえとな」
「あっ、私もだ」
そんなこんなで、幼なじみ5人組は近くにあった郵便局へと向かった。
かくして、場面は冒頭へと繋がる。
「全員、手ぇ挙げろ!」
覆面を被った男が拳銃を振り回して客を威嚇する。
彼ら程度の武装ならば、超能力者3人を有する主人公一行がボコボコに出来そうなところなのだが、残念ながらそうは問屋が卸さなかった。
「ぐっ…」
督利、百合子、芹菜の3人が頭を押さえて蹲っている。
「“キャパシティダウン”か…」
外に停まっている、犯人たちのものと思しきバンに目を遣った理上が口を開いた。
これで超能力者はアテにできない。
無能力者である理上は動けるが、人質がいる中で複数人を相手にするのは、目に見えて分が悪い。
最早、打つ手はないように思われた。
「それじゃあ、私の出番ね」
そんな中、黒髪を振り乱して犯人たちの前に飛び出した少女がいた。
上条麻琴だ。
「おい、ガキ!撃たれたくなかったら、大人しくしてろ!」
犯人たちのうちの1人が彼女に拳銃を向ける。
しかし、麻琴からは微塵の恐れも感じられなかった。
「撃つ?どうやって?」
「はあ?何言ってんだよ?」
呆れた声を出しつつ、拳銃を見せつけるように前に突き出す。
「なっ!」
次の瞬間、シュンッという音を残して、すべての銃が犯人たちの手の中から消えた。
「よっと!」
「ナイスキャッチ!」
見ると、すべて理上の手の中に収まっている。
「“物質移動(アポート)”!?」
「能力は封じたはずじゃなかったのか!」
「冗談じゃねえぞ!」
犯人たちが口々に驚きの声を発する。
そして、その隙に麻琴が動いた。
「チェイサー!」
「どぁっ!」
“常盤台中学内伝おばあちゃん式ななめ45度からの打撃による故障機械再生法”により、1人の意識を刈り取る。
「この野郎!」
それを見た犯人たちが一斉に麻琴に襲いかかる。
「なめんじゃないわよ!」
ビリビリッ!
「うぎゃぁ!」
しかし、今度は“電撃の槍”を受けて気絶した。
「歯ごたえないわね」
局内を制圧した麻琴が手を髪にくぐらせつつ呟く。
そんな彼女に、理上が急した声をかける。
「麻琴、外だ!」
「え?」
麻琴が外を見やると、キャパシティダウンを積んだバンから、犯人の仲間が彼女を狙って銃を撃った。
ガラスを突き破って弾丸が彼女に迫る。
電流による“磁力操作”では鉛玉を止められない。
“電撃使い”には万事休すだ。
しかし、彼女は電撃使いではない。
キュイーンッ!
弾丸が彼女に当たったと思われた瞬間、甲高い音が鳴り響き、進む方向を180度転換した。
そして、弾丸はそのまま銃口へと吸い込まれる。
「ぐぁ!」
手の中で銃が弾け、射手は苦悶の声をあげつつ右手を押さえる。
「ねえ、アンタ…」
そんな彼に、麻琴が声を掛ける。
「降りた方がいいわよ」
言い終えた瞬間、彼女の背から光を放つ翼が生えた。
「はあ!」
男がバンから降りた直後、彼女は翼でバンを薙ぎ、爆砕させた。
「相変わらず、無茶するねえ…」
キャパシティダウンが消し飛んだため、頭痛がやんだ百合子が麻琴に声をかける。
「まったくだ」
「まあ、見てて飽きないけど」
「そう…かな?」
麻琴は疑問符を付けて言葉を返したが、実際のところ無茶苦茶である。
“座標移動(ムーヴポイント)”、“電撃使い(エレクトロマスター)”、“一方通行(アクセラレータ)”、“未元物質(ダークマター)”というトンデモ技のコラボレーションを見せてくれたのだから。
「嘘だろ…。あの都市伝説、本当だったのか…」
そんな時、犯人の1人が目を醒ました。
尤も、息も絶え絶えなため、とても反撃はできそうになかったが。
「2人目の統括理事長の娘は、常盤台中学の1年生で、あらゆる能力を打ち消して自分のものにする“多重能力者(デュアルスキル)”…」
ぜえぜえと荒い息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「…“幻想喰い(イマジンイーター)”!」
強盗犯がナイス説明口調(≧∇≦*)
麻琴の力については次話以降で追々明らかにしていきます。