とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

2 / 26
第1章 時間遡行者・上条麻琴
2話 上条麻琴、12歳


2033年9月18日

 

 

 

 

第7学区・とある郵便局

 

 

 

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

 

「キャーッ!」

 

 

「オラ!静かにしやがれ!」

 

 

局内に銃声と悲鳴と怒号が響く。

 

 

 

え~…、私こと上条麻琴は、現在進行形で強盗に巻き込まれております。

 

 

うん、意味がわからない。

 

でも、取りあえず言っとくとしますか。

 

読者の皆さん、ご唱和下さい。

せ~の…

 

 

「不幸だ~」

 

 

 

 

少しだけ時は遡り…

 

 

 

 

第7学区・常盤台中学女子寮前

 

 

 

 

「ん~!」

 

常盤台中学の制服に身を包んだ少女が、頭の上で手を組み、身体を伸ばしていた。

 

母親が同年代だったころと瓜二つな顔立ちと髪型、そして父親譲りの黒髪の彼女の名は上条麻琴。

現在12歳にして、常盤台中学1年生である。

 

日曜日の朝なので、これから街へ繰り出そうかというところである。

 

「さてと、百合子たち誘ってみようかな」

 

独り言ちながら、少女は携帯電話をポケットから取り出した。

 

次の瞬間、突風が発生し、少女のスカートを捲り上げた。

 

「ひゃっ!」

 

慌てて押さえつけるが、時すでに遅く、犯人の目的は達せられてしまった。

 

「ふむふむ…」

 

「百合子ー!」

 

麻琴は、感慨深げに顎に手を置いて何度も頷いている同級生を睨み付ける。

 

 

母親譲りの黒髪ロングを、花を象った髪飾りでとめ、麻琴と同じ制服を着た彼女の名は佐天百合子。

佐天涙子と一方通行の娘にして、常盤台中学の1年生。

LEVEL5の“空力使い(エアロハンド)”である。

 

 

「いやあ、麻琴がちゃんとパンツ履いてるか心配でさあ…」

 

「アンタに心配されなくたって、ちゃんと履いてるわよ!」

 

「アハハハハッ」

 

スカート捲りの常習犯たる彼女は、いくら麻琴が睨もうが叫ぼうが笑みを崩さない。

彼女を止められるのは、女子寮の“寮監”くらいのものだろう。

 

「麻琴は今日は白か…」

 

「アンタいい加減にしなさいよ!」

 

懲りずに言う百合子に堪忍袋の緒が切れかけた麻琴は、左手に紫電を纏って威嚇する。

 

「おお?電撃?」

 

しかし百合子は尚も面白そうに続ける。

 

「この距離だよ?当たらないと思うなあ…」

 

彼女たちの距離はおおよそ20m。

電撃は速いが、もちろん手加減なしで放たれる訳ではないため、トップスピードとはいかないだろう。

LEVEL5の“空力使い”たる百合子の高速回避の方が速いかも知れない。

 

しかし、百合子の余裕もここまでだった。

 

「そうね…」

 

麻琴は、電撃を使えるが、“電撃使い(エレクトロマスター)”ではない。

 

「なら…」

 

シュンッという音と共に、麻琴の姿が百合子の視界から消える。

 

「どこ?」

 

「ここ」

 

パシッと百合子の肩に背後から手が置かれる。

 

「あ…」

 

恐る恐る振り返ると、麻琴が右手を肩に置いていた。

左手の紫電はそのままである。

 

「“空間移動(テレポート)”とかズルくない?」

 

「LEVEL5の能力使ってスカート捲りするアンタには言われたくない」

 

明るく喋る百合子だったが、彼女の身体を大量の冷や汗が伝う。

 

(ヤバい…。ちょっとやりすぎたかな…)

 

「さてと…」

 

そんな百合子に、麻琴はとてもにこやかな顔を向ける。

詩菜からの隔世遺伝だろうか、すごく怖い。

 

「待って、待って、麻琴の電撃とか食らったら私死んじゃうかも…」

 

「大丈夫よ…」

 

麻琴の台詞に、ほんの少しだけ減刑を期待する百合子。

 

「ちゃんと手加減するから」

 

淡い希望は脆くも崩れ去った。

 

麻琴に“触れられ”ているからには、能力を使って脱出することも叶わない。

 

(うん、今度からスカート捲りに能力を使うのはやめよう。ちゃんと手で…)

 

百合子は覚悟を決めて、どうでもいいことを心に誓うのだった。

 

 

そんな時、ドカーンッという轟音が辺りに響き、カラフルな爆煙が巻き上がった。

 

「そんくらいにしとけば?麻琴」

 

煙の中心から、カチューシャをつけた少女が現れる。

 

「芹菜…」

 

(助かった…)

 

「いくらなんでも、本当に電撃浴びせることもないと思うけど?」

 

「ハア…、わかったわよ~」

 

少女に促されて麻琴は百合子から手を離す。

 

「うんうん。素直な麻琴はいい麻琴。やっぱりいい根性してるわ」

 

「何じゃそりゃ?」

 

カチューシャの彼女の名は削板芹菜。

削板軍覇と削板(旧姓:雲川)芹亜の娘。

父親譲りで解析不能かつ強大な能力を宿した、LEVEL5の“原石”。

今し方、空から降ってきて、ド派手な着地を決めたのも能力によるものだ。

そして、やっぱり麻琴と百合子の同級生である。

 

 

「おお~!芹菜ー!心の友よ~!」

 

そんな彼女に百合子は大袈裟な台詞を発しつつすり寄る。

まったく反省の色は窺えなかった。

 

「やっぱ、灼いといた方がよかったかな…」

 

「灼くくらいでコイツの性癖が治れば苦労しないけど?」

 

「それもそうよね…」

 

「「ハア…」」

 

「ちょっと、ちょっと!何よ、2人して私を変態みたいに…」

 

「事実そうだけど?」

 

「毎日、毎日、飽きもせずに、女の子のスカート捲るようなアンタが変態じゃなくて何なのよ?」

 

「チッチッチ。お2人さん、わかってないなあ。私がスカートを捲るのはね、女の子のパンツに興味があるからじゃなくて…」

 

「さっさと行こ。理上(みちたか)と督利(まさとし)がいつもの場所で待ってるけど?」

 

「そうなの?じゃあ急がないと」

 

「聞いてよ!」

 

百合子がスカート捲りについて熱く語ろうとするも、麻琴と芹菜は耳を貸さずにとっとと歩き出した。

 

 

 

そして、“いつもの場所”で女子たちの到着を待つ男子が2人。

 

「遅ぇな…」

 

 

腕時計を見やりながらボヤく茶髪の少年の名は垣根督利。

垣根帝督と垣根(旧姓:初春)飾利の息子。

能力は父親と同じ、LEVEL5の“未元物質(ダークマター)”。

 

 

「どうせ、百合子が何かやらかしたんだろ?そんなイラつかなくたってすぐ来るって」

 

 

督利を宥める少年の名は浜面理上。

浜面仕上と浜面(旧姓:滝壺)理后の息子。

能力はLEVEL0。

 

2人とも長点上機学園中等部1年生である。

 

 

「お待たせ~」

 

理上の言葉が正しかったと証明するかのように、麻琴の声が聞こえた。

 

「ん?」

 

しかし、周りを見渡しても彼女の姿が見えない。

 

「まさか…」

 

イヤな予感がして視線を上へ向けると、3人の女子が空から落ちてきた。

 

「ヤッホー」

 

「ん~、このスリルがたまらないけど!」

 

「俺がキャッチするのを前提に降ってくるな」

 

“未元物質”の羽で百合子と芹菜の2人を受け止めた督利が彼女らに毒づく。

 

「キャーッ!」

 

「ぐほっ!」

 

そして、LEVEL0の理上は腕力のみで麻琴をキャッチする。

 

その際、2人の顔が最接近したために理上が赤くなったのだが、麻琴はまったく気づいていない。

理由は…“上条”だからとだけ言っておこう。

 

 

 

「お前ら、お嬢様学校に通ってるんじゃなかったのかよ?」

 

ジェットコースター気分で降ってきた女子たちに理上が問う。

 

「もうちょっと、おしとやかさとか…」

 

「無理」

 

「…だよな」

 

しかし、一言の元に斬り伏せられてしまった。

 

「まあまあ、変わらないってのもいいことだと思うけど?」

 

「うんうん、芹菜はいいこと言うねえ」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんなの」

 

「だからってアレはないだろ?」

 

「いいじゃん、面白かったし」

 

「受け止める方の身にもなってくれ」

 

「何よ、理上。根性が足りないけど?」

 

「そうだよ。督利は2人も受け止めたのに、アンタは麻琴だけでしょ?」

 

「俺は“無能力者”だ!」

 

そんな理上に芹菜が耳打ちする。

 

「あんまり聞き分けがないと、麻琴を抱きしめて真っ赤になってたって本人に言っちゃうけど?」

 

「ごめんなさい。いつまでも今のまま、元気いっぱいの女の子でいて下さい」

 

「うん、わかればいいけど」

 

「どうしたの?2人してコソコソ…」

 

「な、何でもねえよ!」

 

芹菜は、母親と同じく策士としての頭角を現しつつあった。

理上は、父親と同じく苦労人となる兆しを見せつつあった。

 

「そんなことより…」

 

理上を見かねた督利が話題を変える。

 

「これからどこ行く?」

 

「ゲーセンでいいんじゃない?」

 

「うん」

 

「私も異存ないけど」

 

「決まりだな」

 

麻琴が答えて百合子と芹菜が和し理上が纏めた。

 

「それじゃあ、行く前に金下ろさねえとな」

 

「あっ、私もだ」

 

そんなこんなで、幼なじみ5人組は近くにあった郵便局へと向かった。

 

 

 

 

かくして、場面は冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

「全員、手ぇ挙げろ!」

 

覆面を被った男が拳銃を振り回して客を威嚇する。

 

 

彼ら程度の武装ならば、超能力者3人を有する主人公一行がボコボコに出来そうなところなのだが、残念ながらそうは問屋が卸さなかった。

 

 

「ぐっ…」

 

督利、百合子、芹菜の3人が頭を押さえて蹲っている。

 

「“キャパシティダウン”か…」

 

外に停まっている、犯人たちのものと思しきバンに目を遣った理上が口を開いた。

 

これで超能力者はアテにできない。

無能力者である理上は動けるが、人質がいる中で複数人を相手にするのは、目に見えて分が悪い。

 

 

最早、打つ手はないように思われた。

 

 

「それじゃあ、私の出番ね」

 

そんな中、黒髪を振り乱して犯人たちの前に飛び出した少女がいた。

上条麻琴だ。

 

 

「おい、ガキ!撃たれたくなかったら、大人しくしてろ!」

 

犯人たちのうちの1人が彼女に拳銃を向ける。

 

しかし、麻琴からは微塵の恐れも感じられなかった。

 

「撃つ?どうやって?」

 

「はあ?何言ってんだよ?」

 

呆れた声を出しつつ、拳銃を見せつけるように前に突き出す。

 

「なっ!」

 

次の瞬間、シュンッという音を残して、すべての銃が犯人たちの手の中から消えた。

 

「よっと!」

 

「ナイスキャッチ!」

 

見ると、すべて理上の手の中に収まっている。

 

「“物質移動(アポート)”!?」

 

「能力は封じたはずじゃなかったのか!」

 

「冗談じゃねえぞ!」

 

犯人たちが口々に驚きの声を発する。

 

そして、その隙に麻琴が動いた。

 

「チェイサー!」

 

「どぁっ!」

 

“常盤台中学内伝おばあちゃん式ななめ45度からの打撃による故障機械再生法”により、1人の意識を刈り取る。

 

「この野郎!」

 

それを見た犯人たちが一斉に麻琴に襲いかかる。

 

「なめんじゃないわよ!」

 

ビリビリッ!

 

「うぎゃぁ!」

 

しかし、今度は“電撃の槍”を受けて気絶した。

 

 

「歯ごたえないわね」

 

局内を制圧した麻琴が手を髪にくぐらせつつ呟く。

 

そんな彼女に、理上が急した声をかける。

 

「麻琴、外だ!」

 

「え?」

 

麻琴が外を見やると、キャパシティダウンを積んだバンから、犯人の仲間が彼女を狙って銃を撃った。

 

ガラスを突き破って弾丸が彼女に迫る。

 

電流による“磁力操作”では鉛玉を止められない。

“電撃使い”には万事休すだ。

 

 

しかし、彼女は電撃使いではない。

 

 

キュイーンッ!

 

 

弾丸が彼女に当たったと思われた瞬間、甲高い音が鳴り響き、進む方向を180度転換した。

そして、弾丸はそのまま銃口へと吸い込まれる。

 

「ぐぁ!」

 

手の中で銃が弾け、射手は苦悶の声をあげつつ右手を押さえる。

 

「ねえ、アンタ…」

 

そんな彼に、麻琴が声を掛ける。

 

「降りた方がいいわよ」

 

言い終えた瞬間、彼女の背から光を放つ翼が生えた。

 

「はあ!」

 

男がバンから降りた直後、彼女は翼でバンを薙ぎ、爆砕させた。

 

 

「相変わらず、無茶するねえ…」

 

キャパシティダウンが消し飛んだため、頭痛がやんだ百合子が麻琴に声をかける。

 

「まったくだ」

 

「まあ、見てて飽きないけど」

 

「そう…かな?」

 

麻琴は疑問符を付けて言葉を返したが、実際のところ無茶苦茶である。

“座標移動(ムーヴポイント)”、“電撃使い(エレクトロマスター)”、“一方通行(アクセラレータ)”、“未元物質(ダークマター)”というトンデモ技のコラボレーションを見せてくれたのだから。

 

 

 

「嘘だろ…。あの都市伝説、本当だったのか…」

 

そんな時、犯人の1人が目を醒ました。

尤も、息も絶え絶えなため、とても反撃はできそうになかったが。

 

「2人目の統括理事長の娘は、常盤台中学の1年生で、あらゆる能力を打ち消して自分のものにする“多重能力者(デュアルスキル)”…」

 

ぜえぜえと荒い息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 

「…“幻想喰い(イマジンイーター)”!」




強盗犯がナイス説明口調(≧∇≦*)

麻琴の力については次話以降で追々明らかにしていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。