とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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21話 生と死と

2010年8月21日20時30分ごろ

 

 

 

(なンで……)

 

一方通行は呆然としていた。

 

自分でやったことではあるが、なぜ上条麻琴が倒れているのか、彼は理解できなかった。

 

麻琴は自らと同様に“ベクトル変換”の能力を使えるはずだ。

だから、彼はこれまで1度として勝てなかったし、それは今回も同じだと思っていた。

砂利が当たるとは思っていなかったし、まして死んでしまうなどとは思わなかった。

 

(いや待てよ……)

 

そこまで考えた時、一方通行は新たな疑問を見つけた。

 

(じゃあなンで、俺ァコイツを攻撃したンだァ?)

 

勝てるとは思わなかった。

倒せるとは思わなかった。

 

では何故か?

 

簡単なことだ。

 

(止めて欲しかったってのかよ……)

 

結局はそういうことなのだ。

あれだけのことをやっても、あれだけの覚悟を決めても、結局は止めてもらえると期待していた。

その結果、一方通行は“友人”を、恐らくは最初で最後の“友人”を失ってしまった。

 

 

 

そんなことを考えながら、一方通行は自分が地面に倒れていることに気がついた。

見上げる先には右拳を構える少年。そして頬に走る強烈な痛み。

 

(殴られた、のか……)

 

茫然自失。

一方通行は自らの痛みすら、他人事のように感じた。

なぜ、どうやって、少年が反射を破ったのかもどうでもよかった。

このまま、この少年に殴り殺されるのも構わないとさえ思えた。

 

しかし、一方通行はそこでふと立ち止まる。

 

自分は何をしてきた?

自分はこのまま死んで良いのか?

自分はこれから何をしなければならない?

 

一方通行は妹達を殺した。

一方通行は上条麻琴を殺した。

 

その結果、ただ1人、自分が死ぬだけで良いのだろうか?

良いはずがない。

 

なぜ彼女たちは死んだ?

何の為に彼女たちは死んだのだ?

理由は何だった?

原因は何だった?

目的は何だった?

 

 

一方通行のLEVEL6への進化

絶対能力

SYSTEM

神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者

 

 

あるじゃないか、こんな簡単なものが。

 

最初から何も変わらない。

 

後何万体か、妹達を──作り物の人形を──壊すだけで、彼女たちの死に大いなる意味が付けられる。

 

数万体壊すだけ。

それだけじゃないか。簡単じゃないか。

 

 

「く、か……」

 

 

それなら早速始めなければ。

まず邪魔になりそうなコイツを潰して、それからどっかに隠れた妹達を見つけ出して、破壊して……それから、それから……。

 

 

(いいね!やること分かるとやる気が出るねェ!)

 

 

「……きけこかかきくけききこかかきくここ……」

 

一方通行の口から飛び出した奇声と共に吹き荒れた突風で、当麻の身体が空中へと運ばれる。

そのまま遠方に飛ばされ、数mの高さから硬い地面に叩きつけられた。

 

「……くけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかか!!」

 

一方通行は続けて、操車場に吹く風の向きを変換し、一ヶ所にまとめて圧縮していく。

圧縮された空気は火花を散らしながら収束し、プラズマを形成していった。

これを使えば、辺り一帯が丸々吹き飛び、一方通行以外のものは一切合切無事では済まないだろう。

 

「ハハッ!まずは最初の2つだ!まとめてイっちまうかァ!」

 

「一方通行ッ!」

 

その時、一方通行の背後から少女の声が飛んだ。

LEVEL5の第3位“超電磁砲”御坂美琴だ。

コインを備えた右手を突き出し、一方通行を睨み付けながら立っている。

 

しかしながら、超電磁砲とはいえ一方通行の反射を破ることは出来ず、当然跳ね返ったコインは彼女自身を殺すだろう。

美琴も一方通行もそんなことは承知だった。

それ故に、一方通行は邪魔者の排除が叶うために無視し、計画頓挫の僅かな可能性に賭ける美琴も退かない。

 

だが、その一瞬。一方通行が美琴の声に反応したその一瞬を境に、プラズマが乱れを起こした。

 

「アァ?」

 

いや、それは乱れと呼ぶにはあまりに整然としていた。まるでプラズマを安全に消滅させようとするかのように、規則正しくその乱れは広がっていった。

 

「俺の演算に狂いはねェ!風の動きにだっておかしなところはねェ!いったい何が……」

 

あからさまに動揺し出した一方通行だったが、その時、何者かの手が彼の足を掴んだ。

 

「あーくん……」

 

一方通行が視線を上空のプラズマから、自らの足元へと下げていく。

そこに彼女はいた。ベクトル変換による操作に介入してプラズマを分解し、反射を打ち消して彼の足を掴んだ彼女が。

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

傷を受けた背中は血に染まって真っ赤だし、内臓が損傷したためか口からも血を垂らしているし、明らかに体力を失って立てないでいるし、ボロボロで一歩間違えば死んでしまいそうなのに、上条麻琴は、いつも通りの笑顔で一方通行を見上げていた。

 

「うあァァァァァァァァァッ!!」

 

もう感情が自身の制御を離れた一方通行の絶叫が、プラズマ分解で再び静寂を取り戻した操車場を満たす。

 

そこへ、もう1人の血だらけの人間が飛び込んで来た。

突風で飛ばされ地面に叩きつけられた上条当麻は、絶叫する一方通行の前で右拳を振りかぶる。

 

「よくわかんねぇけど、取りあえず眠っとけ!」

 

一方通行の意識は暗転した。

同時に、当麻と麻琴の2人も意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

冥土帰しの病院

 

 

 

 

「ゥ、ァ……」

 

病院のベッドの上で、一方通行は目を覚ました。

 

「ここは……」

 

“何処だ?”と続く前に、一方通行は自身の脚にかかっている重みに気がついた。

視線を下げると、上条麻琴が、掛け布団に頭を預けたまま眠っていた。

手を伸ばそうとして、途中でやめる。

 

「ケガならもう治してあるね」

 

いつの間にか、病室の入り口に、カエル顔の男が立っていた。

 

「傷痕も残らないように、完全にね」

 

「誰だ?」

 

「ボクはここの医者だね。昨日、彼女と彼を執刀したのはボクだ」

 

「それでェ?感謝しろってかァ?」

 

「いやぁ。この程度のケガ人ならいつものことだしねえ、残念ながら。特に彼の方は今月の頭には右腕を切り落とされて担ぎ込まれてきたところだよ」

 

上条当麻のことが少し不憫に思えた一方通行であった。

 

「ところで、君に会わせたい子がいるんだけどねぇ、構わないかい?」

 

「あァ?」

 

「ふん……。やっぱりいきなり会わせるのも難だし……、まずは、手っ取り早くステップワンだね」

 

「はァ?いったいなンの……」

 

「絶対能力者進化計画」

 

突然、真面目な声色になったカエル医者に、一方通行は二の句を止める。

 

「君はそれに参加した──と言うより“させられた”の方が適切かな?──。そして“あの子”を殺めてしまった。そう思っているね?」

 

「あァ……」

 

「それが……つまり、絶対能力者進化計画“第00001次実験”が行われたのは、いつのことだったかな?」

 

「……8月、2日だ……」

 

「そして、昨日行われたのが……」

 

「第00002次実験だ」

 

「ふん……。それだけ確認すればもう大丈夫かな……」

 

「なンの話だ……」

 

「彼の右腕をくっつけたりしていた頃、胸に銃創がある患者が運び込まれて来てねぇ……」

 

「無視かよ……」

 

「失血がひどくてもう仮死状態だったんだけど、なんとか持ち直してね」

 

「だから、それが俺になンの関係があるってン……」

 

毒づく一方通行の言葉が途切れる。カエル医者の隣りから現れた人物を見たからだ。

シャンパンゴールドに近い茶色の髪と瞳に常盤台中学の制服。

御坂美琴に瓜二つだが、決して彼女と同一ではない。

一方通行が殺したはずのミサカシスターズ・検体番号00001号がそこに立っていた。

 

「その患者がこの子さ。これで君の抱えていたものも、チャラとまではいかないだろうが、まあ取り返しがつくようにくらいはなったんじゃないかい?」

 

そこまで言うと、カエル医者は歩き始めた。

 

「さて……。後は当事者間の問題だ。ボクはここで失礼するよ。それから君もいい加減に起きなさい」

 

「アハハ……、寝たふりバレてましたか?」

 

「ボクをバカにしてはいけないよ」

 

などと言いながら、カエル医者は病室を後にした。

 

「ここから先は自分でやった方がいいだろうねぇ……」

 

数歩進んで病室の声が聞こえなくなったところで独り言ちる。

 

「ボクは医者だ。どれだけ傷ついた患者でも、生きてさえいれば必ず見捨てず救ってみせる。精神的なケアまで含めてね。でも今回は出来過ぎだよ“アレイスター”。君の趣味の悪いおふざけも大概にしておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ……。君を納得させるならば、落としどころはこんなところかな?上条麻琴。さて、次は家族水入らずで楽しんで来るといい……」




絶対能力者進化計画篇終了です。

一方通行は、以前ひどい目に遭わせたので、今回はかなりご都合主義的にハッピーエンドにしてみました。
まあ、麻琴がいたら実験なんか出来ませんしね。

次話からは御使堕し篇です。
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