とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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23話 女の友情、男の友情

「ん………」

 

 神裂火織は小さく声を漏らして目を開けた。ぼやけた意識の中で体の下に畳の感触を覚える。

 

「私は……」

 

 その時、部屋の扉が開いて上条麻琴が現れた。

 

「あれ、もう起きたんだ。大丈夫? どこか痛むところとかは?」

 

 そこで神裂は思い出した。

 そう言えばコイツに気絶させられたんだった。

 

「ちゃんとそこんところは考えてやったつもりなんだけど」

 

「ええ。問題はないようです」

 

 身を起こしながら応える。警戒心は崩さないまま。

 

「それは良かった。ところで火織さんが寝てる間に元春くんから事情は聞いたわよ。火織さんが疑うのも当然だけど、あいにく私も当麻くんも無実よ」

 

「………。詳しい説明を求めても?」

 

「もちろん」

 

 麻琴は神裂が眠っていた──眠らせていた?──間に土御門と交わした話の内容を伝える。

 

「………なるほど。つまり、幻想殺しにより魔術を使用できない上条当麻には、御使堕しを実行することは不可能だ、と」

 

「うん」

 

「しかし、その説明ではあなたの容疑を晴らすには不足では?」

 

「そうねぇ……」

 

 一瞬間を取って、麻琴は言った。

 

「私が犯人だったら、さっきので火織さんを確実に殺しておくと思わない?」

 

「………」

 

「………」

 

 二人の視線が交錯する。

 そして、

 

「まあ、ひとまずは良しとしておきましょう。あなた方にはインデックスの件での借りもあることですし」

 

「フフッ、よかった。それにしても火織さんも災難ね。ステイルくんに見えるんだっ、……て?」

 

 言った瞬間、麻琴は、部屋の気温が何度か下がったかのような錯覚に襲われた。原因は言わずもがな、負のオーラを全開にしている、目の前の聖人だ。

 

「はい、世間から見ると私は身長2m強の赤髪長髪の大男に見えるそうですね。おかげで手洗いや更衣室に入っただけで警察を呼ばれるし電車に揺られているだけで痴漢の間違われましたしええ本当に驚きました初めは世界の全てが私にケンカを売っているように見えてしまって本当にどうしたものかと」

 

 恐ろしく平坦な口調で語った神裂の瞳には光が宿っていない。

 

(教会とか世界の危機とか以前に、焦ってた理由はこっちか……。気絶させてでも止めといて良かった良かった)

 

 心のうちで密かに頷く麻琴であった。深い考えもなしに楽しみ半分にやったというのは内緒だ。

 そんな間にも神裂からはどす黒いオーラが垂れ流しにされている。

 

(さてそろそろコレもどうにかしないと)

 

「火織さん、あのね……」

 

 その時、部屋の扉が再び開けられた。

 

「おや。もう目を覚まされましたか。いや、良かった良かった」

 

 入ってきたのは当麻の父にして麻琴の祖父、上条刀夜だった。

 

「当麻の父です、初めまして。神裂さんとおっしゃいましたか。いやあ、麻琴ちゃんといい、当麻にこんな美人な知り合いがいるとは」

 

「いえ、そんな……」

 

 日本人らしく謙遜しようとしたところで、ふと気がついた。

 

(女として見られている?)

 

 そっと麻琴に視線を向けると、無言で親指を立ててウインクを返された。

 

『刀夜さん、ちょっと~』

 

「あぁ、は~い。今行くよ、母さん。神裂さん、熱中症というのは案外侮れないというから安静にね。あ、お近づきの印にエジプトのお土産をあげよう。はいスカラベ。それじゃあ、お大事に」

 

 階下から聞こえた詩菜の声に刀夜は部屋を後にした。

 

「上条麻琴……」

 

「火織さんの姿を、身長170cm台後半で、黒髪のポニーテールが腰まで届いていて、肌はお姫様みたいに白くて、美人な大和撫子の姿に“誤認”するようにしておいたから、もうトイレも満員電車も大丈夫。当麻くんの右手には気を付……」

 

「上条麻琴ッ!」

 

「うわぁ!」

 

「あなたには大きな恩ができました。疑うなどして申し訳ない。いつか必ず、あなたの危機には駆け付けると約束します」

 

 麻琴の手を両手で包んだ神裂は何度となくそれを千切れんばかりに上下させた。

 

 

 

 

 

 その日の夜。土御門と当麻が一緒にいた。

 

「……、ごめんな。カミやん」

 

 何が? と当麻が答えると土御門はわずかに寂しげな顔を見せた。

 

「実はカミやんが今まで色々ピンチだったことは知ってたんだ。錬金術師の砦に向かったこととか、2万人の虐殺実験とか、色々だぜい。それを知ってて見殺しにしてきた。だからゴメンって言ってんだにゃー」

 

「……、」

 

「やっぱ、『力がないから何もできない』のと『力があるのに何もしない』ってのは全然違うぜよ。これでも土御門さんも色々悪かったと思ってるんですたい」

 

「いいんじゃねーの、別に」

 

 どこか疲れたような土御門に、しかし当麻は全くいつも通りにそう言った。

 わずかに驚いたような顔をした土御門だったが、当麻はそれ以上何も言わなかった。慌てて取り繕うように何かを説明する必要もない、と思ったからだ。

 土御門はどこまで行っても土御門で、それが変化する事はない。結局、当麻のとって土御門元春が寮の隣人でクラスメイトである事には変わりないのだから。

 そっか、と。土御門は笑った。

 

「そんなら、いっかにゃー。んじゃ、ブルーなイベントはここまで。こっからが本題ですたい」

 

「おう!」

 

 2人の男子高校生の瞳に炎が宿った。

 彼らは今とある重要な場所にいる。海の家『わだつみ』の裏手。そこにある浴場の前だった。そして、現在時点でその中には神裂と麻琴がいる。

 すなわち、

 

「のぞき♪ のぞき♪ 可愛いねーちんゲットだぜーい」

 

「ここで行かなきゃ男じゃねえよ!」

 

 因みに当麻に限って言うならば、自分の娘の入浴シーンを覗こうとするという、何とも微笑ましいというべきか、犯罪チックというべきか、そんな状況になっているのだが、当人はそんなことは知らない。

 彼らは思春期の男子として極めて健全な欲求に従ってここにいる。

 そして、浴場の扉にその手を────

 

 

 

 

 

「何をしているのです?」

「何やってるの?」

 

 

 

 

 

 ────かける前に、彼らの肩に手が置かれた。

 

 ゼンマイが切れかけた人形のような動作で振り返ると、そこには現在浴場にいるはずの2人の姿が。

 どうやって後ろを取ったのか尋ねたいところではあるが、とてもそんなことが許されるような空気ではない。

 沈黙の重圧。

 しかし、黒曜石のように黒く輝く4つの瞳は言っている。

 

『最後に何か言う事は?』

 

「し、───」

 

 謝っても言い訳しても絶対に殺される、と混乱の極みに達した当麻は思わず、

 

「───新感覚日本刀&電撃つっこみアクション!?」

 

 直後、黒鞘と紫電にて一閃。当然、土御門にもキッチリと。

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