とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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明けましておめでとうございます。
今年も私の作品を何卒よろしくお願いします。


24話 お土産術式

「黙れ黙れ黙りやがれ! 今日は川の字で寝ます! 必殺☆家族のキズナ大作戦!」

 

 当麻は両親──母親の見た目はインデックス──の部屋に突入し、夫婦──妻の見た目は14才の少女──の夜の営みを阻止するべく行動を開始した。今晩は父親と神経をすり減らす消耗戦を繰り広げることだろう。

 そんな様子を見た麻琴は感傷的な面持ちで浜辺にいた。

 

(やっぱりいいな、ああいうの………)

 

 寄せては返すさざ波の音を聞きながら麻琴はその場に腰を下ろした。

 

(もう帰れないのかな……)

 

 ネガティブな考えが頭を覆い始めた麻琴を、遠方から眺める人物がいた。

 それは赤いシスターだった。

 歳にして13歳の少女。緩やかにウェーブする長い金髪に月明かりを反射するような白い肌。可愛らしい容姿の少女だったが、身につけているモノ全てが異様だった。本来なら修道服の下に着るインナースーツの上に外套を羽織っただけ。インナースーツと言ってもほとんどワンピース型の下着みたいなもので、もはや華奢な体のラインを誇示しているようにすら見える。しかもあちこちに黒いベルトや金具がついていて、拘束衣としても使えるように作られているらしい。さらには太い首輪から伸びた手綱《リード》、腰のベルトには金属ペンチや金槌、L字の釘抜きやノコギリなどが刺さっていた。

 それらは決して工具ではない。人肉を潰し人骨を削り人体を切断するために用いられる、魔女裁判専用の拷問具だ。良く見れば、工具と違い細かい改造が施されているのが分かる。

 無数の拷問具に彩られた少女は、冷や汗を垂らしていた。今、視線を注いでいる先にいる少女を本能的に怖れているのだ。

 見た目はただの少女なのに、その顔に浮かぶのはその年頃にありがちな、悩み事を抱えた表情なのに、あの少女の存在が異質だと、あの少女の存在は驚異だと、近づくことすら忌避すべきものだと、なぜかこれ以上ないほどはっきりと訴えかけてくるものがあった。

 御使堕しの原因の調査だとか一刻も早い事態の収拾だとか、そういう理屈や理性を遥かに上回って、この場から離れろと、彼女の本能は告げていた。

 しかし、彼女には使命があった。そして、その達成のためには目の前の問題に向き合う必要があると分かってもいた。

 葛藤の末、少女はその場に留まった。すぐにでも接触する必要があることは理解できていたが、それを行動に移すことは危険だとも理解していた。

 それゆえの監視。接近せず、しかし目は離さない。

 この判断はおそらく正しいものであっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 爽快感溢れる夏の早朝。上条父子は目の下にドス黒い隈を作っていがみ合っていた。どうやら母親役《インデックス》の体を守り通すことはできたようだ。

 夏バテです、わたくしめのことは放置して遊びに行ってください、という当麻の言葉を受けて上条家の一族(+上条家の居候シスター)が砂浜へ飛び出していくと、見計らっていたように神裂と土御門が海の家『わだつみ』へとやってきた。

 

「お疲れさんだにゃー、カミやん」

 

「おう……。ったく、あのエロ親父、油断も隙もねえ……」

 

 当麻は目の下の隈を擦った。

 

「これじゃあ、作戦会議どころじゃなさそうだにゃー」

 

「刀夜さんには悪気はないんだけどね」

 

「まったく……。よもやこんなところでインデックスに危機が迫ろうとは……」

 

 神裂はやれやれと言いたげに頭を振った。

 

「いっそのこと、刀夜さんも女の子にでも入れ替わってくれてれば、そんな心配は要らなかったのにねえ」

 

 この何気ない麻琴の言葉が波紋を呼んだ。

 

「それはそれで見たくねえけどな……、あれ?」

 

 当麻が気づいた。

 

「そう言えば、……」

 

 あの日、あの時、あの場所で、白い破壊の羽が部屋を覆い尽くす中、麻琴は当麻を救ってみせた。だから当麻に欠落はない。故に当麻は自らの父親の顔を覚えていた。

 

「入れ替わって、ない……?」

 

「「「!!!」」」

 

 当麻の言葉に三人が色めき立った。

 

 

 

 一つ彼女の名誉のために言うならば、麻琴が知っている上条刀夜は未来の上条刀夜である。現在の上条刀夜と結び付かなくとも責めることはできないだろう。

 

 

 

 ともあれ四人は行動を開始した。

 タクシーを拾って上条家へと向かう。タクシーのドライバー──御使堕しの所為で見た目は女子高生──は、七天七刀を気にしていたが、物が物だけに何も言わなかった。

 20分程度で到着し、こっそり刀夜の財布から失敬した鍵を使って家の中に入る。

 まずは事実確認を、とやってきたものの、家には大量の土産物意外にはこれといって不審な点はなかった。巨大な魔法陣か埃を被った魔道書の類でも出てくるのではないか、と心配していた当麻はホッと胸をなで下ろしたが、土御門の様子は違っていた。

 

「あっちゃー……。こりゃあマズいぜい」

 

 一通り家の中を見て回った後、土御門は三人にそう言った。

 

「取りあえず、何も触るな。一旦出た方がいい」

 

 真面目なトーンになった土御門に促され、一同はひとまず庭に出た。

 

「な、なあ、怪しいもんはなかったし、やっぱり父さんが入れ替わってないのは、何か別の……」

 

「いいや、当たりだよ。犯人は刀夜だ。そして儀式場はこの家」

 

 土御門は言い切った。

 その時、視界の端で何かが動いた。

 

「誰だ!」

 

 赤いシスターは応えることなく立ち去った。

 

「チクショー、尾けられたか! 刀夜がヤバいぞ!」

 

 土御門の言葉に神裂と麻琴はすぐに動き出したが、当麻だけはピンときていない様子だった。

 

「お、おい……」

 

「魔術は基本的に術者が死ねば解ける。『御使堕し』もそう。あの人は刀夜さんが術者だと思ってる。ここまで言えば分かる?」

 

 麻琴が言葉少なに説明した。その短い言葉に当麻はゾッと背筋を凍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いシスターこと、ミーシャ=クロイツェフは走っていた。

 これで使命を果たせる。

 これで終わりに出来る。

 これで帰ることが出来る。

 彼女が目指すのはこの事態の収拾。そのために、手段は選ばない。

 

 しかし、彼女が砂浜に着いた時、二人の少女が待ち構えていた。

 

「タクシーって知らない?」

 

 上条麻琴と、

 

「私はイギリス清教の人間なのですが、事ここにいたって穏便にとはいきませんか?」

 

 神裂火織だ。

 

「殺さなくても術を止める方法ならあるらしいし、ここで私たちとやり合う方が面倒だと思うけど?」

 

 穏やかに話す麻琴だったが、彼女が近くにいるだけで、ミーシャにとっては一大事だった。

 協力や対話の路線はあり得ない。しかし、ここを抜けなければ事態の収拾が叶わない。

 ミーシャの選択は合理的だった。

 ────押し通る。

 

 瞬間、彼女の背に翼が生え、体を空中へと持ち上げた。

 同時に夕焼け空が星空へと姿を変えた。

 ミーシャの瞳には赤い魔法陣が浮かび上がる。

 

 御使堕し・エンゼルフォール。

 この術式の、この名前。

 当然、入れ替わっている人々に混じって、絶対にいるはずの存在がいる。

 その結論に到達した時、ミーシャを見上げる二人は彼女の正体を悟った。

 

「天使……」

 

 ならば、彼女の目的は単純だ。

『天上へ戻る』

 ただそれだけ。

 

 しかし、ただそれだけのための手段を、対峙している人物は認めない。

 

「上条麻琴、あなたも刀夜氏のところへ……」

 

 ミーシャが大量の海水を持ち上げるのが見える。神裂は七天七刀に手をかける。

 

「冗談。あっちは当麻くんの仕事。元春くんもいるんだし、大丈夫でしょ。それに、こっちは火織さんでも一人じゃ危なそうだし!」

 

 飛んできた水の柱を麻琴は一撃で蹴散らした。

 

「まったく、……どうなっても知りませんよ」

 

 そして、神裂は名を告げる。

 

「救われぬ者に救いの手を──Salvere000」

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