とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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また2ヶ月も開けてしまいました。ごめんなさい。


25話 誤算

「よし! いっちょ、やってやりますか!」

 

 母親譲りなのか、強敵を前にしてノリノリな麻琴だったが、彼女を神裂が制止した。

 

「麻琴、この状況であなたを前面に押し出すのは、プロとして許容できません。ここは、私が」

 

「えぇ~」

 

 そんなやり取りの最中、天使は背中から水の翼を神裂めがけて叩きつけた。

 人間相手にはオーバーキルもいいところの70m近い水の塊。とはいえ、ここにまともな人間はいない。

 スパン! と。小気味の良い音と共に『水翼』が横一閃に切断された。

 

「やる~!」

 

 天使の一撃をまさに一刀のもとに斬り伏せた神裂は、麻琴の囃す声には応じず、静かに呼吸を整える。

 そこへ続けて水翼が次々と振り下ろされた。

 

 斬! と。これらも神裂は七天七刀を以て粉微塵に変えてしまう。

 

 天使はそこで一旦手を止めた。

 ことここに至って人間離れした膂力についてとやかく言うのは野暮だろうが、神裂に関してはもう一つおかしな点がある。

 

 ────『十字教徒』が『神の御使い』に逆らう────

 

 本来ならば絶対にあり得ない。絶対に不可能なことである。

 『本来』ならば。

 

「むしろ、私としては」

 

 神裂は挑発するように、

 

「この程度で驚かれた方が心外です。どうもあなたは、神裂火織という生き物を過小に評価しすぎてはいませんか?」

 

 天使は答えない。

 対して、逆に神裂は涼しい顔で、

 

「そもそも、私をただの十字教徒と見ているのが間違いの始まりなのです」

 

 わざわざ、自分の手札を見せるほどの余裕を見せて、

 

「我が術式は天草式十字凄教のもの。江戸の世にて弾圧されし切支丹がそれでも神を信じるために編み出した、日本独自の十字教様式です」

 

 十字架やマリア像を持つだけで処刑されるほど弾圧が厳しかった時代に、信者達は神道の木札を『十字架』に見立て、仏教の仏像を『マリア像』に見立てた。そうして神道や仏教によってカムフラージュを行った天草式は、いつしか融合しすぎてどこまでが『建前』で、どこからが『本音』なのかもわからなくなる、一種独特の創作宗教を築き上げたのだ。

 

 多角宗教融合型十字教術式・天草式十字凄教。

 

 それぞれの宗教様式が持つ弱点を、天草式は他の術式でカバーしていく。

 つまり、

 

「天使とだって戦える、と」

 

 再び、天使が攻撃を始める。

 しかし、今度の狙いは神裂ではない。

 麻琴に、頭上から70m近い水の塊が襲いかかった。

 

「ん?」

 

 天使に人間のような自由意思はない。

 現在、天使は天上に帰ることだけを目的として行動している。それを妨害するのが、目の前にいる二人の人間だ。

 よって排除する。

 単純な思考。

 しかし、片方の人間の行動は天使の想定を超えていた。

 だからこそ、もう一方を狙ったのだが、動揺などあろうはずもない天使としてはただの演算ミスなのだろうか、その『もう一方』は自らに『恐怖』という感情を知らしめた存在だったというのに……。

 

 ガラスの割れるような音と共に、麻琴を狙った水の塊が天使の制御を離れて形を失った。

 

 砂浜一面を濡らした水飛沫が晴れると、その中心には右手を天に掲げるようにして立つ、一人の少女が。

 

「あっちから仕掛けて来たんだし、もういいよね、火織さん?」

 

 いたずらっぽく笑みを浮かべる麻琴に、神裂は、

 

「何を言っても無駄なようですので、もう正直に言ってしまいますが、麻琴、実を言うと私はあなたの実を案じていた訳ではなく……」

 

「私が触ったら、天使が消滅しちゃうかも知れないから?」

 

「ッ! ……わかっていたのですか?」

 

「火織さん、優しいからねぇ」

 

(昔、火織さんが大天使とタイマンしたとか、元春さんが言ってたのを、さっき思い出しただけなんだけどね、ホントは)

 

 そんな中、水翼がまたも麻琴に襲いかかるが、今度は直接触れることもなく海へと還っていった。

 

「ここの水はもうアンタのものじゃない」

 

 麻琴の言葉と共に、形作られた水翼が麻琴の周囲に5本、6本と並んでいった。

 

「まぁ、直接触らなければいいだけなら、時間稼ぎくらいは楽勝なのよね」

 

「呆れたものです……」

 

 神裂は頭痛があるような仕草で頭を押さえて苦笑した。

 

 しかし、

 

「にゃー、それなんだがな……」

 

「土御門?」「元春くん?」

 

 胡散臭いグラサン野郎こと土御門元春は、当麻と共に今回の騒動の仕掛け人・上条刀夜の説得に向かったはずなのだが、

 

「何か、良からぬ知らせでもあると言うのですか?」

 

「ねーちん、大正解! まあ、結論から言うとだな、」

 

 土御門はあっさりと、

 

「上条刀夜にこの術式は解除できない」

 

「はい?」

 

 と、神裂。

 

(まあ、そんな気はしてた。おじいちゃんが魔術師だったなんて、聞いてないし……)

 

 と、麻琴は以外と冷静に。

 

「早い話が、上条刀夜に魔術の知識なんて欠片もなかった。偶像の理論もへったくれもなく、本人はただの土産物のつもりで飾ってたものが、偶発的に起こした事故ってのが、今回の騒動の真相だ」

 

 最後に付け加えて、

 

「まったく人騒がせだにゃー」

 

「そんなことが……」

 

「で? どうするの?」

 

「術者がダメなら儀式場だにゃー。今からカミやんと行って術式解除してくる」

 

「そんな簡単に……」

 

「いやいや、これがそう簡単な話じゃないんですぜい。さっきちらっと見ただけでもあの家は、訳の分からない術式の巣窟になってた。爆弾処理みたいなかなりヤバめの仕事だにゃー」

 

「勝算は? 土御門」

 

「この土御門さんの風水の知識とカミやんの右手とのコンビネーションですぜい? こっちの心配よりも、そっちには天使の相手をしっかり頼むんだにゃー」

 

 片手を振りながら、土御門は夜の闇にその身を溶かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。これでは、このまま無事に終わってしまうか……」

 

 ところは変わって学園都市・第7学区の窓のないビル。

 

「あの性格でなかなか考えてはいるということか……。はてさて……」

 

 いつものように、培養液の中で逆さまの体勢で浮かんでいる、学園都市統括理事長にして元大魔術師・アレイスター=クロウリーは『御使堕し』の影響を受けることもなく、どういう手段でか現地の状況を把握しながら次の行動を思案していた。

 

「やはり、このままでは困るのだよ、上条麻琴」




感想欄でしばしば言われていることですが、

麻琴、強すぎ!

……てなわけで、ここいらでアレイスターさんに活躍していただこうかと……。


それでは、また。
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