とある遡行の上条麻琴   作:Lucas

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3話 父親・上条当麻

(ここ、どこ?)

 

気づいたら、私は廃墟と化した街で俯せに倒れていた。

 

(誰?)

 

見つめる先には、黒髪ツンツン頭の男の人が立っていた。

 

(お父さん?)

 

後ろ姿しか見えなかった。

でも、私が知ってるのよりかなり若かった。

そして、ここから見えるだけでも満身創痍なのがわかった。

 

(何してるの?)

 

若いお父さんは、緑色の手術衣を着た怪しい人間と話していた。

その人も傷だらけだった。

 

(ねえ!お父さん!)

 

さっきから喋ろうとしてるのに声が出ない。

動こうとしてるのに身体に力が入らない。

 

(ねえってば!)

 

そんな時、お父さんが右手で怪しい人間を掴まえた。

そして、左手に握ったものをその人の額に突き付けた。

 

(銃…)

 

私が何かしようとする前に、パンッと乾いた音が辺りに響き渡った。

怪しい人間の脳漿が道路に撒き散らされるのが見えた。

そのまま、その人は力を失って崩れ落ちた。

気持ち悪い笑いを顔の上に貼り付けて、その人は事切れていた。

 

(え…)

 

私はその情景を理解できなかった。

理解したくなかった。

 

お父さんが人を撃った?

お父さんが人を殺した?

 

そんなこと有り得ない。

そんなことがあっていいはずがない。

 

「あぁ…」

 

お父さんが小さく声…というか息を漏らしながら銃を地面に落とした。

そのまま、糸が切られた人形のように、ガックリと地面に膝と両手をつけた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

お父さんの絶叫が響き渡った。

 

『……と』

 

その時、ようやく私の身体が動いた。

 

『……て』

 

(お父さん!)

 

私は叫ぼうとした。

お父さんを呼びたかった。

 

『…こと』

 

でも、口から出てきたのは全然違う言葉だった。

 

「上条ォ!」

 

 

 

 

「麻琴!」

 

「はっ!」

 

ルームメイトの大声で、やっと私は夢から現実に戻ってきた。

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

悪夢を見ていた。

 

「大丈夫?魘されてたよ」

 

百合子が心配そうに声を掛けてくる。

 

私は寮の自分のベッドの上にいた。

 

そうだ。

強盗に巻き込まれた後、色々あったけどちゃんと寮に戻って寝たんだった。

 

「うん…平気…。ちょっと、イヤな夢見ただけだから…」

 

そうだ。私は夢を見ていた。

今になって思い返せば、アレは何度も見た夢だ。

正確に言うと、夢ではないけれど…。

 

「ならいいけど…」

 

夢の中で、私は一方通行さんの中に入る。

そして、私の前でお父さんが先代の統括理事長にして史上最高の魔術師・アレイスター=クロウリーを撃ち殺すのだ。

 

そして、これは夢じゃなくて一方通行さんの記憶だ。

隣で心配そうに声を掛けてくれたルームメイトの父親が、20年前に本当に見たことだ。

 

「ごめんね、心配させちゃって…」

 

これはあの頃に戦っていた人たちの一部しか知らない事実。

でも、私は知っている。

子供心に全てを知ってしまった。

 

「気にしなくていいよ」

 

知ってしまった原因は、私の身体に宿った不思議な力だ。

 

“幻想喰い(イマジンイーター)”。

 

お父さんの右手に宿った力・“幻想殺し(イマジンブレイカー)”と同じ力が、私の全身に宿っている。

右手だけじゃなくて、左手でも足でも頭でも、私は異能の力を殺せる。

 

そして、私の力はそれだけじゃない。

 

打ち消した異能を私は使える。

 

どんな異能でも、どんな強力な力でも、どんな凶悪な力でも、どんな稀少な力でも、超能力でも、魔術でも、それ以外の何かでも、一切のリスクなく、一切のダメージなく、一切の代償なく、一切の犠牲なく、一切の引き換えなく、ただ身体のどこかで“触れる”だけで、打ち消し、“写す”ことができる。

 

まあ、“幻想殺し”と同じで、大質量すぎたら処理落ちを起こすかも知れないけれど、試したことがないからわからない。

 

便宜上、能力レベルは“6”ということになっているけど、本当は超能力かどうかもわからない、ただの“不思議な力”だ。

 

 

そして、忘れもしない“あの日”以来、私は自分の力を呪っている。

 

こんな力がなければ知ることもなかったのに、と。

あんなお父さんを見ることもなかったのに、と。

 

「起こしてごめんね。おやすみ、百合子」

 

“その日”、私は操祈さんに初めて触って、“心理掌握(メンタルアウト)”を写した。

 

“幻想喰い”は“幻想殺し”と同じで常時発動だから、私の意思には関係なく、私は触った人の超能力を写しとる。

 

もちろん、写した超能力や魔術の制御はできる。

でも“今は”だ。

小さい頃は、普通の超能力者や魔術師と同じように、意図せずに力が発動することがあった。

 

そして、あの頃の私はまだ小さい子供だった。

 

LEVEL5という強い力を上手く制御することができなかった。

 

そして“不幸”にも、その場に一方通行さんがいた。

そこにいたのがお父さんだったなら、話は違っていたはずなのに。

 

“電極”は通常モードで“反射”を展開していなかった一方通行さん──もし展開していたとしても“幻想喰い”があるから無駄だったとは思うけど──に、私の“心理掌握”が向いた。

 

「うん、おやすみ~」

 

その後は説明することもないと思う。

私は“戦い”の真相を知った。見せつけられた。

 

 

 

“上条当麻がアレイスター=クロウリーを殺した”

 

 

 

そのことを知っているのは、さっき言った通り、あの頃戦っていた人たちのうちの更に数人だけ。

 

お父さん、お母さん、一方通行さん、仕上さん、理后さん、軍覇さん、芹亜さん、帝督さん、元春さん、火織さん、五和さん、建宮さん、ステイルさん、インデックスさん、シェリーさん、アニェーゼさん、ルチアさん、アンジェレネさん、番外個体さん、沈利さん、最愛さん、淡希さん、操祈さん、レイヴィニアさん、ウィリアムさん、キャーリサさん、騎士団長さん、フィアンマさん、ヴェントさん、オッレルスさん、シルビアさん、トールさん、オティヌスさん、エツァリさん、サーシャさん、ワシリーサさん、レッサーさん、ベイロープさん、フロリスさん、ランシスさん、それからカエル先生。

 

みんな──カエル先生以外──、あの廃墟と化した街で、アレイスターの最期に居合わせた。

お父さんと一緒に戦って、“アレ”を自分の目で見た。

そして、みんなで口を噤んだ。

 

おじいちゃんとおばあちゃん、それから“最大主教(アークビショップ)”さんは感づいてるような気もするけど、それ以外は誰も知らない。

涙子さんにも、飾利さんにも、黒子さんにも、百合子にも、芹菜にも、理上にも、督利にも、お母さんの妹さんたちにも、誰にも真実は告げられていない。

 

私も今は秘密の守人の1人だ。

 

 

それに、本当に真実を知っているのはお父さんとお母さんだけ。

 

あの時、アレイスターがお父さんに何を言ったのかは誰も聞いていなかった。

私も知らない。

お父さんは教えてくれなかった。

お母さんにしか話さなかった。

 

 

お父さんは強くて優しいヒーローだって、みんなが言ってる。

本人は否定するけど私だってそう思う。

 

 

お父さんは2代目の統括理事長になった。

この街を、この世界を良くしようと頑張ってる。

お母さんや芹亜さんたちに仕事を任せてどこかへ行っちゃうことも多いけど、その時は人類の存亡がかかってたりするから誰も文句は言わない。

それに、“上条当麻”という名前があるだけでも仕事の面倒事が減るって、芹亜さんは言っていた。

イギリス、ローマ正教、アメリカ、グレムリン、明け色の陽射しなどなど、ほとんどの勢力が学園都市ではなく、お父さん個人と友好関係にあるらしい。

お父さんに助けられた人がいっぱいいるそうだ。

 

 

そんなお父さんが何を考えていたんだろう?

何を聞かされたんだろう?

どんな思いで引き金を引いたんだろう?

 

気になるけど、お父さんが言ってくれるまでは待つと決めた。

 

 

 

さてと、難しいこと考えてないでもう寝よう。

明日も休みだし、いつもの5人で遊びに行こっと。

今日はなんだかんだで遊べなかったからね。




全文、麻琴視点でお送りしました。

次回、麻琴がとんでもないところに飛ばされます。
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