「きゃあぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
「助けてぇぇぇぇ!」
(ん?)
「何よ?五月蝿いわね…」
けたたましい叫び声に耳を叩かれた麻琴は、まだ覚醒しきらない意識の中で目を開けた。
「あれ?飛行機?」
そこは、彼女が暮らす常盤台中学の女子寮とは程遠い場所だった。
服装も、パジャマから常盤台の制服に変わっている。
彼女の言葉の通り、まるで飛行機の座席のようなものの上に彼女は座っていた。
窓の外には漆黒の宇宙空間が広がっている。
「また夢?」
そうだとしたら質の悪い夢だ。
ビービーと鳴り響く警報音に、不安定に揺れる機体、そして乗客たちの阿鼻叫喚。
墜落寸前といった様子である。
「よっと!おっとっと…」
取りあえず、冒険心に身を委ねて立ち上がった麻琴は、通路を歩いてみた。
どこを見ても、乗客たちが泣き喚いているばかりで目を引かれるものはない。
「変な夢ねえ…。あら?」
キョロキョロしていた麻琴の目がとある1点で静止する。
彼女の視線の先には、目をギュッと瞑り、必死に祈るようにブレスレットを握り締めている1人の少女。
艶やかな黒髪が特徴的な彼女を麻琴は知っていた。
いや、彼女とそっくりな“女性”を知っていた。
「シャット…アウラさん?」
思わず呟いた言葉を聞きつけたらしく、少女を目を開いて麻琴の方を見た。
その際、握る力が弱まったためにブレスレットに描かれた模様が麻琴の目に入る。
(オリオン座…)
その瞬間、麻琴の母親譲りの頭脳が最活性した。
(やけにリアルな夢、墜落寸前の飛行機、外は宇宙、それからオリオン座のブレスレットとシャットアウラさん…)
拾ったピースを次々にはめ、全体像を把握する。
そして答えを導き出した。
「オリオン号の墜落事故…」
そう。
ここは2007年に墜落したオリオン号の内部。
そして、今は墜落の寸前。
これで、ただの質の悪い夢ならどんなに良かったことか。
夢ならば、航空関連に造詣の深くない麻琴は、20年以上前の型の航空機をこんなにリアルに再現できない。
夢ならば、大人となった厳しいシャットアウラを知っている麻琴が、こんな少女時代を思い描きはしない。
夢ならば、ここまでハッキリとした思考は行えない。
「どう…なってるのよ…」
呆然たる麻琴の呟きは乗客の叫喚にかき消される。
「あなた…」
そんな麻琴に、幼いシャットアウラが声を掛ける。
「…誰?」
麻琴とシャットアウラの視線が重なった。
その瞬間、麻琴に異変が訪れる。
「うっ…」
麻琴の頭に亀裂が入ったかのような痛みが走った。
「あぁ…」
たまらず頭を押さえつけて膝をついた麻琴の身体が、今度は発光し始める。
「何…これ…。うっ…」
痛みを必死で抑えつける麻琴の意思を余所に、光は着実に増し続ける。
「何だ?あの光は」
光を見た乗客たちが騒ぐのをやめて麻琴に視線を向ける。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
光が機内全体を照らせるほどにまで輝きを増した頃、とうとう痛みに耐えかねた麻琴が絶叫した。
同時に、オリオン号が墜落し、機内を凄まじい衝撃が襲う。
そこで麻琴の意識は途切れた。
2007年9月18日、“オービット・ポータル社”の“スペースプレーン・オリオン号”が墜落。
幸いにも、乗客から機長に至るまで、全88人の生存が確認された。
後に、これは“88の奇蹟”と呼ばれることとなる。
その裏側で、1人の少女の存在が隠蔽されたことを人々は知らない。