2010年7月20日
第7学区
上条麻琴は、アレイスターからの指示により、木山春生の研究所へと向かっていた。
「あれ?」
そんな時、麻琴はコンビニから知り合いが出てくるのを発見した。
真っ白な髪と肌、赤い瞳、細い手足、そして彼が持つレジ袋の中には大量の缶コーヒー。
それを見た麻琴は、ニヤリと笑うと、彼目掛けてテレポートした。
「あーくんッ!」
「うォ!」
突然、麻琴が背中に飛びついたため、白髪の少年・一方通行はバランスを崩して転倒した。
「テメェ…」
「あーくん、やっぱり筋肉ないわね」
睨む一方通行に怖じることなく話す麻琴。
因みに、コーヒーは麻琴が何かしらの能力を使ったので、ぶちまけられていたりはしない。
きちんと地面に置かれている。
「うるせェ!いいから、離れろ!」
「ええ~、やだ。もうちょっとギュッてしてたい」
「オイ!」
麻琴は背中から一方通行にがっちり抱きついているので、3年間で成長した柔らかいものが彼の背中に押し付けられる形となっている。
「この野郎ォ!」
「あーくん、それで抵抗してるつもり?」
無能力状態であれど、必死に抵抗する一方通行だったが、彼女はそんなことお構いなしだ。
「えへへ~」
(私こと上条麻琴は、3年前にタイムスリップして以来、ずっと籠の鳥状態で過ごして来ました。でも、そんな毎日に一瞬の安らぎをくれたのは、若いころのお父さん、改め上条当麻くん。こうやってギュッとしてたら気持ちいいんだよね~。えへへ。一方通行さん、改めあーくんは、当麻くんには及ばないまでも、やっぱり落ち着けるのよね。だから充で~ん。涙子さんごめんね~)
ナレーション調にそんなことを考えながら、麻琴は一方通行に抱きつき続け、頬ずりまでするものだから、彼の顔は真っ赤である。
もちろん、彼女はそんな彼の様子には気づいていない。
縦しんば気づいたとしても「あーくん、風邪?」とでも言うのだろうが。
数分後
「えへへ。ありがと、あーくん。昨日、イヤなことあったけど元気出た」
「はァ…。何でテメェには能力効かねェンだよ?」
ようやく麻琴の腕から解放された──自力で脱出できなかったのは嘆かわしいところだが──一方通行が疲れ切ったような顔で問い掛ける。
「何回聞くつもりよ?それ」
一方、ホクホクした顔の麻琴はめんどくさそうに返す。
彼女の言葉通り、何回目かもわからないほど繰り返してきた遣り取りである。
「私が“LEVEL6”の“絶対能力者”だからっていつも言ってるでしょ?」
「それが納得できねェンだよ、俺ァ」
「嘘じゃないわよ」
(嘘じゃないわよ。実際“向こう”じゃ、私の序列はそういうことになってたし…。本当とも言えないかも知れないけど…)
「じゃあ、どこ調べても俺がこの街最強って出てくンのは何でだ?」
「重要度の高い機密だからでしょ」
(だって“こっち”じゃ、統括理事長しか知らないんだもん)
「それに、私のお父さんとお母さんはこの街の偉い人だし」
(お父さんは統括理事長で、お母さんも統括理事会のメンバーだからね、“あっち”じゃ…)
「大体さ、そんな難しいこと考えなくても、LEVEL5の第1位のあーくんが手も足も出ないんだから、そういうことで良いんじゃないの?まあ、LEVEL5の順位は強さ順じゃないけど」
「うっ…」
一方通行がわかりやすく「痛いところを突かれた」という風に顔を歪めた。
それを見た麻琴は手を口元に遣ってクスッと笑う。
(あーくん、わかりやすすぎ)
「まあ、そんなことどうでもいいじゃない。私があーくんと“友達”なのに変わりはないんだから」
「は…」
(はァ…。やっぱり“友達”のままか…って、オイオイオイオイ、何なンですか?何、愉快なこと考えちまってンだァ?俺。俺とコイツはそンな関係じゃねェだろォが!しっかりしろ、俺)
「は…、はァ!?いつから俺がテメェと“友達”なンてもンになったンだよ?」
一瞬だけ出そうになった本音を慌てて飲み込んで、必死に普段通り取り繕う一方通行であった。
「そりゃ…」
対して、父親譲りのフラグ体質を全面展開中の麻琴は恥ずかしがることもせずに返す。
「寂しそうなあーくんに私が声掛けてからじゃないの?」
「それ、最初からじゃねェか」
「じゃあ、あーくんと喧嘩して、私がボコボコにしてから?ちょっと触っただけであーくん暴れるんだもんビックリしちゃった」
「俺に触れるヤツなンざお前くれェだろォが。あン時はいきなりだったから警戒したンだよ」
「でも、文字通りボコボコだったよね?私、あーくんの攻撃1回も受けなかったし」
「…うるせェ」
「フフフ」
端から見れば微笑ましく会話する2人だったが、そんな彼らの元に怪しげな人影が近づいてきた。
「おうおうおう、朝から見せつけてくれんじゃねえかよ」
「そんな生っ白いガキより俺たちと遊ばねえか?」
「スキルアウトかよ」
ざっと見ても10人以上はいる。
「そっちこそ、朝っぱらからご苦労だなァ、オイ」
「あーくん、目つき悪いからだよ」
「否定はしねェが、テメェも原因の一端を担ってるってこと自覚しろ」
「え?何で?」
「何、ヒソヒソ話してんだよ!」
「とっととどけや、白モヤシ」
「あァ?モブがギャアギャア騒いでンじゃねェよ」
「んだと、テメェ!」
「上等だ!後悔しても知らねえぞ!」
一方通行の挑発にまんまと乗せられたスキルアウトが、彼目掛けて鉄パイプを振り下ろす。
キュイーンッ!
一方通行に当たる直前で、鉄パイプは弾き返され、粉々になった。
「ぐゎっ!」
「テメェら、誰に喧嘩売ってンのかわかってンのか?」
一方通行が口元を吊り上げて笑う。
「この街最強に喧嘩売ったことォ、後悔させてやンよォ」
「ひぃっ!」
一方通行が怯えるスキルアウトに手を伸ばしたその時だった。
ビリビリッ!
「ギャア!」
紫電が迸り、スキルアウトたちが一瞬の悲鳴と共に倒れ伏した。
「あーくん、スキルアウト挑発したりしちゃダメでしょ。そんなコミュ障だから、いつもまで経っても私しか友達いないのよ」
「はァ?」
スキルアウトを電撃で沈めた張本人・上条麻琴は彼らの様子に構うこともせず、一方通行にお説教を始めた。
「俺がいつ友達がほしいなンて言った?大体、テメェは…」
ビリビリッ!
「うォっ!」
「言い訳しない!」
ウダウダと言い募ろうとする一方通行に電撃を浴びせる麻琴。
「あんな、捨てられた子犬みたいな目してたあーくんが、今更“友達いらない”なんて悪ぶったって遅いんだからね」
「誰が子犬だ!誰が!」
「道行くカップルを見ては、はァってため息ついて、買い食いしてる部活帰り風な男子たちを見ては、はァってため息ついてたあーくんが、よ」
「よォし!わかった。決闘だ、決闘!2度と生意気な口叩けねェようにしてやンよォ!」
「また?私、まだ負けなしなんだけど?」
「俺だって致命傷を食らった覚えはねェ!」
「そりゃ、そんなモヤシみたいな体型してるあーくんが相手なんだから加減するわよ」
「言いやがったな!LEVEL5の第1位の恐ろしさわからせてや…」
「はい、電撃」
「ギャアァァァァァァァァ!」
「あーくんは能力より身体鍛えた方が良いわよ…って気絶してるか…。じゃあまたね、あーくん」
“取りあえず病院かな”などと言いつつ麻琴は一方通行をテレポートさせた。
「さてと、そんじゃあ行きますか」
一方通行がああ見えて意外に打たれ強いことを知っている麻琴は、彼を心配することもなく歩を進める。
そうしてしばらく歩いたところで、今度は知り合いの方から彼女に声をかけてきた。
「麻琴ー!」
ドーンという衝撃音を周囲に響かせながら、麻琴の目の前に着地したのは、白ランに旭日旗Tシャツに鉢巻きという格好の少年・削板軍覇だ。
「勝負だ!今日こそは勝つ!」
「おはよう、軍覇くん。今日は用事があるからまた今度ね」
「む。そうか、用事があるなら仕方がない。約束を破るのは根性なしのすることだからな」
「そういうこと。ごめんね」
「気にするな。俺は、惚れた女が1度や2度相手にしてくれない程度で、想いが変わるような根性なしではない」
「アハハハハ…」
(芹亜さん、ごめんなさーい!)
事の起こりは数ヶ月前に遡る。
『麻琴!好きだ!付き合ってくれ!』
『は?』
以前から友人だった削板から、突然の告白を受けた麻琴。
どういう経緯で?
語るに及ばず。
それでも言うならば、彼女が“上条”だからだ。
『はっきり答えてくれ!』
『ええっと…』
如何に“鈍感旗立職人(どんかんフラグメーカー)”LEVEL6たる麻琴と言えど、こうまでド直球に“好きだ”と言われては勘違いも肩透かしも何もない。
縦しんば、麻琴が何か違う意味にとったとしても、削板軍覇は躊躇いなど欠片も見せずに、何度でも愛の告白を繰り返しただろう。
しかし、麻琴としてはこの告白を受けることは絶対に出来ない。
『あのね…』
そこで彼女は言い訳を考えた。
『私のお父さんより弱い人とは付き合えないから!』
麻琴のお父さん=未来の上条当麻には、当然ながら現在の削板軍覇は会うことが出来ない。
しかし、削板軍覇はそんなことで諦めるような“根性なし”ではなかった。
『お父さんに会わせてくれ!絶対に俺の根性を伝えてみせる!』
もちろん麻琴は断り続けたのだが、いつまで経っても引き下がらない削板に、とうとう根負けして、言ってしまった。
『私よりお父さんの方が強いから!私に勝てないならお父さんには絶対勝てない!』
それ以来、“まずは麻琴を倒してから、父親も”と意気込む削板とバトルするはめになった彼女であった。
尤も、削板のハチャメチャな能力も打ち消すことのできる“幻想喰い”を持つ麻琴が、ほぼノーダメージで勝利するというのが毎度の展開ではあるのだが。
「じゃあまたね、軍覇くん」
「おう!次こそはお前を倒してやるからな!」
「まあ…、あんまり頑張らないでね…」
いよいよマズいと感じた麻琴は、シュンッという音を残してその場から飛んだ。
「さてと、木山先生の研究所に到着っと」
道中には色々あったが、麻琴は木山春生のいる研究所に辿り着いた。
「あんなヤツの仕事なんか、さっさと済ませちゃお」
麻琴は、指や首をパキパキと鳴らしながら、研究所の扉をくぐり、木山春生の元へと向かった。