2010年7月20日
木山春生の研究所
「どうぞ」
「こんにちは、先生」
上条麻琴は木山春生のいる部屋の扉を叩いた。
応じた木山は、椅子ごと振り返って麻琴を見た途端、隈だらけの目に驚きを浮かべた。
「御坂くん?」
麻琴と美琴は、美琴と美鈴と同様に、そっくりな顔立ちであるため、初見では驚いて当然だろう。
「上条麻琴です。はじめまして。美琴ちゃんとはよく似てるって言われるけど別人です」
「そうかい。それは済まなかった」
「気にしないでください」
“そんなことより”と、麻琴は言葉を繋げる。
「私が来た理由は聞いてますか?」
「いや。だが、この街の“上”から連絡が来たことからして、重要な話なのだろう?」
「はい。まあ…」
小さく笑っていた麻琴の目に真剣さが宿る。
「“幻想御手(レベルアッパー)”の件ですよ」
「そうか…」
麻琴の言葉に、木山の瞳にも緊張の色が浮かんだ。
「その話なら、“風紀委員(ジャッジメント)”からも協力依頼が…」
「違いますよ」
麻琴が木山の言葉を遮る。
「“犯人”に用があるんですよ」
「ほう…」
「もうバレてるんですよ、先生。抵抗しないでくださいね」
(アレイスターはこうやって追い詰めれば、能力を使って逃げようとするから、その時に写せって言ってたけど、本当に上手くいくのかしら…)
麻琴の不安を余所に、木山はアレイスターの読み通りに動こうとしていた。
「私は…、私はこんなところで…」
(来るか?)
しかし、そこに乱入者が現れた。
「こんにちは~」
「木山先生、“幻想御手”について…って、アンタ!」
「あっ、おか…美琴ちゃん…」
「お姉様、お知り合いですの?」
御坂美琴、白井黒子、佐天涙子、初春飾利の4人組──通称:超電磁砲組(命名:佐天涙子)──だ。
「アンタ!昨日はよくもやってくれたわね!」
「美琴ちゃんがムキになりすぎて当麻くんが危なかったから、止めただけじゃない」
「それじゃないわよ!よくも、あんなところに飛ばしてくれたわね!」
「あんなところ?ちゃんと女子寮の前に…」
「それがマズかったってのよ!アンタの所為で寮監に、夜間外出がバレたのよ!」
「あぁ…、それがあったか…」
「お陰でヒドい目に遭ったんだからね!どう落とし前つけてくれんのよ!」
「お姉様、落ち着いてくださいな」
「わぁ…、なんか御坂さんとそっくりな人だね、初春」
「ホントですね。御坂さんが高校生になったら、あんな感じなんでしょうか?」
「確かに。私のお姉様オーラセンサーがビンビン来ておりますの!」
「し、白井さん?」
「お姉様!あの“大きいお姉様”はどちら様ですの!」
「ちょっ、黒子…」
「あぁん!黒子はもう我慢できませんわ!あのお姉様オーラの大インフレ!そして、お姉様にはないふくよかな双丘!今すぐ、あの新境地までテレ…」
「いい加減にしろ!」
ビリビリッ!
「あぁん!お姉様!今日も刺激的ですわ!」
「白井さ~ん、戻って来~い」
途中から麻琴はそっちのけで、いつものペースに縺れ込んだ超電磁砲組の面々。
麻琴は終始苦笑いで見守っていたが、木山はこれ幸いとばかりに動いた。
「御坂くん。彼女に狙われているんだ。助けてくれ」
「はい?」
「えっ、ちょっ…」
「とにかく、頼んだ」
木山は驚く5人の横をすり抜け、部屋から姿を消した。
「あっちゃー…」
“やられた”と言わんばかりに麻琴は額に手を遣る。
テレポートで追おうにも、テレポーターである黒子がいるために厄介だ。
「ふ~ん、よくわかんないけど…」
美琴は笑みを浮かべて麻琴に正対する。
「これでアンタとやり合えるって訳ね」
「すっかりやる気か…」
麻琴に仕返しする機会を得た美琴は完全に戦闘モードに入ってしまった。
ビリビリと身体から紫電が迸っている。
黒子も美琴に倣って麻琴を見つめる。
初春は数歩下がり、佐天は初春の前に出て金属バット──どっから出したんだ!?──を構えた。
「ま、いっか。おか…美琴ちゃんたちの実力ってのを見せてもらいましょうか」
麻琴は不敵に笑って4人を見返した。
麻琴の性格も美琴に通じるものがあるようだ。
「なめんじゃないわよ」
「そっちこそ」
時代を超えて、母娘対決の火蓋が切られようとしていた。
「…って、ちょっと待った」
そんな時、唐突に麻琴が待ったをかけた。
「こんなところで暴れたら…」
麻琴が言いながら視線を左右に動かす。
忘れるなかれ。ここは研究所だ。
LEVEL5の“電撃使い”やLEVEL4の“空間移動能力者”やLEVEL6が能力を発したり、LEVEL0の少女が金属バットを振り回したりして良い場所ではない。
「場所変えましょうか。黒子ちゃん、この近くの河原に飛んでるから探して来てね」
「はい?」
黒子が問い返そうとするも、それを待たずに麻琴、美琴、佐天、初春の姿が消えた。
「テレポート!?」
慌てて、麻琴が言った河原を目指す黒子であった。
数秒後
河原
「お姉様!」
「黒子!」
「白井さ~ん」
「よし、黒子ちゃんも来たわね」
黒子がテレポートした先の河原に、4人は待っていた。
「んじゃ、始めましょうか」
「アンタ、私たちのこと、なめてんの?わざわざ、黒子のことを待つなんて」
「別に。でも、全力の時に倒しちゃわないと、美琴ちゃんは納得してくれなそうだし」
「へ~。それじゃあ、遠慮なくやらせてもらうわよ!」
美琴が雷撃の槍を放つ。
「効かないわよ」
しかし、麻琴の身体に当たった瞬間に電撃は散らされてしまった。
「なっ!」
黒子が驚きの声をあげる。
「アイツと同じ…」
(じゃあ、砂鉄の剣も直接流すのもアウトか)
「当麻くんと同じ“幻想殺し”だけじゃないわよ」
麻琴はそう言うと、手から紫電を発してみせた。
「電撃!?」
「出し惜しみしてもつまんないし…」
次いで、麻琴はポケットから取り出したコインを上空に向けて弾いた。
「大技いくわよ!」
「嘘ッ…」
「あれって…」
驚く美琴たちに横を、音速の3倍で光線が通り過ぎた。
「“超電磁砲”…」
呆然と呟く美琴。
この技は美琴にしか使えないはずなのだから当然だ。
「もうお仕舞いってこともないでしょ?」
「くっ…」
挑発的に声をかける麻琴に美琴が唸る。
「いきますわよ!」
その時、黒子が動いた。
麻琴の背後にテレポートした黒子が後頭部に蹴りかかる。
「遅いわよ」
「なっ!」
黒子の足が麻琴を捉える直前に、今度は麻琴が黒子の背後にテレポートした。
「この!」
前方へ跳び反転した黒子が太ももに差した鉄矢を麻琴に飛ばす。
しかし、鉄矢は麻琴には刺さらず、途中の空間に現れた。
「そんな…」
「あーくんの能力なかったら危なかったかもね。そりゃ!」
“一方通行”で11次元上の鉄矢を弾き返した麻琴が黒子に手を伸ばす。
「おらぁ!」
「おっと…」
そこへ佐天の金属バットが飛んできた。
結構な速度だったのだが、麻琴は左手1本で受け止める。
「美琴ちゃんか…」
麻琴の言葉を証明するように、美琴がバットに吸い寄せられるように一瞬で距離を詰めた。
「はあ!」
左手でバットを掴んだ美琴は、そこを軸にして身体を回し、右足で麻琴に蹴りかかった。
「よっと」
麻琴は瞬時に身体を屈めて蹴りを躱す。
能力は使っていない。純粋な運動性能で、だ。
「そぉれ!」
「きゃっ…」
麻琴の声と共に、美琴と黒子に衝撃波が襲いかかった。
2人の身体と金属バットが吹き飛ばされる。
「まだまだ!」
飛ばされたところで綺麗な着地を決めた美琴は、地中から砂鉄を吸い上げて麻琴へと叩きつけた。
操作するのではなく、単純に飛ばしただけなので、能力を打ち消されたとしても問題はない。
「はいっと!」
麻琴は美琴の策を逆手にとり、磁力操作で砂鉄の動く方向を変えた。
「チッ!この!」
美琴は大きく跳躍すると、麻琴目掛けて蹴りを繰り出した。
「軽い軽い」
麻琴は片手で美琴の足を受け止め、あまつさえ空中で静止させた。
黒子は衝撃波にやられたため、美琴が止められてしまえば終わり………のはずだった。
「おらぁ!」
「えっ!」
佐天が背後から金属バットで麻琴の後頭部を捉えた。
「あっぶな~」
佐天の攻撃はクリーンヒットしたのだが、麻琴はケロリとしたままだった。
(軍覇さんの能力、訳わかんないけど助かった~)
「効いてない!?」
(能力は消されて、物理攻撃も効かないとか、どんなチートよ)
佐天の攻撃に麻琴が驚いた隙に手から逃れた美琴の顔を冷や汗が伝う。
その時、ドーンという音が遠くから聞こえてきた。
「ありゃ?」
音のした方を見やると、黒煙が立ち上っていた。
「始まっちゃったか…。寄り道しすぎたかな。じゃあね、美琴ちゃん、黒子ちゃん、涙子ちゃん、飾利ちゃん。また後で」
それだけ言うと、シュンッという音を立てて麻琴は姿を消した。
今更ですが、幻想御手篇のエピソードが数日分だけ前倒しになってます。