「ここは通さないわ!意地でも!」
黒い土の匂いがする。地面に顔が近いからかダイレクトな香りが鼻を通る。
「そんなことしてなにになるんだよ」
少年が足で水を弾きながら近づいてくる。冷ややかな目で、見下すように。
「ボスのためだ。ボスの野望がもれなく達成される。そのための時間稼ぎだ!いくらだってしてやるよ!」
少年はそれでも歩みを止めない。背後のボーマンダも私を見下すように立っている。
まるで私の人生を憐れむかのように。
頭から高熱な「赤」が溢れ出るような感情に襲われた。
私のポケモンたちをなぎ倒して挙句の果て私をかばったあの子でさえ地面に伏せさせたあの目が憎い。
「絶対に許さない。でも残念だったわね。私がいる限りボスのもとにはたどり着けないわ!」
私史上最低の顔をしている自信がある。こんな顔の主人をみたあの子たちはなにを思うのだろう。
「お前さ。」
私の前で少年はしゃがみ込む。冷ややかな目と目があう。
あの子、私のモココを優しく抱きかかえて私に手渡しながら彼は語る。
私は、あの子たちは
「何のために戦ってんの?」
私は、なにがしたくて
「こいつらは誰のために戦ってるんだ」
あの子たちは、私は
そのあとの記憶は黒土の匂いと雨音でなにも思い出せない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おじゃましますぅ~!!!!!」
『CLOSE』と書かれた扉が勢いよく開かれる音がする。
涙交じりの女の子の声と共に店内にからんからん、と鈴の音が響いた。
「ちょっと、まだお店開いてすらないんだけど」
「だっでぇ!だっでぇ!!!」
広い店内に響く鈴の音と泣き声が寝起きの家主には心地が悪い音になる。
「いいから座りなさいもう!!ミルクでものむ!!それから!」
「ふぁい...」
ここはラフエル地方の町はずれにできたカフェテリア。
お店の名前を「モモクリエ」という。
この時間だから閑散としているわけではなく、どの時間になってもあまりお客さんはこない。
人通りなどあまりないのだ。
「モーモーミルクでいい?」
「ぬるめで。」
「わがままいうねぇ」
電子レンジにミルク入りのマグカップをいれる。ピッという音がやけに心地よい。
「ヒノアラシ、”ひのこ”おねがい」
家主のヒノアラシが暖炉に火をつける。朝ならではの音が閑散としている分壮大に広がっていく。
「あーやっぱすきだなぁモモクリエ。この音が響く感じ。癒される~」
「お客さん全く来ないからね。」
「私くらい。ほんと感謝してほしいです。総株主?ってやつですね?」
「なに寝ぼけたこと言ってるの。さっきまでわんわん泣いてたのに」
「そう!そうなんですよアヤさん!!もう!そうなん...ですよ...」
「なになに泣かないでもう泣かないでノアちゃん泣くと大変なの。うちの子たちびっくりするでしょ。」
「あ、しまった。そうだそのままだった。」
思い立ったようにノア、泣きじゃくってたほうが立ち上がる。
「ごめんねドダイトス」
モンスターボールからドダイトスがでてくる。もちろん中庭に。
「あら、ノアちゃんのドダイトスまた大きくなった?」
「はい!そりゃ毎日きのみ上げてますからね!うちのきのみは訳がちがうんですよ」
「いつもごひいきしてもらえて助かるわ。準備してるのにご来店するのは置いといて。」
「だっでぇ!!!!」
「あーもうスイッチのオンオフ激しい子!座りなさい!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
中庭のドダイトスは日光浴しながら主人のノアを見つめている。
どこか呆れた顔で。
「で、なによ」
アヤとノアは互いにカウンターに並んで座っている。腕に顔をうずめながらノアは口を開く。
「...女の価値0って」
「え?」
「じめんタイプ使いの女は価値0って言われたんですぅ!!!!!」
バッと起き上がるノアにアヤは全身全霊でびっくりする。
「...ひるんで動けなかったわ私。」
「あの男~!!!!」
アヤは一息ついて手元の紅茶を飲む。
(いつものことね。まったくノアったら。)
ノアは近くのきのみ屋でアルバイトをしている。職業上いろいろなトレーナーと交流するのだが毎度毎度変なトレーナーにナンパされるのだ。毎度のごとくこのモモクリエに泣きじゃくって愚痴りにくるのだ。
(かわいいから仕方ないのだけど、危なっかしいわよね)
「まったく、どうして男っていうのは!」
ノアが勢いよく立ち上がる。
「じめんタイプのかわいさがわかんないんですかね!!!!」
アヤの思考が3秒間停止した。閑散とした店に朝の音が響き渡る。
「ごめんまたひるんで動けなかったわ。”ねこだまし”でも覚えたの?」
「なにいってるんですかアヤさん!いいですかうちのドダイトスはですね!?」
ドダイトスにノアが抱き着く。
「すんごいキュートなんですよ!!!」
「私もその子すきよ。わかるわ。」
アヤの言葉にノアはぱぁ!と明るい笑顔になる。
「そうですよね!!こんなかわいい子世界にたったひとりですよ―!もうかわいいなー!!」
ドダイトスを撫で繰り回すがドダイトスは微動だにしない。表情もかわらない。
(ドダイトス照れてるわね...)
アヤには彼の気持ちがなんとなく読み取れるようだ。
「まったく。この子のかわいさもわからないあの男なんて”リュガの実”ですよ!」
「”リュガの実”?」
「苦い渋い略して『にぶい』です。」
「...性格はおくびょうといったところかしらね。」
ふふふ、とアヤは笑う。
「もう私にはドダイトスがいればいいんです。相棒ですもん相棒。」
「なら旅とかに出てみればいいじゃないの。」
「嫌ですよ!だってここに来づらくなっちゃうじゃないですか!」
「...あなたねぇ。」
ノア以外のお客さんもいるのだけど、などという言葉が浮かんだがノアがまた泣きじゃくる気がしてアヤは言葉をひっこめる。
「あーあ、でもやっぱり彼氏って憧れますよね。」
「そうかなー。1人の時間取れないのは結構しんどいと思うわ。」
「アヤさんその気になればイチコロじゃないですか。」
「その気も何もこの辺人がいないの。わかる?」
「街とかいかないんですか!今度行きましょうよ!ここからだとクシェルシティとか近いですよ!」
「うーん、乗り気じゃないなあ」
「最近かわいい写真とるのはやってるんですよ!モモクリエもこういうの足すのとかいいんじゃないですか!」
ノアがスイーツの写真をみせる。
「...大変めんどくさそう。」
「超えた先に光が待ってるやつですよ。ほかにもそうだな、タピオカとか」
「タピオカ、ねえ。」
アヤは中庭越しに湖をみつめる。誰にも見えないところで微笑んだ。
「それはちょっと気になるかな。」
「え!?じゃあこんど行きましょうよ!おやすみに!」
ノアは急いで立ち上がる。
「行くよドダイトス!」
ドダイトスをモンスターボールに戻し、全速力で扉に向かう。
「お題の木の実はおそとにどかーん!って置いてます!」
「ちょっと、まだいくとはいって」
「じゃあ明日の昼から!うちでおまちしてますね!アヤさん!」
バン!という音と鈴の音が静かになった店にこだまする。
「はぁ。」
アヤのため息がどの音よりも反響する。ヒノアラシにたのんでいた湯沸しも終わっているようだ。
こぽぽぽぽ、という音がコーヒーメイカーに注がれる。
「やっぱあの子のとこの木の実、使い方いろいろあるわねぇ。」
中庭をみつめ、コーヒーを片手に。
「明日、晴れるといいわね。」
アヤは小さくこぼすのだった。
「じめんタイプ使いの女は価値0っていわれたんですぅ!!!!!」
Name:ノア
性別:女
Age:21
Job:木の実屋のアルバイト
手持ち:
ドダイトス lv???
???
???
次回、「晴れ時々フラッシュバック」