大忍び アフリカオオコノハズク【完結】   作:難民180301

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巴流 かばん

 かばんちゃんがおかしくなっちゃった。

 

「かばんちゃん、大丈夫!?」

「大事ない。先を急ぐぞ、猫の子よ」

「私はサーバルだよ!」

 

 急に赤っぽい毛皮を脱いで、黒くて薄い毛皮だけになった。しかもずんずん歩いて木陰から出て行こうとしてる。待って、今の時間はきゅーけーしてなきゃ!

 

「葦名と日の本の行く末が気がかりだ。急がねばならぬ」

「急に何言い出すの!? かばんちゃんが何のフレンズか調べるんでしょ? あっ、待ってよー!」

 

 暑い太陽もへっちゃらで歩いていっちゃう。

 

 元気なのはいいことだけど、さっきまでおとなしい感じだったのに。一体何があったんだろ。

 

 

 

---

 

 

 

 私はサーバルキャットのサーバル。さばんなちほーを縄張りにしてて、今日は見慣れないフレンズを見かけたから、狩りごっこで仲良くなった。

 

 その子はかばんちゃんって言って、自分がなんのフレンズか調べに図書館に行きたいんだって。

 

 さばんなちほーは暑いから、木の下できゅーけー! かばんちゃんは全然ハアハアしてなくてすごかったなー!

 

 でもかばんちゃんが変になったのはこのときだった。

 

 

 かばんちゃんは、私が木に刻んどいたオオカミちゃんのマークをじっと見つめてた。

 

「かっこいいでしょ。オオカミちゃんの印だよ」

「オオカミ……」

「うん! とっても強いハンターで――」

「ぬああっ!」

「うひゃあ!?」

 

 急に大声出すから私びっくりしちゃったよ。

 

 私が耳をふさいでたら、かばんちゃんは急に毛皮を脱ぎだして、薄くて黒いの一枚だけになっちゃった。それと声も、低くて迫力のある感じ。

 

 あるき方ものしのししてて何だか頼もしいや。これならセルリアンに襲われてもへっちゃらだね!

 

 あっ、そうだ、毛皮!

 

「何をしている!」

「へ? かばんちゃんが涼しそーだから、私も脱ごっかなって」

 

 毛皮が取れるなんて知らなかったよ。暑いさばんなちほーも脱いじゃえば楽々だね。

 

 と思ったけど、かばんちゃんは私の手を抑えながら首を横に振った。ダメ? なんで?

 

「獣といえど、女子(おなご)がみだりに肌を晒してはならぬ」

「おなごってなーに?」

「……メス、と言えば分かるか」

「そうなんだ! うん分かった! かばんちゃんは物知りだね!」

 

 かばんちゃんは私のこと心配してくれてるみたい。それなら暑いけど我慢しよっかな。

 私がうなずいたら、かばんちゃんは「行くぞ」って言ってまた歩いて行っちゃった。待ってー!

 

 

 

---

 

 

 

 かばんちゃんはちょっと張り切りすぎたみたい。少しずつ歩くのが遅くなってきて、木登りしたら「かはっ」って言いながら落ちちゃった。疲れたんだね。「忍びのようにはいかぬな」って? 忍びってなんだろう。

 

 色々たいへんだったけど、水場に着いた。

 

 水場は小さな丘の上にあるから景色がいい。きれいな景色を見ながら水を飲むと、生き返るよね!

 

「だーれー?」

「下がれサーバル!」

「あっ、カバ」

 

 声がしたと思ったら、水場の中からカバが出てきた。かばんちゃんがびっくりしてる。

 

「サーバル、と見慣れない子ね。驚かせてごめんなさい」

「……フレンズか」

「ええ、カバですわ。あなたはサーバルのお友だち?」

 

 かばんちゃんの後ろから私も顔を出すよ。庇ってくれようとしたんだね。

 

「そうだよ、かばんちゃんって言うの! なんのフレンズか分かんないから、図書館に行くんだ」

「いや、サーバル。書庫には、日ノ本への道筋を調べに行くのだ」

「えっ、そうなの!?」

 

 あれ? てっきりフレンズのこと調べに行くのかと思ってた。私おっちょこちょいだから、勘違いしてたのかな。

 

「じゃああなた、自分が何のフレンズかもう分かってますの? 耳もしっぽもない変わった格好ですけど」

「無論。葦名弦一郎だ」

 

 ゲンイチロー。かばんちゃんはゲンイチローのフレンズなんだ。ゲンイチローってどんなフレンズなんだろう?

 

 カバも気になったみたいで、首を傾げてる。

 

「ゲンイチローはどんな動物ですの?」

「葦名流と巴流、ともに免許皆伝を受けている」

 

 あしな? ともえ? よく分かんないや!

 

「それって何ができるんですの?」

「何が、だと?」

「そうですわね、例えば……空は飛べるんですの?」

「いや」

「じゃあ足が速いとか?」

「いや」

「泳ぎが得意だったり?」

「いや……」

「あなた何にもできないのね」

「結局、俺は何も出来ないのか……」

 

 わわ、かばんちゃんが落ち込んじゃった。

 

 大丈夫、きっと何か他に得意なことがあるんだよ。かばんちゃんは優しくてがんばり屋さんだから、ゲンイチローもきっとがんばるのが得意な動物だと思うな。

 

「かたじけない、サーバルどの……」

「へーきへーき!」

「まあ、サーバルみたく鼻も耳もいいのに、おっちょこちょいで全部台無しにしてる子もいることですし、気にすることないですわ」

「ひどいよー!」

 

 もうカバったら、今度は私が落ち込みそうだよ!

 

「いい、かばん。力は絶対。誰かを恃むのは良い、だが最後に恃めるは己の力のみ。それがパークの掟。サーバル任せじゃダメよ?」

「承知した」

「そんな掟あったっけ?」

 

 もっと分かりやすくて言いやすい掟だった気がするけど、かばんちゃんが分かってるみたいだしいいや。かばんちゃんは賢いな。

 

 私たちはカバと別れて、先に進んだ。

 

 

 

---

 

 

 

 アードウルフちゃん!?

 

「どうした、サーバルどの」

「誰か困ってるのかも! 急ごう!」

「ま、待て」

 

 水場を離れてしばらく経ち、目印の平たいやつを通り過ぎてあと少しで隣のちほーへのゲートが見えてくるとき、悲鳴が聞こえた。アードウルフちゃんの声だ。

 

 あまりお話したことはないけど、セルリアンに襲われてたらたいへん。助けなきゃ!

 

 急いで声の方向に向かうと、ゲートが見えてきた。アードウルフちゃんは――あれっ?

 

「あああありがとうございました……」

「……良い」

「そ、そうですか」

「……」

「……し、失礼しますっ!」

 

 セルリアンの姿はなくて、ぺこぺこ頭を下げてるアードウルフちゃんと、もう一人。じーっとアードウルフちゃんを見つめてるオオカミちゃんの姿が見えた。

 

 お礼言ってるし、オオカミちゃんがアードウルフちゃんを助けたのかも。よかったー。

 

 でもオオカミちゃんのガン見が怖かったのかな、アードウルフちゃんはすごいスピードでさばんなの方へ走って行っちゃった。オオカミちゃん、いい子だけどにらめっこすると怖いんだ。

 

 橋の上にポツンと残されたオオカミちゃんは寂しそうだった。

 

「おーい、オオカミちゃん!」

「サーバルどの……」

「またセルリアン退治してるの? いつもありがとー!」

「いや……」

 

 オオカミちゃんみたいなハンターがいるから、戦うのが苦手な子も安心して暮らせるんだ。たとえばさっきのアードウルフちゃんとか、今日お友だちになったかばんちゃんとか――

 

「はあっ!」

「……!」

「ええっ!?」

 

 またかばんちゃんがおかしくなった!

 私の横を通り抜けてオオカミちゃんに殴りかかっちゃったよ!? オオカミちゃんは後ろに跳んで避けたけどびっくりしたみたい。

 

「再び見えようとはな、御子の……いや、オオカミよ」

「貴様……」

「六道を巡り、畜生に堕ちたとみえる」

「畜生ではない。フレンズだ」

 

 かばんちゃんは拳、オオカミちゃんは爪を構えてにらみ合う。

 

「巴流、かばん。参る」

「……来い」

 

「二人ともすとーっぷ!」

 

 なんかケンカになりそうだから間に入って止めるよ。初対面なのに仲悪過ぎない? なんで?

 

「ケンカはダメ! 二人ともどうしちゃったの!?」

「む……」

「ふむ……平穏なパークを、我らの血で汚すこともあるまい」

 

 二人とも分かってくれた。お互いの爪と拳を下げて、あっ、オオカミちゃんは背中を向けて走り去ろうとしてる。仲悪いから仕方ないけど、もうちょっとお話したかったな――

 

「すきありっ!」

「ぬっ!」

「ほう、同じ轍は踏まぬか」

「かばんちゃん!?」

 

 かばんちゃんがオオカミちゃんの背中にまた飛びかかった。そのまま激しく爪と拳をぶつけあう大ゲンカが始まっちゃったよ! なんで!?

 

「己の仇すら討てずして何が武士か! 卑怯とは言うまいな、オオカミぃ!」

「戯れ言を……!」

 

 かばんちゃんの言ってることは全然分からないけど、二人は通じ合ってるみたい。もう割り込める雰囲気じゃないや。

 

 かばんちゃんの拳と足がオオカミちゃんに振るわれるけど、全部爪で弾かれてる。弾くたびに飛び散るサンドスターがキラキラしてきれい。オオカミちゃんとこんなにケンカできるなんて、ゲンイチローはすごく強い動物だったんだろうなあ。

 

 離れたところに座ってケンカを眺めてたら結構な時間が過ぎた。いつの間にか太陽が黒い雲に隠れてるよ。

 

 なんだか全身の毛がピリピリして落ち着かない。もしかして雷雲かな? ジャングルちほーのフレンズから聞いたことあるけど、黒い空から降ってくる光を雷っていうんだって。

 

 空を見てたら、かばんちゃんが大きく跳び上がったのが見えた。

 

「刀がなければ雷返しは叶うまい! 巴の雷、今こそ受けてみよ!」

 

 そういえば、雷は背の高いものに落ちるって聞いた。例えば木とか。

 

 かばんちゃんは普通の木より高いところまで跳んでるけど――

 

「危な――」

 

 い、って叫ぶ暇もなく。

 

 空から落ちてきた雷が、かばんちゃんを飲み込む。目の前が真っ白になって、耳もきーんとして聞こえないけど、それでケンカは終わったみたいだった。

 

 

 

---

 

 

 

「っていうことがあったんだよ!」

「そうなんだ。暑さでおかしくなったのかな……心配かけてごめんね」

「気にしないで!」

 

 その日の夜、ジャングルちほーに少し入ったところで、私はかばんちゃんとお話してる。

 

 かばんちゃんは木の下から雷に打たれて黒焦げになるまで覚えてないみたい。物腰も最初にあったときと同じ感じに戻った。

 

 オオカミちゃんはケンカの後、片手を胸の前で立てながら「なむ」ってつぶやいてどこかへ行っちゃった。相変わらず無口なんだから。

 

「オオカミさんにも謝りたいな」

「オオカミちゃんはいろんなちほーを回ってるから、きっとまた会えるよ。そのときは仲良くしようね!」

「そうだね、サーバルちゃん」

 

 毛皮がボロボロになって寒そうだけど、かばんちゃんは元気そう。雷って見た目は怖いけど、当たってもそんなに痛くないんだね。

 

「ところでかばんちゃん、その背中と腰にあるのは何?」

 

 そうだ、もう一つ気になることがあった。

 

 ジャングルちほーに入ってすぐ、かばんちゃんは太い木の枝を腰にさして、もう一本よくしなる枝と細いツタを合わせて何かを作った。

 

「これ? これは刀と弓だよ」

「カタナ、ユミ?」

「うん、これがあればオオカミちゃんにも勝てると思う。俺は奴を倒すためなら、どのような異端の力でも利用してみせる……!」

「あー! またおかしくなってるよ!」

「えっ、僕何か変なこと言った?」

「言ったよー、あははは!」

 

 ときどき声が低く、目つきが鋭くなるかばんちゃん。でもどっちのかばんちゃんもかばんちゃんだから、なんでもいいや。一人の体に二人が入ってるみたいで、なんだかおかしいな。

 

 私が笑ってると、かばんちゃんはちょっと不安げに、

 

「僕、ゲンイチローのフレンズなんだよね? どんな動物なのかな?」

「分かんないや!」

「ええ……」

「でも、きっと優しくて強い素敵なけものだよ!」

「そ、そうかな」

 

 かばんちゃんは不思議なけもの、ゲンイチローのフレンズ。どんなけものかは図書館で聞いてみるまで分かんないけど、私は絶対、素敵なけものだと思うな!

 

 そう言うと、かばんちゃんはちょっと元気になって、笑った。私もつられて笑ってるうちに夜が更けて、一日が終わる。

 

 明日はどんな日になるのかな。







読んでいただいて、ありがとうございました。


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