大忍び アフリカオオコノハズク【完結】   作:難民180301

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ぬしの白蛇

 図書館への一本道をまっすぐ進む。ぐねぐね曲がった木がトンネルになってて、木の隙間から差し込むおひさまの光がとってもきれいだねー。

 

 ゆっくり歩く私、フェネックがじれったくなったのかな、前を歩くアライさんとシロヘビさんが振り返って足を止めたよ。

 

「フェネック、そんなにゆっくりしてると帽子泥棒が逃げちゃうのだ!」

「それだけじゃないぞ。にっくきオオカミもこのままでは逃げおおせよう」

「そうなのだ。帽子泥棒とオオカミさんを早く見つけて成敗しないと、パークの危機なのだ!」

「まあまあ、気楽にいこうよ。道のりは長いよ?」

 

 先を急ぐ二人にそうは言ったけど、道のりはたぶんそれほど長くない。私、アライさん、シロヘビさんの三人で旅を始めたのはさばんなちほーで、さっきへいげんちほーを通ったところだから、パークをぐるっと半周してる。今は折返し地点だねー。

 

 私が追いつくと二人はすぐに急ぎ足で歩いて行っちゃった。焦るのは分かるけど、もうちょっとゆっくり行こうよー。

 

 アライさんは帽子泥棒を追いかけてる。こないだの噴火の日、アライさんが先に見つけた帽子を知らないフレンズさんが勝手に持ってっちゃったんだ。アライさんはその泥棒さんを捕まえるために急いでるってわけさ。私はなんとなく面白そうだから、アライさんに付き合ってる。

 

 で、アライさんと旅を初めてちょっとしたころ、シロヘビさんに会った。シロヘビさんは少し変わったフレンズなんだ。

 

 たとえば見た目。全体的に真っ白な毛皮なんだけど、他の蛇のフレンズさんが着てるパーカーとフードとは全然違う。フードの部分は綿帽子、パーカーの部分は死装束っていうのを着てる。毛皮のことを教えてくれたオランウータンさんは「嫁に行くのか黄泉に行くのか。よく分からん格好よな」って首をかしげてた。すごくきれいだけどやっぱり変わった格好なんだねー。

 

 でも一番変わってるのは――なんて、つらつら考えながらゆっくり歩いてく。

 

 アライさんもシロヘビさんも、もっとのんびり行こうよー。私なんか特に意味もなく昔を振り返っちゃうよー。

 

 

 

---

 

 

 

「そこな(わらべ)よ。オオカミを知らぬか?」

 

 最初、夜のさばんなちほーでそんな風に声をかけられたんだったねー。シロヘビさんは今まで見たことないほど真っ白で、しかも不思議な貫禄があった。だから私もアライさんも一瞬ぼーっとその姿を見つめてたんだ。

 

 首を傾げたシロヘビさんにもう一度声をかけられ、自己紹介。

 

 オオカミさんのことはもちろん知ってた。パークでも有名なハンターさんだから。でもあの子はパーク中を駆け回ってセルリアン退治をしてるから、どこにいるかは分からない。そう答えるとシロヘビさんはがっくり肩を落とした。

 

「なんでオオカミさんを探してるのだ?」

 

 私も気になったことをアライさんが聞いてくれた。

 

 もしかしてこの子もアライさんみたいに帽子とか、何かをとられた恨みがあるのかな――

 

「動物のころオオカミに狩られた」

「えっ」

「あらら、それはたいへん」

 

 物じゃなくて命をとられたんだねー。アライさんは絶句してる。

 

「あやつ、儂が寝ておるのをいいことに頭を何度もぐりぐりと……」

 

 私はあんまり覚えてないけど、動物の頃は生きるために結構必死だからねー。オオカミさんも痛そうな狩りをしてたんだ。シロヘビさんが恨むのも無理はないかな。

 

「だがそれは良いのだ。弱肉強食は自然の摂理。狩られた儂の方が弱かっただけのことよ」

「え、良いのか!?」

「シロヘビさんは心が広いんだねー」

 

 思いのほかシロヘビさんは寛大だったよ。

 

 でも、恨んでるわけでもないならどうしてオオカミさんを探してるんだろう。そう聞くと、シロヘビさんは難しい顔でしばらく考えこむ。

 

「恨みではなく、無念というべきか」

「むねん?」

「うむ。数百年の長きにわたり儂のそばにいてくれた、伴侶がおった。そやつに子種を残してやれずただ死んでしもうたことが、無念でならぬ」

「なるほどー」

 

 数百年もいっしょにいてそういうことをしないあたり、すごく気の長い動物さんだったんだね。でもそういうことをする前にオオカミさんに狩られちゃって、そのことが残念。だからオオカミさんに当たりたいわけかー。

 

 蛇さんのはすごいんだ。いっぺん始めると二、三日は合体したまま、ずーっとどったんばったんしてるからねー。他の動物と比べてもじょーねつてきな分、オオカミさんへの思いも強いんだろうな。

 

「逆恨みとは分かっておるが、フレンズになってからというもの、特にすることがない。オオカミのヤツをひっぱたいて長年の無念を晴らそうと思うてな」

「ひっぱたいちゃうのかー。仕方ないかもだけど、私はお話して仲直りできれば一番だと思うけどなー。ねえアライさん? ……アライさん?」

 

 アライさんは俯いて肩を震わせてた。刺激の強い話だったから、ショックを受けちゃったのかな?

 

 心配になって顔をのぞきこもうとすると、アライさんは急に声色を変えて、シロヘビさんの肩に手を置いた。

 

「分かるぜ、嬢ちゃん」

「え、誰?」

 

 シロヘビさんと声がはもった。アライさん、いきなり雰囲気が変わってどうしたんだろう。

 

「好いた相手とガキこさえるのはオスの本分。それをできなくされたとあっちゃあ、黙っていられねえわな」

「あ、ああ……」

「この『黒笠のアライさん』に任せな。オオカミのとこまで連れてってやるよ」

「まことか!?」

「男に二言はねえ。俺たちも今、笠泥棒を追ってんだ。俺たちでパークの巨悪を成敗といこうじゃねえか」

「委細承知!」

「がってんだー」

 

 トントン拍子で流れていく話には正直ついていけなかったけど、とりあえず乗っておいたよ。だっていつになくアライさんが頼もしいんだもん。帽子が笠になってたり変なあだ名ついてたりすることは忘れて、便乗した方が楽しそう。

 

 私たち三人の旅は、こんな風に始まったよ。

 

 

 

---

 

 

 

 頼もしいモードのアライさんは結局長続きしなくて、じゃんぐるちほーでは川に流され、こうざんでは崖上りで疲れ、さばくちほーの迷路では迷い。あさっての方向に全力疾走するいつものアライさんだったねー。

 

 今度アライさんが頼もしくなるのはいつになるのかな。

 

「着いたのだ!」

「建物に穴が空いてるが、大丈夫か?」

「たぶん、大丈夫だよー」

 

 考えているうちに図書館に着いた。シロヘビさんの言う通り、普通の建物に穴が空いたような見た目だけど、きっと平気だよ。へいげんちほーのお城にも穴が空いてたし。

 

 へんげんのフレンズさんは、帽子の子は図書館に向かったと言ってた。もしいなくても、ものしりな博士たちが帽子の子だけじゃなくてオオカミさんの居場所のことも何か知ってるかも。ってことを期待しつつ、私たちは前へ進むよ。

 

「伏せろ!」

 

 がきいん、と高い音。次にサンドスターの輝きが見える。

 

 振り返ってみると、宙に浮いた博士の足をアライさんが受け止めてた。後ろから飛んできた博士が蹴りかかってきたみたい。全然音がしなかったのはさすがの博士って感じだけど、アライさんがきちんと反応して防いだのはすごいねー。

 

 博士は一度距離をとってから着地、遅れてミミちゃん助手もやってきて、二人いっしょにふんぞり返る。

 

「我々はフクロウなので」

「音をたてずに飛ぶなど朝飯前なのです」

「それ自慢したかっただけ?」

 

 博士と助手は顔ごと目を背けた。もう、いきなり狩りごっこは心臓に悪いよ。シロヘビさんもびっくりして――あれ、頭をかかえてしゃがみこんでる。

 

「シロヘビさん?」

「はっ!? いや、なぜかそこな鳥の不意打ちにオオカミの面影を感じてな。と、トラウマが……」

「大丈夫なのだ! アライさんが守ってやるのだ!」

「そうだよー、普段のアライさんはともかく、いざってときのアライさんは頼りになるからね」

 

 アライさんが「うんうん、その通り……ん?」と微妙に納得いってないのはおいといて、話を進めるよー。

 

 私たちは帽子泥棒の子を追ってる。ついでにサンドスターの吹き出る山に何かが埋まってるらしいから、そのことも聞いておく。ふんふん、雪山の方に向かったと。山は基本立ち入り禁止と。

 

 シロヘビさんのオオカミさんのことももちろん聞く。最近働きすぎだからお休みを申し付けた? ペパプライブ、温泉、ロッジを巡る休暇の旅。へー、楽しそう。

 

 ひとまず雪山に向かえば良さそうだね。シロヘビさんも怖がってるし、早くここを離れようかな。

 

「待つのです!」

 

 お礼を言ってさっさと行こうとすると、博士に呼び止められた。シロヘビさんは怖いのか、私とアライさんの後ろにさっと隠れる。

 

「シロヘビ。その子を怖がらせたお詫びです」

「これ、ひょうたん?」

「何が入ってるのだ?」

 

 おもむろに渡されたひょうたんを振ってみると、ちゃぷちゃぷ音がする。蓋を開けて匂いをかいでみれば、不思議な匂いがした。

 

「それはお酒です」

「おさけ?」

「それの味を説明するのに言葉はいりません、飲めば分かるのです」

「まさかお米にサンドスターを入れるだけでこんなに美味しくなるとは。僥倖でしたね、博士」

「りょうりはかばんしかできませんが、お酒造りならかんたんです。これで充実のよいどれ生活なのですよ、助手」

 

 よく分かんないけど、いいものをもらっちゃったみたいだねー。匂いを嗅ぎつけたシロヘビさんが目をキラキラさせてるよ。

 

 みんなでひょうたんに注目してると、博士たちのつぶやきが聞こえた。

 

「それにしてもシロヘビ、前に会ったときはここまで小心者ではなかったのですが……」

「何か怖い目にでも遭ったのかもしれません。驚かせるのは控えましょう、博士」

 

 あれ? シロヘビさんはつい最近の噴火でさばんなちほーに生まれたはず。博士たちと会うのは今日が初めてのはずだけどなー。似たフレンズさんと勘違いしてるのかも。

 

 博士たちの勘違いはまあいいとして、お酒、お酒。

 

 旅の道中、のんびり回し飲みしながらいこっか。次のちほーへれっつごー。

 

 

 

---

 

 

 

『お酒くさっ! なんですかあなたたち! ファンとして最低限のマナーも守れないようじゃ、会場には入れませんよ!』

 

 

 

---

 

 

 

 お酒って怖いねー。たくさん飲むと気持ちよくなるけど、気持ちよくなった分記憶が飛ぶんだ。図書館を出てお酒を一口飲んだ後の記憶がないや。気がついたら毛皮を脱いだすっぽんぽんの姿で、ゆきやまちほーの温泉に浸かってた。

 

 頭がぼけーっとしてまだお酒が抜けきってない。周りを見てみると、右となりにアライさん、左となりにシロヘビさん、正面に初対面のフレンズさんが二人、温泉に浸かってた。少し遠くの方には雪で真っ白に染まった山が見える。

 

「フェネック? 起きたのか?」

「アライさん……んー、まだぼーっとしてるけどねー」

「初めてのくせに飲みすぎだ。ちなみにどこまで覚えてる?」

「ペパプライブの会場で出禁されたとこは、ちょっとだけ。後はほとんど覚えてないや」

「まったく。ほどほどにな」

 

 心配してくれるアライさんとは違って、シロヘビさんは呆れ顔だった。その手にはひょうたんと小さな入れ物を持って、ちびちび飲んでる。いいなあ、私も一杯――

 

「こら、フェネックはお酒を抜くのだ! シロヘビさんも、飲むなら少し離れるのだ」

 

 アライさんに言われてお酒さんが持ってるシロヘビさんが離れていっちゃう。ああ、お酒さん。

 

 ――お酒って怖いな、ちょっと飲んだだけなのにお酒のことしか考えられない。さすがに自分でも怖くなってきたよ。別のことで気を紛らわせなきゃ。

 

 シロヘビさんが正面にいる二人のフレンズさんとお話してる。これを盗み聞きして飲みたい気持ちをごまかそう。

 

 話を聞いてると、二人のフレンズさんはそれぞれカピバラさんとシシザルさんと言うことが分かった。寒いのが苦手だからずっと温泉にこもってるんだって。

 

「と、そういうわけだから、儂はオオカミをひっぱたかなければならんのだ」

「ひっぱたくのは痛いよよよ……」

「気持ちは分かるぞ。(つがい)と別れる悲しみは言葉にできん。一発殴るくらいはしなければな」

「分かってくれるか、シシザル!」

 

 シロヘビさんとシシザルさんは意気投合してる。この二人といいアライさんといい、動物のころはずいぶん世知辛い思いをしてきたんだねー。番や伴侶と呼べるくらい仲の良い子と離れ離れになるのは、きっと辛い。もし誰かのせいで私とアライさんが別れることになったら、その誰かを恨むと思う。

 

 考え込んでいると、シシザルさんが鼻息を荒くする。

 

「あの仏頂面も業が深い。ヤツがここに来たときにオレが殴っておくべきだったか」

「オオカミがここに来たのか!?」

「ああ。次はロッジに泊まってゆっくりすると言っていた」

 

 そういえばオオカミさんは休暇の旅を楽しんでるって博士たちが言ってたねー。ペパプのライブを楽しんで、温泉に浸かって、満喫しているところにシロヘビさんのビンタが飛んでくるのはかわいそう。

 

 でも帽子の子もそっちに向かったらしいし、行かないわけにはいかないね。

 

 温泉でいい気分になった私たちは、温泉といっしょに建ってる「りょかん」でお酒がぬけるまでぐうたらして、ロッジに向けて出発したよー。

 

 

 

---

 

 

 

 ロッジには何事もなく着いた。途中で私が切れたお酒を補充するために図書館に戻ろうと言い出してひと悶着あったけれど、まあ大したことじゃないよねー。目の前では大きなロッジが、西から差し込むオレンジの木漏れ日で照らされてる。

 

「大きなところだねー」

「大きすぎなのだ!」

「うむむ、これではオオカミを探し出すのも一苦労だぞ」

 

 大きな木に寄り添うみたいに建てられたたくさんの小屋が、木の橋でつながってる。小屋自体はそこまで大きくないけど、数が多いから探すのは大変だね。

 

 三人まとまって探してるうちに逃げられるかもしれないから、手分けして急いで探すことになったよ。私は急ぐの性にあわないから、普通に探すけどねー。

 

 アライさんとシロヘビさんが左右に散って、正面玄関っぽいところから私が入る。すると、鳥のフレンズさんがにっこり笑顔で迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。ロッジアリツカへようこそ! 私は管理人のアリツカゲラです」

「どもどもーフェネックだよー」

「今日は宿泊でよろしいですか?」

「うん、たぶんそうなるけど、その前に聞きたいことがあるんだー」

 

 ここにオオカミさんはいる? って聞いたら、アリツさんは首をかしげてどっちのオオカミさんでしょう、と聞き返してきた。ロッジにはタイリクオオカミさんとニホンオオカミさんがいるみたい。言われてみればどっちか知らないや。

 

 じゃあ二人ともに会って確かめればいいや。アリツさんに二人の居場所を聞くと、ちょうど二人とも同じ場所にいるらしい。アリツさんに案内されてそこへ向かった。

 

 何本か橋を渡ったりくり抜いた木のトンネルをくぐったりして着いたのは、小屋の一室。そこで二人のオオカミさんが机について話し合ってる。

 

「知ってるかい、ニホンオオカミ。夕方は逢魔が時っていってね。この世ならざる者が動き出す時間なんだ。もしかすると君に狩られたセルリアンたちが、オバケになって出てくるかも……!」

「……」

「お、いい顔いただきました」

「……少し、風にあたってくる」

 

 チェック柄の毛皮を腰にはいた、明るい色合いのオオカミさんが小屋を出ていく。少し顔が青いけど大丈夫かな。

 

 後に残った暗い色合いのオオカミさんに近づいてみると、机の上の白いペラペラ? に絵を描いてる。今出ていったオオカミさんの似顔絵だった。すっごく上手。

 

「ん? ああ、こんばんは。ここのお客かい?」

 

 そうだよー、フェネックだよーと自己紹介しながら、ハンターをやってるオオカミさんを探してると伝える。すると、今話してるのがタイリクオオカミさんで、チェック柄毛皮の彼女がハンターのニホンオオカミさんと教えてもらった。

 

「ふふっ、あの子、セルリアンには強いけど怖い話にはめっぽう弱いんだ。見たかいさっきの顔」

「無表情にしか見えなかったよ?」

「そう? あんなにいい顔だったのに。……ああ、探してるんだったね。たぶん今日はキリンのところに逃げ込んでると思うよ」

 

 怖い話を聞いた後はきまって誰かといっしょにいたがるんだ、とタイリクオオカミさん。怖い話が苦手なのにタイリクさんの話に付き合うのは、優しいからなのかな。

 

 キリンさんの居場所を聞いて移動する。外に出て階段を登り、二階に上がるとすぐに見つかった。

 

「今日こそはあなたが何のフレンズか推理してあげるわ! ちょ、なんか近いわね」

 

 まださっきの話が尾を引いてるんだね。青い顔でキリンさんっぽい子にすり寄ってるよ。キリンさんは慣れてるのか、あんまり気にせず話し続ける。

 

「無口で暗いところを好む習性、無愛想で仏頂面、そしてすごく強い……これらのことからあなたが何の動物か、私にはお見通しよ!」

「……」

「あなたは、忍びね!」

「言えぬ……」

「なっ、相変わらず強情な! じゃあオオカミ、イエイヌ、チワワ、これならどう!?」

「明かせぬ……」

「この、吐きなさい! それと近すぎ!」

 

 この子がオオカミさんかー。怖がってキリンさんにすり寄る姿は、噂と全然違う。無表情のまま声もあげずにセルリアンを狩りまくる怖いフレンズって聞いてたのに、普通の子だよ。悪いことするようには見えないけど、かといってシロヘビさんが嘘をつくとも思えない。もしかすると、フレンズになったことで性格が少し変わったのかも?

 

 とにかく一度お話した方が分かることも多い。そう考えて近づいていくと――

 

「見つけたぞオオカミ! ここで会ったが百年目!」

「おお、あいつがオオカミか!?」

 

 私がいるのとは反対側の階段から、シロヘビさんとアライさんが上がってきたよ。

 

 キリンさんとオオカミさんは急に大声を出されてアタフタしてる。

 

「なになに!? ていうかシロヘビ、あなた雰囲気おかしくない!?」

「おかしいもなにも、おぬしとは初対面だろう! それよりオオカミ! 前世の恨み、今ここで晴らしてくれる、覚悟!」

 

 ちょっと待って、と割り込む暇もなかった。シロヘビさんがサンドスターを消費しながら、全力でオオカミさんにつっこんでいく。問答無用だねー。

 

 まあオオカミさんなら大丈夫なはず。どんなセルリアンの攻撃も爪で弾いて無効化しちゃうってもっぱらの噂だからね。博士に怯えてるようなシロヘビさんのビンタくらい、軽く弾いて――

 

危 怖

  気

 

 どごん、と大きな岩が落ちたような音。視界をよぎる、変な文字。

 

 がけ崩れでも起きたような轟音を発したのは、シロヘビさんの手がめり込んだオオカミさんのほっぺただった。

 

「えっ」

 

 私か、アライさんか、キリンさんのものか、思わず声が出ちゃう。

 

 だってオオカミさんの体が、へいげんちほーのボール遊びみたいに、ぐるぐる回転しながら吹っ飛んでいくんだもん。

 

 オオカミさんはロッジの入り口の方まで飛んでいき、地面を何度か転がって止まる。

 

 起き上がることは、なかった。

 

「……類まれなる強者の中には、防ぐことも弾くことも叶わぬ攻撃を行う者がいる。つまり、そういうこった」

「し、シロヘビさん、やってしまったねぇ……」

「オオカミィー!」

 

 キリンさんの声で我にかえった。なぜか頼もしいモードになってるアライさんはほっといて、オオカミさんのもとへ走る。

 

 橋を渡って階段を降りて、ようやくたどり着いた頃には、ロッジに泊まっていた他のフレンズさんも集まってきていた。フレンズさんの間をぬって、強引にオオカミさんのところへ行く。

 

 やばいよやばいよ。シロヘビさんはどれだけ強い動物だったのさ、フレンズさんがあんなに吹っ飛ぶの見たことないよ。

 

 すぐに手当してジャパリまんをたくさん食べさせないと、いくら頑丈なフレンズの体でも――!

 

「あれー?」

 

 オオカミさんは平然と立ってた。

 

 毛皮に土の汚れがついてたり、顔に白っぽいアザができてる以外は、大きなケガもない。おかしいなー、めちゃくちゃ痛そうな吹っ飛び方に見えたのに。

 

 でも、無事なら別にいっか。

 

「さすがオオカミさん、強いのだ!」

「当然。こやつは死んでも死なぬ。そういった動物だ」

「その言い方だと一度死んだみたいで怖いからやめようよー」

 

 アライさんとシロヘビさんもすぐそばに追いついてきてた。シロヘビさんの姿を見たオオカミさんがびくっと肩を震わせてたのはしょうがないね。

 

「うちのシロヘビさんがごめんねー。オオカミさん、痛かったでしょ」

「……構わぬ」

「……ふん。儂も気は済んだ。どうせ何をしようとあやつとは二度と会えぬのだ。お前を――」

「あのー、何の騒ぎでございましょう?」

 

 いじけるシロヘビさんの声がさえぎられた。

 

 別に大きくもないし、迫力があるわけでもないその声が騒ぎの中ではっきり聞こえたのは、シロヘビさんの声とそっくりだったから。というか、まったく同じってくらい似てる。

 

 しかも声の方向を見てみたら、

 

「シロヘビさんが、もう一人?」

 

 完全に同じ外見のシロヘビさんがもう一人、こっちに歩いてきてた。

 

「すごい音がしましたが、セルリアンが出ましたか? それともケンカでしょうか。ダメですよ、パークの掟其の二を忘れてはいけません。フレンズは――」

 

 私たちのシロヘビさんと違って、おっとりした口調のシロヘビさん。

 

 略しておっとりシロヘビさんは、呆然としているシロヘビさんと目があう。

 

「旦那様!?」

「お前!?」

「どーゆーことなのだ!?」

「こっちが聞きたいよー。でも……」

 

 ハラハラと涙を流しながら抱き合う二人を見ていると、なんだか幸せな気分になってくる。だからきっと、悪いことじゃなかったんだと思う。

 

 今はそれだけ分かればいいや。

 

 とにかくオオカミさん。

 

 大きなケガはないけど、小さな傷や土埃まみれになったオオカミさんの毛づくろいをしてあげなきゃね。

 

 

 

---

 

 

 

 シロヘビさんビンタ事件から一夜明けた朝。

 

 ロッジの一室で、私、アライさん、キリンさん、タイリクオオカミさん、オオカミさんの五人が机について、朝ごはんのジャパリまんを食べてる。特にオオカミさんは昨日のケガでサンドスターを消費したからか、もりもり食べてるねー。

 

「シロヘビさんたちが幸せになってよかったのだ!」

「まあ少し過程が暴力的だったのは感心しないが。本人たちが納得してるなら何も言わないでおこう」

「オオカミさんは災難だったねー」

「む」

 

 オオカミさんは気にせずジャパリまんを頬張ってる。やっぱり無表情にしか見えないや。

 

 ロッジに泊まっていた方のおっとりシロヘビさんは、私たちのシロヘビさんが「伴侶」と呼んでた相手だった。オオカミさんと同じ世代に生まれて、特にやることもなくロッジでダラダラしてたんだって。そこにやってきた私たちのシロヘビさんと再会した、と。

 

 過ぎたことをクヨクヨ気にしすぎです、とシロヘビさんは伴侶さんにこってり怒られてた。オオカミさんにもやりすぎてごめん、ってきちんと謝ったし、シロヘビさんたちはまた二人で暮らせる。万事解決――何か忘れてる気もするけど。

 

「でもすごい偶然だよねー。同じフレンズが同じ世代に生まれるなんて」

「一世代につき一個体と聞いたんだが。サンドスターも気まぐれを起こすことはあるってことかな」

「こんな気まぐれなら大歓迎なのだ! ところで、シロヘビさんたちは今何してるのだ?」

「ナニってそりゃあ……ロッジのお部屋を借りてどったんばったんしてるよー」

「昨日の騒ぎの後からずーっとな。アリツさんに頼んで部屋変えてもらったよ、まったく。蛇のフレンズはみんなああなのか?」

 

 タイリクオオカミさんはあくびを一つ。どうなんだろうねー、さばくちほーで会ったツチノコさんとかも、実はすごかったりするのかな?

 

「しかしオオカミ。そのアザなかなか治らないな」

「ホントだねー。痛くない?」

「問題ない」

 

 オオカミさんの小さなケガは一晩で全部治ったけど、顔の左半分にできた白いアザだけは消える気配がない。もし本当に痛かったら、表情の読めるタイリクオオカミさんが察するだろうし、大丈夫かな。

 

 そうして心配事は全部丸くおさまった、はずなんだけど――

 

「フェネック、アライさんは何か大切なことを忘れてる気がするのだ」

「奇遇だねー私もだよー」

 

 オオカミさんが吹っ飛んでいくところとか、もう一人のシロヘビさんとか。いろいろあったせいで何か忘れてる気がする。

 

 うーん、なんだろう。そもそも私たちはなんでロッジまで来たんだろう。後少しで思い出せそう――

 

「まあいいのだ。大切なことならそのうち自然と思い出すのだ。それより、改めてこのロッ

ジを探検したいのだ!」

「それもそっか。じゃあのんびり見て回ろうか」

「ちょっと待った、その前にこれを見ていくといい。これはマンガといって――」

 

 タイリクオオカミさんがマンガを見せてくれたよー。

 

 他にも色々なフレンズさんが泊まってるみたいだから、ロッジには見どころがたくさんあるねー。

 

 先を急がず、ゆっくりいこっか。

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