大忍び アフリカオオコノハズク【完結】 作:難民180301
パークにはおっきな山があって、そこから噴き出たサンドスターが動物に当たるとフレンズになる。
かばんちゃんとボスと私の三人は、今その山を登ってるよ。
「はあ、はあ……けっこう来たねー。ちょっと休まない?」
「うん。ごめんね、サーバルちゃん」
後ろを振り返るといい景色。さっき歩いてた森とか、船のある港や海なんかが見渡せる。あの黒いセルリアンがいなかったら、のんびり休憩できるのにな。
私たちはさっき、山のふもとでとても強いセルリアンに会った。ハンターのキンシコウが助けてくれたんだけど、あれだけ強くても本体から飛び散った、ただの破片なんだって。
本体の方は今キンシコウやヒグマたちハンターがやっつけてて、私たちも手伝おうとした。でもヒグマに断られちゃったのと、かばんちゃんが「嫌な予感がする」っていうから、噴火する山の様子を見に来たんだ。
「かばんちゃんはみんなが心配なんだよね」
「うん……すっごく怖い、のはいつものことなんだけど、あのセルリアンは……ん?」
「あっ、またミライさんが出てくるよ!」
ボスの目が緑色に光って、ミライさんの『えいぞう』が出てくる。えいぞうって、ボスが覚えてる昔のミライさんの思い出みたいなものなんだって。
ミライさんの言うことは難しいけど、山のサンドスターとセルリアンが何か関係あるってことだけ分かった。かばんちゃんはこのことが分かってたから山に登ろうって言い出したんだね。
『巨大セルリアンを一刻も早く仕留めないといけません。フレンズさんたちが心配ですし、葦名の特異個体にどんな刺激を与えるか――』
『ミライさーん、大変だよ! オランウータンとライオンが!』
『なっ、言ってるそばから!? セルリアンと山については後日まとめます、録画終わり!』
「えっ、今、葦名って言った!? かばんちゃん!」
あしなはかばんちゃんの故郷、ゲンイチローの縄張りだよ。港には船だけあって他のゲンイチローはいなかったけど、海の向こうの日の本にあるあしなには、いっぱいゲンイチローがいるかもって、博士たちが言ってた。
ミライさんのえいぞうはもう終わってるけど、かばんちゃんなら何か分かるかも。そう思ったけど、
「サーバルちゃん。今はそれよりも為すべきことがあるよ」
そうだよね。あの巨大セルリアンを放っといたら危ないもん。かばんちゃんはみんなのために頑張る子なんだから。
セルリアンの黒くて大きな体が森で暴れてるのが、ここからでもはっきり見える。みんながケガしないうちに早くなんとかしないと。
私のハアハアが収まってから山頂に向けて出発。
山頂には大きな穴があいてて、その穴にサンドスターの塊がこびりついてる。塊を中心に、穴をふさぐみたいにして網目のフタがあるけど、フタの隙間から黒っぽい粉が噴き出てる。この粉もサンドスターなのかな?
「ミライさんの話が本当なら、ここに何か……サーバルちゃん、何か変わったものがないか探そう」
「え?」
「ミライ殿は四神と仰せだった。大陸の守護獣がここに配され、それらに不備が生じているとすれば、パークにどんな害を及ぼす分からぬ。まずは四神を見つけねばならん」
「分かった!」
とにかく探しものをしなきゃいけないのは分かったよ。かばんちゃんがそう言うってことは、四神を見つけて何かすれば、セルリアンを退治できるのかな。
手分けして探そうとすると、
「……!」
「え、なになに!?」
誰かがかばんちゃんの背中に飛びかかった。
オランウータンさんに作ってもらった『本物の』刀で誰かの爪を弾き、かばんちゃんが距離をとる。
「見事な隠密だ。だがオオカミには及ばぬ」
「へっ、盗人にしちゃあやるじゃねえか。アライさんの黒笠、殺してでも返してもらうぜ」
「ええー!? ちょっと待ってよ、君、なんなの!?」
いきなり爪で飛びかかってきたアライさんの前に出る。
かばんちゃんは戦うのが得意なフレンズじゃない。黒セルリアンのときも「オオカミとの戦いがなければこの程度!」って強がりながら逃げ回ってたし。
何より、かばんちゃんは悪い子じゃないんだ。
「かばんちゃんは誰かのもの盗るような子じゃないよ! ていうか黒笠って帽子のこと? 黒くないし笠でもないじゃない。きっと勘違いしてるよ!」
「い、言われてみれば笠じゃなかったのだ」
「確実に勘違いなんだけどねー」
「名乗りもあげず不意打ちとは、
「かばんちゃんもゲンイチローを収めて!」
かばんちゃんをなだめていると、後からやってきた耳の大きなフレンズが、飛びかかってきたフレンズを落ち着かせてる。
そうしてお互いに落ち着いてから、お話をはじめたよ。
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アライさんはかばんちゃんに帽子を盗まれたと勘違いして、フェネックといっしょにさばんなちほーから追いかけてきたみたい。でもきちんとお話してかばんちゃんがそんなことする子じゃないって分かってくれたよ。帽子のことは諦めきれてないけど、ひとまず仲直り。
そしたら黒っぽい粉が急に噴き出してきて危ない感じだったから、二人にも四神を探すのを手伝ってもらう。見つけた四神をアライさんが持って、私がアライさんを肩車して山の大穴に掲げたら、黒いサンドスターが収まった。
これで山の心配事は解決。
次はセルリアンをどうにかしないと。
というわけで、山を降りてヒグマ、キンシコウ、リカオンたちハンターと合流したよ。丸太に座った七人で輪を作って、作戦会議だね。
作戦を考えるのはもちろん賢いかばんちゃん。ふんふん、夜になってからバスの光でセルリアンを海に――船に乗っけてから転ばせて、沈めちゃう――えっ!?
「かばんちゃん、でもあの船は……!?」
「良いのだサーバル。元より海の先に日の本がある保証もない。何より俺は……いや」
あしな、あしなってあんなにうるさかったのに。かばんちゃんはそんなにパークのことを大切にしてくれるんだね。
かばんちゃんが何かを言いよどむと、ヒグマたちがしょんぼりと俯いた。
「すまない、お前の使うはずだった船を……」
「面目ありません」
「ハンターでもない皆さんに面倒をかけてしまったっす……」
面倒なんかじゃないよ。あんな危ないセルリアンを任せっきりじゃ申し訳ないし、黙って見てられないから。
「パークの掟もこう言ってるのだ。皆仲良く笑って暮らすべしと。そのためにもあのセルリアンは倒さなきゃなのだ」
「そうか……そんな掟初めて聞いたが」
「誰から聞いたんですか?」
「博士たちが言ってたのだ! ちなみにパークの長に逆らってはいけない掟もあるのだ」
「博士たち、しれっと変な掟作ってるっすね」
図書館に行ったとき私たちも「ひとぉつ!」って言われてびっくりしたよ。博士たちは賢いけど、ちょっと変わったところあるよね。
みんなでくすくす笑ってたら、ヒグマが「そうだ」って何かを思い出したみたい。
「ところでオオカミのやつはどうした? あいつがいれば心強いが」
「こないだフレンズさんとケンカしてケガしちゃってねー。変なアザが全然治らなくて、念のためロッジで休んでるよー」
「あのオオカミさんがケガ、ですか!?」
「どれだけ強いフレンズさんとケンカしたっすか!?」
オオカミちゃん、ケガしてたんだ。ほんとはこういうとき頼りになる子なんだけど、ケガなら仕方ないね。ヒグマたちは「この戦いが終わったら見舞いに行くか」って話してる。私もこの戦いが終わったら、かばんちゃんといっしょにお見舞いに行こっかな。あ、でもかばんちゃん、オオカミちゃんの名前が出た途端すっごく嫌そうな顔してる。いっしょに行くのは無理かも?
お話してるとあっという間に時間が過ぎて、日が暮れた。
セルリアンが追いかける太陽を見失ったところで、作戦開始ー!
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山みたいにおっきな黒セルリアンが目の前に迫る。
バスの光めがけて腕を叩きつけ、その拍子に真っ黒な破片が飛び散って、バスの走る先を塞ぐ。危ない、と思ったけど、ボスの上手な運転でうまく隙間をぬけていくよ。
落っこちてた木の枝を踏みつけてバスが動かなくなっても、「ぱっかーん」と掛け声をあげて乗り切った。
「ボス、今日はかっこいいね!」
「油断するな、海はまだ遠いぞ!」
かばんちゃんはオランウータンに手直ししてもらった弓で、何回も矢を打ち出してる。セルリアンは全然痛そうにしないけど、飛んでくる矢が気になるみたいで、振り上げた腕を止めて矢に気を取られたりしてる。
この調子なら港まで行けそう。
そうやって油断したのが悪かったのかな。
四本足で歩いていたセルリアンが、二本の足で立ち上がる。ただでさえ山みたいに大きな体がもっと大きくなって、しかもその体がまっすぐバスに向かって倒れ込んできた。
大きすぎて避ける隙間なんてない。
雷が落ちたような音がしたと思ったら、私とかばんちゃん、ボスはみんなバスの外に投げ出されてた。セルリアンはもう目の前。横倒しになったバスを起こして乗り込む暇はなかった。
何も考えず、かばんちゃんとボスを抱えて力いっぱい放り投げる。できるだけセルリアンから遠くに行くように。
直後、セルリアンの腕が横から飛んでくるのが見えた。
「わっ……!?」
オオカミちゃんみたいにはいかないや。
とっさに爪でセルリアンの腕を弾こうとしたけど、失敗。セルリアンに食べられちゃった。
なんだか暖かくて眠い。セルリアンに食べられるのってこんな感じだったんだ。とっさに野生開放して防ごうとしなかったら、食べたれた瞬間に気絶してたかも。
黒っぽいセルリアンの体越しに、呆然とこっちを見上げるかばんちゃんが見える。遅れてやってきたヒグマと何かを話し合って――えっ? ヒグマだけボスを抱えて逃げちゃったよ? ダメだよ、かばんちゃんも逃げなきゃ。
逃げて、と叫びたくても口が動かない。
かばんちゃんの体から、噴き出す温泉みたいにサンドスターが噴き上がる。刀と弓を構え直すかばんちゃんの目は真っ赤に輝いてて、セルリアンの方に向かってきた。
まずいよまずいよ、サンドスターはセルリアンの好物なのに。あんなに野生開放してたらセルリアンに狙われちゃう。それだけじゃなくて、サンドスターを使い過ぎたら動けなくなる。逃げる元気もなくなっちゃうかもしれないのに。
いくら逃げてと叫びたくても私の体は動かなくて。かばんちゃんが必死で戦う姿を見ることしかできなかった。
弓をセルリアンの目に打ち込んで、気をそらす。その間に足元へ潜り込んで、何度も足を斬りつける。一度ジャンプしてから目で追えないような速さで何度も、何度も刀を振る。
セルリアンは両腕を振り回して食べようとするけど、ひらりひらりと葉っぱみたいに舞うかばんちゃんを捕まえられない。でも、かばんちゃんは一度刀をふるたび、一歩動くたびにサンドスターをたくさん散らしてる。
もういいよ。そんなにサンドスターを使ったら、逃げる元気どころか――
体中の毛が総毛立った。さばんなちほーで初めて雷を見たときみたいに、ぴりぴりした感覚。さっきまで晴れてたのに、いつの間にか黒い雲が空に広がってた。
セルリアンの腕を大きく飛び上がって避けるかばんちゃん。
瞬間、空がぴかっと光る。
光の筋がかばんちゃんの刀にまとわりついて――雷の刀が、セルリアンの腕に大きな切れ込
みを入れた。
バランスを崩して倒れるセルリアン。
かばんちゃんは私のいる背中の側まで走ってきて、刀をひと振り。小さな切れ込みから腕をつっこんで、私の手をつかんでくれた。
黒く濁っていた視界がひらける。
真っ赤な目でセルリアンをにらみつけながら、膝を突いて息を荒げるかばんちゃん。その向こう側でゆうゆうと起き上がるセルリアンの姿が見えた。
体が重くて、私は気絶しないようにするのが精一杯だった。
このままじゃ二人とも食べられちゃう、かばんちゃんだけでも逃げて、と言うことさえできない。
「サーバル」
何するの、かばんちゃん? 紙の棒に火をつけて。そんなことしたらセルリアンの気をひいちゃうよ。
「俺はいつも、肝心な時に誰かを頼ってばかりだった」
かばんちゃんの背中が遠い。
「大切なものを護ることさえできず、
そんなことないよ。かばんちゃんはすっごいんだから。
声をあげたいのに、手を伸ばしたいのに、私の体は動かない。
「だが……お前とかばん。たった二人だけを護る程度なら。全霊をかけてかろうじて、成し遂げられるようだ」
かばんちゃんが離れていく。よろよろと疲れきった足取りで、火を見せつけるように。火に気を取られたセルリアンも、私から離れていった。
セルリアンが私のことを忘れるくらい遠くにいったところで、力尽きたように膝をつくかばんちゃん。
暗い中でも、遠く離れていても。ゲンイチローを野生開放した真っ赤な目が私の方を見ているのが分かる。振り上げられたセルリアンの腕なんか見てない。逃げて、避けてよかばんちゃん――
「さらばだ、サーバル」
私のおっきな耳がその言葉を聞きつけたと同時。
かばんちゃんの体は、セルリアンに取り込まれた。
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目が覚めたのは港の船のとなりだった。気絶した私をここまで運んでくれたみたい。今はあれから数時間はたってて、日の出まで後少し。
かばんちゃんはセルリアンに食べられた私を助けてくれた。じゃあかばんちゃんだって助けられるはず。そう考えて走り出そうとしたけど、ヒグマに切り替えろ、って言われちゃう。切り替えてかばんちゃんの作戦を最後までやろうだって。
そんなの無理だよ。あんなに必死で助けてくれたかばんちゃんが食べられたことに納得して、はい終わりなんて無理にきまってるじゃない。
「ボスも何か言ってよ! あ、そっか。かばんちゃんがいないと……」
『サーバル。船ノコトハ僕ニ任セテ、君トヒグマハカバンヲオネガイ』
「ほら、ボスもこう言ってるし! え、今話してくれた!?」
ボスはかばんちゃんがいないとしゃべってくれないはずなのに。ヒグマたちも驚いてるよ。
ヒトの緊急事態が、生態系が、干渉? うーん、よく分かんないけど、今はそれよりかばんちゃんだよ。船はよろしくね、ボス!
「よし、お前たちの視点で動いてみよう。キンシコウとリカオンは船を頼む。何かあったら逃げろよ!」
「分かりました」
「オーダー、了解っす」
『サーバル』
ヒグマといっしょに走り出そうとしたら、ボスに呼び止められる。
『カバンハ大丈夫ダヨ。ダカラ、安心シテ』
「ええ?」
『
「?? でもそうだね、楽しかった。またみんなでいろんなとこ回って、楽しいこと探すんだから!」
そのためにも絶対かばんちゃんを助けなくっちゃ。
ヒグマの後を追ったよ。
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かばんちゃんが切りつけたセルリアンの切り傷を、私の爪とヒグマのクマクマスタンプで引っ掻いて、叩く。それでも歩みが止まらない。
後少しで港が見えてくる。港の灯りを目指して走り出す前に、かばんちゃんを助け出さなきゃいけないのに。セルリアンの体は固くて、いくら引っ掻いても切り傷が少し深まるだけだった。
「サイキョーすぎるだろ……!」
ヒグマの声が聞こえたそのとき、ぽすっと音を立てて、セルリアンの体から何かが落ちてきた。
かばんちゃんのかばん。それから、刀。
「林を越えたら船を見て走り出すぞ! 離れろ!」
ダメだよ。まだかばんちゃんが、かばんちゃんが――!
「かばんちゃんを返してよ! 怖がりだけど優しくて、いろんなこと考えて、みんなのために必死になって、強がってばかりだけど自信がなくて……まだ縄張りだって見つけてないのに。いっぱい見て回るとこだってあるのに――返してよっ!」
きん、と高い音が二回響く。
私が何度引っ掻いてもびくともしなかった切り傷が、大きくえぐれてた。
「少々本気を出すですよ、助手」
「はい博士。敵を穿ち、自在に宙空を舞ってこその梟なのです」
「博士!?」
図書館にいるはずなのに、と思ったけど、ボスがどうにかして呼んでくれたみたい。
かわりばんこに切り傷を爪で引っ掻いて、引き裂いて。セルリアンの体勢が大きく崩れる。そしたら、いつの間にか合流してたリカオンとキンシコウの手を借りて大ジャンプしたヒグマが、野生開放した本気の一発を叩き込んだ。
セルリアンの足が切り傷を中心に折れて、倒れ込む。
私は足の断面から出てきたかばんちゃんをキャッチ。丸っこいサンドスターの塊みたいになってるけど、かばんちゃんだよ。かばんちゃんを助けられた。
「今ですお前たち! 総攻撃なのです!」
「我々の群れとしての強さを見せるのです!」
「ちょ、博士、かばんの作戦が――」
博士の号令で森からたくさんのフレンズたちが飛び出してきた。かばんちゃんが今まで出会ってきた子たちだ。かばんちゃんのためにみんな集まってくれたんだね。
プレーリードッグ、スナネコ、フェネックの掘った穴にセルリアンがつまずく。下がってきた背中に、戦いの得意なフレンズたちが野生開放した攻撃をどんどん入れていく。
ジャガー、タイリクオオカミの爪で大きな破片が飛び散った。空から降ってきたライオンの爪と、オニカゲに肩車されて跳んできたヘラジカの角で、体に埋もれてた弱点の石が丸見えになる。
最後はその石を、ケガして休んでるはずのオオカミちゃんが引っ掻く。
石を砕かれたセルリアンが大きな岩になって動かなくなったとき、いつもの「忍殺」の文字が見えた。
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「そんな作戦があったなら先に言ってほしいのです」
「言おうとしたらみんな出てきて、止めるに止められなかったんだよ!」
「まあまあ、結果的に倒せたんですから」
「セルリアンは一段落っすよ。それより今は――」
博士とヒグマたちの話し声が聞こえる。
集まってくれたフレンズたちが輪になって、じーっと視線を送ってくるのを感じた。輪の中心にいるのはかばんちゃん。
でも、かばんちゃんはもう元の形じゃない。サンドスターの塊みたい。
「かばんちゃん、かばんちゃん……!」
「やめるのです、サーバル」
「もう自然に還り始めているのです」
やだよかばんちゃん。まだいっぱい話したいことあるのに。葦名に行くって言ってたじゃない。博士と助手もそんなこと言わないでよ。
――えっ?
「うーん……サーバルちゃん?」
急にもとの形になったかばんちゃん。目をこすりながら起き上がり、私の方を見た。
「かばんちゃんだよね? 私のこと覚えてる? 最初に会ったときにしたお話覚えてる?」
「……食べないでください」
「食べないよ!」
セルリアンに食べられたら記憶を失うって聞いた。でも、かばんちゃんは大丈夫。私の知ってるかばんちゃんだ。
「博士、これは一体……ゲンイチローのフレンズだとすると、ゲンイチローに戻るはずでは?」
「やはり、かばんはヒトだったのです。そもそもゲンイチローなんて動物聞いたことないのです」
「けものがヒトの特徴を得たものがフレンズ。ならヒトのフレンズがフレンズでなくなっても、ということですか。ですが、それならゲンイチローとは一体何なのです?」
「さあ……サンドスターが呼び寄せた、怨念の類では?」
「うわっ、オオカミが倒れたぞー!」
視界の隅っこで「怖気」って変な文字が見えた気がしたけど、博士たちが話してる意味も全然分かんないけど。
かばんちゃんが無事だったから、もういいや!
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黒セルリアンをやっつけてから一ヶ月。
普段、別々のちほーに暮らしてるフレンズがこんなにたくさん集まることはないから、近くのゆうえんちに集まって毎日盛り上がってた。今日はかばんちゃんが助かってよかったってことと、旅立ちを見送る会をやるよ。船が無事だったから、かばんちゃんは日の本に行くんだ。
でも最近、かばんちゃんは一人でふらっとどこかに消えちゃう。どこにいってるんだろ。
一人のときにセルリアンと会ったら大変だし、どこにいってるか気になるし。ってことで今はかばんちゃんの後ろをこっそりついてってるよ。
黒セルリアンと戦った森の広場を通って、海沿いの崖を進んでいく。そしたら崖が海にせりだしたところに着いた。崖際には大きな石が置かれてて、その前にかばんちゃんが座ったよ。
「かばん――」
声をかけようとしたとき、別の草むらからオオカミちゃんが出てきた。
私に気づかないままかばんちゃんの隣に歩いていき、何か話し出す。うう、海風がひどくて私の耳でもよく聞こえないよ。「ゲンイチローさんが――ボクの輝き――身代わりになって――」ゲンイチローのことを話してるのかな?
って、私ったらいつまで隠れてるんだろう。
「おーいカバンちゃん! オオカミちゃん!」
「む」
「サーバルちゃん」
普通に出ていって声をかけるよ。
「よかったー、二人とも仲良しになったんだね!」
さばんなちほーで会ったときはひどかったけど、仲直りできたんだ。
そのことを聞くと、かばんちゃんは悲しそうに目を伏せちゃった。あれ?
「うん……オオカミさんと仲が悪かったのはゲンイチローさんなんだ。だけどゲンイチローさんはもう……」
「ええ? どういう意味?」
「……ううん、なんでもない」
かばんちゃんは難しいことで悩んでるみたい。そういえば、最近声が低くなって雰囲気が変わることがなくなった。悩んでるせいで元気がなかったんだね。
難しいことは分かんないけど、隠れて悩んでるってことは話したくないのかな。じゃあ話を変えなきゃ!
「えっとえっと、ところでここ、きれいなとこだねー!」
「あ、うん。ゲンイチローさんも景色のいいところで眠りたいかなって」
「眠る? ここで寝るの?」
「じゃなくて、お墓だよ。お墓っていうのは――うわぁ!?」
すっごく嫌な音がして耳をふさいだ。なになに、と思って見てみたら、崖にぽつんと置かれた石をオオカミちゃんが引っ掻いたみたい。
かばんちゃんが泣きそうな顔になってる。
「オオカミさん!? な、なんでそんなひどいことを!?」
「……胸を張れ」
「え?」
「志に殉じた者の墓前で……そのような顔をするな」
かばんちゃんがはっと息を呑んだ。うみゃー、また難しい話だよ。
「胸を張って生きよ。それが手向けだ」
「……はい! え、でもなんで引っ掻いたんで――オオカミさん!?」
オオカミちゃんはくるっと振り向いてどこかに行っちゃった。言いたいことは言った、って感じだね。
呆然としてたかばんちゃんは、首をかしげながら石の方に向き直って、目をまんまるにした。うわぁ、あの一瞬で石が傷だらけだよ。
あれ? でもこの傷、忍殺マークと同じ文字みたいに見える。
おかしいな。早起きしたからかな。それとも悲しいことでも書いてあるのかな。何か大切なものを失ったような気がして、涙がどんどんあふれてくる。ぬぐってもぬぐっても。
かばんちゃん、この石に何が書いてあるの?
聞こうとしたけど、かばんちゃんが一度目元をぬぐって、腰にさしてた刀を石の前に突き立てるから、なんとなく聞きづらい。
雰囲気はかばんちゃんそのもの。でもどこか頼もしくて、見た目よりも大きく感じる。
きりっとしたかばんちゃんは胸を張って、きっぱり言う。
「さらば」
その言葉は風よりも雨よりも雷よりも力強く、私の耳に響く。
止まらない涙が、止まった。
おわり