ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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聖女の懺悔

「ふあぁ……やっと来てくださいましたね、使徒様。待ちくたびれてしまいましたよ」

 

 部屋にたどり着くや否や、聖女サマは大層ご立派な椅子に座って眠そうに欠伸をしていた。

 

 結局フウカの部屋を出てから、メルナのいる司教室に辿り着くまで二十分ほど彷徨ってしまった。

 

 俺の予想では、集会場から先程のフウカの部屋へと続く扉の右側──つまり、メルナが去って行った扉を開けたら、すぐに辿り着くものだと思っていたのだが……それに反して、扉を開けた先はそれっぽい部屋の嵐だったのだ。そこから先は、とにかく片っ端から扉を開けて確認するしか無かった。

 

 そんな背景があったから、俺はこうして肩で息をしながらメルナの机を怒りに任せて叩いていたのだ。

 

「メルナてめぇ……部屋の場所くらい教えておけ!」

 

 そう憤怒すると、彼女は別段臆することなく平然と言ってのけた。

 

「あら、もう呼び捨て、タメ口ですの? ……まぁ、私としてはそちらの方が有難いので構いませんが」

 

 口元に手を当てて挑発するようにクスクスと笑う。しかしその笑いもすぐに収めると、今度は顎に手を当てながら訝し気に言った。

 

「でも変ですわね。確か私、セレナに教会内を案内するように申し付けておいたはずなのですが……」

「そのセレナが一時間近く待っても帰ってこなかったんだよ」

 

 俺の返答に、彼女は一瞬呆気にとられた顔でポカンっとしていたが、すぐに心底の呆れ顔でおでこに手を当てて首を振った。

 

「これは使徒様、大変失礼なことを致しました。……セレナには、少々お灸を据える必要がありそうね」

 

 彼女の言葉を聞く限り、恐らくこれが二度三度の出来事ではないのだろう。

 

 いきなり礼儀正しくなったり、かと思えば急に貶しだしたり、そして極めつけには言い付けを忘れて寝落ち。初対面の時の明るくて優しくて勤勉なセレナは何処へやら。今まで見てきた人の中で一番のキャラブレの仕方である。

 

 きっと今頃、仕事を忘れたセレナは自分の寝床ですやすやと良い夢でも見ているのだろう。こちとら必死こいて司教室を探し出したというのに。俺だってゴブリン達との戦闘ですり減らした神経を癒す為にも、早く寝たいのだが。

 

 ……と、恨み言を連ねてみたものの、別に彼女が許せないという訳では無い。寧ろ女の子のそういう失敗を寛大な心で許してやるのが、男というものだろう。

 

「まぁ、結局のところ、こうしてちゃんと辿り着けたんだし、注意程度に留めてやってよ」

 

 頭の中で持論を展開しつつそう言うと、彼女は少しだけ怒ったふうに眉をひそめて机から身を乗り出すと、俺の顔の前に指を立てた。その仕草や表情は、遠い記憶にある小学校教師さながらだった。

 

「そういう甘やかしが、セレナをダメにする要因の一つなので、使徒様の言うことでも聞けません」

 

 そして彼女は直ぐに居住まいを正すと、そのまま部屋の真ん中にあるソファへと移動して「本題に入りましょうか」と言った。俺も彼女の後に続いて対面に座る。

 

「さて使徒様。何か聞きたいことはございますか?」

 

 姿勢正しく座りながら言う。彼女の言い方からするに、恐らく俺の疑問を全て聞いてもらえるのだろうが……。

 だがしかし、俺には今どうしても一番最初に明るみにしておきたい事案があった。それはもちろん、事だ。

 

「……セレナのあの【呪い】はなんなんだ」

 

 そう切り出すと、メルナは笑顔を崩さないまま口だけを動かした。

 

「やはりそれからですよね。……セレナに掛けられている【呪い】は、魔力が高い人に程良く効く【魔力封印】です。魔力の数値の絶対値ごと封印する、魔法使いにとっては生命線を奪われてしまうような呪いですね」

 

 俺は息を吞んだ。GTOでゲームをしていた時は、防御職がメインで耐性が高かったからだろうか、呪いに関して左程脅威を抱いたことはなかった。

 だがしかし、この世界ではそうもいかないようだ。対応する呪いをかけられるとはつまり、その職の死を意味するのだから。

 

「……なるほど。とりあえず、セレナに掛かっているのが、かなりやばい呪いだっていうのは良く分かった。だけど──」

 

 現に先ほど治療してくれた後のセレナの様子を見ているから、十分に理解しているつもりだ。だから別に、彼女の捕捉に異議を唱えるつもりは毛頭無い。

 

 だがしかし、俺が聞きたかったのはこの先の──最も根本的なモノなのだ。

 俺はソファの背もたれから背中を離してから言葉を続けた。

 

「──なんで、そんなヤバイモノが、セレナに掛かってるんだ?」

 

 俺の言葉に、彼女の顔が強張るのが見て取れた。しかしそれも一瞬のことで、すぐに済ましたような顔になると、彼女は平坦な声で言った。

 

「……使徒様は、それについてどうお考えなのですか? 先にそれをお聞かせください」

 

 彼女の問いに、俺は間誤付いた。最初に彼女呪いに気付いた時に考えていた通り、俺は今目の前にいるメルナが犯人だと思っていたから。その本人から意見を問われたとなると、どうにも答えにくい。

 

 しかしどうやら彼女は、俺が間誤付いていた理由に気づいていたらしく……。

 

「私は何も気にしません。どう言われようとも、真実を全て話すだけですので」

 

 と、優しい声音で諭すように言ってきた。

 

 そう言われてしまうと、こちらもちゃんと話さなきゃいけなくなる気になってしまう。……できれば本人を前に悪口を言いたくはなかったが。

 

「……すまん、メルナ。俺がセレナの【呪い】に気づいたとき、真っ先に疑ったのはお前のことだった」

「分かっていますわ。最もセレナの近くにいて、一番呪いを掛けられそうな存在が私ですもの」

 

 メルナは宣言通り、気にしていない……ように振舞っているのか、至って普通に頷いた。

 

 でも確かに、さっきの集会場でのやり取りを見る限り、セレナのことを嫌っている節も無いし、寧ろメルナはセレナの事をちゃんと考えて行動しているように見えた。帰りが遅くなってしまったセレナを集会場でずっと待ち続けたり、胸を触るフリをして、本当に怪我や状態異常がないか確認していたり。

 

 それらを考慮するに……どうやらセレナの【呪い】をメルナが掛けたというのは、俺の見当違いのようだ。

 

 そうなってくると、メルナには本当に申し訳なく思う。こうして会って話したことすらなかったのに、勝手な憶測で犯人に仕立て上げて……本当に浅はかな考えだと自分でも嫌悪する。

 だから俺は、彼女に向かって頭を下げた。

 

「メルナ、申し訳なかった。君たちの関係性を見るに、呪いをかけるなんてありえないことなのに……俺の勝手な予想で、君を傷つけてしまった」

 

 対して彼女は、一瞬で青ざめた表情になった後に焦ったように立ち上がり、俺の元に駆け寄ってきた。

 

「し、使徒様、お顔を上げてください! まだこのお話は終わってません!」

「え、えっと……どういうこと?」

 

 俺が頭を上げてきょとんとしていると、彼女は焦った表情のまま大きく溜息を吐いた。

 

「真実を話すと、先ほど言いましたのに……使徒様って案外せっかちで、先入観の強い方なんですか?」

「うぐっ……確かによく言われてたけど……」

 

 事実、友達になった人からは必ず言われたし、何ならフウカにも言われた事だ。……まさかこっちの世界の人にも言われるとは思ってもみなかったが。

 

 やっぱり俺って、せっかちなのか……と落胆していると、彼女は目の前に改めて座り直しながら「でも、流石ですね」と言った。

 

「使徒様はちゃんと自分が悪いと思った所を認めて謝れるんですもの。……普通の人は、どこかで自分が正しい、間違っていないという気持ちが働いて、素直に謝ることができませんから。私を含めて」

 

 そしてメルナは「でも……」と言葉を紡いだ。

 

「私も今、改めて覚悟を決めました。ちゃんと、全てお話しします。──自分が犯した罪を。私達の事を」

 

「次は最後までお話を聞いて下さいね」と、念を押すように言うと、彼女は目を閉じて深呼吸をした。それを二、三回繰り返した後に目を開けると、確固たる意志の籠った視線をこちらに向けながら彼女は言った。

 

「──使徒様。セレナにあの【呪い】を掛けたのは、私です」

「……え?」

 

 聞いた時、文字通り言葉が出なかった。俺自身が見て、聞いてきた事を参考に、メルナは犯人ではないと俺の中でつい先程決定づけられていたから。

 

「それってどういう……?」

 

 だから俺はもう一度聞き返した。聞き間違えだと、自分の勘違いだと信じたかったから。でも────。

 

「そのままの意味ですわ、使徒様。私がセレナにあの【呪い】を掛けた、と言っているんです」

 

 彼女は先程と何ら変わらぬ目で、そう繰り返した。

 

 そして、俺の返答がないのも織り込み済みだったのか、彼女は一度、溜まった何かを吐き出すように息を吐いてから少しだけ辛さが滲み出る声で言った。

 

「……これは、仕方の無いことだったんです。セレナを──私の大切な妹を守る為には、こうするしか無かったんです」

「……仕方がなかった?」

 

 俺がやっとの思いで出せた言葉に対して、彼女は「はい」と小さく頷く。次いで何か思い出を思い出すように、彼女は俺の後方の窓へと視線を移した。

 恐らく、窓の外には少しだけ欠けた月が僅かな光を放っているのだろうが、どうにも今の彼女には別の何かが映っているような気がした。

 

 彼女は居心地が悪くなってきたのか、視線を窓動かさないまま身体を捩らせる……いや、どちらかと言うと震えさせると、やはり同じような声音で言葉を続けた。

 

「もし、私がセレナに呪いを掛けなければ、《聖女》として戦場に駆り出されたのは、セレナの方だったんです」

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