ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。 作:颯月 凛珠。
それから彼女は、まるで懺悔するかのようにポツポツと話し始めた。
王都辺境にある、とあるのどかな村の村長の二人姉妹として育ったこと。
二人とも生まれ付き、村の中でも類を見ないほど魔力が高かったこと。
彼女達の実力は村の中に留まらず、全世界でも類を見ない程に成長してしまったこと。
──そして……初めからセレナの方がメルナよりも魔力が強かったこと。
「────私がセレナに呪いを掛けたのは、《The Lost Tale》が世界を荒らし始めたからなんです」
彼女はそう言うと、キュッと唇を結んだ。
「主様と会話ができた当時の自分は、それぞれの国の王達が討伐隊を画策している事を聞かされて思いました。このままでは、セレナが戦場に駆り出されてしまう、と」
「その事が問題だったんだな?」
俺が聞くと、彼女は頷いた。
「はい。その時主様から"仮にあのモンスターを倒せても、セレナは確実に死んでしまう"と聞かされていましたので」
ここまで聞いたら、流石の俺でも話を理解することができた。
「だから魔力を封印して、セレナを強制的に戦場から退けたというワケか」
「そういうことです。主様は私なら死ぬことは無い、と仰っていましたので」
つまりメルナは、戦場での死が神によって予言されていたセレナに対して魔力封印の呪いを掛け、衰退させることによって、代わりに二番手のメルナ繰り上げられて、《The Lost Tale》と対峙するように仕向けた……ということだ。
しかし、これはある意味では────
「かなり危険な賭けじゃねーか? それ……」
もし、それで《The Lost Tale》を退けることに失敗していたら、民衆たちの中で「もし、メルナじゃなくてセレナだったら……」と無責任に嘆き出す輩が出てくるはずだ。そうなると、民衆たちの怒りの矛先は、《The Lost Tale》から、そいつを討伐出来なかった、英雄の一行の中で一番弱い『二番手の』メルナに代わっていたことだろう。
「それは私も重々分かっていました。だから、セレナがこなしていた魔法も全て使えるよう努力しましたし、名立たる魔法使いとの対人模擬演習では、一度も負けることなく課程を修了しました」
俺はそれを聞いて、少しだけ驚いた。普通聖女というのはサポート専門の人っていうイメージで、使えるとしても"光"や"聖"属性の魔法だけだと思っていたのだが……。
「攻撃魔法も使えるんだな」
「……それくらいのことは出来ないと、セレナの代わりなんて認めてもらえませんでしたからね」
彼女は当時の苦労を思い出したのか苛立たしげにそう吐き出した後に、ソファから立ち上がって窓際まで移動すると、体を捻って伸びをした。
「んっ……はぁ……。お話が長くなってしまって申し訳ありませんでした。簡単に説明いたしますと、私が呪いをかけた理由はセレナを《The Lost Tale》から遠ざけるため、です。……何か質問などございますか?」
やけに簡単なまとめにしばしの沈黙を貫いた後に、俺は口を開いた。
「特に無い……と言いたいところだが、一つだけ良いか?」
「はい、なんでしょうか」
「……セレナってメルナの妹だったんだな」
メルナに対するセレナの態度はどこか親しみのあるものだったように記憶している。明らかに位が違うのにおかしいとは思っていたのだが、そういう理由ならば納得だ。
俺がそう問いかけると、彼女はこちらに向けたままの笑顔を少しだけ引き攣らせ始めた。
「え、待ってください。今のお話を聞いて、最初のツッコミどころはそこですか……?」
「……メルヘンにも似たようなこと言われたな」
どうも俺の着眼点は人とズレているらしい。
「そもそも使徒様は、セレナのステータスを【神眼】で見たのではなかったのですか?」
彼女は先程までのしおらしさは何処へやら、俺の前まで戻ってきてソファに座ると、腕を組んで不機嫌そうにそう言った。……メルナと言いセレナと言い、感情がコロコロと変わるところが同じなのは、やはり姉妹だからなのだろうか。
そんなことを考えつつ、俺は彼女の言葉に首を振った。
「そんな高位スキル、俺にはまだ使えない。俺が使ったのは【アナライズ】だ」
「……【アナライズ】。初級スキル、ですか」
【アナライズ】や【神眼】というのは、GTOでは前者は初級で、後者は最高位のモンスターにのみ使用できた情報開示スキルだった……のだがしかし、どうやらこの世界では人相手にも使えるモノになっていた。
ちなみに効果の違いとして、前者で覗けるのはちょっとした個人情報──例えば《エイジ》や《フウカ》といった下の名前や大まかなステータス、状態異常と言ったところだ。その最後の状態異常に関しては、どうやら相手との魔力の差が大きければ大きい程、見える項目が違ってくるらしいのだが。
しかし後者ともなると話は違う。そもそも【神眼】は、使うためだけに莫大な魔力量を消費する。しかしその代償として、相手の見たい情報を全てを強制開示することが出来るという、人間に使えるモノとしては頭のおかしいスキルだ。これ、全部フウカ調べな。あいつ、昔からそういう情報収集得意だったからなぁ……。
「つまり、使徒様はあの子の下の名前と、状態異常しか見えていなかった、ということですか?」
「そういう事だ」
俺が頷くと、いつも相手より上を行く彼女にしては珍しく、意気消沈したかのような顔をすると、誤魔化すように咳払いをした。
「なるほど。あなた様は、セレナが何者かも知らずにずっと気にかけていらした、ということなんですね……」
「……まぁ、確かにそうなるな」
まぁ本当は、セレナが他言厳禁の情報を持っていた時点で大まかな検討は付いていたのだが。そこはセレナの説教の量が増えてしまうので触れないで上げておくことにしよう。
「まったく、使徒様はお人好しというか、何というか──」
彼女が頭を抱えて首を振った直後。コンコンっと部屋の扉が叩かれる音が響き渡った。俺もメルナも、反射的に身構える。
「……誰?」
先程までの明るい声はどこへやら、一変して威厳のあるドスの効いた声へと変化させるメルナ。するとすぐにドアの向こうから「私です、メルナ様」という聞き覚えのある声がした。その声を聞いて、メルナは俺と目を合わせた後に頬に柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「……セレナ。入っていいわよ」
数舜後「失礼します」という声と共に、寝間着姿のセレナが扉を開けて入ってきた。次いで、直ぐに姿勢を正すと、頭を下げる。
「おはようございます、メルナ様」
「おはよう、セレナ」
「今朝はどのようなお洋服をお召しに……って使徒様? 何故ここに?」
俺が苦笑いしつつ挨拶代わりに軽く手を上げると、訝しげな顔をしながらもお辞儀を返してくれた。対してメルナはその光景を見た後に額に手を当てて溜息を吐いた。
「その質問は些かいただけないわね。貴女、私になんて言われたか覚えいないの?」
メルナの問いかけに、セレナは顎に手を当てて少し考え込むような仕草を取る。正直なところ、俺がメルナの部屋に居ることで察して欲しいのだが……。
数秒間の沈黙後、俺の願いが通じたのか、彼女は「あぁ!」と声を上げて、すぐに全速力で駆け寄ってくると、先程とは違ったガチのお辞儀で謝罪をしてきた。
「あぁぁ……! 使徒様、申し訳ありませんでした……! 私、自分に課せられた仕事をこなさずに寝てしまうなんて……」
「まぁ、帰って来なかったときは少しばかりイラっときたけど、こうして無事に着いたわけだし、全然かまわ──」
──かまわない。そう言いかけたとき、メルナが隣でゴホンッと大きく咳払いをした。……やべ、そういえばセレナの為にならないとかできつく当たらないといけないの忘れかけてた。
「……使徒様、許してくださるのですか?」
そう言いながら、涙目で見上げてくるセレナ。
「……使徒様?」
そして鬼のような目で睨みつけてくるメルナ。どちらの意見を優先させるかなんて、一目瞭然だろう。
「……俺のことを使徒様と呼ばないでくれって言ったよな? セレナ」
「……あっ! いや、その、それは!」
「あらセレナ……。もしかして、主様の使いの者からの命令も守れなかったのかしら……? 仮にも貴女、主様に仕える者よね……?」
「メ、メルナ様……これは違っ──」
「でも、使徒さ──エイジ様の命令に背いたのは確かですよね?」
あー、メルナさん。これ完全に素のスイッチ入っちゃってますね。目が明らかに悦んでますもの。そしてさりげなくメルナも名前呼びしてくれているのは、笑いを堪えざるを得なかった。
セレナは、更なる猛追は流石に予想していなかったのか、アワアワと困り果てた顔をしていた……と思ったら、途端に事切れたかのようにフッと膝から崩れ落ちると、魂が抜けたように上を向いてただただお経の様に「ごめんなさい……ごめんなさい……」と呟き始めた。
「ごめんなさい私はメルナ様からの命も使徒様からの言い付けも守れないダメな子ですごめんなさいごめんなさいごめんな────」
どうやらセレナの心のキャパシティを超えたようで、その姿はまるで壊れた人形さながらだった。
そんな姿を見て、俺は些か不安に思って声を掛け──ようとしたのだが、それをメルナが手で制した。
「今使徒様が声を掛けてしまわれたら逆効果です。この子は昔から失態を重ね続けると、こうして精神崩壊寸前まで自分を追い込んでしまう癖があるんですの」
彼女は手を下ろして、こちらを見やってから言う。
「……ね? この子を戦場に送るの、不安になるでしょう?」
「……全くもって同意」
彼女は俺の言葉に苦笑いしながら頷くと、セレナの方へと移動して行った。視線で追いかけると、彼女はセレナの真横まで来てから体をこちら側にクルッと反転させた。そして床にへたり込むセレナを手で差すと──
「では改めて、私の方から紹介しておきますね。彼女の名前は《セレナ・ノア・ミハエル》。私の実の妹ですわ♪」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
──そう言って、メルナはニッコリと微笑んだ。
……それ、今言うか?
☆☆☆
未だにへこへこと頭を下げ続けるセレナを何とか部屋から追い出した後、メルナは紅茶の入ったティーカップを片手に一息つくと言った。
「いくら反応が可愛いからって、あまりセレナをイジメないでくださいね?」
「大半はお前だったけどな」
「あら、私は妹と戯れていただけですわ」
「あれが戯れなら、もうなんとでも言えるな……」
心が脆い人なら、あそこで号泣していたのではないだろうか。ほんと、セレナが強い心の持ち主でよかった。……ちょっと壊れかけてたけど。
彼女はクスクスと控えめな笑いを頬に浮かべた後に、音を立ててティーカップを置くと、「そういえば……」と会話を紡ぐ。
「主様の使徒のエイジ様とフウカ様がこうして集まられたわけですが……私達は一体何をすれば良いのでしょうか?」
「あれ、メルヘンから聞いてないのか?」
俺が驚きながらそう問うと、メルナは首を縦に振った。
「はい、特には」
「あいつ……」
実は説明するのが面倒くさいだけだろ……。
よく考えてみれば、俺への説明も結局一度だけだったし、その後直ぐに飛ばされたわけだし……ワンチャン、逸る気持ちを抑えられないフウカへの説明を端折っていた可能性も十分にある。そう考えると、その説はだいぶ濃厚なような気がする。
なんで尻拭いをせなあかんのだ……と思いつつ、俺はメルヘンから聞いた話を大まかながら説明した。
──────―
────―
──―
「────と、まぁこんな感じの理由で、俺とフウカは魔王とそれに従える四柱を倒すためにこの世界に来たんだ」
流石に本日二度目となるとスムーズに説明ができた。
ちなみに、それがゲームの中での話であったことは、自分がその世界で旅をしていたという設定にして伏せてある。もしかしたら後々説明が必要になってしまう可能性もあるだろうけど、そうなったらその時考えれば良いだろう。
それにしても……改めて内容を確認してみると、中々に在り来たりなストーリーのような気がしてならないな、これ。それこそ、世界の半分をくれるゲームみたいな。
しかしやはり、この世界では元いた世界の知識はあまり通用しないのだろう。話を終始無言で聞いていたメルナは、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干すと、少し緊張したような声で言った。
「な、なるほど……。やはりフウカ様とエイジ様は、主様に頼られるだけあって凄い方々だったんですね」
「まぁ一応、向こうの世界でトップを張っていたしな」
俺は胸を張って自慢げに頷いた。
別に、地球でのリアルの生活のことを言っているワケではなく、ゲームの世界の話をしているワケなので、決して嘘は言っていない。
しかし、メルナは「ですが……」と遠慮がちに、それでいて少しばかりの不信感を露わにしつつ言う。
「先程、エイジ様のステータスを拝見させて頂いたとき、確かに魔力量と生命力はそのレベル帯では桁違いに高かったです。しかし、他のステータスは平均より少し上くらいのモノだったのですが……」
「あれ、俺意外と一般人?」
ステータスがどれも一般的って……異世界転移の特典としてはあまりにも弱々しいものでは無いだろうか。これじゃ救える世界も救えないじゃないか。何してんだ、あの頭メルヘン野郎……。
そんな感じに俺が割かし落ち込んでいると、メルナは慌てて言葉を続けた。
「フウカ様に関しても魔力量と属性力以外はエイジ様と似たようなステータスでしたよ。主様がそんな方々を使いにするなんて考えにくいですし……。それを考慮するに、恐らくですがレベルアップ時のステータスボーナスが高いのではないでしょうか?」
「なるほど、確かにそれはありえる」
彼女のフォローに希望を見出して、全力で同意する。
寧ろそうでなきゃ困る。そうでなきゃ、この世界で《エイジ》や《フウカ》のあの膨大なステータスに、追いつくことなんて不可能だろう。
「きっとそうですよ。そうでなければ、私達も困ってしまいます」
「少なくとも、メルヘンはこの世界の事を誰よりも考えてるし、確実にそうだと思うな」
早速明日、レベリングをして上がり幅を確認してみようかな。その数値をデータ化していけば、きっと分かるはずだろうから。
そう思いながら、俺の分として置いてあった、冷めて温くなった紅茶を一気に煽る。話疲れた喉に水分が染み渡り、少しばかりの幸福感を得られた。
「さて、他に聞きたいことはあるか? 俺が答えられる範囲で答えるが……」
「あ、はい。聞きたいことは沢山あるので、ぜひ質問させて頂きたいのですが……」
そこで言葉を切って彼女は遠慮気味に窓の外を見た。その仕草で大体のところ察しはついたが、視線をそちらへと向けると、先程まで暗かったはずの空は少しばかり青みを帯びてきていた。
「もう朝になってしまいますし、また今夜でもよろしいでしょうか? 本日は、使徒様もゆっくりお休みになってください」
「流石の私も、少しは寝ないとその日一日かなりきついですから」と、はにかみながら言われてしまったら、流石に止めることは出来ない。いや、最初から止める気は無いけど。
俺は彼女に笑いかけつつ頷いた。
「あぁ、分かった。それじゃあまた今夜、この部屋で良いか?」
「はい、礼拝以降でしたら構いませんよ。丁度、明日は私の安息日ですからね」
「ん、了解」
次の約束を取りつけつつ、俺はソファから立った。メルナはと言うと、テキパキと机の上のティーカップを片付けた後に、扉の前へと移動して俺が出るタイミングを見計らってドアを開けてくれた。
……出会った直後の対応とは天と地の差だな。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ、使徒様」
……とは声に出さず、代わりにお互いに就寝前の挨拶を交わしてから部屋を出る。その数秒後、後ろの扉が静かに閉まる気配がした。
それと同時に、体の底から疲れがどっと湧き出てきて、つい堪えきれずに大欠伸をしてしまった。
「……徹夜に慣れているとはいえ、流石に今日は眠いな」
まさか、異世界初日に徹夜をする羽目になるとは思わなんだ。……取り敢えず、メルナの言った通りゆっくり午後近くまでは寝るとしよう。うん、そうしよう。疲れを取るには寝るのが一番。
起きてからは……そうだな、フウカと今後のことについてもっとちゃんと話し合うべきだろう。まずは二人の意向を再確認するべきだ。
眠気でぼーっとする頭でそう結論づけてから、俺は長い廊下を歩き出した。
こうして、俺の長い長い異世界転移の一日目は、幕を降ろした──
「ところで……俺の部屋、どこ?」
──幕を降ろしたのであった。