ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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The Tale of "Snow White"
一ヶ月後。


 俺達がこの世界に転移してきてから約一ヶ月。

 

「フウカ。取り敢えず俺が引きつけるから、隙を見て一撃頼むわ」

 

 俺とフウカは、王都《ヴィルドヘルム》から東に約2キロ程離れた《ヴァルデックの森》で、レベルアップの為のモンスター狩りをこなしていた。

 

 今現在、俺とフウカが観察しているモンスターは《マッド・ディア》。名前の通り外見は鹿。レベルは、もう直ぐ20に達しようとする俺達よりも5程高かった。この辺りのモンスターの平均レベルは12から15程なので、恐らく特殊個体、"狂化モンスター"なのだろう。

 

「それで倒しきれなかった場合は?」

 

 俺の隣で同じく腰を低くしたフウカが手に構えた杖を握り締めながら問う。

 

「どうせ瀕死だろうから、その時は俺が仕留める」

 

 俺がそう返すと、彼女は「おー、カッコイイねぇ」と茶化すようにケラケラ笑った。しかし直ぐに笑顔を引っ込めると一転、不安そうに呟いた。

 

「……気を付けてね」

「……もちろん。こんな所で死んでられないっての」

 

 俺は一瞬間を空けてからそう言った後に、彼女の頭を安心させるようにポンポンっと撫でた。

 

 ここ最近、彼女は毎度のようにこうやって心配してくるのだ。

 

 俺を巻き込んでしまったことに負い目を感じている彼女が心配する気持ちは分かるのだが……。ゲームの中でモンスター共々俺を殺さんばかりの火力で魔法を撃っていた彼女を見てきた俺からすると、彼女のそのしおらしさはどうにも落ち着かない。

 

 だからこそ、俺は彼女にゲームの時みたいに元気よくそう言うのだ。

 

「うん……そうだよね」

「ん、そうだ。……それじゃ、そんな感じでよろしく。カウントは"3"な」

「りょーかい」

 

 彼女の頭から手を離し、腰に掲げた片手剣の柄を緩く握って、中腰になる。次いで、バックラーを掲げる手で彼女に向けて「3……2……」とカウントをとる。

 

「……行くぞ!」

 

 ゼロになった瞬間、俺は剣を抜きつつ身を隠していた茂みから飛び出た。その際《マッド・ディア》が、まるで犬のようにビクッと体を揺らしながら脇腹こちらに向けてきたので、お構い無しに刃を一撃通した。

 

「キュゥゥゥン!」

 

《マッド・ディア》は、そう喧しい鳴き声を発したと同時に、脇腹に深々と刺さった剣から逃げるように身体を捩らせた。

 

 本当はこの一撃でヘイトを稼いで、後はフウカの魔法に任せようと思っていたのだが……。急遽変更して、俺はここで更に追撃に出ることにした。というのも、確認したいことがあったからだ。

 

 捩らせた身体のうねりを利用して、横薙に一閃見舞いつつ剣を引き抜くと、《マッド・ディア》は苦痛に若干顔を歪ませながら、血飛沫を垂らして俺から大きく距離を取った。

 

「ギュゥゥン!!!」

 

 そして、咆哮。俺はそのうるささに耳を塞ぎつつ、一連のヤツの行動を頭の中で反芻した。

 

 強襲に弱いところ……弱点が脇腹であるところ……そして弱点を攻撃された時に大きく距離を取るところ。

 

「……やっぱり同じか」

 

 これらの動作全ては、GTOにモブとして出現していた《マッド・ディア》と全く同じものだっだ。強いて違うところをあげるとしたら、この世界——グラステイル特有の"狂化"というバフによって巨大化しているところだろうか。

 

 ……そこまで分かってしまえば、もう十分だ。何故なら——

 

 咆哮が止んだことを確認した後、俺は大きく息を吐いてから剣を構え直した。

 

 ——このモンスターの行動パターンを、俺は全て覚えているから。

 

 ……だからと言って、決して気を抜いて良い訳では無い。

 ゲームのような、システムという概念が存在しないこの世界では、モンスターまでもが自分の意思を持ってる。もしかしたら以前戦ったゴブリン達の様に、このシカも明確な意思を持った変速攻撃をしてくるかもしれない。

 

 だからこそ、念には念を入れるべきだ。

 

 俺は、回避スキル【脚力強化】でアジリティ上昇のバフをかけつつ、盾スキル【受け流し】を発動しやすいようにバックラーを少しだけ斜めに構えた。対する《マッド・ディア》は頭を低くして前方へと体重を掛けるように前足を曲げていた。

 

 確か、この予備動作は——

 

 そう考えたと同時に、《マッド・ディア》の巨体が素早く動き出した。

 

「キュゥゥン!」

「ッ!! ハァァッ!!」

 

 ——左右にステップしながらのツノによる突進。手前で予想出来ていた俺は、バックラーで角をいなしつつ、左にサイドステップすることで脇腹方面に移動すると、同時に右手の片手剣で脇腹を素早く三度切りつけた。

 

 

 流石に俺の攻撃が効き始めて来たのか、喧しくも悲痛な鳴き声を再度上げつつ距離を取ってから旋回すると、今度は高威力が見込めるツノによる乱舞をしてきた。が、しかし、この技も知っている俺は難なく避け切り、縦切りで胸元を切り裂いた。

 

 

 次は前足の踏み潰し。次は後ろ足による蹴り。次は——。

 

 

 そんな感じに、次々と繰り出される《マッド・ディア》の大振りな攻撃を俺は全て受け流して、逆にカウンターで放った俺の隙の小さい攻撃は確実に弱点の脇腹を捉えるという、ある意味で一方的な戦闘を繰り返していった。

 

 

 

 そんな戦闘が続けば、やはり——

 

 

 

「キュゥゥ……ン」

 

 ——先に【疲弊】するのは《マッド・ディア》の方になる。

 

 そして、その隙をフウカが見逃すはずがなかった。

 

「今!」

 

 フウカのその声を合図に、俺はバックステップで《マッド・ディア》と距離を取った。

 

「【ウインドストライク】!」

 

 直後、フウカの持つ小さな杖からカマイタチを乗せた空気砲の様な塊が、疲弊した《マッド・ディア》の脇腹に——いや、ヤツの巨体を巻き込むように直撃して、爆発した。

 

「ギュゥゥン!!!!!」

「……相変わらず、なんっつー威力だよ」

 

 茂みの近くまでバックステップを取ってから、独り言のように呟く。

 

「正直、《マッド・ディア》なんかよりあの風の塊の方が数倍怖い」

「エイジ? なんか言った?」

「……いえ? ナンデモ?」

 

 独り言程度の声量だったはずなのに、何故か聞こえていたようで、後ろから、首筋にヒヤリとした風が送られてくる。やめて! そのままそれが発動したら俺の首が飛んじゃう! こんな所で死にたくありません! 

 俺が左手で首筋を抑えながらそう思っていると、茂みから出て隣に来た彼女が、土煙の中を指差して言う。

 

「まぁ、冗談はさておき。あれ、倒せたの?」

「俺もかなり削ってたから、多分倒せたとは思うけど……」

 

 システムという概念がないこの世界では、勿論チャットログやネームタグなんてものは無い。したがって、ゲームの時みたいにタグの消失やキルログの表示がされることも無い。だから、土埃のせいで敵の姿が見えない以上、討伐出来たかどうかの判断は難しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……と、思っていたのだが。

 

 

「流石、エイジ様とフウカ様。あの巨大な《マッド・ディア》を見事に跡形も無く消し去ってしまうとは」

 

 俺達が先程潜伏していた茂みより更に後ろから、敬語ながら軽快な声が聞こえてきた。

 フウカと二人そちらを見ると、腕にバスケットを抱えたメルナがニッコリと微笑みながら、こちらに手を振っていた。

 

「流石に今の私の火力で跡形もなく……はいかないと思うけど」

「でも現に骨と肉塊以外何も残ってはいませんよ? ——ほら」

 

 そう言って彼女は、風魔法【ウインド】で土煙を晴らした。

 そして彼女の言う通り、そこには確かに骨と肉の塊らしき何かが、赤い液体の海に沈んでいるのが見て取れた。

 

「おぉ、本当に跡形もねぇ……」

 

 俺は感心の息を吐いた。

 ……数週間前までは、二人で「グロいグロい!」と言いながら目を逸らしていたモンスターの死体だが、今ではすっかり慣れてしまった。慣れって怖い。

 

「え、メルナ、なんで分かったの?」

 

 しかしフウカは死体より何故分かったのかが気になるようで。彼女の驚愕混じりの問いに、メルナは微笑みを絶やさないまま言った。

 

「私は一応"聖女"で、あなた達のレベルより60も上なんですよ? そのくらいお手の物です」

 

 彼女の言葉に、隣のフウカがムッとしかめ面をした。あ、これ、いつもの負けず嫌いの発動だ。

 

「別に……私達は元々レベルカンストだし。メルヘンにレベルを改ざんされてなければ、そのくらい簡単に——」

 

 が、しかし。やはり、メルナの方が一枚上手のようで。メルナはフウカの言葉を遮るように口を開いた。

 

「まぁ別に、魔力の有無を読み取っただけなので、レベルは関係ありませんけどね。フウカ様も鍛錬を積めば今にでも出来ますよ」

「…………」

「おい、落ち着け。これはいつものメルナの弄りだぞ。それにゲーマー特有の悪い癖が出てる」

 

 二人の会話があまりにも子供じみていて、俺は腰に手を当ててため息を吐いた。どうしてこう、ゲーマーというものは相手のマウントに対して無いものねだりをするのだろうか。

 ……まぁ、かく言う俺も、こういう風にマウントを取られたくなかったがために、GTOでトップの一角を張っていたのだが。

 

 そしてメルナに関しては……お前はもっと弄ることを自重しろ。

 

 俺の言葉に、メルナは「げーまー……?」と小首を傾げていたが、気にしない事にしたのか、手をパンッ! と叩いて注目を集めてから話を変えた。

 

「そんな事はさておき、どうです? レベルアップは進んでいますか?」

 

 そう言われて、《マッド・ディア》を倒した際の経験値を見忘れていたとに気づき、何度とやってきた手つきでステータス画面を開いた。隣のフウカも、「そんな事……」と唇を尖らせて拗ねつつもステータスを開く。

 

「あぁ、結構順調。さっきのヤツ倒したお陰でレベルが20台に乗ったよ」

「……私はまだ19。くそっ、ゴブリン三匹の差は大きいなぁ」

「それはおめでとうございます。フウカ様はもう少しですね」

 

 メルナが賞賛の拍手と共に、ニッコリと微笑む。こういう風にもっといつも素直なら、好感が持てるんだけどなぁ……。

 

「でも、やっぱり早いですね。まだ一ヶ月しか経っていないのに、もうD級冒険者並のレベルなんですもの。……やはり、主様の恩恵のおかげ、ですかね?」

「あぁ、多分そうだと思う。本当、ありがたい恩恵を貰ったもんだ」

 

 ——結局、転移したその日——実際は翌日の朝だが——に彼女と話し合っていた、メルヘンからの恩恵はメルナの予想が見事に的中していた。

 どうやら、俺とフウカのモンスターを倒した時の経験値が、この世界の住人より1.5倍近く多いらしい。どういった原理でそうなっているのかは、イマイチ分からないのだが。

 

「ほんと、羨ましいです。……くれません?」

「あげるかアホ」

「ふふっ、冗談です」

「お前が言うと、冗談が冗談に聞こえないのは何でだろうか……。あぁ、日頃の行いか」

 

 俺がからかいがてらそう言うと、彼女は物欲しそうな顔から一転不満そうに頬を膨らませた。

 しかしその膨らみも直ぐに萎ませると、厭らしくニヤリと笑って腕に提げていたバスケットを両手に持ち、高らかに掲げてから言った。

 

「エイジ様? そんなことを仰るのなら、この《セレナ特製サンドイッチ》の差し入れ、あなた様には差し上げませんよ?」

「なっ……!」

 

 彼女の言葉に、俺は動揺で肩を揺らした。

 

 セ、セレナ特製のサンドイッチ……だと!? 料理専門で教会に雇われている《デリス》料理長すらも絶賛する、あの!? 

 

「うっそマジで!? セレナのサンドイッチ、すっごく美味しいから超嬉しい!」

 

 現にその美味しさを知っている一人、フウカはそれを聞いて、不機嫌そうだった顔色を一転させ、一瞬にして花咲いたように明るくなっていた。

 

 セレナは、魔法が使えなくなった代わりにみんなのサポートをしようと、あれやこれや色々と勉強をしていた。その労力の賜の一つが、この絶品サンドイッチなのだ。

 

 俺がその味を知ってしまったのが約三週間前。俺の部屋の案内をし忘れたセレナが、贖罪として持ってきてくれたのがこれだったのだ。

 それ以来、俺はその美味しさを忘れられず、毎週のように作ってくれるよう頼み込んでいた。……本当は毎日作って欲しかったのだが、セレナの忙しさを考えると、それは我慢した。

 

 俺が、物欲しそうな目でメルナを……正確には彼女が掲げるバスケットを見つめていると、彼女は自分が作ったワケでもないのに、やたらとドヤ顔で話を続けた。

 

「早く謝罪をして下さらないと、エイジ様の分はフウカ様と二人で分け合うことに致します」

「よし、エイジ。謝らなくてよろしい。これは私とメルナで食べるから」

 

 そう言った後、女性二人は「ねーっ!」と声を合わせると、バスケットからそそくさとシートを取り出して、木々の無い見晴らしの良い場所を選んで地面に敷き始めた。

 

「え、ちょ……」

 

 止める間もなく彼女達はブーツを脱いでシートに座ると、早速サンドイッチを手に取って「「頂きます」」と挨拶をしてからかぶりついていた。

 

「ん〜〜! おいひ〜!」

「本当、美味しいですよね。……今度、作り方を教えてもらおうかしら」

 

 チラッとこちらを見ながら感想を言うメルナ。その目は、明らかに俺を弄んで楽しんでいた。

 

 ……クソ、ここで謝るのは微妙に屈辱的だ。が、しかし。背に腹は変えられん。ここはプライドを捨ててちゃんと謝ろう。

 

「あぁ、もう、俺が悪かったよ! すみませんでした! だから俺にもサンドイッチ分けてください!!」

 

 俺がそう言うと、メルナはニヤニヤしながら頷いた。

 

「……分かりましたわ。許して差し上げます♪」

 

 陽気に、「みんなで食べた方が、より美味しいですしね」と、付け足しながら、二人のより一回り大きい、サバーラップが巻かれた俺の分のサンドイッチを手渡してくれた。

 

「午前はお疲れ様でした。ちゃんと食べて、疲れを養ってくださいね」

 

 彼女はそう微笑んだ後に自分の分のサンドイッチを頬張って幸せそうな笑みを浮かべていた。

 俺は、その隣にあぐらをかいて座った後に気付かれないようにそっとため息をついた。

 

 まったく、メルナのヤツ、本当良い性格してるな……。

 

 

 

 渡されたサンドイッチにかぶりつきつつ、俺は景色を見ながら二人の楽しそうな談笑に耳を傾けていた。

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