ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。 作:颯月 凛珠。
夏休みに入ってバイトやら本免試験対策やら雑誌編集やら睡眠やらにおわれて中々書く時間がなかった颯月です。生きてましたよ。
さぁ、本編はいよいよ、Snow White編の入口のドアを開きました。
どうかお楽しみに!
メルナが調子に乗って引き起こした馬車事件から一週間が経ったある日。
「これが、ヴィルドヘルム城か……」
「教会から見た時も大っきいなって思ってたけど……。近くで見たら、なおのこと大っきいね」
俺とフウカは、城門の前に架かる橋の前で、二人してこの国の象徴を見上げていた。
城の尖塔に掲げられた国旗は、俺達がどれだけ手を伸ばしても届くことのない遥か上空で靡いており、城に備え付けられている半アーチを描く窓は、数えきれないほど無数に備え付けられている。
「今からこれに入るって、正直ヤバくない? 私達、本当に入っていいのかな?」
フウカがワクワクと緊張が入り混じったような声で言う。
「流石に門前払いは無い……と思う。あったら俺は帰る」
それに対して俺は、緊張MAXの状態で手に持った紙を握り締めながら返事をした。
——どうして俺達が王城に来ているのか。その発端は、件の馬車事件の後の事である。
☆
「そんで、手紙にはなんて書いてあったんだ?」
レベル上げで疲労した身体を、風呂でゆっくり休めた後の夕食の時間。俺は左斜め前に座るメルナへとそう話を切り出した。隣にはフウカが座っており、セレナは厨房の後片付けが終わり次第来るそうだ。
「え、何? 手紙って」
俺の問いに、メルナより先に隣のフウカが反応した。
「そういえば、お前馬車の中でほとんど寝てたし、話聞いてないもんな」
「うん、起きたのもメルナとエイジがイチャついてたところからだし」
「その言い方は誤解を生むからやめろ」
フウカの吐き捨てるような物言いに俺がツッコミを入れると、彼女は俺からツーンっと顔を逸らしてローストビーフに齧り付いた。どうにもまだ機嫌が悪いらしい。
そんな彼女を傍目に、フウカに見えない様にため息をついた後、改めてメルナに「どうなんだ?」と聞き直した。
それに対して、彼女は口の中の物が無くなってから、
「流石の私でも、他人宛の手紙を勝手に見るなんて無粋な事はしてませんよ。ご自身で確認してみてはいかがでしょうか?」
と返すと、布巾で口元を拭ってから傍らに置いてあったポーチに手を伸ばした。
室内用なのだろうか、馬車の中で探っていたものよりも少しばかり小さいモノだ。
……そういえばずっと気になってたことがあったんだが、この際に聞いてみても良いかもしれない。
「メルナってアイテムストレージ使わないんだな」
先程の国家紋といい、今の手紙といい。大事なものなんだから、外に出したままのポーチより、安全なアイテムストレージに入れて置いた方が良いのでは? と俺は思う。
俺のその質問に、彼女はポーチに目を凝らしながら頷いた。
「えぇ、まぁ。他の理由もありますが、アイテムストレージを開く動作より、ポーチに予めものを入れておいた方が早いですので」
「確かに一理あるかも。ポーションとかMPポットとか、アイテムストレージに入れておくより外に出て置いた方が早いし楽」
「モノの重要度の違いはさておき、だいたいそんな感じです」
フウカの相槌を笑顔で受けつつ、メルナは小さな声で「あった」と呟くと、ポーチの中から一枚の封筒を取り出した。
「さぁ、エイジ様。受け取って下さいませ」
「お、おう、ありがとう」
そしてそのままの流れでその封筒を俺へと渡すと、彼女は食事を再開した。
俺は、メルナとは対照的にナイフとフォークをテーブルに置いた後、手紙の表面を凝視したり裏返したりした。フウカも気になっているのか、同じように食器をテーブルの上に置いて、俺の肩越しに封筒を見ている。
いかにも高級そうな封筒のボタンには、やはりと言ったところかこの国の紋章が描かれていて、いかにも『王家からの手紙』然としていた。心做しか、封筒の材質もかなり良いモノのように思える。
俺とフウカは同時に顔を見合せ、なにか同意を求めるかのように頷きあった後に、ボタンに巻かれていた赤い紐を慎重に解いた。
中に入っていたのは、メルナの言った通り一通の手紙だった。俺はそれをフウカが読みやすいように少しだけ高めに掲げた後に、綺麗に折り畳まれたソレを開いた。
そこに書かれていたのは——
☆
「『——使徒エイジ様及びフウカ様を、王城へとお招きしたく存じます。どうか、御足労の程よろしくお願い申し上げます。 ヴィルドヘルム国女王 ホワイト・フィム・ヴィルドヘルム』……これは確かに、王家の紋章で間違いありません。ただちに上の者を呼んで参りますので、少々お待ちください!」
件の手紙に書かれていたのは、やはり俺達に拒否権の無い、王城への出頭命令だった。それも、女王陛下の朱印付きの。
門の前で槍を構えていた門兵に、少しだけシワの出来てしまったその手紙を渡すと、彼は焦ったようにそう言って、重そうな甲冑を揺らしながら城内へと走り去っていってしまった。どうやらこの様子なら、危惧していた門前払いは無さそうだ。
そんな門兵の後ろ姿を見ながら、隣のフウカがボソリと呟いた。
「なんかこういう展開って、ゲームで良くあったけどさ。リアルだとやっぱり待つんだね。スキップ機能、無いの?」
それに対して俺は吹き出すのを必死に堪えながら言葉を返した。
「あるわけない」
その場に取り残された俺達は、取り敢えずこのままここで待機する事にした。どこか別の場所で待とうにも、城内の間取り図なんて分からないので、正直これが一番妥当だろう。
橋の手すりに背中を預けて、フウカと今後のレベル上げの方針やら休日の過ごし方やらを話し合う事約十分。城内の方からガチャガチャと騒がしい音が近づいて来ていることに気付き、音の鳴るほうを見ると、先程の門兵が行きと同じように甲冑を揺らしながら走ってきていた。
「ハァ……ハァ……。お、お待たせ、ハァ、してしまって申し訳ありません! 女王陛下から入城の許可が、お、オェ……」
「と、取り敢えず落ち着いて下さい……」
俺達の前に来るや否や、息を整えるのももどかしく、吐きそうになりながら言う門兵。無理もない。あんな重そうな甲冑を着ながら走り回ったんだもん。そりゃ吐きそうにもなるわ。
門兵は、「ご配慮、ありがとうございます……」と言った後に膝に手を付くと、フゥーっと大きく息を吐く。しばらくそれを繰り返した後に、スっと上体を上げながら言った。
「……大分落ち着きました」
「回復魔法いりますか?」
俺が心配しながらそう言うと、彼は兜の中で目を見開いて明らかに狼狽えたような表情を見せた。
「いえ、とんでもない! これしきのことで回復魔法は大袈裟ですよ」
そう言って両手を前に突き出して俺からの申し出を拒否した後に、彼は一度咳払いをしてから言葉を続けた。
「では、改めて。——エイジ様及びフウカ様。女王陛下から入城の許可が降りましたので、どうぞお入りください」
「仕事中にわざわざ走ってまで伝えに行って下さって、ありがとうございました」
俺が感謝の意を述べると、門兵は槍をカシャンと地面に突き立てて「とんでもありません!」と言って敬礼をした。
俺は門兵に改めて一礼しつつ、彼の横を通って城内へ入ろうとした──
「ねぇ、エイジ」
──のだが、フウカが俺の袖口を掴んでグイっと引っ張ると、顔を近づけて耳打ちをしてきた。
「このまま入っても、王室までどうやって行くか分からないでしょ? 明らかに私達だけで入って、どうにかなる大きさじゃないよ、ここ」
「うっ……確かに」
門兵との会話で忘れていたけれど、俺たちは城内の間取りが分からなかったからその場で待っていたんだった。
フウカは俺の返事に、ハァ……と呆れたように溜息を吐いて俺から離れると、門兵の方を見ながら言う。
「どうせなら、この門兵さんに案内してもらおうよ。この人、良い人そうだし」
あ、コイツ、この門兵を自分の中でお気に入り登録したな。
「まぁ、確かに話しやすいし良い人だとは思ったけど……。やっぱり忙しいんじゃないか?」
俺がそう言うと、彼女は顎に手を当てて思案顔になった。しかし、その顔もすぐにいつもの笑顔の裏に引っこめると、陽気に言った。
「まぁ、とりあえず聞いてみようよ。やってみなくちゃわかんないよ」
「あ、おいっ!」
彼女は俺の返事を待たずにクルリと回れ右をすると、先程の門兵の元へ歩み寄って行ってしまった。
俺は額に手を当てて首を横に振った。そういえば、フウカは昔から思いつきで行動するやつだった。
現に、GTOで全ての杖装備を集めるのだって、《The Lost Tale》を二人で倒そうと言ったのだって、全て彼女のその場の思いつきだ。
正直、今まではゲームの中だったし、彼女に振り回されても別に問題は無かったのだが……。この世界が俺達にとっての現実となってしまった以上、彼女のこの行動は少しばかり強制する必要がありそうだ。
「ねぇ、門兵さん。お城に入ったことないから、どこに部屋があるかわからないんだけど……。もしよかったら案内してくれない?」
俺が今後の方針を固める傍で、フウカがそう言うと、門兵は敬礼を解いてから後ろ頭を掻きつつ、ボソリと嘆くように呟いた。
「私が行きたいのはやまやまなんですが……。実は先程、『お前が来たら誰が入口守るんだ! さっさと持ち場に戻れ!』と怒られてしまいまして……」
「あー……」
「だから言ったろ?」
門兵の言葉に、フウカが声を漏らした。
俺は、なんとなくだがこうなる事を予想していた。何故なら、GTOでも門兵がどこかへ案内してくれたことなど一度たりともなかったから。その設定が、恐らくここでも生きているだろうと、俺は考えたのだ。
……が、しかし。俺の予想とは少しだけ違う結果になった。少しばかり残念そうにするフウカに「ですが、案内に関してはご安心下さい」と門兵は続けたのだ。
「と言うと?」
「城内の案内は出会ったばかりの私より、最適なお方が付きますので」
「最適なお方……?」
俺達は同時に首を傾げた。この世界に来てから、顔見知りなんて教会の人か門前に店を構える串屋さんと八百屋さんくらいだ。王城に勤めている知り合いなんていない。だから、俺達に適している人なんて——。
「それは私のことかしら?」
「うぉ!?」
唐突に俺の真後ろ——城の方から声がして、俺は驚きで前へと飛び出してしまった。
「おぉ、噂をすれば。メルナ様、こんにちは」
「はい、こんにちは、《タスク》」
その声の主は、やはりメルナだった。
門兵は、改めて槍を立てて一礼すると、彼女に向かって挨拶をした。メルナはそれに対して、手をひらひらと揺らして門兵へと挨拶を返すと、俺達の方に向き直ってから笑顔で宣った。
「あら、エイジ様。驚かせてしまったようで。申し訳ありません」
「お前絶対わざとだろ……」
「いえ、そんなことはありませんわ。ただ、【隠密】を使ってエイジ様方に近付いただけですもの」
「確信犯じゃねーか!」
もう定着しつつある俺とメルナの言い合いに、門兵は「メルナ様にもこんなお茶目な一面があったんですね」と、苦笑いをしていた。
「ってことはつまり、メルナが私達の案内人ってこと?」
そんな明るい門兵に対して、フウカは俺達のこのやり取りが気に食わないらしく、ジトッとした目で俺とメルナを——特にメルナを睨みつけていた。
「は、はい。そう……ですわ」
あ、吃った。
どうやらメルナはフウカに大してまだ負い目があるらしく、俺との対応に比べてどこか消極的であるような気がする。
「そっか。じゃあよろしくね、メルナ」
「お任せ下さい。それでは、ご案内致しますわ」
そう言っていつもの笑顔に戻ったフウカに対して、警戒から逃れられたメルナは、安堵のため息と共に胸を撫で下ろすと、城の方へと歩みを進めた。
俺はその光景に苦笑いしつつ、改めて門兵に軽く会釈をした後に彼女達の背中を追った。
あの門兵はどうやらかなり仕事熱心らしく、その会釈を受けた時も、こちらを振り返ることは無かった。