ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。 作:颯月 凛珠。
城内に入ってすぐに、俺達はその絢爛豪華な内装に足を止めて魅入ってしまった。
遥か頭上にある天井からぶら下がる、硝子造りのシャンデリアや、アーチを描くステンドグラス。道の両端に等間隔で置かれた白い石膏は、歴代の王様だろうか。ホコリ一つ被っておらず、誇らしげな顔をして佇んでいた。
「……スゴい」
隣のフウカもその光景に感嘆の息を吐いていた。
そんな、まるで子供のように目を輝かせる俺達を見て、メルナはクスクスと笑った。
「こんなの、まだ序の口ですよ。ホワイトの部屋に近づけば近づくほど、私達では払えないくらい高価なモノも普通に置いてあったりしますから」
「これよりヤバいモノがあるのかよ」
俺は驚愕で息を漏らした。ここら辺でも既に庶民じゃ絶対に買えないような代物ばかりなんですけど……。ほら、あそこの壺とか。
「あぁ、あの壺は修道院で十五年くらい働かないと買えないものですね」
「……バカじゃねーの?」
文字通り、開いた口が塞がらなかった。なんでそんな高価な壺、エントランスにおいてるんですか? ここの女王は。
「まぁ、ホワイトにとって興味のない貢物は、こうしてここら辺に飾られていますね」
「え、これ全部? 買ったんじゃなくて?」
フウカが興味深げに眺めながらそう言うと、メルナはその壺に手を当てながら頷いた。
「はい。全部、他国の王子様や権力者が送ったものですわ。あの子に求婚するために」
「なんかすごいモテるんだね」
「えぇ。何しろ彼女、世界で一番美しい女王って呼ばれていますもの」
それを聞いて、どんな感じの女王なのか想像したのか、「へ~」と感嘆の息を零していた。
「やっぱそれだけの美人となると、エイジも気になっちゃうんじゃない?」
次いで、俺をからかうような視線と共に悪戯な笑みを向けてくるフウカ。まったく。なんでこう、毎回俺を試すようなことを言うんだこいつは。
「馬鹿言え」
だから俺は彼女の意見を否定しつつ、こう答えてやった。
「俺は、王女の部屋の近くにある金銀財宝の方が気になる」
「そこは嘘でも『お前意外気にならない』とか言っておきなよ……」
俺の言葉に、フウカは落胆の溜息と共に肩を落とした。へっ! 嫌だね。そういう面では生粋のヘタレである俺が、なんでそんなキザな言葉を言わなきゃならないんだ。
「金銀財宝、というわけではないんですが」
先程の言葉を聞いてか、メルナが考えるような素振りを見せてから言う。
「確か、王の間の壁に沢山の武器が飾られていましたね」
「なんだ、武器か」
俺はメルナの言葉にそっけない返事をした。
なんとも物騒な部屋だな。王の間って、なんかなんもない部屋にレッドカーペットが引いてあって、その最奥に王座がドーンと置いてあるだけのイメージだった。
それに、武器というのがどうにも興味を誘わなかった。俺が興味を持つものと言えば、遺産系……例えば、ナポレオンが発見したロゼッタストーンとか、リディアの鋳造貨幣とか、そういう歴史を感じられる類のものだったから。
「武器と言っても、普段使われることのない国宝級のものばかりですけどね」
「例えばどんなのがあるの?」
しかし、俺の考えとは対照的に、武器集めを趣味としていたフウカが、目を光らせて続きを急かしていた。その要望に応えるべく、メルナは思い出しながら話を続ける。
「そうですね……。《デュランダル》という名前の魔剣だったり──」
「魔剣!」
デュランダル。確か、ローランの歌に出てくるヘクトールが使っていた剣だ。
「これは私も良く分かっていないんですけど、王座の後ろに大きな鏡がありますね。恐らく姿見用でしょうけど」
「それは興味ない」
お前興味ないものに対して容赦なさすぎだろ。
「《アスクレピオス》という名前の蛇柄の杖だったり──」
「杖!」
そんな杖があるのか。初めて知ったな。
「他にも……あの、そんな目を私に向けられても困ってしまうんですが……」
魔剣や杖と聞いて、フウカは先ほどより更に目を光らせてメルナへと近づいていた。反対にメルナは、かなりおびえた表情でフウカを見ている。フウカの奴、完全に獲物を狙う目をしていやがる。
なんかこれ以上はフウカが暴走しそうなので、俺はフウカの頭にチョップをしながら間に止めに入った。
「あいたっ! ちょっとエイジ! なにすんのよ!」
「お前今獲物を狩るような目、してたぞ」
「そ、そんな目、してないよ! ただ、あわよくばメルナの権力を使ってその武器たちを我が手の中に……」
「やっぱり狙ってたんじゃねーか」
しまった! と言いながら口を押えるフウカに溜息を吐きつつ、メルナに向き直る。
「すまん、メルナ。こいつ武器のことになると毎回こうなるんだ……」
「え、えぇ……。大丈夫です。なんかもう慣れてきましたし」
そう言って、額に浮かんだ汗を拭うメルナ。本当、俺たちが来てから彼女には苦労を掛けっぱなしのような気がして、申し訳なく感じる。
まぁ、からかってくるところを差し引くとプラマイゼロなんですけどね。
メルナはフウカの様子をチラッと見た後に咳払いをすると、いつものような凛とした顔つきに戻してから言った。
「さて、雑談はここまでにしましょうか。そろそろ関係者のみが立ち入る事ができる区域ですので。そのおつもりで」
「はーい」
「あいよ」
彼女の注意事項に各々返事をした後に、俺達はメルナについて歩みを進めた。
その道中。メルナとフウカの背中を追いながら、俺は先ほど手に入れた情報を頭の中で整理していた。
王様たちの献上品をエントランスに無造作に置くその胆力。ある意味で、その行為は他国を侮辱しているようにも捉えられるし、かなり危険なものじゃないだろうか。
使われることのない名剣達。彼女の部屋を飾るものとしては最高品なのだろうけれど……。正直あまり良い趣味とは言えない。何かの間違いで賊が侵入してきたとしたら、真っ先に相手の戦力強化に繋がってしまうではないか。
まぁ、これに関しては仮定の話だから何とも言えんが。
あと、メルナが言ってたのは……鏡? のことか。まぁ、これは特に整理しなくても────
「ん?」
「何? なんかあった?」
そこまで考えてから、俺の脳内検索にある物語が引っ掛かった。
訝しげな顔で俺を見るフウカに、何でもないと首を振ってから、改めて思考の波に身を委ねた。
俺の記憶の奥深く。それを聞き覚えていたのは、幼少時代の事だった。
──”ホワイト”という名前。
──この世で一番美しい女王。
──用途の分からない鏡。
全てが全て、俺の記憶にある御伽噺と合致していた。
俺はこの時、確信した。
この国の元ネタは『白雪姫』であると。そして──。
《打ち出の小槌》によって、俺達の物語が始まったように、この『白雪姫』の物語も既に始まっているのだ、と。
☆
それから歩くこと約二十分。俺達はメルナを先頭に、大広間の奥にある白造りので綺麗な螺旋階段を上っていた。
「この先が、ホワイトのいる通称”白の間”です。分かってはいると思いますが、仮にも女王陛下なので無礼の無いようにお願いしますね」
「お、おう」
そのあまりにも現実離れした綺麗さに息を呑みつつ、メルナの注意喚起に頷く。先程まで周りを眺めてあれやこれやと騒ぎ立てていたフウカも、今ではすっかり前だけを向いて大人しくなっている。
そこから約分。階段を登り切った先に、今まで見たことないような荘厳さを漂わせる大扉が、俺達の前に立ち塞がった。そしてその両脇には、如何にも屈強で百戦錬磨の兵士が無言で佇んでいた。
彼らから発せられるオーラは、そこら辺にいる魔物──それこそ、先日フウカと二人で狩った《マッド・ディア》のものよりも遥かに密度高く凝縮されており、近づくだけで身の毛がよだつレベルだ。
そんな彼らにものともせず近付いていくメルナ。こういう場面を見ると、やっぱりメルナって凄いやつなんだなぁとつくづく思う。普段の言動からじゃ全く分からないけど。
「二日ぶりね。通してくださいな」
「……紋章を見せろ」
「まったく。顔パスじゃダメなのかしら? 入口の門兵さんはOKして下さったのに」
「女王陛下の御前だ。これくらいの規則に従って貰えないと困る。それに、連れが居るなら尚更だ」
だが、世界を救った三英雄の一人である彼女を目の前にしても、全く怖気付く様子のないこの二人も、やっぱり凄い人達なんだなぁ……。
もう、語彙力無くなってきたわ。
メルナは「ハイハイ」と若干面倒臭そうに返事をした後に、いつものポーチから、スっと紋章を取り出して掲げてみせた。
なるほど。確かに彼女の言う通り、ポーチを使うのは便利そうだ。
「……よし、通れ」
「ありがとうございます」
どうやら許可が下りたようで、メルナは門兵達に一礼すると、踵を返して俺達のいる方へと戻ってきた。それと同時に、彼女の後ろでは門兵が二人同時に向き合って、重々しい扉を軽々と開け放していた。
メルナはいつもの様な微笑みを浮かべてから、俺達に手を差し伸べて言った。
「さぁ、エイジ様、フウカ様。行きましょう」
中は、素材の分からない透明度の高い建材で出来ていた。強いて一番近いものを挙げるとするならば、強度を極限まで高めたガラス、と言ったところだろうか。壁には、先程メルナの話にあった通り、剣や杖、斧などが等間隔に並べられており、建材とのミスマッチさと相まってより一層濃い気配を漂わせていた。
しかし。そんな珍しい空間に入ったのにも関わらず、俺の目に最初に映ったのは、それらすべてを通り越した最奥に見える、玉座に座る一人の女性だった。
その女性は俺達に気がづくと、無駄のない動作で王座から立ち上がった。顔は、陰に隠れてよく見えない。
女性は一歩こちらに近づいた。カツンッと、彼女の履く透明なヒールが高い音を鳴らす。
「こんにちは」
メルナやフウカとは違う、暖かさのない冷たい声が鼓膜を震わす。それと同時に、嫌な感覚がゾワリと背中を撫でた。
「二日ぶりね、メルナ。相変わらず綺麗な顔で羨ましいわ」
「貴女に言われたら、嫌味にしか聞こえないわよ」
メルナの返す声が、どこか遠くモノのように感じられる。それとは対照的に、目の前を歩く女性から発せられるヒールの音はより近く、より大きく聞こえた。それでいて一定のリズムを刻むその音は、まるでメトロノームのようだ。
「そんな風に言ってないわよ。まったく。素直に受け取らないのね、メルナは」
足音が、俺達の前で止まった。いつの間にか下げていた視線が、自然と上にあがる。
そこいたのは──
「……キレイ」
言葉では表せない程美しく、それでいて厳格さの滲み出る凛々しい顔付きの女性だった。体系も、スレンダーなフウカ以上少々ふくよかなセレナ未満と言った感じのバランスの良さで、隣のフウカも感嘆の息を漏らしていた。
「ホワイトがそうやって人を褒める時って、基本的に何か頼みたいことができたときでしょう? それで、今回は何があったの?」
やっぱり、この女性がホワイトか。
メルナは何度も会っているということで、もう慣れているのだろう。まったく怖気づく事も無く平然と会話をしている。
「あら、流石メルナ。察しがいいのね。……でもその前に」
彼女はそう言うと、その美貌から放たれる鋭い眼差しを惜しげなくこちらへと向けてきた。それを真正面から受けて、俺は隣のフウカ共々ビクッと体を揺らした。
……ッ! なんて威圧感だよ……!
たったそれだけの行為なのに、俺達の動きを制限するには十分なものだった。
「そちらの二人が、例の使徒様?」
「えぇ、そうよ。でもあまり怖がらせないであげて。まだここに来て日が浅いのよ」
メルナの言葉に、ホワイトは溜息ともとれる息を吐いた後に目を閉じた。それと同時に、俺とフウカを抑制していた謎の威圧感がフッと消えた。彼女の目が、恐らくそういうスキルを持っているのだろう。
「……お名前、教えてくださる?」
彼女は目を閉じたまま、メルナと話す口調より数段優しい口調で、そう問いかけてきた。俺は先程の威圧で滲み出た汗を拭いつつ、その問いに答える。
「……エイジです。それで、こっちの女の子がフウカです」
「こ、こんにちは……」
フウカは完全に委縮してしまっているのか、その声は消え入りそうなくらい小さかった。
「エイジ様に、フウカ様ですね。お待ちしてました」
しかし、声の大きさやトーンなどはさほど気にしないのか、ホワイトはその美貌に笑顔を称えつつ言葉を続けた。
「今日あなた方を呼んだのは他でもありません。あなた方が本当に使徒なのかどうかを確かめておきたいのです」
彼女がそう言い切った瞬間、メルナの顔つきが変わった──ような気がした。
「それは、エイジ様達が使徒ではないと、疑っているってこと?」
「はい。簡潔に言うとそうなりますね。見た目がこんな平凡な少年少女なら尚更」
まぁ、そりゃ確証はないわな。俺だって未だに自分が使徒だなんて半信半疑だもん。
そう言いながら笑顔を崩さないホワイトに対して、メルナが俺達よりも数歩前に出た。その足取りは、いつもの様に軽やかなものではなく、どこか力強く、そして怒っているように見えた。
「ホワイト、それは流石に失礼ではなくて?」
怒っているよう、じゃなくて怒ってるな、こりゃ。
メルナの反感に、ホワイトは目を開けてスッと細めた。
「ですが、貴女も知っていますでしょう? メルナ。私は自分の目で見たものしか信じないことを」
「確かに知っているけど……。でも、私も確かに主様からお告げを頂いて——」
メルナの言葉を遮って、ホワイトは少しだけ声を荒げた。
「だから私は、その瞬間を見てないから信用してないって言ってるのよ」
「っ……!」
メルナが顔を強張らせた。
おいおい……。今の発言、この国を統治する者のセリフとして大丈夫なのか? 仮にも国教になっている宗教の神を、冒涜するようなモノじゃないか。
固まったまま動かないメルナに、ホワイトは「分かって欲しいわ」と言うと、彼女を抱き締めた。俺から見えるホワイトの顔に先程の笑みは無く、寧ろ沈んでいるように見える。
「私だって、無条件で信じたいわ。貴女の言うことだもん。でも、昔一度、私は人間に殺されかけて……いいえ、一度殺されている。その記憶が、人を信用するなって囁いてくるのよ」
「だから、ね?」と念を押すように言うと、彼女の胸の中のメルナは一瞬迷うような素振りを見せた後に、コクリと頷いた。
ホワイトも同じように頷いた後、メルナをゆっくりと離すと、踵を返して王座へと戻っていった。メルナも、少しの間その場に立ち尽くしたままだったが、彼女の中で整理がついたのか、いつもの凛々しい顔付きに戻ると、ホワイトの歩いた後を歩み始めた。俺達も、その後について行く。
ホワイトが王座の前にある階段を登り切り、座ったタイミングで、俺達は階段の下に着いた。
見上げた先にいるホワイトは、さっきとは全く違う威厳を醸し出していた。隣には純白の軽鎧を纏った騎士が、腰の剣に手を掛けて佇んでいる。
先程門の前にいた兵士たちより、強そうなオーラは感じられないが、女王陛下の傍付きをやっているのならば、相当な実力者なのだろう。
「さて、エイジ様、フウカ様」
ホワイトが、手に持った扇を広げて仰ぎ始める。少しばかり偉そうなのでイラっとはしたが、女王陛下じゃ当たり前かと結論付けて、その怒りを自分の内から排除した。
「今からあなた方に試練を設けます」
彼女は言葉を紡いだ。
「それをクリアできたのならば、とりあえずは神の使徒として認めましょう。それでよろしいですか?」
なるほど。見たものしか信じないというのは、実力を示せ、ということか。証明できるものがない以上これは彼女の案に乗るしかないだろう。
隣のフウカと顔を見合わせた。彼女は、先程の畏怖がまだ抜けきっていないのか、若干強張った顔をしていたが、俺の意図を読み取ったのかコクリと頷いた。
俺がホワイトに向かって「大丈夫です」と返事をすると、彼女は扇をカシャッ! と、音を立てて閉じた。
「ではまず、エイジ様の方から。確か、貴方は前衛職でしたよね」
俺が無言で頷くと、ホワイトは左を向いて「アル!」と声を上げた。それと同時に隣にいた白い軽鎧を纏った騎士が、「はっ!」と一礼してから一歩前へと足を運んだ。
「さて、エイジ様」
「……なんですか?」
こちらに視線を戻し、彼女はニッコリと微笑んだ。それに対して俺は、引きつった笑みを浮かべつつ返事をした。
この展開、正直なところ嫌な予感しかしない。だってもう、経験則的にアレを言われる流れだろ? 普段、異世界転移系の法則は全く成り立たないくせに、なんでこういうところばかりラノベの様な展開になってくるんだ……。
そんな思考が俺の頭をグルグルと回っている内に、この国の女王は左手で先ほどの騎士を指すと——
「——あなたには、我が国の騎士長《アルド》とデュエルしてもらいます」
——相も変わらず美しい笑顔のまま、俺の予想と一言一句違わない言葉を投げかけてきた。