ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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デュエル

「それでは、今からアルド対エイジ様のデュエルを行います」

 

 声は風魔法で拡張されているのか、野球などで場内スピーチをする時と同じくらいの声量で、ホワイトがそう音頭を取った。それと同時に、試合場となっている野外修練場に沢山の歓声が巻き起こる。

 

「えー、今回の審判は私、ホワイト様専属ドワーフ、《グランピー》が執り行います」

 

 試合場の中央にいる小柄な男性が、不機嫌そうにそう言うと、さらに歓声が巻き起こった。それも苛立たしいのか、靴のつま先を地面につけては離しを繰り返していた。

 

「なんでこんなに人が多いんだよ……」

 

 そして俺は、人の多さに舌を巻いていた。ヤベーよ。心臓バクバクだよ。

 

「ごめんね、エイジくん。騎士達の訓練を中断してまでやってるから、野次が多くなっちゃったんだ」

 

 どうやらアルドは、こうなる事が予想済みだったらしく、相手である俺の所まで来ると、後ろ頭を掻きながら小さく頭を下げた。

 

「ぜ、全然! 大丈夫です」

 

 それに対して、俺は手を前にぶんぶん振って大丈夫アピールをすると、彼は「そっかそっか」と笑った。

 

「緊張してると握る手に力が籠っちゃうからね。出来れば、エイジくんには全力で戦って欲しいんだ」

「俺にはって事は、アルドさんは全力を出さないって事ですか?」

「まぁ、そういう事になるね」

 

 彼はそう言うと、剣の鞘を手でポンっと叩いた。彼の言葉に正直なところ若干イラっとしたが、少しばかり勝率が上がったことを考えると、俺はただ愛想笑いをするしかなかった。

 

「って、ん?」

 

 彼の言葉に、少しだけ違和感を感じて笑いを引っ込めた。その違和感は、直ぐに俺の中へと浸透すると、言葉となって口をついた。

 

「アルドさんって、俺の事様付けしないんですね」

 

 俺の記憶違いで無ければ、この世界に来てから普通にくん呼びされたのは、初めてかもしれない。

 彼は俺の言葉に一瞬キョトンとした顔をすると、次いで慌てながら言った。

 

「様を付けて呼んで欲しくなさそうな顔してたから、つい。ダメだったかな?」

「いやいや、全然。むしろそっちの方がありがたいです」

「そっか。それじゃあ、これからもそう呼ばせてもらうね」

 

 彼は笑顔で相槌を打つと、俺へと近づいてきて、手を伸ばした。……どうやら握手をしたいらしい。

 無言の笑顔で差し出した手を微動だにさせない彼に対して、俺はおずおずといった感じに手を握った。

 

「よ、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

 

 彼は柔らかな物腰で笑顔を更に輝かせた。さっき、女王の前にいた時は得体の知れない何かを感じていたけれど、こうして改めて話してみると意外と好青年なのかもしれない。

 

「さぁ、両者握手を交わしたところで、さっさ……そろそろ試合を始めてもらいましょうか」

 

 俺達が手を離したと同時に、ドワーフが低い声でそう言った。無理やりやらされてます感を隠すつもりはないのか、彼の溜息までもが場内に響き渡る。

 

「あはは。グランピーも怒ってるし、そろそろ開始位置に戻ろうか」

 

 彼は笑いながらそう言うと、俺から身体を背けた。

 試合前だというのに、彼からはかなりの余裕が見られる。いや、まぁ、正直レベルの差が歴然過ぎて勝負にならないと思っているんだろうけど。

 

 ……そう思ったその時だった。

 

 

「──っ!」

 

 

 俺の思考を読み取ったのだろうか、はたまた偶然だろうか。目の前を歩くアルドから物凄い濃度の殺気が放たれた。その殺気は、空気中を伝わり、俺の肌をビリビリと焦がし続けている。正直、これだけでもダメージが入ってそうな気がする。

 濃縮された殺気の中、俺はもう一度彼の背中を見た。

 

「次にこの距離に来た時には、君は俺の敵だ」

 

 彼の背中は、そう言っているような気がした。──俺はそして気づいた。彼は決して手を抜こうなんて考えている訳じゃない。むしろ逆だ。どの勝負にも全力を尽くすつもりだ。

 

 よく考えてみれば、騎士団長という肩書のある人が、そんな浅はかな考えをするわけがなかった。つまり、この勝負を楽観的に考えて、舐めて掛かっていたのは俺の方だったのだ。

 

「こんな生半可な覚悟じゃ、絶対に勝てない相手だよな……」

 

 俺は、一度気持ちをリセットしようと、自分の頬をペシッと叩いた。叩いた部分が熱を帯びる。その熱が、俺の闘志を改めて燃やしてくれた。

 

 次いで俺もアルドから背を向けて、開始位置へと移動を開始した。

 

 その道の途中、俺は考えた。

 フウカを取り戻そうとしたあの時、なぜ俺はあそこまで躍起になったのか。

 

 答えはすぐに浮かんだ。

 

 ──誰かの為だったから。他人の為だったからこそ本気で取り組んだし、実力差があっても、何とか勝ちをもぎ取ることができた。

 

 しかし今回はどうだろう。明らかにこちらに利益がないじゃないか。だから俺はこの勝負に不満を感じるという余裕を抱いてしまっていた。いきなり女王に使徒かどうか確かめたいと言われて、戦力さのありすぎるミスマッチをさせられ。別に自分で使徒と思っていないから、とんだとばっちりだと、そう思っていた。

 

 俺は顔を上げて客席を眺めた。審判の後ろ一番手前の大きな席にホワイトがいた。その隣に、フウカとメルナもいる。

 

「凄い! 本物のドワーフだ! あの髭触りたーい!」

「ちょっと、フウカ様! 落ちちゃう! 落ちちゃいますからじっとしててください!」

 

 ……なんか、メルナも大変そうだな。

 そう思ったと同時に、フウカの腰を抑えるメルナと目が合った。彼女は、必死にフウカを抱き留めながらも、俺に向かって「がんばってください」と口パクで応援してくれた。

 

 ──でも違った。形が違うだけで、今回も誰かのための試合なのだ。

 

 その誰かとは──。この世界で出会って、仲良くなった皆だ。

 

 もし俺がこの勝負に負けたら、俺だけじゃなく、メルナやセレナ、教会の皆、何よりフウカに迷惑が掛かってしまう。

 

「……それだけは嫌だ」

 

 俺は最後に心の中で改めて決意を固め、メルナに苦笑いで応えた後に、開始位置の最後の一歩を踏み切った。

 

 

 

 アルドと対面する。どうやら彼は先に開始位置に立っていたらしく、既に腰にある剣の柄に手を添えて抜刀の準備をしていた。……もし、これが実戦だったら俺はこの時点で負けていた事だろう。

 

 

「両者、所定位置に到着しましたね」

 

 

 ホワイトの声がした。その瞬間、会場の雑音がシンッ……と鳴り止んだ。

 不思議と、耳鳴りはしなかった。意識が目の前の”敵”に集中していたからだろう。

 

 腰の剣の柄に手を掛ける。今日は左手にバックラーは無い。やろうとしていることの邪魔になるから。

 

「それでは────」

 

 ホワイトのその声に、俺は少しだけ重心を前方へと移し、体を少しだけ捻った。対するアルドは、特に動きを見せた気配はない。

 

 額に滲んだ汗が頬を伝う。先程自分で叩いた頬が、今になってジンジンと疼き出す。

 ドクンッドクンッと心臓の音が耳元で聞こえた。血が、思考が、全てが風の如く流れていくのが分かる。この間は、読み合いだ。

 

 ジリッと、足が砂を擦った。

 

 その直後────。

 

 

 

 

 

 

「はじめっ!」

「ハァァッ!!」

 

 ホワイトの開始の合図とともにアルドが抜刀し、長剣中級スキル【ソニックストライク】を放った。スキル補助で加速し、一気に相手との距離を詰めることができるこの技は、GTOのデュエルでも開始直後の奇襲としてよく使われていた。

 

「フッ!」

 

 俺は前項姿勢から体を起き上がらせると同時に【避脚】を発動させ、アルドが俺の胸を貫くその直前で、少し加減をしてジャンプをした。つい先ほどまで俺のいたところに、アルドの剣が風を切って通過した。

 

「ハァッ!」

 

 そのタイミングで、俺は抜刀しながら初級長剣スキル【セグメントスラッシュ】を空中で使用した。

 

 本来この技は、半月を描くように後ろから前へと切り返す技なのだが──

 

「ッ!!」

 

 戦闘の勘だろうか、彼もどんな斬撃か分かったのだろう。即座に【ソニックストライク】を中断し、クルリと俺の方に向き直ると、剣を両手で抑えて俺の真下(……)で弧を描く剣を受け止めた。

 

 しかし、流石のアルドもそんな不安定な状態から、俺の全身の力を使った剣戟を受け切れなかったらしい。彼は、驚愕に目を見開いたまま、砂埃を上げて俺の後方数メートルに渡って吹き飛んで行った。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「今、何が起こったの……?」

 

 野次馬の歓声が巻き起こる中、私は驚愕で口元を抑えた。

 デュエルの立ち上がり、初撃の奇襲に成功したのは明らかにアルドの方だった。しかも長剣スキルの中でも群を抜いて速い、中級スキル【ソニックストライク】を使用して、だ。

 それなのに、結果はどうだろう。攻撃を仕掛けたはずのアルドが地面に転がっていて、エイジ様は全くの無傷だ。

 

 ──いや、それよりも。

 

「エイジ様が今使用したあのスキル。あれは一体……?」

 

 聖女らしくなるべく、様々なスキルを見てきた私でも、あんなスキルは初めて見た。

 

「あー、あれね。エイジの十八番だよ」

 

 その声で隣を見ると、フウカ様が手のひらに顎を乗せて、ウンウンと頷いていた。

 

「十八番……? ですが、モンスター狩りの時一度も使用したことのないスキルですよね?」

 

 十八番であるならば、使用頻度は高いはずですが……。

 

「うん、モンスター狩りでは使えないからね。初級スキルだから」

「え、初級スキルなんですか、あれ!?」

 

 私は前のめり気味にそう問いかけた。対してフウカ様は、特段驚く様子もなく普通の事の様に続けた。

 

「あれ、初級スキル【セグメントスラッシュ】だよ?」

「……へ? あ、あの。せぐめんとふらっしゅ……って、あの【セグメントスラッシュ】ですか? 誰でもできそうな、後ろから前に切り下すやつ?」

「そうそう。なんだ、メルナ知ってるじゃん」

 

 フウカ様は「それでね」と続けた。

 

「あれってね、実は何か物体に当たるまで発動したままになっちゃうスキルなんだよね。つまり、物体のない空中で打つと──」

「……対象物に当たるまで、回転し続ける」

「正解! 流石メルナ。呑み込みが早いね」

 

 フウカ様の賞賛に、私は驚きと感嘆で溜息を吐いてしまった。まさか初級スキルに、そんな使い方があるなんて……。これは勉強し直さなけれないけないかもしれませんね。

 そこまで考えてから、ふと思った。

 

「……あれ、でも、それって」

 

 と、いうことはだ。彼は、あの一瞬の間に相手の初撃を読み切って、それに対するカウンターを、それが相手が初見のものであると予測して放ったのだ。相手の裏を突かなければ、レベル差で押し切られてしまうという、この状況で。

 その優れた戦闘センスと、勝負勘の強さ。これが、普段のエイジ様からは測る事の出来ない、彼の実力。

 

「エイジ様……凄い」

 

 知らずのうちに、私の口から言葉が飛び出していた。

 

「でしょ? エイジは凄いんだから」

 

 フウカ様が私の顔を覗き込んで、まるで自分の事の様にそう言った。

 それに対して私は笑顔で頷いてから、エイジ様を見た。

 試合場に立つ彼の顔には、いつものような幼さは無く。一人の戦士としての凛々しい顔がそこにあった。

 

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