ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。 作:颯月 凛珠。
——ヴィルドヘルム城。
この国の女王 《ホワイト》から課せられた試練も無事にクリアし、俺達は後日、改めて王城へと足を運んでいた。
以前話し掛けた門兵 《タスク》に挨拶を交わし、中へ入ると、俺達は直ぐに白の間へと案内された。
「朝早くのお集まり、ありがとうございます。本日は私用がございまして、この時間帯でしか招待できませんでしたの。申し訳ありません」
入るや否や、ホワイトが俺達の元へと駆け寄ってくると、開口一番に謝罪を述べてきた。
以前会った時よりも更にオシャレなドレスを着ており、その美貌と相まって危うく惚れかけるところだった。
隣から送られてくるジトっとした視線を避けつつ、俺はホワイトに尋ねた。
「い、いえいえ、大丈夫ですよ。それで、今日の呼び出しの理由というのは?」
「話が長くなってしまいますし、機密事項でもありますので、先に応接室に案内しますね」
彼女はそう言って俺達から見て左手にある扉を指差した。前は緊張し過ぎて気が付かなかったが、どうやら白の間にはいくつか部屋がある様だ。
俺達は、ホワイトのドレスの裾を踏まないように気を付けつつ、彼女の後ろに着いて歩いた。
白の間の応接室は、王城の中にあるにも関わらずソファと机、その他に雑貨が少々あるくらいで簡素なモノだった。
ホワイトは先に俺達をソファに座らせ、その対面に自身も座った。
「さて、早速本題なのですが……。その前に一つだけ質問よろしいですか?」
彼女は手に持った扇子を机の上に置きつつそう言うと、俺の隣にいる女性をチラリと見た。
「……大体内容は予想付いてるけど、どうぞ」
俺がそう返すと、ホワイトは額に手を当てて呆れ顔で言葉を紡いだ。
「……フウカ様と、メルナは来てないんですか?」
「本当にすみません」
彼女の質問に、俺は間髪入れずに全力で頭を下げた。
そう。彼女の言う通り、今この場にフウカとメルナが来ていないのだ。……では今、俺の隣にいるのは誰なのかと言うと──。
「申し訳ありません、女王陛下。フウカ様もメルナ様も、昨晩何やら作業をしていたようで、寝るのが遅くなってしまったみたいなのです」
「……つまりは寝坊、ということね。報告ありがとう、セレナ。久しぶりね」
「い、いえ、生活管理が行き届いてなくて、申し訳ありません……」
──久々のセレナである。最近、修道士の仕事や、修道院の料理の先生として、教会内でその腕を存分に披露していたらしい。本当、色々な意味でお勤めご苦労様。
「セレナが謝る事ではありませんよ。生活管理は自分自身でするモノですので。それに、メルナが杜撰な生活を送っていることくらい、私も知ってますもの。セレナも併せて、二人とも長い付き合いですし」
「昔からだったからこそ、今現在治せていない事を恥じているんですよ……」
「セレナも、昔から変わらずマジメね」
そう言って、ホワイトは頬に笑みを浮かべた。それにつられたのか、セレナも可愛らしく笑みを浮かべた。
「セレナと女王陛下って仲良いんだな」
二人の会話を聞いて、俺は少しばかり驚いていた。基本、ホワイトの名前を聞くのはメルナの口からであり、セレナからホワイトのことについて話すことなんて全く無かったから。
俺の言葉に、ホワイトが「はい」と頷いた。
「メルナとセレナの二人がこの都市に来てからというもの、ずっと仲良くさせてもらっていますよ。そうですね、平たく言えば幼馴染……と言った感じでしょうか?」
その言葉を聞いて、先日メルナから聞いた話を思い出した。
そういえば、メルナとセレナは国王に呼ばれてここへと移住してきたんだった。そこから身の回りの世話を王家が担っていたとしたら、その過程で三人が仲良くなっていたとしても不思議ではない。
「久しぶりに会えましたし、ゆっくりお話をしたいのも山々なんですが……。生憎時間がないので、本題に入らせてもらいますね」
「すみません、話の腰を折るようなことを言ってしまって……」
またしても謝るセレナに、「いいのよ」とホワイトが笑った。次いでその笑顔を引っ込めると、今度は俺の方へと顔を向けた。
「まずは一つ目。エイジ様とフウカ様には、《王家の証》を渡しておきたいと思っております」
「《王家の証》って、あのメルナが持ってるやつか?」
以前ここに来た時に、メルナが衛兵に見せていた、微妙に管理が雑なアレ?
「えぇ、そうです」
「でも、それっていいのか?」
メルナから聞いた話だと、《The Lost Tale》を倒した証として受け取った、と言っていたはずだが……。こんなに簡単に受け取っても良いのだろうか。
「大丈夫ですよ。エイジ様とフウカ様は神様の使徒という特別な存在ですから。それに加えて、これからもっと親交を深めようと思っていますので」
「いや、それでもな……。一応つい先日、初めて会ったワケだし……」
俺が渋るのにも、理由がある。メルナから聞いた話をまとめると、この紋章はいわばマスターキーみたいなものなのだ。
それがあるだけで、国間の行き来が簡略化され、他国の王城で使えば、「《ヴィルドヘルム》の使者として来た」という証明にもなってしまう。
そんな国家権力の塊みたいなもの、俺には少しばかり荷が重いと思ったのだ。
しかし。ホワイトもなかなか食い下がらない。
「これは、一種の信頼の証とお詫びみたいなものです」
「お詫びって……」
ホワイトは恐らく、昨日の試練の事を言っているのだろう。だがしかし。寧ろあれは、国の元首として疑って当たり前のことだ。だから別に、彼女がお詫びをする必要性は無いと、俺は思うのだが……。
「神様の使徒を疑った。それはある意味で重罪です。本当は罰を受けても仕方がない事を、私はしたのです。ですが、エイジ様方はそれを許してくださいました。その恩情として、お詫びとして、有形の信頼として紋章を差し上げようと私は思っているのです」
彼女はそこで言葉を切った後に、机の引き出しからヴィルドヘルムの紋章の入った小さな箱を取り出すと、それを俺の前へと置いた。
「エイジ様。受け取ってくださいませ。でなければ私、使徒様を冒涜してしまった自分自身が許せないのです」
「お願いします」と頭を下げるホワイト。
ここまでされてしまうとは思わなかった。これでは受け取らない方が彼女にとって酷だろう。ある意味で、神から許さないと言われているようなものなのだから。
俺は国の元首に頭を下げさせてしまっているという罪悪感と、痛む良心の赴くままにホワイトに返事を返した。
「……分かりました。受け取りますから顔を上げてください」
「あら、受け取って下さいますの? そうですか! それは、ありがとうございます!」
……あれ? 気落ちしてると思ってたのに、なんか思ってたよりテンション高くない? この女王陛下。
「……え、え?」
俺が目を白黒させていると、ホワイトは箱に手を伸ばして中身を取り出すと、俺の手の上にポンっと乗せた。恐る恐る手を見てみると、メルナのモノと全く同じアクセサリー型の紋章がそこにあった。
「それを所持している限り、あなた様方はこの国が保有する使徒であり、そして他国への
「え、どういうこと?」という風にセレナの方へと視線を移すと、セレナは俺の視線を真っ向から受止めた後に、申し訳なさそうに言った。
「……今のは、ホワイト様の交渉術の一つです」
「セレナ、そういうのはもっと早く言ってくれ」
「言ったらエイジ様、受け取らなさそうだったので」
「うん、否定はしない」
ホワイトにもセレナにも完全に騙されてしまった。
「……って、『これからもっと親交を深めたい』って、こういうことかよ!」
あわよくば、使徒という肩書きの使者を使って、相手国に対して優位に立つつもりだな? この女王。
俺の嘆きに、彼女はクスクスと笑いながら「そうですわ」と、なんの躊躇もなく頷いた。
「一国の王がこんな簡単に頭を下げるワケないじゃないですか。私含め、王が頭を下げる時は、それこそ国の危機、世界の危機で決断をしなければいけない時や……私情にはなりますが、身内の危機が訪れた時位です」
彼女は、その笑顔を段々と薄れさせると、「それを踏まえて……」と、付け足した。
「二つ目の要件です」
その時俺に対して向けられた彼女の目は、先程とは一変してどこか少しだけ遠慮気味で寂しそうだった。
「……エイジ様、今レベルはお幾つですか?」
「今? 一応27だけどちなみにフウカは25な」
実は、アルドとの戦闘でレベルがある程度上がっていたのだ。GTOの世界では、デュエルシステムで経験値を得られることは無かったので、これは一つ検証してみる価値があると思っていたところだ。
「ってか、それくらいの情報、ホワイトなら簡単に見れるんじゃないのか?」
俺がそう言うと、ホワイトは「とんでもありませんよ」と目を伏せて否定した。
「そんな失礼事、ましてや使徒様にする訳ありませんよ。レベルもプライバシーですので」
「……だよな? やっぱりプライバシーだよな!?」
クソっ、メルナのヤツ! 何も分からない俺に対して嘯きやがって……!
そう思っていると、それを見透かされたのか、ホワイトが顎に手を当てて苦笑いをしていた。
「その反応ですと、メルナにしてやられたみたいですね。あの子は民衆の前では猫を被ってますから、気付かれませんが、本当はかなりのイタズラっ子なんです。気を許した者には特に」
「……あぁ、納得」
身に覚えがありすぎて、俺はため息混じりに頷いてしまった。それに対してホワイトは、一度セレナの方を見遣った後に、俺へと言葉を紡いだ。
「……ですが、あまり責めないであげてください。あの子はそういう事をしたくなる時期に、行動の自由を奪われていたので」
それを聞いて、俺の脳裏にあの夜メルナから聞いた話が過ぎった。メルナは軽々しく『訓練をしていた』なんて言っていたけれど、彼女は一体どんな思春期を過ごしたのだろうか。俺では想像することも出来ない。
「……話が、少し逸れてしまいましたね」
しんみりとした空気を断ち切るかのように、ホワイトは話の道筋を正す為に声を発した。
「それで、あなた様にレベルを聞いた理由ですが、エイジ様とフウカ様には、とある場所へ行っていただきたいのです」
「とある場所……?」
「はい。そこはギルド推奨レベル35レベル以上と、ここら辺では最難関に位置している《ヘッセンの谷》というダンジョンです」
《ヘッセンの谷》と言うと……俺達が良く狩場にしている《ヴァルデックの森》から南に10km程行ったところにある、急勾配で険しい谷だ。
「それって、騎士を派遣した方が良くないか?」
レベル35と言うと、わざわざ俺達が行くよりも騎士達に行かせた方が余程効率が良いだろう。しかし彼女は首を横に振った。
「……簡潔に申しますと、このお話がそもそも公言禁止ですので、下級の騎士たちにも漏らすわけには行かないのです」
「なるほど。さっきホワイトが頭を下げた事に関係があるわけか」
俺の考察に、彼女は「はい」と頷いた。
やっと話が見えてきた。
さっきホワイトは、彼女が頭を下げる時は国か身内の為と言った。つまり、そのどちらかの頼み事をしたいがために、ホワイトはこうした場を設けたのだろう。そして、それを行うための道具として、俺達に紋章を預けたワケか。
「それで、俺達にそこに行って欲しい理由は?」
俺の質問に、彼女は目を伏せた後に、まるで懇願するように言った。
「《スノウ》を——私の娘を、探して欲しいのです」