ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。 作:颯月 凛珠。
「スノウ……? え、女王陛下って子供いたんですか?」
俺は驚きのあまり、つい聞き返してしまった。
「はい。もうすぐで八歳になりますね」
彼女はそう言うと、自身の右側にある大きな肖像画を横目に見た。その視線の先を追ってみると、ホワイトと、彼女に寄り添うように立つ男性と、その間に挟まるかのように座る小さな女の子が描かれていた。
「そこに描かれている女の子が、スノウです」
「スノウ様、あんなに大きくなられて……」
「セレナが最後にスノウを見たのは、三年前ですものね。大分変わっているでしょう?」
「はい。ホワイト様に似て可愛らしいです」
セレナの言葉に、ホワイトは少しだけ寂しそうに笑った。スノウのことを思い出しているのだろう。
「ありがとう、セレナ」
会話に区切りがついたところで、俺はホワイトに問いかけた。
「それで? なんでそんなところに、女王の娘さんがいるんだ?」
俺の問いに、彼女は俺の目を真っ直ぐ見詰めながら言った。
「それは、私の継母が原因なんです」
「継母……」
「それでは、まずは彼女の事から説明いたしますね」
ホワイトはそう言うと、扇子を畳んで机に置いた。
「幼い頃、私は両親を亡くしました。お二人共、丁度今の私と同じくらいの年だった、と聞かされています」
「それじゃあ、結構若くして亡くなったんですね」
「そうみたいです」
相当幼かったのだろう、彼女は特に思い入れも無いのか、平然とした顔で頷いた。
「その時、行き場を無くした私を引き取ってくださったのが、先代の王妃で私の継母、《ウィック》でした。あの方は、自分の容姿に大層自信を持っていたようで、いつも鏡の前に立っては何事か呪文を唱えているようでした」
「恐らく、美白効果のある魔法だったのかもしれません」と、彼女は付け足した。
「生活面に関しては、厳しい所もありましたが、とても優しい方でした。私が物心ついたときから、王族のマナーであったり、言葉遣いであったり、様々な教養を受けさせてもらいました。そこに関してはあの方に感謝しています。その教育があってこそ、今の私がありますから」
彼女はそう言うと、自身の胸に光るブローチを手で握りしめて目を瞑った。
「ですが……私が、もうすぐ八歳になるという頃、あの方は変わってしまいました」
「……どんな風に、ですか?」
隣のセレナが、嫌な空気を感じ取ったのか、少しばかり不安そうな顔をして尋ねた。それに対して彼女は、チラッと少しだけセレナの方を見遣った後に、俺へと視線を戻した。
「以前、エイジ様には少しばかりお話致しましたが、私が初対面の人を信用できなくなった理由、覚えていらっしゃいますか?」
「あ、あぁ。確か、昔一度殺されかけたから……でしたっけ」
突然の質問に戸惑いながらそう答えると、隣のセレナが驚きに目を見開いた。
「えっ!? ホワイト様、殺されかけていらっしゃるんですか!?」
「伝えていなかったのは申し訳ないと思っているけど……声が大きいわ、セレナ」
正直、俺はホワイトがセレナにその事を伝えていない事実に驚いていた。でもまぁ、数年ぶりの再会らしいし、伝える機会がなかったのだろう。
ホワイトが窘めると、セレナは申し訳なさそうに一礼した後に、今度は控えめな声で言葉を紡いだ。
「それじゃあ、女王陛下を殺そうとした張本人って……」
「そう。その方こそが、継母のウィックでした」
ホワイトの口から出た言葉に、セレナは信じられないという風に口元を手で抑えた。
「なんでなんですか……?」
「私にも定かではありません。私を殺しに来た時、理由なんて説明してくれませんでしたから」
ホワイトは当時のことを思い出しているのか、額に滲み出た汗と相まって、かなり顔色が悪そうに見えた。
「……ただ、殺される直前。薄れゆく意識の中で、私はその時まで尊敬していた継母の顔を見ました。そして、畏怖しました」
彼女はそこで一度言葉を切ると、震える声で続きを呟いた。
「あの方は、魔法使いの成れの果て……”魔女”になっていたのです」
部屋に暫く沈黙が走った。
目の前で魔女に成り代わってしまった継母。そして信頼してきたその継母に裏切られたホワイト。彼女の顔色の悪さや心情を察するに、今の彼女に掛ける言葉が見つからなかったのだ。
「……とりあえず、女王陛下の生い立ちと、魔女の存在については良く分かった」
だから俺は、少しだけ間を置いてホワイトの顔色が良くなるのを待ってから、彼女に問い掛けた。
「だけど、その話とホワイトの娘の誘拐が、どう関係するんだ?」
ホワイトは、その問いの返答代わりと言った感じに、懐から一枚の紙を取り出して机の上にそっと置いた。対面に座る俺達は、少しだけ座る位置をずらしてからその紙を覗き込んだ。
──それは、最近多発している”狂化モンスター”の報告書だった。
「このモンスターの名前は、《ウィックド・リッチクイーン》。レベル40の偵察兵が【アナライズ】したところ、この名前しか見て取れなかったんだそうです」
隣から、息を呑む音が聞こえた。
【アナライズ】は、相手とのレベル差に応じて識別可能範囲が増えるスキルだ。レベル40の兵士が、名前しか見れなかったということは、少なくともそのレベル差は20以上あるだろう。
まぁ、でも。正直レベルの話はこの際あまり問題ない。では、何が問題なのかと言うと——。
「この名前ってまさか……」
俺がそう呟くと、ホワイトが「流石ですね」と賞賛を口にした。
「私が殺された後に駆けつけたドワーフ達が、最後に継母を見たのは《ヘッセンの谷》だったと言っていました。それを加味するに、このモンスターが私の継母である可能性は十分高いと思います」
彼女はそう言った後に、「そして……」と付け足すと、グシャッと音を立てて報告書にシワを作った。
「このモンスターこそが、私の目の前でスノウを誘拐したモンスターなんです」