ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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魔女 2

「ちょっといいか?」

 

 俺の言葉に、ホワイトはハッと我に返った。その際に、皺だらけになった報告書が机に転がった。

 

「失礼致しました。少々取り乱しました」

「いや、全然」

 

 俺がその残骸を傍目にそう答えると、彼女は誤魔化しの為か小さく咳払いをしてから言った。

 

「……それで、どうかなさいましたか? エイジ様」

「えっと……つまり女王陛下は、継母がモンスター化して、娘さんを攫って行ったと考えてるってことで合ってる?」

「はい、少なくとも私はそう考えています」

 

 俺の確認に、彼女はそう即答した。

 俺は実際に見たことがないから分からないが、一番継母を見てきていると思われるホワイトが言うのだから、その線で見るべきだろう。

 

「それを踏まえて、いくつか質問しても大丈夫か?」

「はい、問題ありません」

「今回の件より前に、モンスターに人が攫われたという報告は?」

「少なくともヴィルドヘルムではありません。報告漏れということもあるかもしれませんが、それも可能性としては低いです。そもそも、モンスターはそういう意思を持っていませんから」

 

 彼女は「それに」と付け足した。

 

「モンスターは人を攫う以前に、その場で食べてしまいますからね」

 

 中々怖いことを聞いてしまった。フウカ辺りに話したら、その場では笑ってそうだけど、夜になったら寝れなくなりそうなくらいに。

 

「じゃあ次に、当時の状況を教えてくれないか?」

「分かりました」

 

 俺の次の質問にホワイトは直ぐに頷くと、思い出すかのように目を伏せて話し出した。

 

「とある国家との密会の帰り道でした。私とスノウが乗った馬車が、《ヘッセンの谷》でこのモンスターに襲われたのです」

「密会ってことはつまり、少数で行ったのか」

 

 彼女は無言で頷いた。

 

「その通りです。《The Lost Tale》討伐後、《ヘッセンの谷》付近は、商業者の通り道になるほどモンスターが少なくなっていたので、私たちも油断していたんです。兵力も物資も最低限しか積んでおらず、アルド含めた三名の騎士達は、私たちを守るので精一杯でした。しかもこのモンスター、魔法がとても厄介で、束縛魔法【呪鎖】や、重度の麻痺を起こさせる【パラライズ】系統のスキルも、ふんだんに使ってきたのです」

 

【呪鎖】や【パラライズ】と言ったスキルは、GTOでも上位に位置するデバフ魔法だ。俺もセレナもスキルや魔法にある程度詳しいので、そのモンスターがどれだけ強いかが直ぐに分かった。

 

「二人の騎士はデバフによる負傷で戦闘不能に。いくらデバフ耐性の高いアルドでも、私たちを庇ってかなりの量のデバフを浴びたので、動きが鈍くなっていました。そして、その隙をつかれて、スノウが連れ去られてしまったのです」

「そうだったんですか……」

 

 セレナが、悲しそうに目を伏せた。俺はそれを横目に見つつ、俺は次の質問をした。

 

「そもそもこの出来事っていつのことだ? 俺がアルドさんと決闘した日も、スノウ様はいなかったように思うんだが」

「娘が誘拐されたのは一昨日です。……決闘の日は、スノウは自室にいましたので。エイジ様の奮闘も窓から見ていたそうです。『凄くカッコよかった』って言っていましたよ」

 

 なんだそれ、照れるじゃん。

 

「……とりあえず、まだ無事の可能性はあるわけだ」

「一応、偵察兵の追尾魔法で娘の魔力を常に感知しておりますので、まだ無事である事は確認済みです」

「……なら良かった」

 

 俺は照れ隠しに咳払いをした後に「じゃあ最後の質問」と言った。

 

「アルドさんは今回、同行できるのか?」

 

 戦闘が二日前ということは、少なからずアルドは疲弊しているものだと思われる。だが正直、今回のモンスターは、俺達のレベル的にかなりきつい。しかも状況が状況なので、レベリングしている暇がないという。だから、ホワイトの期待に添えて、即戦力になりうる人材が少しでも多く欲しいのだ。

 

「それは……」

 

 しかし、俺の期待に反して、彼女はそこで意味深げに言い淀んだ。

 

「……まさか?」

 

 嫌な予感がして俺が聞くと、彼女は神妙な面持ちで頷いた。

 

「《ウィックド・リッチクイーン》との戦闘でかなりダメージを負わされて……。本人は大丈夫と言っているのですが、大事を取って治療室に監禁させてもらっています」

「マジか……って、監禁?」

「アルドはどうやら、スノウが攫われたのは自分のせいだと思っているらしいんです。それで満身創痍なのに、自分も行くとしつこくて……。私達からしたら、命がけで守ってくださっていたので、寧ろ感謝をしたいところなんですが……」

 

「俺はまだ闘えますよ!」とベッドの上で腕を振り回すアルドの姿が鮮明に浮かび上がり、俺は「あぁ~……」と声を漏らしてしまった。

 それにしても、流石にあの強靭さを誇るアルドでも、ボス級であまりレベル差の無い”狂化モンスター”相手は厳しかったようだ。それでもまだやろうとする辺り、本当騎士に鏡だと俺は思う。

 

「じゃあ、アルドさんは来れないって事か」

「結論的にはそうなりますね」

 

 彼女の言葉に、俺は心の中で溜息を吐いた。

 我ながら、中々自分勝手な意見であるというのは分かっている。それでも、やはりアルドがいるのといないとでは雲泥の差であるのは明白なのだ。しかも彼はこのモンスターと一度戦闘をしている。俺達よりは勝手が分かっているだろう。

 

 だから俺は考えた。どうしたらアルドが同行できるか。そしてすぐに思いついた。

 

「あっ、回復魔法をかければ大丈夫なんじゃないのか?」

「それはダメです。エイジ様」

 

 そしてそれを、隣のセレナがすぐに否定した。

 

「どうしてだ?」

「前にもお話し致しましたが、回復魔法は外見的な傷を治すものです。今のお話を聞く限り、アルド……様は心身ともに疲弊していると見受けられます。いくら回復魔法を掛けても、暫くの休養が無ければ心は疲弊しきったままです」

「確かに……」

 

 この世界には【疲弊】というデバフがある。一度ゴブリン達がなっていたのを見た事あるが、あれは相当キツそうだった。恐らく彼にも今そのデバフが適用されているのだろう。

 

「なので、エイジ様達に行ってもらうしかアテが無いのです」

 

 ホワイトが悲しそうな目をこちらに向けたまま続ける。

 

「私は、エイジ様方の実力を信用しています。それに先程も言いましたが、これは機密事項。本当は強いこの国の防衛力が、問題視される原因にもなりえますし、公にできない出来事です。何より、民に不安を与えたくないのです」

 

 この国の防衛力が高いからこそ、そのトップが手負いにされたという事実が大きく映える。

 そこまで考えて、俺は初めて気づいた。彼女は今、大切な娘の命とこの国の命運、両方を背負っているのだと。

 

「受けてもらえないでしょうか……?」

 

 ホワイトの顔を見た。初めて会った時の威圧的な眼光はその荘厳さを薄れさせ、美しい顔には疲労と不安が滲み出ていた。

 こんなにも苦悩している彼女を助けてあげたい。そう思う自分も確かにいる。だが……。

 

「……思っていることを言わせてもらうと、今の俺達にはあまりに荷が重い」

 

 最悪の場合、そこでスノウを助けられずに全滅、なんてこともあり得るくらいに。

 

「俺達はまだここに来てから日が浅いし、戦闘経験も少ない。レベルも足りていない。それに加えて、まだ臨機応変な対応ができないし油断が多いんだ」

 

 それは、以前のアルドとの戦いで俺が、宮廷魔法使に無詠唱だからこそ勝てたフウカが、身を持って体験していた。

 それにこれは、ゲーマーとしての教訓だ。自身の身の丈を常に意識せよ。戦略だけではどうにもならない、数字という壁がある。

 

 しかし、ホワイトは食い下がらなかった。

 

「本領じゃない剣で、アルドをあそこまで追い詰めたエイジ様にしか、頼めないことなんです」

 

 彼女は、畳みかけるように続けた。

 

「確かにレベルは圧倒的に足りていません。それは紛れもない事実です。ですがあなたは、体術や見切りなどでそれを補えるほどの実力を持っているのでしょう? あの時アルド相手に見せた動きは、Lv27の青年の動きではありませんでした」

 

 彼女はそこで言葉を切ると、少しだけ口角を釣り上げた。

 

「それに、まだ隠してることがありますよね?」

「気づいているのかよ……」

 

 セレナが「隠している事?」と首を傾げる傍ら、俺は苦笑いした頬を引きつらせた。

 

「これでも一国の王です。人を見る目は長けていますの」

 

 ホワイトは机の上で手を組むと、俺の目を真っ直ぐ見詰めた。

 

「その隠し事を考慮してもなお、私はあなたを信用しているのです。あなた方なら必ず、スノウを救出して、生きて帰って来てくださると」

 

 彼女の目が、少しばかり潤む。まるで俺に縋る様に。

 

「──どうか、私の依頼を受けてくださいませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女のその懇願を見て、まず最初に浮かんだのが何故かフウカの顔だった。

 

 彼女だったら、この話を受けてなんて言うだろうか。

 

 俺みたいに、「レベルが足りないから、安全マージンが取れてからの方が良い」と言うだろうか? 

 

 

 答えは否。彼女ならきっと──

 

 

「とりあえずやってみようよ。それでダメだったら、またその時考えればいいんだよ。大丈夫何とかなるって!」

 

 

 

 

 

 あまりにも楽観的な脳内フウカの言葉に、俺はつい頬を緩めてしまった。

 この会話は、以前二人で戦った大型レイドボスの部屋の前で話した内容だ。その時はもちろん、ゲームの中の会話だったし、自分が実際に赴いて戦うわけじゃないから俺は了承したが。

 

 

 

 ゲームは楽しんだもの勝ちと良く言うけれど。俺は彼女以上にそれを実行できている人を見たことが無い。

 実際この世界が俺達の現実となってしまった今でも、彼女はゲームの頃と同様に楽しんでいる。

 

 俺に関しては、早々にゲームと現実を隔絶させてしまっていたあまり、難しく考えすぎていた節が確かにあった。

 

 

 

 ──偶には理論でバッサリ切らずに、異世界らしく冒険してもいいかもしれないな。

 

 

「女王陛下」

「……はい」

 

 

 この選択は、俺の今までの価値観を変える選択。けれど、不思議と先程までの不安感は残ってはいなかった。

 

 

「……分かりました。その依頼、受けさせていただきます」

「っ……! ありがとうございます……!」

 

 

 俺の返事に安心したのか、ホワイトの目から涙が零れた。

 

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