ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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 その日、私は夢を見ていた。

 

『お姉ちゃん』

 

 近くから発せられた少女の声に、私はハッとして辺りを見渡した。しかし。辺り一面にモヤがかかっており、見えるのは私の腰の高さより少し大きいくらいの少女だけだった。

 

『……私?』

 

 自分を差しながら、少女の目線まで腰を下ろすと、少女は頷いた。近くで見ると、雪のように白くて可愛らしい子だ。

 

『どうしたの?』

 

 私が笑顔を向けながらそう問うと、対照的に彼女は悲しそうな顔をしながら言った。

 

『……お姉ちゃんに助けて欲しいの』

 

 ……助ける? 

 

『どういうこと? もう少しだけ詳しく教えて欲しいな』

 

 私がそう言うと、彼女はビクッと肩を揺らした後に消え入りそうな声で続けた。

 

『おっきなおやしきから帰る途中、お母様と……男の人三人……おっきな生き物とたたかってた……。でも、途中で男の人が二人倒れて……お母様もたたかってた。そしたら、おっきな生き物が…………”きり”を吐いてきて、男の人がお母様を……の。そし……、その生き物は私の……をつかんで……』

 

 少女にザザッとノイズが走る。私は直感的にこの時間が長くないことを悟った。

 断片的な情報をまとめるに、恐らく帰り道に魔物に襲われて、護衛の人たちがこの子の母親を守っている隙に、この子は魔物に攫われてしまったのだろう。

 と、いうことはもしかしたら一刻の猶予もないかもしれない。私は、焦りを隠そうともせず少女に詰め寄ると、質問を投げかけた。

 

『どこにいるのかな? 何か目印になりそうなものはある?』

『……変な臭い……おっきな壺……喋る鏡……』

 

 ザザザッ! とノイズが強まる。彼女は今にも消えてしまいそうだ。

 

『他には!?』

『……かぜ……い』

 

 ダメだ、もう聞き取れない。私は薄れゆく少女の影を掴もうと手を伸ばした──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──待って!」

「ふべらっ!?」

 

 跳び起きた途端、奇妙な声と同時に伸ばした手に大きめの衝撃が加わった。

 

「いってぇ……。おい、フウカ何すんだよ!」

 

 寝起きの割に覚醒している目で声のした方を見ると、顎を手で押さえて床に転がるエイジの姿があった。

 

「あ、ごめん……って、エイジこそなんで私の部屋に居るのよ! 襲いにでも来たの!?」

「ちげーよ! 寝坊したお前に話があって来たんだ!」

「寝坊って? 今日休みだし予定も何も……あっ!」

 

 思い出した。そういえば今日あさイチで、ホワイトさんに呼び出されてたんだった! 

 

「何してんのエイジ! さっさと行くよ!」

 

 パジャマの上に普段着を着て、一目散にドアへ──向かう途中で、首根っこをエイジに引っ張られた。

 

「ぐぇっ!」

「お前がグースカ寝ているうちにセレナと行ってきたし、話も終わった。それで今はホワイトの依頼について伝えに来たんだよ」

「あ、ソウナノ……ってセレナ? メルナじゃなくて?」

 

 メルナじゃなくてセレナが王城に行くのは珍しい。何かあったのかな? 

 

「おう。メルナも、もれなく寝坊してな。代わりにセレナに来てもらったんだ」

「……もうなんかすみません」

 

 ……何かあるどころか、私と同じくしっかり寝坊していた。

 

「貸し一な」

「エイジに貸し作るとナニさせてくるか分からないから怖い」

「そう言うなら本当になにかするぞ」

「する勇気も無いくせに」

「グウの音もでねぇ」

 

 そこでお互いに笑って話を切ると、エイジは手に持ったバスケットからサンドイッチを手渡してくれた。

 

「ほれ、朝飯」

「ありがと」

 

 受け取って、齧り付く。作ってから少し時間が経ってしまっているのか、少々パンの水分が抜け始めていたが、相も変わらず美味しかった。

 

 次いでエイジはポットを取り出すと、部屋にあったティーカップに注ぎだした。そんな彼に問い掛ける。

 

「それで、ホワイトさんの依頼っていうのは?」

「飯中に聞くのはオススメしないが」

「まあ、時間短縮だよ」

「寝坊したやつが達者なもんだな。……じゃあ、まずは起こったことから説明するよ」

 

 エイジはそう言うと、ティーポットを置いてから話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ってな感じで、依頼を受けてきた」

 

 彼はそう締め括ると、自分用に注いだ紅茶を一気に飲み干した。

 

 対する私は、予想以上に重い話で、食べかけのサンドイッチを抱えたまま口を開けていた。紅茶は既に冷め切ってしまっている。

 

「……なんか言えよ」

 

 エイジのその言葉で、ハッと我に返って彼を見た。

 彼はジトッとした目でこちらを見ている。

 私は誤魔化すように咳払いをした後に、乾いてしまった口を潤す為に紅茶を飲んで、話の感想を口にした。

 

「……っていうか、ホワイトさんって娘さんいたんだね」

「お前、俺と全く同じ反応してるわ」

 

 エイジが呆れたようにため息を吐く。なによ、私がパクったみたいな言い方して。

 少しだけイラっとした私は、からかい交じりにこう言ってやった。

 

「まぁ、私が何より一番驚いたのは、エイジがその依頼を受けたってところだよね。私に相談無しに」

「そこに関しては何も言えねぇ……」

 

 寧ろ逆効果だった。

 彼は申し訳なさそうにそう言うと、頭を下げた。ちょ、ちょっと! これじゃあ、私だけが悪いように見えるじゃない。

 

「謝らないでよ。私は責めたかったワケじゃないって。寧ろどちらかと言うと少し嬉しかったし」

 

 実際、エイジは昔から自己の実力を比較対象にリスクヘッジばかりを考えて、冒険をしようという意思があまり見られなかった。だけど、ゲームが現実になっている今、今までのエイジを覆してまでこの依頼を受けてきたのだ。彼のその成長に、私は少しばかり感慨深く思ってしまった。

 

「それに、エイジはちゃんと考えがあったんでしょ?」

「いや、フウカの真似してみただけ」

「頭の中で弁明して後悔した」

 

 前言撤回。感慨じゃなくて憤慨だった。

 私は残りのサンドイッチに荒々しく齧り付いた後に、紅茶でお口直しをしつつ気になっていたことを聞いた。

 

「そういえば、セレナは?」

「セレナはメルナの代わりに女王陛下の護衛として隣の国に行ったよ。女王陛下にとって、どうしても外せない会議らしい」

「そっか」

 

 アルドさんも監禁されてるし、メルナは寝坊したしで、セレナ以外適切な人物がいなかったのだろう。

 それにしても、自身の娘が攫われているというのに会議に参加しなきゃならないなんて……。なんていうか、国を統治する立場の人って、私情よりも国情を優先しなきゃならなくて可哀そうな気がする。

 

 ホワイトに対してそんな同情の念を抱いていると、今度はエイジが質問を投げかけてきた。

 

「そう言えばさっき結構うなされてたけど大丈夫か? なんか、『待って!』とか言ってたし」

 

 私はそれを聞いて、言おうか言うまいか逡巡した。

 

「……ごめん、覚えてないや」

「そうか? まぁ、悪夢は覚えてないほうが良いしな」

 

 逡巡の結果、私は彼の心配に嘘を吐いた。少しだけ胸のあたりがズキンっと疼く。

 

 勿論覚えているし、エイジには伝えても良いと思った。だけど今ここで伝えてしまうと、あまりにも彼の責任と精神的な負担が大きくなってしまう。それだけは避けたかった。

 

 思えばこの世界に来てから、エイジにばかり負担を掛けてしまっていた。今回は事が事だから、彼に秘密で私もその責任を背負わせてもらうことにしよう。

 

 私がそう意思を固めていると、彼は「さて」と言って立ち上がると、部屋の出口へと身体を向けた。

 

「そろそそメルナも起こして出発しようか。早ければ早いほど、救出できる確率も上がるだろうし」

「うん、そうだね。私もすぐ準備するから、外で待ってて」

「おう」

 

 エイジが扉を閉めたのを確認した後に、私は中のパジャマだけを脱いでベッドへ投げ捨てた。

 次いで鏡の前に座って髪を整える。その間、私は先程の少女の言葉を頭の中で反芻していた。

 

『お母様……男の人が三人……』

『変な臭い……大きな壺……喋る鏡……』

『アルド含めた三人の騎士が、その狂化モンスターに負けたらしい』

『どうにもホワイトの継母──《ウィック》が関わっているようなんだ』

 

 少女が言ったこの言葉。それにエイジから聞いたさっきの話……。それを加味するに、あの夢に出てきた少女は十中八九、スノウちゃんだと私は考えている。

 

 鏡に映る自分の顔を見ながら、私は思考を回した。

 

 それに《スノウ・ホワイト》、《ウィック》という名前に、《しゃべる鏡》……。そのどの名称も、私の知っている童話に出てくる登場人物の名前と全く同じなのだ。

 そこまで分かれば、自ずとこの次の展開が導き出されてくる。

 

 この童話、結末自体はハッピーエンドなのだが、過程がどうにも凄惨なのだ。終わりよければ全て良し、なんてよく言ったもんだと思う位に。

 髪を梳かし終え、忘れ物がないかもう一度辺りを確認した後に、ドアノブに手を掛ける。

 

(……どうか、無事でいて)

 

 そう、あの少女の無事を祈りつつ、私はエイジの待つ廊下への扉を開いた。

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