ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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ヘッセンの谷 入口

 馬車に揺られ、森を抜け、草原を走ること約五十分。

 私達は目的地である【ヘッセンの谷】に到着した。

 

「ここが、ヘッセンの谷……」

「なんて言うか、不気味だね……」

 

 馬車を下りてまず最初に思ったのは、そんな事だった。

 

 整備のされていない荒野に生憎灰色に淀んだ空の色が混ざり合い、よりダークな雰囲気を醸し出していた。それに加えて少し大きめの鳥が鳴きながら飛び交うその光景は、まさに不気味という言葉が相応しかった。

 

「とりあえず、もう一度依頼の確認と注意事項を説明するぞ」

 

 エイジの言葉に、雰囲気に飲まれかけていた私は、杖を両手で握りしめて無言で頷いた。

 

「依頼はホワイトの娘、スノウの救出」

「様を付けろ若造が」

 

 スノウちゃん。多分だけど、夢に出てきたあの女の子だろう。まだ何もされてないといいけど……。

 

「もし《ウィックド・リッチクイーン》に出くわしたら、無理な戦闘は避けて極力逃げること」

「フンっ、モンスターに遅れなんかとらんわい」

 

 この名前のモンスターこそ、今回の黒幕。

 スノウちゃんを連れ去ったモンスターで、ホワイトさんの継母。

 そして──彼女を殺そうとした張本人だ。

 

「もし何か手掛かりを発見したら、必ず報告すること」

「お前らなんかよりワシらの方がよっぽどあの場所に詳しいわい。精々足を引っ張らないように──」

「さっきからうるせーよお前」

 

 先程までスルーしていたけれど、ついに耐えきれなくなったらしく、エイジは隣に座る《グランピー》の頬を思いっきり掴んで張り倒していた。

 

「グェッ! きひゃま! なにをふる!」

「これに関してはお前が悪い。進行の邪魔をするんじゃねぇよ」

 

 一瞬止めさせようか迷ったけれど、確かに進行の邪魔になりそうなので放って置くことにした。今はこの時間さえも惜しいからね。

 決してざまぁみろなんて思ってないよ? 

 

「っていうかなんでお前がいるんだよ……」

「ふんっ! ホワイトの嬢さんに力になって欲しいと言われたからに決まっとる。そうでもなきゃ、こんな子守りなんぞイダダダダッ!」

「なるほど、つまり道案内人ってことか」

 

 エイジはグランピーの頬をさらに強く掴みながら私の方を向くと、いつもの顔で続けた。

 

「まぁ、些細な事でも良いから。報告は頼んだぞ」

「はーい」

 

 一瞬、夢で言われたことを思い出したが、私はそっと口を紡いだ。今、その事を言ってしまうとその場で言及されて、時間を食ってしまうだろうから。

 

「そして、現在の戦力確認。これが一番確認したくないことなんだよなぁ……」

 

 エイジはため息を吐きつつそう言うと、私の顔、そして下にあるグランピーの顔を見た。

 

「今の戦力は、前衛の俺とグランピー。後衛のフウカ。以上だ」

 

 ……何故か急に空気が重くなったような気がする。

 正直、絶望的な戦力である。私とエイジは、メルヘンから貰った加護を合わせても力的には精々45レベル前後。

 グランピーは流石ホワイトさんの側近と言ったところか、レベルは69とかなり高めだった。

 

 その当のグランピーが、エイジの手から脱出すると苛立たしげに立ち上がって言った。

 

「おい、お前らよりメルナ様はどうした。あの方がいればかなり楽だったろうに」

 

 そう言われて、私はエイジと顔を見合わせてから同時にため息を吐いた。

 

「俺だって、その算段でホワイトから依頼を受けたんだが……。明朝に一人で馬車も使わずどこかへ行ってしまった、と教会の人から聞いている。どこに行ったかは正直分からん」

「……なんということだ」

 

 グランピーが悲痛な声を上げる。その気持ち、分かる分かる。

 

 私達が教会を出る準備をした後にメルナの部屋に向かうと、そこにメルナは既に居なかった。いつも、私達より起きるのが遅い彼女が居なくなっていたのは、かなり焦った。

 でもまぁ正直なところ、メルナの行き先は大体検討がついている。彼女は、一番最初にホワイトから相談を受けていただろうから。

 

 だから今の戦力は、取り敢えず私含めたこの三人のみ。

 今回は討伐が目標ではないから何とかなりそうではあるけど、もし《ウィックド・リッチクイーン》に遭遇したら正直撃退は厳しいと思う。話を聞く限りだけど。

 

 エイジは後ろ頭を掻きながらゆっくりと立ち上がると、グランピーに向かって手を伸ばした。

 

「まぁ、俺たちだけじゃ力不足かもしれんが……多分今日限りだ。よろしく頼むよ」

 

 グランピーは、エイジの手を取らずに腕組みのまま暫く固まっていた。

 しかし、目だけでチラチラとエイジの手を見ている所を見るに、決して仲良くなりたくないわけじゃ無さそうね。多分、不器用なんだろう。

 

 彼の鼻が仄かに赤くなる。確か、私が読んだ事のある白雪姫でも、照れている時とか恥ずかしい時に鼻が赤くなっていたドワーフがいた覚えがある。

 

 彼は鼻の色をそのままに苛立たしげに組んでいた腕を外すと、エイジの手をガシッと掴んだ。

 

「……ふんっ! しょうがない奴らだ」

 

 彼はそう言捨てると、直ぐにエイジの手を投げるように離した。次いでこちらに指を差しながら、興奮した様子で言った。

 

「だが、勘違いするなよ。俺はホワイトの嬢ちゃんが悲しむ姿を見たくないだけであってお前らを認めたわけじゃ──」

「よーし、じゃあとりあえずここから入ってくかー」

「人の話を聞け小僧ぉ!!」

 

 ……正直、この先が思いやられるなぁ。

 今日ほどメルナがいて欲しいと思った日は、これまでに、そしてこれからもないだろう。

 そう思う私だった。




お久しぶりです。
アルファポリス様の方で、この作品のパロディ作品【ゲームライフにリア充を!】を投稿し始めました。是非とも読んでいただきたいだきますよう、お願い致します。
あ、こちらのサイトでも投稿しています。
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