ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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ヘッセンの谷 第一層

 ガンッ! と鈍い音が、聳え立つ岩の間に響き渡る。

 今私達が戦っているのは《ヴァリー・モンキー》二匹と、《ジャイアント・ダンパ》という、明らかにパンダなモンスターが一匹だ。

 

「左の二匹は俺が引き付ける! グランピーはもう一匹を頼む!」

「ワシに指図するな! そんくらい分かっとるわい!」

 

 仲良くしたいのか、したくないのか。エイジの指示にいちいち一言多めに言ってくるグランピー。そろそろ怒りを通り越してウザくなってきた。

 

「フウカ!」

「はいよー! 《サイクロン・ドーム》!」

 

 私が魔法名を発した瞬間、エイジが《シールドバッシュ》でスタンを付与しながら、サルから距離を取った。流石エイジ、分かってる。

 

 溜まった鬱憤を晴らすかのように放たれた私の風魔法は、サル二匹を取り囲むように半球を作り出した。

 

 スタンを受けなかった方のサルは自身の危機を察知したのか、風のドームに向かって蹴りやらパンチやらを繰り出して破壊しようと試みていた。

 

「ウキっ!?」

 

 が、しかし。壁に攻撃が当たった瞬間、サルが悲鳴を上げた。血が吹き出し、体毛が禿げて皮膚が見え隠れしている。

 

 それもそのはず、このドームは大量の《ウインドカッター》によって出来ている。その為、とにかく切れ味が良いのだ。

 

「それじゃ、どんどん狭めていくから、脱出頑張ってね!」

 

 私は中にいる猿たちにそう告げると、宣言通り《サイクロン・ドーム》の範囲をかなりの速さで縮小させた。

 

「お前、無慈悲だなぁ……」

「ウキキィっ!?」

「諦めろサル。フウカの機嫌が悪くなった時に襲ったのが運の尽きだったな」

 

 エイジのそんな同情する声と、サルたちの悲痛な叫び声が聞こえたが、私は無視して今度はグランピーが相手をしている《ジャイアント・ダンパ》に向き直った。

 

 当たり前だが、見た目では先程の猿たちより強そうだ。

 

《サイクロン・ドーム》が終了したことにより回復した魔力を使って、私は《フレイム・インパクト》を発動させた。確かこのパンダ、GTOで戦った時は火属性が弱点だったはず。

 私が放った岩位の大きさの火炎弾は、宙に残り火を残しながら一直線にパンダへと飛んで行く。

 

「あ、グランピー。危ないから避けてね〜」

「何を小娘。危ないことなんかなにも──のわぁ!?」

 

 私の忠告を素直に聞き入れてくれたらしく、グランピーは私の魔法を見た瞬間に横っ飛びで回避した。

 グランピーとの戦闘に集中していたパンダは、どうやら火炎弾に気付いていなかったようで……。特に回避行動も防御姿勢も取らずに、火炎弾が直撃した。

 

 燃え上がる炎の中でのたうち回るパンダ。

 

「うーん……なんか可哀想に思えてきた。動物愛護団体に通報されたら、私の存在消されそう」

 

 たしか前までレッドリストに入ってた気がするし。まぁ、この世界じゃ関係ないけどね。

 

 しばらくのたうち回るパンダを見ていたが、やはり火属性が弱点だったらしく、思ったよりも早く動かなくなった。

 

「とりあえず勝利ー!」

「まぁ、結果はどうであれ、お疲れさん、フウカ」

 

 プスプスと焦げるパンダを背に、エイジと二人でハイタッチをする。

 

「アホか小娘! ワシまで巻き込む気か!」

 

 しかし、素直に勝利を喜べないドワーフが一人。そりゃそうだ。今回の戦闘で唯一何もしてないんだから。

 私は少しだけ勝ち誇りながらドワーフに向かって言葉をかけた。

 

「ちゃんと忠告したし、グランピーも避けたんだから問題ないでしょ。あんたに任せるより早く終わったし」

「なんじゃその言い方は!?」

 

 ほら、自覚があるからそれだけしか言えない。

 最初こそドワーフだということでかなり興味をそそられたのだが……。先程の自我の強さと言い、彼の性格を知ってからは彼だけは苦手だということに気づいてしまった。

 

「まぁ落ち着けって。グランピーもよく足止めしてくれてたよ」

「……ふん」

 

 そのクッションとしてあれこれと働き掛けてくれているのがエイジ。

 前衛で精神力もすり減るのに、私の好みの問題で間に挟まってしまって。なんか申し訳ない気持ちで一杯だ。

 そんな彼に少しでも休息をと思い、私は彼に提案した。

 

「剥ぎ取りはどうする?」

「んー……。ホワイトさんの娘さんの救出が最優先だから、惜しいけど放置で行こうか。レベルが上がるだけでありがたいし」

 

 しかし、彼はにこやかにそう言って私の提案を断った。……まぁ、エイジが言うなら私は止めやしないけど。

 

「いい心掛けだ小僧」

「へいへい。そんじゃ早く先に行くぞ」

 

 彼はグランピーの戯言に付き合う気は無いらしく、そこで会話を切るとスタスタと歩き出した。私もその後に続き、グランピーも腕を組んで無言でついてくる。

 

「ねぇ、エイジ」

「なんだ?」

 

 暫く歩いた後に、私が前を歩くエイジに話し掛けると、彼は先の戦いで傷ついたバックラーを鍛冶スキルで修復しているところだった。

 

「エイジはさ、その《リッチクイーン》とスノウちゃんがどこら辺にいるかって検討ついてるの?」

「……んーある程度仮説は立ててあるけど、今の所は分からないな。でも、GTOとかRPGゲームでは決まって最深層にボスがいるからな。取り敢えずはそこまで行ってみるつもり」

「そっか」

 

 その仮説が当たってるかどうか定かではないが、取り敢えず廃屋や家があったらその都度中を見るよう仄めかしてみよう。私が彼に負担を掛けないようにするために、少しずつヒントを出そうと、私は考えたのだ。

 

 私が返事をした直後、彼の持つバックラーが光を帯びた。どうやら鍛冶スキルが成功したようで、見る見るうちに傷が消えていく。

 

「とりあえずこんなもんか」

 

 エイジはそう言うと、バックラーをまるで剣のように振り回した後に満足気に頷いた。どうやら彼の納得のいく出来だったようだ。

 

 だがしかし。一人納得をしていない者が──。

 

「おい小僧。そんな装備だと前衛職ではちっときついかもしれんぞ」

 

 グランピーである。彼はエイジのバックラーに手を伸ばして状態を確認すると、ウンウンと頷く。

 

「やっぱりな。防腐耐性が全くついとらん」

「どういうことだ?」

 

 エイジが問うと、グランピーは顎髭をわしゃわしゃと弄りながら続けた。

 

「そんなことも知らんで来とったのか! 全く……。《ヘッセンの谷》はな、下層に行くにつれて敵が毒を持つんじゃ。もちろん盾で防げば問題ないのじゃが、偶に変異種で盾をも溶かす毒を持つ敵が現れる。その敵が来た時、その盾じゃ対抗できん」

「そんなモンスターがいるのか……くそ、少し油断してたな」

 

 エイジが直したばかりのバックラーを見つつ顔を歪めた。GTO時代のエイジならそう聞いたらその場でエンチャントをして新しい耐性を付けていたのだが、やはりまだ、こちらの世界のエイジでは厳しいようだ。

 

「予備の盾も防腐加工なんてしてないし、どうしたもんか……」

 

 彼が悩ましげに唸る。今はとにかく時間が惜しい。改めて街に戻って防腐加工をするなんて、とてもじゃないが無理そうだ。

 

 そう思っていると、グランピーが一つ意味ありげに咳払いをした。

 

「しょうがない。ワシが今打ってやろう」

「え、本当か? ってか、出来るのか!?」

 

 エイジが驚いたように言うと、グランピーは顔を真っ赤にして反論した。

 

「出来るに決まっとろう! ワシはホワイトの嬢ちゃん専属の騎士であり、王家直属の鍛冶師じゃ! これくらい容易いわい!」

「マジか……」

 

 私は文字通り空いた口が塞がらなかった。

 確かにGTOでも、なんならほかのゲームでも、ドワーフは鍛冶師ってイメージがあったけど。ここまで絵に描いたような状況になるとは思わなかった。

 

「そりゃありがたい! 早速頼む」

「ふんっ! 本当はお前みたいな若造の為になんか打たんが……今回は特別だ。スノウの嬢ちゃんの救出でお代はチャラにしてやろう。ほれ、剣も寄越せ」

 

 先程までの拒絶具合はどこへやら、グランピーは意気揚々とエイジの防具や武器を受け取ると、アイテムストレージを開いた。次いで臨時用だろうか、鍛冶台や風呂敷、釜などを次々と地面に置いていった。

 

「さて、材料は足りとるな。取り敢えず全部強化してやるから、お前さんらは少しばかり休憩しとれ」

「ありがとうな、グランピー」

 

 エイジが改めてお礼を言うと、グランピーは一瞬頬を赤くした後に、その色を遮光マスクで隠した。

 

「ふん、嬢ちゃんの為だ。これくらいはやってやる」

 

 そう言った後に、グランピーは「そこの小娘。お前のも後で鍛えてやるから今は若造を守っておけ」と言って作業に取り掛かった。

 

 私はあまりにも唐突な流れで困惑していたが、隣に座るエイジの様子と、火属性魔法を巧みに扱うグランピーの様子とを交互に見やって考えを改めた。

 

 グランピーは、きっと根は優しいドワーフなんだろうな、と。

 

 後で、ちゃんと今までの事を謝っておこう。

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