ネト充トッププレイヤーは、異世界でLv1から色々育むそうです。   作:颯月 凛珠。

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遅くなって申し訳ありません。


転移、そして戦闘1-3

「それじゃあ、今から治療を始めますね」

 

 ゴブリン達との戦闘の余韻も段々と抜け始めた頃。彼女は俺に向かってそう言うと、件の大木の下で回復魔法を掛けるための準備をし始めた。その準備というものは、彼女が取り出している布やら消毒液らしき液体やらを見る限り、地球で言う所の応急処置なのだろう。

 

 テキパキと準備を進めるセレナの手元を見つつ、俺は待っている時間を先程教えてもらった情報を頭の中で整理するために使おうと考えた。まだこちらに来てから数時間しか経っていないハズなのに、あまりにも濃い時間を過ごしたような気がする。

 

 まずは回復魔法についてだ。

 彼女曰く、どうやら経験が浅くて若い魔法士の回復魔法で癒やす事が出来るのは数値……つまりHPや痛みのみらしく、失った血は戻らなかったり、傷口に関しては軽いものこそ塞がりはするが、たまに痕が残ったり、再度傷口が開いてしまったりすることがあるそうだ。だから彼女のような下位の回復師はある程度の処置をしてから回復魔法を掛けるらしい。

 ちなみに上級回復魔法ともなると、生きていさえすればどんな重症でも一瞬で元通りになるのだそうだ。それはもう回復なんてものでなく、どちらかというと時間を巻き戻しているのではないかと思うのだが……。

 

 次に"無詠唱"のこと。

 どうやらこの世界の魔法はその種類毎に文句が決められているらしく、それらを『詠唱したら』魔法が発動するらしいのだ。つまり裏を返せば、ちゃんと文句を詠唱しなければ魔法は発動しない。

 つまり、俺が固有名を言っただけで魔法を発動させたという行為は、この世界の理をガン無視した行為と言っても過言ではないのだ。そりゃセレナも驚くわけだ。

 

「すこーし痛みますけど、我慢してくださいね~」

 

 彼女の声で思考を止めて顔を上げる。どうやら考え込んでいる間に準備が整ったらしく消毒液に浸した真っ白な布を片手に、彼女はまるで小さな子供に注意するように言った。それを聞いて、俺は表向きには頷いたものの、内心ではやれやれと首を振っていた。まったく、ナメられたものだ。ゴブリンに殴りかけられた時の痛みに比べたら、消毒位の痛みで我慢出来ないわけが────

 

「──っグギ!」

「ちょ、動いちゃ駄目ですってば~!」

 

 当てられた瞬間、打撲の痛みと傷口を攻撃する消毒の痛みが両方同時に襲ってきて、その布から逃げるように本能的に顔が動く。しかし彼女の手がぐっと俺の顎を抑えているためにそれ以上は動けず、俺は痛みを我慢するために必死に歯を食い縛るほか無かった。痩せ我慢的に色々言っていたが、痛いものは痛いのだ。俺のDEFよ、頼むからこういう時も仕事をしてくれ! 

 

「今の声、ゴブリンみたいな声でしたよ」

 

 セレナが冗談っぽく笑いながら言う。正直俺はそんな冗談に構ってられるほどの余裕が無かったので、貼り付けただけの笑みを彼女へと向けて"大丈夫"アピールをすることしか出来なかった。

 

「……ん、よしっと。これくらいかな?」

 

 頬を襲う激痛と戦うこと数秒。彼女は満足げに言うと、微かに赤黒くなった布を袋に包んでポーチの中へと入れると、「よいしょ」っという可愛らしい掛け声とともに立ち上がった。

 

「今から回復魔法をかけますね」

 

 次いで彼女はニコッと笑いつつ、深呼吸をしてから形の綺麗な両の手の平を俺へと向ける。

 本当は自分も回復魔法を使えるので消毒だけで十分だったのだが、彼女が先程「戦闘職の人は、基本的に回復魔法は使えないと思うので」とも言っていたので、混乱を招かない為にも大人しく彼女の回復魔法を受けることにしたのだ。

 勘違いして欲しくないのは、自分で治療するより、セレナの様な可愛い女の子に治療して貰った方が絶対効果がありそう! などと言う不埒な考えを持っている訳では無いという事だ。……ホントだよ? 

 

「治の女神よ────」

 

 そんな弁明を考えている内に、彼女の"詠唱"が始まった。全身から魔力を集めているのか、彼女の身体の表面が微かに緑色に光り出す。

 

「其方の力を持ってしてこの者の傷を癒したまえ。……【ヒーリング】!」

 

 最後に魔法の固有名を唱えた瞬間、彼女の全身を包んでいた緑色の光の粒子が手の平へと集まり、目の前の俺に向かって少しずつ放出されていった。それらは一つ一つがまるで意思を持っているかのように俺の右頬へと一直線に向かってくると、傷口に付着する。

 それからすぐに効果は現れた。ズキズキと疼いていた頬の痛みが薄れだし、痛覚に過敏になっていた神経が落ち着きを取り戻すのが手に取るように分かったのだ。

 それを実感するや否や、俺は指を重ねてスライドしステータスを開いた。やはりゲーマーとしてはそういう数値の変化を確認したくなってしまうのだ。果たして、やはり彼女の話の通り、減っていた俺のHPの数値が少しずつだが上昇していた。まぁ、彼女が発した魔法名からしてこうなることは分かっていたのだが。

 

 この魔法は瞬間回復魔法ではなく、自然治癒力を高める能力も兼ね備える持続回復魔法(リジェネレート)だ。恐らくセレナは、無理に瞬間回復魔法で直そうとしても、実力的に失敗する確率のほうが高いと踏んで、この魔法に変更したのだろう。確かに人の自然治癒力をあてにした治療法の方が、怪我の治りが良いという実例もある。彼女はそういう医学的な知識もある程度持ち合わせていて、俺の自然治癒力を魔法で高めて、傷の治りを早めているのだろう。

 そうこう考察しているうちに、セレナの手の平から光の粒子が消えた。どうやら治療が終わったようで、彼女は少し汗ばんだ額を拭いつつ「他にどこか痛むところはありませんか?」と尋ねてきた。

 

 それを聞いて自分の頬を触ってみると、乱雑な切り口でザラザラとしていたハズの頬は最初から何も無かったかのように────いや、むしろ傷を負う前よりも綺麗に、そして滑らかになっていた。

 

 ……これが、異世界の治療法────回復魔法か。

 

「……いや、特に無いかな。ありがとうセレナ。助かったよ」

「お役に立てたならよかった、です」

 

 俺が頭を下げてお礼を言うと、彼女は嬉しそうな声でそう返してきた。しかしその声色とは裏腹に彼女の表情は、先程の明るい笑顔を見る影もなくやつれていた。恐らく俺を治すために彼女が持っている魔力のほとんどを使ったのだろう。

 

「セレナ、大丈夫か? 少し座って休んだほうがいいぞ」

 

 そう言いながら、俺が座っている隣の地面をトントンと叩く。

 

「あ……。はい、ありがとう、ございます」

 

 彼女は座ることに一瞬躊躇を見せていたが、限界だったのか木にもたれかかった直後、膝から崩れ落ちるようにその場に座った。心做しか息も荒い。

 

「お、おい……」

 

 流石にこの様子は少しおかしいと思う。いくら魔力消費が激しい回復魔法だからといって、頬の切り傷を治すくらいで専門職のやつがここまで疲弊するなんてことがあるのだろうか? 

 もし仮に、そんなことがあるとするならば────。

 

「もしかして君が戦えない理由って……」

 

 俺が皆まで言わずにいると、彼女は俺が内に秘めた言葉を察したのか、少しだけ寂しそうな顔をして頷いた。

 

「……多分、あなた様が思っている通りですよ」

 

 彼女は一度言葉を切ってから、話を続けた。

 

「……ですが、一度きりになってしまうことが多い代わりに、みんなを守る魔法────回復魔法は下位のモノなら全て使用できます。状況に応じては、そちらの方が余程力になれますしね」

 

「だから私には、攻撃魔法を覚える余裕と時間がなかったんです」と、幾分か血の気が戻ってきた顔で言う。肝心な所は深く言わなかったけれど、彼女はどうやら自分の出来ることをちゃんと理解しているようだ。

 だからこそ、一つの疑問が俺の中に残った。

 

「じゃあなんでセレナは、こんな何も無い平原で、一人で寝ていたんだ? さっきみたいに、モンスターが出てくるって分かってたはずだろ?」

 

 教会で培った知識をちゃんと蓄えている彼女が、彼女の国に近いであろうこの平原でモンスターへの注意を怠らないわけがない。

 俺の問いかけに、彼女は至って普通の声音で答えた。

 

「それではまず、平原にいた理由から。本日は、私の仕える教会の最高司祭様であり、世界を救った英雄でもある"聖メルナ"様のご命令で教会の外に出てきたのです」

 

 先程からたまにセレナの口から出てくる"メルナ"という名前。どこかで聞き覚えがあるなと記憶を探ってみると、どうやらメルヘンの話に出てきていた三勇者の内の一人《聖女》メルナのようだ。

 

「ちなみに、そのメルナ……様? から受けた命令ってどんなものだったの? 差し支えなければ教えてくれないか?」

 

 俺がそう言うと、セレナは何かを警戒するようにキョロキョロと周りを見渡すと、抑え目な声で話し始めた。

 

「実はあまり他言してはいけないのですが……。えっと、聖"メルナ"様が主様から、『近辺に二人の使徒が召喚されるから、保護をお願いしたい』とのお告げを頂いたらしく、そのお迎えに上がるよう修道士たちに言い付けられました」

 

 彼女の言う主様というのは、恐らくメルヘンの事なのだろう。《聖女》であるメルナより上の立場というのならば、それはもう神様しか居ないからな。

 

「そのお告げの二日後。最初のお一人、《フウカ》様は直ぐに我が国に訪れて来てくださったので、今は聖”メルナ”に保護されています」

 

 それを聞いた瞬間、俺は安堵の溜息をついていた。よかった。フウカもちゃんとこの世界に来ていて、ちゃんと生きていた。それが聞けて、本当に良かった。

 

「ただ、もう一人の使徒の方は中々ご来訪されなかったので、主様が召喚に手間取っているという推測を立て、《フウカ》様が召喚されたと仰られていた場所────つまり、この木の下に教会の修道士が毎日交代で番をしていた、というわけです」

 

「次に、私が寝ていた理由ですが……」と、彼女が少し頬を赤らめて言う。

 

「昨日の夜遅くまで勉強をしていたので……多分、寝不足だったんだと思います。今日ここに来る道のりもずっとウトウトしていた記憶がありますし、加えて風も気持ちよくて、お日様も暖かかったので、つい……」

 

 いや、あれに関しては「つい」で済むレベルじゃなかったけどな……? と、心の中でツッコミを入れる。つねってもほっぺた叩いても起きないなんて、並み尋常な睡眠力ではないだろう。

 

「だから目が覚めた時、目の前にゴブリンがいた時は生きた心地がしませんでした……。だから、改めて助けていただき、ありがとうございました!」

「ぜ、全然いいって。俺もセレナに助けられたからさ」

 

 凄く綺麗に腰を曲げる彼女に、頭を上げるよう説得しつつ、こちらもお礼を言う。

 

 彼女の寝不足の件は置いておいて、とりあえずフウカが本当にこの世界に来ていて、さらにちゃんと無事であることが分かっただけでも大収穫だ。これ以上は特に聞く必要もないだろう。後はセレナについて行けば、必ずフウカに会える。

 

 ただ一つだけ、セレナに関して腑に落ちない部分はあるが。

 

 俺はその真意を確認するために、彼女に向かって分析スキル【アナライズ】を行使した。

 このスキルは文字通り、指定した対象のステータスや状態異常、ジョブが見れるものだ。先程、スキル画面を見たときに、GTOの時に全く必要がないと思って取っていなかったこのスキルが、エイジの使用可能なスキルとして表示されていた時は驚いてしまった。

 正直なところ、女の子の個人情報を覗き見するのは少しばかり気が引けるのだが、俺の見立て通りなら今すぐに使わなければ後々面倒くさそうになりそうなので使用してしまった。……あとで事情を話して謝れば、セレナならきっと許してくれるだろう。

 

 分析結果が表示されるまで数秒。果たして、彼女のステータスには俺の予想通りの結果が表示されていた。

 

「一つだけ、いいか」

「は、はい……なんでしょうか?」

 

 俺はその結果にひどく憤りを覚えて、我知らず先程より数段強い口調で彼女に問いかけてしまった。彼女は全く悪くないと、頭の中では分かっているのだがどうにも感情がコントロールできなかったのだ。

 

「そのメルナ様とやらは、戦闘ができないやつまでモンスターが出る平原に一人で行かせるのか?」

 

 彼女は俺の問いに一瞬体を強張らせていたが、直ぐに首を横に振った。

 

「……今日に関しては仕方がなかったんだと思います。本当は、モンスターにある程度対抗できるスキルを持ち合わせている修道士が赴くはずだったのですが、今日当番だった方が急病で床に伏せてしまって……教会内で本日非番なのは私だけだったらしく、代わりに駆り出されたのです」

 

 そう言い切って、彼女は俺の目をじっと見つめてきた。恐らく、俺がメルナを疑っていることに気づいているのだろう。ただ事実を述べたまでだ、とその目は揺らぐことがなかった。きっと彼女はメルナのことを信じているのだ。……それを考慮するに、どうやら俺のこの考えは、とても浅はかで信用足り得ないものだったようだ。

 

「いや、すまなかった。決してメルナ様を疑っていたわけじゃないんだ」

 

 今度は俺が頭を下げた。先入観だけで会ったこともなく、まったく知らない人を疑うなんて、きっと俺がどうにかしていたんだろう。

 

 彼女が「頭を上げてください」と言ってきたので、素直にそれに従う。

 

「お許し致します。あなたは私の恩人ですもの」

 

 そう言いながら彼女はにっこりと笑った。しかし、やはり人を……ましてや彼女の信じる人を疑ったのだ。もう一度くらい謝罪の言葉を言ったほうが良いだろう。

 そう思い立ち、もう一度頭を下げて────。

 

「いや、本当にすまなか──―「ですが!」

 

 俺の言葉を遮るように、彼女が言う。

 

「お許しするには、条件があります」

「条件……?」

 

聞き返すと、彼女は少しだけ頬を赤らめてコクンッと頷いた。

 

「お名前……」

「え?」

「あなた様のお名前を、教えてください。自分はお教え致しましたのに、ズルいです」

 

 彼女が頬をぷくーっと可愛らしく膨らませながら言う。まぁ、確かに俺だけ相手の名前を知っているのは不公平だと俺も思うし、教えてあげても良いけど……。

 

「多分聞いたらちょっとばかし後悔するんじゃないかな?」

「な、なんでですか! 命の恩人様の名前を聞いて後悔するなんて失礼な事、絶対にありません! もう、もったいぶらないで早く教えてください!」

 

 彼女が俺の肩をポカポカと叩きながら言う。そうかそうか、そんなにセレナは俺の名前を知りたいのか。忠告はしたからな? よし、それじゃあ言ってやろうじゃないか。

「早くしてください」と急かさんばかりの彼女の目をじっと見つめ、俺は余裕をもって言ってのけた。

 

「俺の名前は《エイジ》だ。セレナ達の言う主様から使徒として送られた《フウカ》のパートナーだ」

「なるほど~《エイジ》様、と……って、えぇぇ!? 使徒《エイジ》様ぁ!?!?」

 

 なんとなく、使徒という言葉を使ってみたくて、まわりくどい言い方をしてしまった。ほら、使徒って言われると何となく某ロボットアニメの敵キャラみたいでカッコいいじゃん? 

 

「わ、私、使徒様に助けていただいて、不思議な方なんて言ってしまって、あまつさえなんともご無礼な言葉遣いを……! それに、今なんて……!!」とアワアワしだす彼女に向かって言葉を投げかけた。

 

「おーい、セレナ。お前のいる国まで案内してくれよ~! 見張ってないと、不思議なお方はどっか行っちゃうぞ~」

「わぁー! 私なんて無礼なことを! す、直ぐにご案内させていただきますぅ~!!」

 

 彼女の焦った声が耳に届き、つい俺の口から笑いがこぼれた。

 転移してから一時間ほど悩み、ゴブリン達との戦闘を経て、フウカの居場所を知って。やっと、俺の中で『異世界』に来たんだなぁ……という確信を持てた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆           ☆            ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が憤った理由。それは一種の同情だった。表示された分析結果が、こんなにも健気な修道女に対して、あまりに不遇で、残酷な仕打ちだったからだ。そしてそれを人に────ましてや話を聞く限り、ほとんど教会に幽閉されているであろうセレナに対して、こんな大掛かりなことができるのは、きっと権力を持っているメルナだけだと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺が【アナライズ】で見た、彼女のステータスには────

 

 

 

 

 

 

【カースト:魔力封印】

 

 

 

 

 

 

 彼女の魔力を封じる、『呪い』が掛けられていた。

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