消えた名探偵と謎の青年   作:Chat blanc

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 多分、BLではないと思います...。
 なので、そういうのが苦手でも大丈夫かと。
 この話を見ていて、「こんなのコナンじゃない!!」と思われる方がいるかもしれませんがそこのところは目を閉じてください。

 Are you ready?

それではどうぞ。


寂しそうな瞳

 どう見てもおかしい。

 

 さっきからずっと同じところで休んでいるのに、どんどん顔色が悪くなっていっている。

 かなり離れた距離から見ているから、光の錯覚かもと最初は思ったが、あの色は死体の色だ。

 

 ずっと見てきたからわかる。

 

 ...改めて言葉に直したらちょっとやばいな。

 ......いや、かなりヤバい奴だな、オレ。

 

 そんなこと今はどうでもいい。

 早いとこあの人の元に行かないと、下手したら救急車沙汰にもなりえるんだ。

 

 「__天音響って、クラスメイトの天音君?」

 「そうよ、あんなののどこがカッコいいのかしら?」

 

 幸い、『天音響』について話していて、こっちに注意は向けられていないから今のうちに抜け出して、あの人の元へ急ごう。

 ...それにしても、『天音響』、か。

 よく知りもしない人たちに勝手に悪口言われるってなんかご愁傷さまだな。

 

 完全に他人事だから何も言わなかったけど、『天音響』っていう奴に同情する。

 工藤新一の姿の時のクラスメイトっていうことで名前だけは聞いたことはあるけど、顔は見たことないし、しゃべったこともないから、どんな奴なんだろうっていう好奇心はある。

 

 ...ただ、近寄りがたい雰囲気っていうか、誰も自分に話しかけないでくれっていうオーラを発しているから、調べるまではいかなかったんだよな。

 

 オレが今まで抱いていた『天野響』はそんな感じ。

 

 ポケットに手を突っ込み、具合の悪そうにしているあの人の元にに歩いて行く間、クラスメイトの『天音響』について考えていた。

 

 っていうか、この会場広すぎだっつの。

 歩いても歩いても全く近づかない。

 

 全然たどり着けないことに若干苛立ちながらあの人の元に向かう。

 その途中に、たまたま目を上げてその人の顔を見た。

 

 相変わらず顔色は悪いままで、ほんとに心配になっていて、ずっとその人の顔を見ていたんだ。

 

 そうしたら...、目が開いた。

 

 その時オレの周りの時間が止まった。

 

 いや、正確にはそう錯覚しただけなんだけど、本当に時が止まったのかのような感覚に襲われた。

 なんでそんな状態になったのか。

 多分それは、彼の瞳に呑み込まれたからだ。

 

 目が閉じたままの顔を見ていても、とてもきれいな顔をしているなと思った。

 

 けど、目が閉じているのと開いているのとでは格が違った。

 

 まず、その目に呑み込まれる。

 何もかもに絶望したようなその目に、憂いの漂うその瞳に。

 でも、絶望しているはずなのにその目には『希望』があった。

 矛盾しているけど、その矛盾がまた美しい。

 その不思議な目に吸い込まれた。

 

 本とかで、よく目に魅せられるシーンがあるだろ?

 それをまさに体感した、そんな感じだ。

 

 純白の大地に一滴だけ銀を落としたような柔らかい銀の髪は、白い肌と碧い瞳にとてもよく合っていて、どこか作り物めいた感じがする雰囲気に仕上がっている。もちろん、それも彼の魅力の一つになっていた。

 手足が細く華奢だということは服越しでもわかり、その手足のおかげもあってか精巧に作られた人形のようだと思った。

 

 男に「綺麗」だとか、「美しい」とかそんな言葉は似合わないと思っていたが、彼のおかげでその先入観は吹き飛び、彼以上に「綺麗」という言葉が似合う人なんていないだろうとまで思った。

 

 だけど、そこまで考えて我に返り、自分の頭を抱えて今すぐ叫びだしたい衝動に駆られることとなった。

 

 何考えてんだ?オレ。

 男相手にそれはないって。

 流石に気持ち悪い、そんなこと考えていた過去の自分が無性に恥ずかしい。 

 

 流石に叫びはしなかったけど、その場で悶えた。

 ...恥ずかし過ぎる。

 

 やっとのことでその衝動を抑え、再び顔を上げた時には彼の不思議と吸い込まれそうになる瞳は、瞼で遮られていて、見えなくなっていた。

 そのことにほっとする自分と、逆にもっと見たかったと願う自分がいて、そのことに気づいてまたうなだれる。

 

 ...どうしたんだろ、オレ。

 さっきからずっとおかしい。

 その理由はいったい...?

 

 いや待て、いったん考えることをやめろ。

 最初の目的をちゃんと思い出せ。

 あの人のことが心配なんだろ?

 ならさっさと行って、やることを果たすまでだ。

 

 そう考え直したオレはまた一歩、彼の元へ踏み出した。

 

 案外早くたどり着いたオレは、この人の観察をする。

 柔らかい銀色のまっすぐな髪は、前髪を後ろに流して固めてある。

 近くで見て気づいたことといえば、この人、かなりいろんなことしてるってことと、まつげが長いこと、そして、かなりのお金持ちだってことぐらい。

 

 腕は組んでて、手のひらが見えないけど、筋肉のつきもいいし、そのバランスもいい。

 ということは、スポーツは何か一つだけではなくて何個か掛け持ちしてるか、それとも意図的にやっているか。 見た感じ、ヴァイオリンも経験者だろう、あごに独特のタコが残っている。

 って言ってもかなり薄くなってるから、今はほとんどしてないんだろう。

 

 ...手が見れたら、触れたら、もっといろんなことが分かんるんだけど...。

 初対面で急に手を触ってくるやつとか、普通に考えておかしいんでやんないけど。

 

 ...それにしても。

 オレが最初見た時よりはましって言ったって、かなり顔色が悪い。

 

 ...大丈夫かなこの人。

 

 「ねぇ、お兄さん大丈夫?顔色悪いよ?」

 

 思いっきり“良い子”を演じながら問いかける。

 まぁ、この人を心配しているというのは本当だから、このぐらい猫被るのは許されるだろう。

 

 そう言い訳しながら、彼からの返事を待つ。

 

 「あぁ、僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

 大丈夫じゃないくせに...

 そうは思ったものの、まあ知らない子供に『大丈夫じゃない』なんていう人なんていないだろうなと考え直し、ちょっといじけた心を元に戻す。

 きっと、工藤新一(元の姿)でもそう答えられていただろう。

 

 「ならいいんだけど...」

 

 なら、こう答えるしかないだろ?

 

 ま、顔色がかなり悪いとはいえ、回復してきているようだから、ほっといても大丈夫だろう。

 

 ...けど、名前は一応聞いとこうか、心配なことに変わりはないから。

 

 今までつま先を見ていた視線を、この人の目の高さに合わせようと目線を上げる。

 身長は、工藤新一よりかは低いけど、小学一年生のオレからしたら高いことに変わりはない。

 

 そして、名前を聞こうとしたその瞬間、急に彼が目を開いた。

 

 また、吸い込まれそうになる。

 今度は距離が近い分、その威力はすさまじい。

 だけど、一回見ているから少しは耐性ができていて、耐えることはできた。

 

 ...それにしても、さっき一瞬見せたあの驚いた表情にどんな意味があるんだろう?

 ...見間違いかな。

 

 それにしても、急に目が開いた時たほんとびっくりした...。

 今もまだ、吸い込まれそうな感じは健在してるし...。

 ...それに何より、背景に花が見える。

 

 青年、成人男性っていうよりかは、少年っていう表現が正しいかも。

 ...というより、外見が整いすぎてて、「どこかの国の王子です」って言われても納得できる自信がある。

 

 ...じゃなくて!

 オレは何がしたかったんだ?!

 名前を聞こうとしてたんだろ?

 

 ...いちいち目的を忘れるな、オレ。

 

 ...この人に会ってから、なんかどんどん自分がおかしくなってる気がする...。

 気のせいだと信じたい...。

 

 「ねぇ、お兄さん名前は?」

 

 もう、何も考えずにそう聞く。

 考えたらきりがないから。

 

 「え?あぁ。僕は響、天音響だよ」

 

 ...え?

 『天音響』って、さっき蘭達が噂してたあの『天音響』か?

 嘘だろ...。

 こんな美形、背中に花を背負ってる王子様みたいな奴学校にいないぜ?

 同姓同名か...?

 すごい確率になるけど、きっとそうだ。そうに違いない。

 

 だって、オレの知っている天音響は、ずっと一人でいるマスクマンだ。

 ...こんな美形なら顔を隠さずに自慢するだろ。

 オレなら多分そうする、てか絶対そうしてる自信がある。

 

 「君の名前は?」

 

 こんなにグルグル考えていたオレは、悩ませられている張本人にそう聞かれて、一旦考えるという機能を完全に停止させた。

 ...もうだめだ。

 これ以上考えたらパンクする。

 

 「ボクは江戸川コナンだよ」

 

 もうこの名前を言うのにもかなり慣れてきたが、その慣れてきたという事実が胸に突き刺さり、少しだけ胸が痛む。

 そういう感覚にも、嘘をつくという感覚にもかなり慣れてきた。

 きっといつか、こういった感覚が麻痺して、何にも感じずに嘘をつけるようになるのだろう。

 ...いつか来るその時に少し恐怖し、その感情から逃げるように、思考の渦から抜け出し現実世界へ戻る。

 

 ...またこの渦に引きずり込まれそうになり、咄嗟にこの人、『天音響』に話しかける。

 

 「?お兄さん?どうしたの?さっきからずっと固まってるけど...」

 

 いや、固まってたのはオレのほうだけどね。

 ま、天音さんも固まってたしいっか。

 下から天音さんの顔を覗きながらそんなことを考える。

 

 「いや、なんでもないよ。ただ、君が僕の知ってる人に似ててね。それで少し考え事をしていたんだよ」

 

 だから、心配しないでねと彼は寂しそうに(......)笑って見せる。

 オレに心配させないために。

 ...なら、寂しそうに笑ってんじゃねえよ。

 余計心配するだろ、そんな表情(かお)を見たらさ。

 逆効果に決まってんだろ。

 

 ...それに、オレに似た人を知ってる。そうさっき言ったよな。

 ...それはどうとらえればいい?

 

 仮に、彼がオレの知ってるクラスメイトの『天音響』だったとして、工藤新一に似ているってことか?

 それとも、オレが知らなくて、彼が知っている人に似ているっていうことか?

 

 前者の場合、あの黒の組織の人間っていう線が濃くなる。

 クラスメイトに組織の人間がいたっていうのも驚きだが、それ以上に蘭達が危険だということの方が重要だ。

 オレが生きていると組織にばれたら、今度こそオレは殺されるし、きっとオレと近い人たちも殺される。

 できれば違っていてほしい考えだ。

 

 そして、後者の場合何の心配もない。

 ただ似ている人がいるってだけでどうこう...、なんてことにはならないだろう。

 

 そしてもう一つ心配なのは、この人もオレと同じように何かを考えているということだ。

 きっと考えている内容は違うだろうが、なにか引っかかる。

 こういう時のオレの勘ってかなりの確率で当たるから、少しこの人のことは注意して対応した方がいいかもしれない。

 

 「__ン君?コナン君?どこ~?いるなら返事して~?」

 「ガキンチョ~、ったく、すぐいなくなるんだからアイツ。」

 

 げ、蘭達だ。

 オレが蘭達から離れてかなり時間が経つから、いなくなったことに気づかれても仕方ないか...。

 けど、まだこの人と話したいしなぁ...。

 聞きたいことがまだ残ってるのに、タイミング悪すぎだろ。

 

 どうかバレませんように!

 

 ...うん、わかってたよ。すぐにバレることなんて。

 

 「呼ばれてるけど大丈夫?コナン君。ええと、コナン君でよかったかな、呼び方」

 「うん、呼び方は何でもいいよ、お兄さん。それと、蘭姉ちゃん達ならボクのことさっき見つけたっぽかったから大丈夫」

 「ならいいんだけど...」

 

 蘭達が急いでここにやってくる。

 その様子をオレと天音さんは見ていた。

 

 「ああ、コナン君。もう、急にいなくなるから心配したのよ?」

 

 手を腰に当てて、少し頬を膨らませながら蘭はそう言う。

 申し訳ない気持ちもあるが、こういうことは何度もやってきたからこうやって軽く怒られることに慣れているため、誤る言葉の重みも軽くなる。

 

 「ごめんなさい」

 この言葉は、ほんとは軽い言葉なんかじゃないけど、軽くなるくらい言い続けているってことだ。

 そのことにも罪悪感を感じ、こいつら(蘭達)をだまし続けていることも申し訳ない。

 

 ...いつになったら本当のことを話せるようになるのか。

 ...そもそも、本当のことを話せるのか。

 

 話す条件は、蘭達に危険が及ばないことだ。

 そのためには、組織を壊すこと。

 ...そして、元の姿に戻ることだ。

 

 まだ、不安は残る。

 この姿(コナン)になって生きているっていうことがばれて組織を壊す前に()られるかもしれない。

 そのせいで、蘭達に危険が及ぶ危険だってある。

 

 仮に、組織を壊せたって元の姿に戻れないかもしれない。

 普通、毒を作る場合は解毒剤も作っているだろう。

 ただ、オレが飲んだのは試作品だと奴らは言っていた。

 もう毒が完成していて、試作品の情報や解毒剤はもう残っていないかもしれない。

 

 最悪、一生この『コナン』のまま生きるのかもしれない。

 

 もしかしたら、薬の副作用で今この瞬間にも死ぬのかもしれない。

 

 ...いや、もうやめよう。

 これ以上考えたってきりがないから...。

 

 「えっと...、この人は?」

 

 やっと傍にいる天音さんの存在に気づいたのか、戸惑いながらオレに聞いてくる。

 なんで気づかなかったんだろう?

 こんなに存在感があるのに...。

 

 いや、違う。

 存在を消してたんだ、この人。

 なんで存在を消していたのかはともかく、ここまで完璧に消せる人初めて見た。

 一瞬だけ存在を消して、すぐに戻ってきたからオレに違和感はほとんどなかったけど、やっぱりわかる。

 ...いったい何者なんだろう、この人。

 

 「蘭姉ちゃん達がさっき話していた人だよ...」

 

 蘭に話しているが、視線は蘭ではなく天音響、その人に向けていた。

 蘭は「...え?ていうことは...」と言ってるぐらいだから信じられないんだろう。

 

 ...まぁ、仕方ないと思う。

 学校とこことでは印象が違い過ぎるから。

 でも、ミステリアスなところは全く変わらない。

 

 蘭が不安そうな顔をしているからなのか、安心させるような笑みを浮かべながら、壁にもたれていた上半身を起こして、組んでいた腕もほどいて正面から蘭を見つめる。

 ...そんな些細な動作も様になっているななんて考える自分を頭から締め出しながら、蘭の方を見る。

 

 ...これ以上天音さんを見ていたら、なんか自分がおかしくなりそうだから。

 ...それに、この人が持つ独特の色気を正面から浴び続けるのはもう無理...。

 

 「...え~っと、ちゃんと話すのは毛利さん初めてだよね。鈴木さんは久しぶりかな?僕は天音響です」

 「「え?えぇぇぇええええぇぇええ!?」」

 

 ほんと、こいつら素直だよな...。

 気づかないうちに小学生らしからぬ苦笑いになっているのは気づいていたが、これは止められないだろうと思い、ほっとくことにする。

 

 「...ボリュームは抑えてね?」

 

 そう言った天音さんは少し困ったように、でもすごく楽しそうに笑う。

 

 ...なんだ、笑えんじゃん。

 そう思ったが、やっぱり目の奥は寂しそうだった。

 

 何がこの人をそこまで寂しそうにさせるのだろう?

 そう思ったが、声には出さず視線を蘭達に戻す。

 

 すみません、すみませんと周りの人に謝り続ける蘭達の様子に、治まり掛けていた苦笑いが再発する。

 ...恥ずかしい。

 蘭達らしいといえば聞こえはいいが、考えてみてくれ。

 この状況にいつも付き合わされているオレのの心情を。

 

 ...オレも蘭達と一緒になってあんなふうになることもあるが、大体こうやって苦笑しながら眺めている。

 

 あんなふうになっている蘭達を見ていられなくて天音さんの方を見る。

 

 ...目が合った。

 

 また、時が止まる...。

 

 そして、天音さんは微笑みを浮かべてオレから目を逸らし、混じった視線がほどける。

 

 ...時は進みだした。

 ...だけどオレは、その進み出した時の流れから取り残されて、茫然とそのままの状態で止まっていた。

 

 ...一つ、思い出したことがある。

 オレはあの瞳を知っている。

 昔、どこかで見たことがある...。

 

 どこだったっけ...?

 

 蘭と園子が何かを話しているが、そんなことはどうでもよくてそのことだけがオレの頭の中を支配していた。

 じっと天音さんを見つめながら、ひたすら考える。

 

 もう少しで出てきそうなんだ...。

 

 考えろ、思い出せ...思い出せ...!

 

 でも、そこまで考えても思い出せなかった。

 

 多分、だいぶ前の記憶なんだろう。多分これだろうと思う記憶を取り出せはしたが、もやがかかっていてはっきりとは分からない。

 もしかしたら、天音さんが知っているかもしれない。

 だから聞いてみるか?

 そうも考えたが、きっとこの記憶は工藤新一の時の記憶だ。

 

 ...というかそれ以外にはありえない。

 だから聞こうにも聞けないし、...大体この記憶があっているかどうかも怪しい。

 もし事実だったとしても、この人が覚えているという根拠もない。

 

 ということは、オレが完全に思い出すまではこの謎は謎のまま...

 なんか、すごく悔しい。

 この人に聞けばわかるかもしれないのに、聞けないのももどかしい。

 ...すぐ傍にこの謎を解く鍵があるのに、絶対に使ってはいけない。

 ...なんか少し違うけど、絶対に開けてはいけないといわれたパンドラの箱みたいだなと思った。

 

 ...この姿(江戸川コナン)になってからというもの、自分の思いどうりにかないことだらけだ。

 前の姿(工藤新一)の時はそんなことなかったのにな...

 

 ...少しマイナスになり過ぎた。

 こんなんじゃダメだ。

 ポジティブにいかないと精神的によくない。

 

 そう思い、ポジティブ思考に切り替えようとする。

 

 そんな時、笑い声が聞こえた。

 心の底から楽しそうに笑う声。

 ...でも、どこか寂しそうに聞こえる声。

 

 この声は...?

 

 いつの間にか下がっていた視線を上げ声の主を探す。

 ...いや、探さずとも分かっていた。

 こんなに寂しそうに笑う人は一人しかいない。

 ...こんなに心を掴んで離さない声の持ち主は、『天音響』だけだ。

 

 オレが泣きそうになった。

 なぜな泣きそうになったのかは全く分からない。

 でも、一つ推測を上げるとするなら、きっとそれは...

 

 今もなお心を掴まれているからだろう。

 

 だから言ってしまった。

 止めようがなかった。

 心から発した言葉だから。

 頭からではなく、心から発した言葉だから。

 

 「ねぇ、じゃあなんでお兄さんはそんなに悲しそうなの?」

 

 心から思った言葉だった。

 蘭達はオレの言った言葉の意味が分からずきょとんとしている。

 

 ...まあ、そうだろうな。

 普通、そんなことをさっきの笑顔を見ても分からない。

 それにオレは今、小学一年生だ。

 こんなガキが何言ってんだと思っても仕方ない。

 

 ...でも、周りの目なんてどうでもよかった。

 今大事なのは天音響だけだ。

 

 今もなお、さっきやっと思い出した記憶にはもやがかかっていて、この人のことは全く思い出せていない。

 やっぱりオレとはなんの関係もないのかもしれない。

 

 でも...、それでも今は、目の前で驚いているこの人がとても大事なんだ。

 

 「え?」

 「だって、笑ってるけどとても悲しそうだよ?ねぇ、なんで?」

 

 驚いたように聞き返してきた天音さんに、そう言い返す。

 すると、今まで驚いていた天音さんは、ふいに顔をほころばせた。

 そして、とても愛しげにオレを見たんだ。

 ...なんでかは分からない。

 この人のことになると分からないことだらけだ。

 

 そして、口を開いてオレにしか聞こえない声でそっと囁く。

 

 「それは...。」

 

 それは?

 オレはその先の言葉を早く聞きたくてうずうずする。

 そんな様子を分かってかどうかは知らないけど、小さく笑いながら___

 

 「...きっと何もかも望みどうりになったからかな」

 

 ___そう言った。

 そう言った彼の顔には幸せそうな笑顔があって、

 

 ...もう、寂しそうな様子なんて一欠けらもなかったんだ。

 

 その言葉の意味は、オレにはまだよくわからなかったけど、すごく嬉しかった。

 

 オレにだけそう教えてくれたことが、...その笑顔が見れたことが。

 

 だから。

 オレも彼に微笑みかけた。

 

 その時の『嬉しい』の裏に隠れた感情の名前は、今のオレには分かりそうにもない。




 今回はコナン視点でお送りしましたが、ちゃんとコナンしてましたかね?

 前の話のところから一歩も動いていないのですが、どうしてもコナン視点は入れておきたかったので入れました。
 次回は絶対進めますので是非読んでみてください。

 それではまた。
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