消えた名探偵と謎の青年   作:Chat blanc

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 好きな方は好き、嫌いな方は嫌いな描写が多分入っています。
 少~し話は進みますので、待っていた方はお待たせいたしました。
 前回はコナン視点でしたが、今回は響視点です。

 Are you ready?

 それではどうぞ。


月光

 僕らはお互いがお互いに微笑みかけながら見つめ合っていた。

 なんで彼が僕に笑いかけてくれているのかは分からない。

 だけど、僕だけに笑いかけてくれているという事実が、どうしようもなく嬉しかった。

 

 ...嗚呼、やっぱり...。

 

 ......僕は彼が好きなんだ。工藤新一が江戸川コナンになってしまっていても、この感情だけは変わらない。

 どうしようもなく愛おしいという気持ちが溢れ出してくる。

 

 ...僕に人を好きになる資格なんてないなんてこと百も承知だ。

 まして、闇を暴く光をを愛す権利なんて。

 

 でも、この感情にだけは嘘をつきたくなかった。

 今までさんざん色々な人に、事に、モノに嘘をついてきた。

 自分にでさえ、だ。

 

 だからこそ、この一つの感情にだけは嘘をつきたくない。

 ...甘いよね、僕なんかの分際で生意気だよね、分かってる。

 でも、それでも嫌なんだ。

 諦めるなんて、何もせずに毛利さんに渡すなんてことしたくない。

 

 これが僕の本心だ。

 

 

 「...あの、何の話?ごめんね、コナン君が何を言ってたのかわからなくて」

 

 せっかくコナン君と正面から見つめれる絶好の機会なのに、毛利さんにこの状況を破られてしまった。

 

 新一君の大切な人だし、彼女自身もいい人なので、直接手をかけるなんてことは絶対にしない。

 彼女が危険にさらされて、新一君が助けに行き新一君がけがをするなんてことになるのが嫌だから、もしそうなった場合は、僕が助けてあげよう。

 

 ...でも、それは新一君のためであって、毛利さんのためではない。

 だが、仲良くなっていて損はないので、あの一言のせいでコナン君から目を離さざるおえない状況になって、僕が怒っていたとしても、態度には表さないさ。

 

 ...すごく怒っているのは紛れもない事実だけどこの感情には嘘をつこう。

 新一君の思いには嘘をつかないが、ほかの感情には嘘をつく。

 

 どうでもいいから。

 

 「いや、わからなくていいよ。それで、僕がブスでコミュ障って話だけど、実際に話してみてどうだった?」

 

 僕は感情を殺して、微笑みを浮かべながら毛利さん達に問いかける。

 

 ...別に、さっきの会話の意味は君たちには分からなくていい。

 ただ一人、新一君が分かってくれていればそれでいいんだから。

 

「うーんと...。想像と違うくて...、...勝手に変な想像をしてしまってごめんなさいという気持ちばかりかな...」

 

 歯切れ悪く毛利さんはそう答える。

 

 「...勝手なことを言ってごめんね?天音君」

 「私も勝手なこと言ってごめん...」

 

 でも、「ごめん」と言った彼女たちは、ちゃんと僕の目を見ていた。

 だから。

 

 「...いや、大丈夫だよ。毛利さん達みたいに目を見て謝ってくれるなら、僕は何の文句もないさ」

 

 そう言って毛利さんと鈴木さんを安心させようと思った。

 

 ...そもそも、そう思われるように工作したのは僕自身であって、その思惑に素直に乗ってくれて、むしろ感謝の気持ちもある。

 ...要するに悪いのは、元をたどれば僕だってこと。

 

 ...それなのに、彼女たちを悪く言うなんてことできるわけがない。

 

 でも毛利さんと鈴木さんは、謝ったというのに気が晴れないらしく、申し訳なさそうな目で僕を見ながらうなだれていて...。

 ...後ろに、垂れた犬のしっぽが見える。

 

 ...さて、どうすればこの子達の気が晴れるかな?

 横にいるコナン君もとい新一君は、さっきからずっと俯いてしまっていて表情が分からないけど、これだけは確かだ。

 助けは来ない。

 

 この状況を簡単に打破できそうなのは彼ぐらいだというのに...。

 別の手はないのかな...。

 

 あまりにも困っていて、それが表情に出ていたのだろう。

 僕の顔を見た毛利さん達はまた体を縮こませる。

 完全に恐縮しきってしまっていた。

 

 ...こんな様子だと、何を言っても逆効果な気がするなぁ。

 なら、あえて何も言わずに別の話に変えるか。

 

 ...あぁ、その前にやらないといけないことがあるんだった。

 

 「...あの、毛利さん、鈴木さん。一つだけお願いがあるんだけど...聞いてくれるかな」

 「?はい、何でしょう?」

 「私にやれることなら何でもします!!」

 

 ...あのねぇ、「何でもします」っていうのは、悪い奴に言っては絶対にいけない言葉だって知ってるかな?

 僕は、その悪い奴その一みたいな人間だから、その言葉を利用することだってあるんだよ?

 ...新一君の大切な人たちだから絶対に利用しないけど、自分の言動にはしっかり責任を持たなきゃ。

 

 ...まぁ、鈴木さんの場合、興味があるのは僕の顔だろうから、そう言えるんだろうけど...。

 少し心配になるよ、この世界(汚い人間だらけの世界)で上手くやっていけるのか。

 下手したら、利用されて潰れるってのがオチだからね。

 

 ...今はどうでもいいか。

 それよりも大切なのは、《お願い》の方だね。

 

 「お願いっていうのは、僕が噂のような人じゃないって言わないでいて欲しいっていうこと。」

 

 ...まぁ、そういう反応になるのは分かってたけどさ。

 何もそんなに驚かなくてもいいじゃん。

 鈴木さんに関しては、いかにも残念そうだよね?

 あとで言いふらそうとでも思ったのかな?

 

 ...さっきみたいに叫ばないでいてくれただけましだと考えよう。

 

 「...あのね、この顔で学校に行くと目立つでしょ?

 まあ、今も目立ってるのは自分でも分かってるけど、今は噂のおかげで面倒なことになってないわけ。

 ...この顔を見せたとたんに学校のアイドルとか、王子様になる気は全くないんだ。というより、そうなりたくない。

 だから、僕のことは誰にも言わないで。

 ...いつかはこんな顔してるってバレるだろうけど、今はこのままがいいんだ。

 ...分かってくれるかな?」

 

 きっと、普通の人なら目立ったって大丈夫なんだろう。

 光の下を歩いても平気なんだろう。

 

 ...でも僕は違う。

 僕みたいに悪事を重ねた人は、重ねた回数分、日の光を浴びて自由に歩くことなんて出来なくなる。

 一回、闇に足を染めたものが日を浴びて歩こうとすると、自分の体に鎖が巻き付いてきて行く手を阻む。

 

 ただでさえやりにくいのに、無駄なことで貴重な時間を奪われたくない。

 これ以上時間を増やしたら僕は壊れてしまう。

 

 ...形も残らないだろうね。

 

 「...うん、分かった。それで許してもらえるんだったたら、誰にも言わないって約束する」

 「私も約束するわ」

 

 証人は新一君だから、もし言いふらしたら新一君からの信頼が失われる。

 ついでに、僕の信頼も。

 

 ...信じてもいいかな。

 目を見る限り嘘はついてない。

 少し鈴木さんが心配だけど、...毛利さんが止めてくれることを祈ろう。

 

 「ありがとう」

 

 とりあえず交渉成立っていうことで感謝の意を伝える。

 まぁ、言いふらされても、その言葉を信じるかどうかは分からないし、いつかはバレるだろうと思っていたから別にバレてもいいや。

 

 その時はその時で対処しよう。

 

 「じゃあ、毛利さん、鈴木さんそれにコナン君。引き続きパーティーを楽しんでね」

 

 微笑を浮かべながらそう言い、毛利さんの横を通って毛利さん達から離れようとした。

 

 そして、やっぱりやめた。

 

 「...ごめん。もう少しでパーティー終わるからさ、もうちょっとだけ此処に居ていい?」

 

 僕の姿を見つけて群がってくる人たちを指さしながら、毛利さん達にそう言う僕の顔はきっと引きつっていたことだろう。

 

 彼女たちの姿を見て状況を察してくれた毛利さんと鈴木さんの陰に隠れながら、ほっと息をつく。

 

 しまった。

 あの人達がいるっていうことを考えてなかったな。

 

 彼女たちは僕が出てくるのを今か今かと待ち構えていて、その目は肉食獣のごとくギラついている。

 言っとくけど、僕は捕食対象じゃないからね。

 君たちに喰われるわけにはいかないんだ。

 

 どう切り抜けばいいんだろう?

 間違いなく僕が嫌だといっても聞き入れてくれないだろう。

 パーティーが終わった後でも多分質問攻めにあうだろうし...。

 本当にどうすればいいんだ?

 

 途方に暮れるってこういうことを言うんだろうなぁ、なんて現実逃避をすることぐらい許してほしい。

 彼女たちのせいで落ち着いてご飯も食べれてないし、既に頭を使い過ぎていてもうなんにも考えれないし、ストレス溜まってるし、明日学校行かないといけないこと考えたら確実に明日もまた睡眠不足だろうし、もう最悪。

 このパーティーのおかげで新一君を見つけれたのはラッキーだったけど、よかったことといえばそのぐらいだ。

 

 もう嫌だ。

 ほんとに群がる人間なんて嫌い!

 

 どうせアイツ等は、僕のことなんて見ていない。

 顔、外見、権力、金、情報網、...裏社会の権力。

 僕の背景にあるものにしか興味がないんだ。

 

 ...汚い......、汚い...、汚い、汚い汚い汚い汚い汚い汚い!

 全っ然綺麗じゃない。

 

 汚いものは嫌い。

 今までずっとそれは変わらない。

 

 ...なのにどうして。

 

 僕の周りにはそういう奴しか集まらないんだろう...?

 ...あぁ。理由なんてわかってるさ。

 僕も同じ(....)だからだ。

 

 ...それ以外に理由なんてないだろう...?

 

 自嘲的な笑みを浮かべて、目を伏せる。

 

 ...別にいいんだ。

 汚いことにも...もう、慣れた。

 

 「...天音君、大変だね。顔が綺麗だし、性格もいいから、きっとそれにつられるんだね」

 

 ...それは本気で言ってるの?毛利さん。

 僕の性格がいい?

 

 ...ありえない。

 毛利さんが見ているのは偽物。

 僕が作った設定どうりに演じている(ヤってる)だけ。

 

 ...君は心が綺麗だから、そう疑いもせずに(汚いモノ)を信じれるんだ。

 ......ダメ、信じちゃダメなんだ、毛利さん。

 

 僕はそんないい奴じゃないから信じないで。お願いだから...。

 

 ...でも、気づかないでいて欲しいんだ。

 僕が汚いってことに。

 

 「...そうだったらいいけどね。ねぇ、毛利さん鈴木さん。僕のことは響でいいよ。天音君は堅苦しいから」

 

 そう笑いながら言う。

 

 天音君って言われるのはあまりいい気がしない。

 響君って言われるのもあんまり好きじゃないけど、それが自分の今の(..)名前なんだから仕方がないし。

 『天音』は本当の家ではないから、そう呼ばれると天音家に申し訳なくなる。

 

 実質、一人で今まで生きていて、天音家にお世話になったことも返せてはいると思う。

 ...でも、『父さん』には名前を貰った。

 住む家も、僕の居場所も、いろいろなものを貰った。

 

 ...生きる価値のないこの僕によくしてくれた。

 僕のこの特技を生かせる仕事を紹介してくれたし...。

 ...まぁ、僕の使い勝手がいいからって、自分の面倒くさい仕事を押し付けてくるのは困るけど、それで今までの恩が返せるのならなんだってするさ。

 

 『父さん』に貰った、天音という姓は、今の僕に名乗る権利なんてないと思う。

 そう言ったら父さんは笑って否定するだろうけど、本当にそう思うんだ。

 

 だから、天音よりも響の方がいい。

 ...まだそっちの方が罪悪感が少なくて済む。

 

 名前を名乗る価値すらないと思うんだけどね。

 

 「分かった、響君。私のことも蘭でいいよ」

 「私のことも園子でいいわよ」

 

 別に君付けじゃなくてもいいんだけど...。

 まぁ、そんなことどうでもいいか。

 

 それより、さっきから顔を床の方に向けながら無言の新一君が気になる。

 気のせいかもしれないけど、耳が赤いような気がするし...。

 大丈夫かな?

 

 いや、このことも少し置いておこう。

 

 それより問題なのは、僕目当てのお嬢様方の群れなんだよね。

 もう少しでパーティーが終わるって言っても、まだ30分は残ってる。

 パーティーが長引くかもしれないし...、そう考えると全然もう少しじゃないんだよなぁ。

 

 もう少しでもうr...じゃなくて、蘭ちゃんと園子ちゃん、そして新一君の存在を無視してこっちの会話に乱入してきそうで怖い。

 あながち間違ってないと思う。

 ...だって、僕らと彼女たちの距離は最初結構あったはずなのに、今じゃ目と鼻の先だよ?

 どんどん近づいてきてるんだよ?

 ...何にもないっていう方の確率の方が低いと思う。

 

 それに、本音を言えば新一君と一対一で話がしたい。

 ...少しリスクはあるけど、やっぱり早いうちに話して、信頼を得る方がいい。

 下手に隠し続けたら、それこそ「疑ってください」って言ってるようなものでしょ。

 

 だから、今のうちに疑われて、その疑いを晴らしたらいい。

 きっとそっちの方が近道だ。

 

 さて、そうなると...。

 新一君をうまく使って、彼女たちから逃げ、尚且つ、蘭ちゃん達からも離れて、二人きりの状況を作るっていうことだよね?要約すると。

 

 案外、簡単かもしれないね。条件が多すぎて、選択肢が少ないってだけで。

 ...ううん、かなり難しいよこのミッション。

 遂行できるかな...。

 

 さっきやっと顔を上げた新一君が蘭ちゃんと園子ちゃんと話すのを眺めながら考える。

 壁にもたれ掛かっているからか、一番しんどかった時よりかは体力は回復した。...って言っても全体値からしたらほんのちょっとだけど。

 

 ...ん?

 壁?

 僕は今どこにいるんだっけ。

 

 ...出入り口付近の壁にいるんだよね。

 ...なんだ、簡単じゃん。

 このミッション、遂行できる可能性が一気に上がった!

 

 あとは、上手いこと新一君を蘭ちゃん達から引きはがそう。

 それができたら、もう僕の勝ちだ!

 ...いや、別に勝ち負けではないんだけど。

 

 「ねぇ、蘭姉ちゃん。ボク、外に行ってきていい?」

 「だぁーめ。危ないから一人で行っちゃだめよ」

 

 ...ねぇ、神様?

 今まで、神様なんてこの世にいないと思ってたけど、ほんとはいるんだって今確信したよ。

 

 

 ...いや、やっぱりこの世には神様なんていないや。

 だって、いたらきっと僕というものはこの世にいないはずだから。

 今までの辛いことなんてなかったはずだから。

 

 「なら、僕と一緒に行こうか。コナン君。彼女たちから離れたいし、僕ならちょうどいいと思うんだけど...。どうかな?蘭ちゃん」

 「響君がいるなら別にいいけど...。いいの?」

 「あの子たちよりかはマシ。それに、コナン君と話したいことが少しあるから、二人きりの方がよかったんだ」

 「そっか。じゃあ、気を付けてね」

 「了解。じゃあまたね」

 

 新一君に僕も一緒に行くことについて、了承を取らなかったけど、なにも言わないから別にいいかな?

 

 「コナン君は、別の部屋に行きたいの?それとも、外?」

 「ボクは...別にどこでもいいよ。お兄さんが行きたいところでいい」

 

 行き先を尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 ...なんで、外に出たかったんだろう?

 行き先はどこでもいいから、取り合えず部屋から出たかったっていうことかな。

 

 ...まぁ、どこでもいいって言うんだったら、僕の好きにさせてもらうよ。

 

 でもその前に、ついてきたお嬢様方を撒かないと...。

 

 「...ねぇ、コナン君」

 「なに?」

 「足音聞こえるよね」

 「うん」

 「多分、僕に用事がある人たちの足音だと思うんだ」

 「ボクもそう思うよ。足音の数が多いもの。ほとんどヒールの音だから間違いないと思う」

 「だよね」

 

 そう話しながら、曲がり角を曲がっていく。

 幸い、この屋敷は、曲がり角がたくさんあって迷路みたいになってる。

 ...っていうか迷路になってる。

 あの鈴木のじいさんが好きそうな建物だよ。

 

 まぁ、そのおかげで撒きやすい。

 一回、彼女たちから逃げるときに入ったから、道は全部把握している。

 隠し通路、隠し扉も然り、だ。

 

 僕が見つけた中でも、もっとも見つかりにくい隠し扉をくぐり、隠し通路に入る。

 ポイントは、この隠し通路の中も迷路になっていることと、この中にも隠し扉、隠し通路が存在するっていうことだ。

 

 「...ねぇ、ここどこ?」

 「えぇと...、簡単に言ったら、隠し通路の中の迷路かな?」

 「...なんでこんなところ知ってるの...?お兄さん...」

 

 この人はいったい何者っていう目で見られて、思わず苦笑いになる。

 新一君...、あんまり考えてることは表に出さない方がいいと思うよ。

 まぁ、こんなところ見つけれるのなんて、勘のいい人か、洞察力のいい人だろうから、そういう顔になるのも仕方ないのかもしれないか。

 

 「...うーん。...たまたま、かな?」

 「...そう」

 

 うん、信じられてないね。

 ...流石に、そんなに疑ってますオーラ出されたら傷つく...。

 

 気にしない、気にしない。

 ということで、新一君の視線は無視して先へ進む。

 

 一番奥の行き止まりになっている場所まで行くと、本棚がたくさんあって、図書室的なところになっている。

 その本棚に入っている本の位置をずらしたり、壁をノックしたりすると、計5個もの隠し扉が隠されていて、これまた一番めんどくさい手順を踏んだ隠し扉に入る。

 

 後ろから聞こえた、「この人、ほんとに何者だ?」っていう声なんて聞いてない聞いてない。

 っていうか地が出てるよ、新一君...。

 

 でも、その後ろに息を呑む音が聞こえたから、プラマイ0っていうことにする。

 いや、プラスにいくつか入ってるかな?

 でも、息を呑む気持ちはよくわかる。

 僕も初めてこの部屋に入った時は息を呑んで、ただひたすら感動してたから。

 ちょうど今の新一君みたいに。

 

 僕は、初めてこの部屋を見つけてからずっと一番好きだった。

 静かだし、綺麗だし、何より雰囲気が好き。

 全ての家具はアンティークで、年も統一されている。

 まるで、中世の帰属にでもなったような錯覚になるから、すごくそれが楽しい。

 

 床は、レッドベルベットのペルシャ絨毯で、裏側から模様を見ると、かなり複雑で華麗だったので、これをオークションにかけたらかなりの値段になるはずだ。

 ここの家具全てをオークションにかけようものなら、普通に億はいく。

 天井にはシャンデリア。これまた本物のアンティークだ。

 カーテンは、絨毯と同じベルベットだけど、紅というよりかは、黒に近い色をしている。

 窓枠もご察しの通りアンティークで、この窓からは普通に外が見える。

 月は雲に隠れて見えないのが残念だけど、今日の予報は雨のはずなので、仕方ない。

 外には、バラ園になっているらしく、美しいバラたちが咲き誇っている。

 壁には、絵画が飾られている。

 風景画で、外国の風景が描かれている。

 ちなみに、今僕らが入ってきた扉もアンティークである。

 

 この屋敷を作った人は、ものすごくセンスがいいと思う。

 ぜひ、一回は会ってみたい。

 

 さて、この部屋に来たのは、ただ、この部屋を新一君に見せたかっただけじゃない。

 もちろん、見せたかったのは本当だし、あの子たちから逃げるために来たっていうのもある。

 

 ...でも、一番の目的は、新一君と話すためだ。

 この部屋には誰も来れない。

 話し合いをするのにはうってつけの場所でしょ?

 

 電気をつけようにも、この部屋には電灯はないので、テ-ブルに置いてある三又の燭台と、棚の上に置いてある同じ燭台にライターで火をつける。

 暖炉があるから、そこに火をつけたら一発なんだけど、今の季節じゃ少し暑い。 

 

 部屋の隅にある本棚の前にいる新一君は、原本版のシャーロックホームズを見つけて、さっきからずっと目を輝かせながら、「すげぇ!」と連発していた。

 

 気に入ってくれて何よりだよ。

 僕が初めてここに来た時にそれを見つけたから、ここに新一君を連れてこようと思ったんだ。

 

 そのの光景に目を細めながら、本当に彼を連れてきてよかったと思った。

 

 「どう?コナン君。気に入ってくれた?」

 「うん!ありがとう、響兄ちゃん」

 

 ...ねぇ、今の見た?聞いた?

 本を両手で抱えながら目を輝かせて、満面の笑みで僕のことを「響兄ちゃん」って言ったんだよ?

 

 ...本当にここに連れてきてよかった!

 

 でも、本当の目的を忘れるな、自分。

 ここに来た目的は彼と話をするためだろう?

 ちゃんと思い出せたのなら、さっさと行動に移せ。

 

 「ねぇ、コナン君。椅子に座ったら?パーティの時はずっと立ちっぱなしで疲れたでしょ?」

 「うん。そうする!」

 

 そう言うと、新一君は素直に僕が言ったことに従う。

 ここの椅子は普通の椅子よりかは低めだけど、やっぱり小学生の体には大きかったようで、足は宙に浮いている。

 そんな姿にもかわいいなぁと思いながら、僕も彼にならって椅子に座る。

 

 あぁ、もふもふで座り心地がいい...。

 そんなことに幸せを感じながら、ポケットからクッキーを取り出す。

 

 「...なんでクッキー?」

 

 そうぼそりとつぶやいた新一君の声はちゃんと僕の耳に入っていた。

 クスリと笑いながら、なんでクッキーを持ってるのかの解説をする。

 

 「なぜかというと、食べる時間がないからなんだよ。簡単に言ったら。

ほら、僕さいろんな人と話してるでしょ?

食べながら話すのは失礼だから、絶対に話してるときは食べないようにしてるんだ。

そうすると、僕と話をするために近づいてくる人はたくさんいるし、一人一人話してる時間が長くて、やっと終わったって思った時にはもう時間的に何も食べれないんだよ。

だからこうやって絶対誰入ってこないところにきてクッキーみたいな簡単なものを食べたり、帰りに車の中で食べたりするんだ。」

 

 あぁ、なるほどとうなずく新一君を見て、食べるのを再開する。

 うん、美味しい。

 

 「あぁ、コナン君もいる?たくさんあるから食べていいよ」

 「...でも響兄ちゃんのごはんでしょ?食べられないよ」

 

 そういう新一君は、困ったように首を横に振る。

 こんな様子じゃ、僕がに何を言っても食べないなと判断した僕は、椅子から立ち上がって、新一君の横へ移動する。

 

 このクッキーは僕の自信作だから新一君に食べて欲しい。

 

 ...だから。

 

 僕は、新一君の顎に指を添え、僕の方に顔を向けさせる。

 新一君は、今の状況が理解できないのか困惑した表情でで僕を見ている。

 そんな表情もかわいいなぁ、なんて考えながら僕は、親指で新一君の柔らかい唇に触れ__

 

 

 ___左手に隠し持っていたクッキーを押し込んだ。

 

 「!むぐぅ...」

 

 目は大きく見開いたままだけど、ちゃんと口を動かしてクッキーを食べている。

 その様子を見届けてから元々座っていた席に戻り、自分もクッキーを食べる。

 さっき食べた白と黒の四角いリバーシブルクッキーも美味しかったけど、この丸いクルミクッキーも美味しい。

 

 「...な、なんで?...美味しかったけど、いらないって言ったじゃん」

 「僕が作ったから、コナン君に是非食べて欲しくて。迷惑だった?」

 

 ならごめんと謝った時の顔はきっと悲しそうにしていたのだろう。

 僕の表情を見た新一君は慌てて、迷惑じゃないよとそう言って、クッキーを食べる。

 

 ...わざとそういう顔にしたのは秘密だ。

 内心、そう笑っていた。

 まぁ、嬉しそうに笑ったのは事実だけどね。

 

 少しの間、二人ともクッキーを食べていた。

 その二人の間には、会話はなくクッキーを食べるサクサクという咀嚼音がこの部屋唯一の音だった。

 でも、そんな沈黙は重いものではなく、逆に、二人にとってはリラックスできる時間だった。

 

 でも、もうそろそろ本題に入らないといけない。

 

 「...ねぇ、コナン君」

 「ん?なに?」

 

 そう返ってきた声は、ただ純粋に疑問の色しかなかった。

 

 「僕さ、君と話したいことがあるって言ったよね」

 「うん。蘭姉ちゃんにそう言ってたね」

 

 ...さぁ、話さなきゃ。

 

 ここから始まるんだ。

 ここから始めるんだ。

 

 「...君は__」

 

 そう話し始めた僕の声は、途中で止まる。

 ...でも。

 

 「__工藤新一君、だよね」

 

 そう切り出した。

 

 その時、さっきまで見えなかった月が姿を現して、僕らを見つめた。

 まるで、ここから始まる話を見届ける道しるべになるとでもいうように。

 




 大事なお話をするシーンを最初は入れる予定だったのですが、字数的に、多くなりすぎてしまったので、断念いたしました。
 そこを楽しみにしていらっしゃる方にはほんとに申し訳ありません。

 ちゃんと書きますので、しばしお待ちください。

 それではまた。
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