消えた名探偵と謎の青年   作:Chat blanc

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 こんにちは。
 更新が一週間遅れて申し訳ありません。
 今回でやっとパーティー編が終わります。

 ...思ったよりも終わるのに時間がかかってしまいました(汗)

 !注意!
 キャラ崩壊(主にコナン)している節があります。
 不快感感じましたらすぐにこのページから抜けましょう。

 Are you ready?

 それではどうぞ。



スタートライン

 月が綺麗だなんて思うのはきっと現実逃避だ。

 さっきから固まって動かない新一君を見てそう思う。

 

 目の色を見てもらったら誰でもわかると思うが、完全に別の場所に行ってる。

 薄く口を開いて、目は大きく見開きピクリとも動かない。

 

 彼がこの状態になったのは、どう考えてもさっき僕が放った僕の言葉のせいだろう。

 

 「君は工藤新一君だよね」

 

 この言葉を聞いた瞬間から新一君の周りだけ時間が止まってる。

 

 ...こうやって動かないでいると、まるで人形みたいだなと暇で考えてしまうのは仕方のないことだと思う。

 元々顔立ちが整っているし、男子にしては華奢な体つきも手伝ってか、まったく動かない新一君は精巧な人形みたいだ。

 

 かれこれさっきの僕の爆弾発言から5分は経つが、まだ止まっている。

 ...ゆっくり新一君を真正面から観察できるからこのまま止まったままでもいいんだけど、実際にしたいことは新一君と話すことなので、どうすればいいか少し悩む。

 

 ...要するに、目を覚まさせればいいんでしょ?

 どういう方法が一番効くかな。

 耳が機能していると仮定して、こう大きな声で耳元で言えば目を覚ますかも。

 

 「蘭ちゃんが誘拐されたよー(棒)」

 

 ってね。

 ...彼にとって一番大切なのは蘭ちゃんだから蘭ちゃんの名前を入れて、適当に「誘拐された」とでも言えば目を覚ますかと思ったんだけど...。...効かなかったみたい。

 

 ...そういえば蘭ちゃんって、この前の空手の大会で優勝してたっけ?

 実際には何年も経過しているけど、みんなの感覚からすると一年も経過してないわけで...。

 じゃなくて、ということはそこら辺の大人よりかは強いわけだ。

 逆に誘拐犯を撃退してそうだから、心配する必要もないのか。

 

 ...もしこれが物語なのならば、蘭ちゃんは「最強ヒロインポジション」ってわけだね。

 新一君が反応しないのも納得。

 

 ...少し蘭ちゃんがかわいそうな気もするけど。

 

 蘭ちゃんでダメなら、園子ちゃんにする?

 

 ...いや、彼女の傍には「最強ヒロイン」である蘭ちゃんがいるわけだから、ある意味本気で、世界で一番安全だと思う。

 

 これでもダメなのなら、結局何を言えばいいんだろう...?

 

 ...新一君の好きなこと、好きなもので釣る......。

 これが一番いいと思うな。

 

 かなり考えることが適当になってきた今日この頃である。

 

 それはさておき、新一君の好きなものといえば、シャーロックホームズなどのミステリー小説とか本物の事件、サッカーだよね。

 

 シャーロックホームズならもうすでに、彼の腕の中に原本版があるからもう使えない。

 サッカーに関しては、僕が最近のサッカー事情をよく知らないから使えない。

 

 残るは事件だけど...。

 オレの知ってて言えるような事件なんて、きっと新一君も知っているだろうし...。

 ...言えないものは新一君でも言えないようなものだから話すなんて無理。

 

 なら単純に、

 

 「事件が起きたよ」

 

 とでもいえば食いつくかな?

 

 「本当か!?」

 

 ...すっごいいい顔で食いついた。

 この様子を見ると、現実逃避がしたいけど、できるような話題がなくて、咄嗟に僕がさっき放った話題に藁にも縋る思い出縋りついた。...ていう感じかな?

 

 目はキラキラと輝いてるけど目の奥が死んでるし、顔はどことなく疲れて、少しやつれてるもの。

 

 ...こんなに彼を追い詰めた原因が自分だと分かってるからすごく心苦しい。

 でも、どうしてもはっきりさせる必要があったから仕方ない。

 新一君には、もう少しだけ我慢してもらおう。

 

 「やっと動いたね。心配したよ?」

 「...」

 

 ...無言かぁ。

 少しだけ傷つきはするが、まぁ仕方ないかと心を持ち直す。

 こういうことは、何も考えずに、感情を消して淡々とクリアしていく方がいいと知ってるから。

 

 さて、新一君が思考の渦から帰ってきたところで、最初からするつもりだった僕らにとって『大切なお話』をしようか。

 

 きっと、この話し合いが終わるころには、僕は新一君に避けられるだろう。

 けど、そうなったとしても我慢するさ。

 ...大丈夫。その覚悟はできてる。

 避けられた時の僕の心がどれだけ弱るかは、されてみないと分からないけどねぇ。

 

 思わず、遠い目になってしまう自分を叱咤しながら、改めて、彼の目をしっかりととらえて会話を再開させる。

 

 「さて、“コナン(...)君”。さっき僕が言った質問は覚えてるよね。返事を聞かせてもらえるかな」

 

 ...見方によっては少し冷たい言い方になってしまったが、少しぐらい言い方がキツくなってでも、こういう質問はさっさと終わらせるのがいい。

 新一君が黙秘を続けるのなら僕は別の方向から何度でも質問する。気分的には、取り調べ中の刑事って感じかな?

 そして、何か条件付きで答えてくれるというのなら、僕はその条件を無条件に呑もう。

 ...それがいい方向に動くのか、はたまた悪い方向に動くのかは、神のみぞ知るってね。

 

 ...さぁ、どういう反応をするのかな?僕の惚れた名探偵さんは。

 

 「...オレ(..)の質問に答えてくれるのなら、答える」

 

 そう、僕の視線から逃げるように俯きながら言う。

 もちろん僕はいいよと返し、その質問をするように促した。

 

 ...一人称が、“ボク”から“オレ”に変わってるのはいい兆候なのかな?

 いい兆候であるように願いながら、じっと目の前にいる新一君を見つめながら、次に放たれる質問に身構えた。

 

 「...天音さんは...。酒の名前でお互いを呼び合う、カラスを連想させるような漆黒がトレードマークの犯罪組織を知ってる?」

 

 新一君がぽつりと呟いたその言葉に僕は思わず目を大きく見開いた。

 ...一瞬だけだったから多分新一君には気づかれていないはずだけど、思わず動揺したということは勘の良い新一君には勘づかれてしまったかもしれない。

 

 ポーカーフェイスには自信があるけど、...これは、不意打ちだった。

 すでに、あり得ないことなんて何度も見てきたのに、これに関しては全く予想していなかった。

 

 ...いや、きっとどこかでは考えいたはずだ。

 こんな裏の世界を束ねる、犯罪界の王様的存在で、存在そのものが罪になる組織が、この、超が付くほどの事件体質の名探偵様と接触しないはずがない。

 運命なんかじゃない、きっとどんな行動をしていたって組織と必ず関わっていた。

 ...新一君がすごい犯罪体質なのは知っていたけど...、...まさかここまでとは思わなかった。

 

 FBI、CIA、公安など世界中が血眼になって探しているこの犯罪集団をいともたやすく見つけるとはね。

 ...流石と言わざるおえないな。

 

 ...それに、直接被害を受けてるから、追わないといけない理由もきちんと用意されているという徹底ぶり。

 完璧な文章構成だこと。

 小さくなった原因が組織だとすると、それってシェリーが作ってたやつかな。

 そんなことができるのって、彼女ぐらいでしょ。

 ...確か、名前は...。「APTX4869」だったはず。 

 さっすがシェリーだね。

 後日、話してみよっかな。

 

 ...さて、現実逃避は此処までとしようか。

 流石にずっと黙ってると不信感が増すばかりだから。

 

 ...ただ、哀しいかな。どんなに言葉を選んで慎重になったところで警戒される。

 自分が被害を受けた奴らの仲間なんて知ったら、誰だって信じられない。

 それも、その集団の最年少幹部で、今もなおその組織に籍を置いている人間のことなんて。

 

 ...別に、危害を加える気は毛頭もない。

 っていうか、新一君の協力者に快くなるよ。

 そもそも僕は、組織を潰したくてたまらないのだから。

 

 ...僕という存在を作り出してしまった組織なんて消えた方が人間のためだ。

 人間なんて嫌いだけど。

 

 僕一人の力じゃどうあがいたって、この長い間に膨張した犯罪組織を潰すなんて確実に無理だし、逆に僕自身が呑み込まれかねない。

 ...でももし、黒く染まりきっている僕一人だけじゃなくて、光である新一君がいるならばどうだろう?

 ...わずかではあるが勝算が出てくる。

 

 新一君は、自分自身が知らない間に様々な人を味方につけるという本人も知らない特技を持っているから、それで使えて、信頼のできる仲間が増えていったのなら...。

 この悪夢からも抜け出せる...?

 

 どうにかして新一君を仲間にしたい。

 ...でも今すぐになんて到底無理だから、時間をかけてゆっくりと。

 

 ...だから、時間が止まってるのかもな。

 この一行に動かない時間は、僕に与えられた無限の時間なのかもしれない。

 大切に、有意義に、誰よりもうまく使わなくてはいけない。

 

 でも、とりあえずはこの状況をどうにかしよう。

 何かを考えるのはこれが終わってからだ。

 

 一番いい方法はきっと、後になればわかる嘘をつくことではなく、嘘偽りが一切ない真実を話すことだ。

 でも、聞かれたことだけに答えよう。

 ...そうすれば何とでも言い逃れなんて出来るから。

 

 「...うん、知ってるよ」

 

 知ってるかどうかだけ聞かれたんだ。

 これは、YESかNOで答えたらいい。

 この場合、YES。だから「知ってる」とだけ答えたらいい。

 

 必要のないことは答えない。

 聞かれたことだけを何も隠さずに答えるんだ。

 

 ...従順な人形のようにね。

 一番慣れていることじゃないか。

 

 僕の答えを聞いた新一君は、俯いていた顔を上げ、元々鋭かった視線を一層鋭くして僕を睨む。

 ...仕方のないことだ。

 少しの間だけ...この気持ちをどこか暗くて狭い場所に閉じ込めて、どうやっても出て来られないように、何錠にも鍵をかけよう。

 ...でも、この気持ちが泣きださないように、扉の前で鍵を持ちながら背を向けてうずくまって居よう。

 

 ...僕が壊れてしまわないように。

 

 「...じゃあ、その組織とどういう関係?」

 

 どういう関係、か。

 

 いろいろな答え方がある。

 最年少幹部、組織内の危険分子、組織に従順な人形、僕が作られた場所、...被害者。

 

 別に“全部”答えろとは言われていない。

 

 ...だけど、簡潔に答えるとするならば。

 

 「その組織の幹部だよ」

 

 きっとこの答えが正解。

 あくまで、正直に答えたまでだ。

 

 案の定、新一君の顔にはさまざまな色がある。

 憤怒、憎悪、驚愕...嫌悪。

 全て、マイナスの感情だ。

 

 「...コードネームは正確に言うとホワイト・リリー。でも僕を呼ぶときはみんな決まって僕のことをリリーと呼ぶから、実質的に、コードネームはリリーになってるよ」

 

 “ホワイト・リリー”

 ホワイトキュラソー、ラム、ジンの三つの酒から造られる、カクテルの名前。

 意味は『白いユリ』。

 僕のコードネームは「あのお方」ではなく、ベルモットがつけた。

 

 曰く「リリーって名前は綺麗じゃない?『白いユリ』なんてこの子にピッタリよ。ま、中身は真っ黒だし、この体は深紅に染まってるけどね」らしい。

 

 ...はっきり言ってほっといてほしいと思った。

 

 まぁ、今はどうでもいいが。

 

 それにしても、新一君が「キュラソー...、ラム...。ジンのカクテル。」って呟いてるところを見る限り、酒の知識もあるんだ。

 ...新一君が知らないことなんてあるのかな?

 

 少し気になる。

 

 「...天音さんがオレのことを工藤新一だと思った理由は何?」

 

 声も、視線も冷たくて痛い。

 氷みたいだ。

 ...そういう声も嫌いじゃないけど、やっぱり、いつもの温かい包み込んでくれるような声の方がいいな。

 

 ...いや、そう思うのはなしだ。

 

 「...偶然にしては出来過ぎていたから、かな。

 工藤新一が消えた日に、工藤新一の幼馴染である毛利蘭の元に小学生の居候が来た。

 そして、今度名探偵という名声を浴びるようになったのは、毛利蘭の父である毛利小五郎だった。

 ちょうど、工藤新一がメディアから消えた時から。

 同じ時期に、かなり近い場所で、工藤新一に関わりのある人物に変化が起きた。

 

 ...どう考えてもおかしいでしょ。

 それに、毛利探偵が推理する様子を見ていた僕の知り合いがいたんだけど、最初、ドヤ顔で犯人を名指ししたと思ったら急に眠って、「さっきさっきまでのは冗談ですよ」と言って、起きてる時とは全く別人のようだったそうだ。

 そして、その場に小学生くらいの子がいなかったかと聞いたら、いたよと返ってきたんだ。

 同じくその場にたまたまいた数人の知り合い聞いてみたんだけど、聞いた人全員から証言が取れた。

 

 ...それにね、面白いことも教えてもらったよ。

 『そういえば、毛利探偵が推理を披露しているときには、その小学生ぐらいの男の子の姿は見えなかった』ってね。

 

 そういえば、新一君の知り合いに、面白い実験をしているお爺さんがいるんだってね。

 クラスの子が話してたよ。

 そのお爺さんに頼めば、武器になるものとか、変声機、人を一発で眠らせることだって作ってもらえるだろうから、毛利探偵の代わりに推理することなんて可能だよね。

 ...まぁ、作れたらの話だけど」

 

 そこまで言い切ってから少し話すのをやめる。

 話している途中から顔を伏せていて表情が見えないから、何を考えているのかは分からないけど、きっと図星だろう。

 工藤君の家はさすがに調べるまではしなかったけど、そのお爺さん、“阿笠博士”は新一君と蘭ちゃんを小さい時から知っている人らしく、変な実験をしては家や実験器具をかなりの頻度で爆発させているらしい。

 

 個人的に、その『変な実験』にすごく興味がある。

 ...いったい何してるんだろう?

 僕もその実験手伝ってみたいなぁ。

 

 目の前に座っている、いまだに顔を伏せている新一君を眺めながらそんなことを考える。

 

 ん?

 さっきは、腕時計に手を添えてなかったはず...。

 癖、かな。

 

 ...いや、あの動きは腕時計を操作してる。

 あの腕時計に何か細工がしているのか?

 そういえば、普通の時計と音が違うけど。

 

 ちゃんと時計としての役割もしてるけど、別の機能も付いている。

 ストップウォッチか?...いや、ボタンがない。

 

 まぁ、使わせてみよう。

 

 腕時計が何になるのか少しワクワクした。

 何になるんだろう?

 銃?ナイフ?スタンガン?もしかしたら形が変わるのかも。

 ならどんな形?

 この腕時計を作ったのはきっと“阿笠博士”なんだろうなぁ。

 

 どんな人なんだろう。

 会ってみたい。

 ...まぁ、新一君に信用されるまで会わせてもらえないだろうけどね。

 

 そこまで考えて苦笑する。

 

 何呑気に考えてんだろ。

 こんなにリラックスしたらダメなのにねぇ。

 大事な話をしてる真っ最中なんだから。

 

 きっと大事な話をしているのにこんなにリラックス出来るのは新一君ぐらいだろうな。

 後にも先にも彼だけだr__

 

 

 『リリー』

 

 

 ...もう僕の名前を呼ばないで。

 フラッシュバックはもう嫌だ。

 今目の前に、新一君がいるんだから。

 

 「これらの理由から、君が工藤新一君だと思ったんだよ」

 

 アノ人(...)のことを思い出したくなくて新一君に話しかける。

 

 「...ねぇ、警戒する理由は分かるよ。...でも、もし君を始末しろっていう命令が出ていたら、もうすでに君は死んでるだろうね。

 ...信じれないのは分かってる。だから、僕のことを信じて欲しいとか思ってないし、...逆に、こんな危険な僕が誰かに信頼されるなんて危ないことは絶対にしない。

 

 ...でも、この言葉だけは信じて欲しい。

 僕は、組織を消したい。

 だから、君が工藤君なら工藤君のことを何があっても守るよ。君の大切な人も。

 だから、協力者になって欲しい。組織を消すためには、必ず君の力が必要だから」

 

 ...こんなこと言ったって、この言葉も信じてもらえないか。

 

 僕の手はもう血で赤黒く染まっている。

 それに比例して、僕の心も真っ黒だ。

 そんな奴の言葉なんて僕なら絶対信じない。

 

 ...仕方ないんだよ。

 

 「...もうそろそろパーティーが終わる頃だね。戻ろうか」

 

 僕は、そういうと立ち上がって火を消す。

 いつの間にか月が隠れていたみたいで、もう月は僕らを照らしてはくれなかった。

 闇。

 僕にとって一番落ち着く、居心地のいい場所だ。

 

 火を消し終えて扉の前へ向かい扉の取っ手を掴み、引く。

 できたわずかな隙間から外の明かりが漏れてきて、好きな場所がどんどん崩れていく。

 

 そこまでしてから、コナン君(....)がついてきていないことに気づき、振り向く。

 

 不思議だ。

 僕が光にいて、彼が闇にいる。

 本来なら逆のはずなのに。

 そう思い、思わず場違いな笑みがこぼれる。

 

 「どうしたの?おいでよ、コナン君」

 

 そう呼ぶと、今まで俯いていた頭を上げ、僕の目を真っすぐとらえる。

 逸らしてはいけない。

 本能でそう思い、彼のまっすぐな瞳を見つめ返す。

 

 するとぼそりと、でもはっきりと僕にこう言った。

 

 「...オレは、工藤新一だ。お前のことを信じたわけじゃないけど、協力する。」

 

 最初、そう言われた時、新一君が言った言葉の意味がいまいち意味が分からなかった。

 だんだん、ぼうっとしていた頭が冴えてきた初めて、その言葉の意味をようやく理解し、僕の目はだんだん開かれていく。

 ...その時の僕の顔を客観的に見たら面白かっただろうなぁ。

 目は大きく開いてるし、薄くだけど口が開いていて、間抜けな面をしていたのを自覚していたから。

 

 ...でも、その間抜けな顔はすぐに笑顔に変わった。

 今までの人生の中で一番の笑顔だったということだけ記憶している。

 ...心から笑えるって、とても嬉しいことなんだね。

 

 ...新しいことをまた、教えてくれてありがとう新一君。

 

 ...やっぱり君はすごいや。

 僕の知らないことを次々に教えてくれる。

 そんな君に認めてもらうために、精いっぱい頑張ろう。

 

 ...だからちゃんと僕を見ていて。

 表面だけじゃない、仮面をつけ過ぎて曖昧になった境界線に惑わされずに本当の“僕”を見つけてくれるかな。

 きっと君にしかできないから、君に託すよ。

 

 ...やっとスタートラインには立てたんだ。

 これからどうなるかは、僕らの行動次第。

 

 ...だから、その時の僕にできる最善を尽くそう。

 新一君のためになるのなら。

 ...それが僕の『復讐(ため)』になるのなら。

 

 

 ♦ ♢ ♦ ♢ ♦

 

 

 どうしてこんな話をすることになったのだろう。

 

 そもそもオレが外に行きたいって言ったのは響から早く離れたかったからだ。

 響と一緒にいると、自分がおかしくなる。

 顔はずっと熱いまんまだし、動機も激しくなるばかりで一向に収まる気配がない。

 なんでこうなったのかのメカニズムが詳しくわからないけど、簡単に言ったら、こうなった原因は響にあるらしい。

 こんな顔をしてるってることを根本的な原因である響にバレたくなくて...。

 ...だから、少しでも早く響きから離れたかった。

 

 こんな自分を見られることが嫌だった。恥ずかしかった。

 だから、離れたかった。

 

 ...なのに。

 

 響はついてくるから結局離れるっていう願いはかなわなくて、「どこに行きたい?」って聞かれて、半ば投げやりになっていたオレは、「どこでもいい」と答えると、本当にとんでもないところに連れて行くし。

 

 ...気づけば、密室で二人きり。

 

 最初は、シャーロック・ホームズの原本版に意識を集中させて、響のことは考えないようにいていた。

 これが思いの外上手くいき、響のこと変に意識することもなかった。

 

 ...けど、ここから別の意味で意識することになった。

 

 響が、オレの正体を見抜いた。

 

 その時に思い出したのだが、響って高校のテストの時の順位が一位から落ちたことを知らない。

 ...学年全体でっていう意味ではない、全国規模の模試で、だ。

 

 つまり、かなり頭の回転が速くて、IQも高い。

 ...そこまで考えて、一つの思い付きがオレの頭を支配した。

 

 “響を仲間にできないか?”と。

 

 ...いや、彼は関係がない。

 巻き込むなんてそんなことできない。

 そう思いなおし、一旦その考えを捨てる。

 

 ...そういや、なんで俺の正体が分かったんだ...?

 オレは、高校で一回も響きと話したことなんてなかったし、接点なんて一つもなかった言ってもいいに等しかった。

 それに、いくら同一人物だとしても、オレは簡単に言うと、高校生から小学生になっているわけだ。

 人間が若返るなんて非科学的だから、その固定概念のおかげで、今までバレなかった。

 ...なのに、響は妙に確信をもってオレからの答えを待っている。

 

 ...もしかして、組織の人間なのか...?

 

 背筋に悪寒が走る。

 そう考えれば、全ての辻褄が合う。

 

 組織の人間なら、開発中の毒薬についても何か聞いているかもしれないし、オレが殺されたっていうことも聞いているだろう。

 ...でも、実際に死んだわけではないから死体はない。

 それに気づいてオレのことを調べたのだとしたら...?

 

 ...ありえない話ではない。

 

 だから、最初に聞かれた質問には答えずにいくつか質問をした。

 

 ...組織の幹部だと聞いた時には、「ああ、やっぱり」と納得した自分ももちろんいた。

 ...だけど、裏切られたという虚脱感、騙されていたのかという怒りと悲しみ、一緒の高校に通っていたのに気づけなかったという悔しさ...。

 様々な感情が体中を駆け回って、上手く呼吸ができなくて、...苦しかった。

 

 泣く必要なんてどこにもないのに、泣きたくなった。

 叫んで、泣き喚いて、自分の思いを響に押し付けて楽になりたかった。

 これはきっと悪い夢で、寝たらこんなことなんてなかったっていうオチに持っていきたかった。

 

 ...無茶苦茶だった。

 きっと、こんなものなんて武器になりさえしないだろうけど、腕時計型麻酔銃をいつでも撃てるように構えた。

 

 ...冷静な判断なんて今の自分には到底無理だ。

 だから、何も言わずに響が語る話に静かに聞いていた。

 

 「自分のことは信じなくていい。でも、この言葉だけは信じて欲しい」

 そう言った時の響きの瞳は、真っ直ぐで、とても澄んでいて、とても綺麗だと思った。

 

 こういう目をする奴は、嘘はつかない。

 根拠はないけど、名探偵と呼ばれていた時の勘はまだ鈍ってはいない。

 

 響自身を信じ切ることは無理だった。

 謎が多すぎる上に、オレが追っている組織の幹部だからだ。

 

 ...でも、この言葉だけは信じてみようと思った。

 信じてみるだけの価値はあると判断したんだ。

 

 あとから思えば、まだ熱に浮かされていて、冷静な判断は下せてなかったと思う。

 ...だけど、信じてよかったと思っている。

 

 最初は言うつもりなんてなかったけど、これからよろしくという意味も含めて、彼がしたようにカミングアウトをする。

 

 ...その時に見せた彼の笑顔を、オレは一生忘れはしないと思う。

 それほどまでに美しく、印象に残るものだったから。

 

 これで良かったのかどうかなんてオレには分からない。

 きっと、誰にもわからない。

 だから、これから先どんな展開になってもオレは現実から目を背けずに闘おう。

 

 心の中で静かに、でもはっきりと誓った。

 

 

 ♦ ♢ ♦ ♢ ♦

 

 

 後ろにちゃんとついてきているのは、気配と足音で分かってはいるけど、...少し遠いと思うのは僕だけですかね。

 ...あんな話をした後だ。警戒してないって考える方がおかしい。

 

 少し寂しいと思ってしまうのは僕のわがままだから、喉元までせりあがってきた溜め息は呑み込もう。

 家に帰ってから吐き出せばいいさ。

 

 (...もう少しで、新一君との二人きりの時間が終わってしまう...。)

 

 そんなことで進むスピードは遅くなり、そんな自分に苦笑いがこぼれる。

 別のことを考えろ。

 

 深紅の壁、金の燭台、灰色の曇り空、銀製の中世の騎士が身につけそうな甲冑、深緑のベルベットの絨毯...。

 

 でも、どんなに別のことを考えたって、新一君の顔が頭をよぎる。

 怒った顔、ムキになっている顔、楽しそうに笑う顔、いたずらが成功した子供のように笑う、あの無邪気であどけない顔、小さくなっても変わらない真剣な顔...。

 

 ...こんなに好きなのに、黒の組織の幹部だから警戒されて。

 でも、新一君に一人の人間として意識してもらえたことが嬉しくて。

 隣に来てくれないのは少し嫌だけど、でも近くにいるだけで幸せで。

 

 ...こんなことを考える自分が気持ち悪い。

 

 そうは思うけど、自制が聞かなくて...。

 

 

 ......絶対に報われない恋なのにね。

 

 だからかな?こんなに胸が苦しいのは。

 こんなに苦しいのは『アノ日』以来だ。

 

 この扉を開ければ、もうこの時間は終わってしまう。

 「もうそろそろ帰ろうか」って言ったのは僕なのに、未練たらたらで恥ずかしいや。

 

 そう心の中でだけ呟いて扉を引く。

 

 (...眩し)

 

 基本的に隠し通路の内部は、ろうそくの明かりだけなので、その薄暗いところからとても明るいところに入ったため、真っ先に感じるのはその眩しさと、開放感だ。

 隠し扉内の通路は狭いから、囚われているような錯覚を覚えるんだよね。

 

 (さて、蘭ちゃんたちのところへ急ごうか)

 

 進んできた道を僕らは戻っていく。

 ...相変わらず距離は空いたままだけど。

 

 進んできた道を引き返していく途中に僕待ちの人たちに会わなかったのは幸いだったな。

 ...ま、僕が先に見つけて、回避しながら進んできたからだけど。

 

 やっと蘭ちゃんたちの姿が見えたのは、部屋を出てから5、6分経っていて、行きにかかった時間が約2分だったことを考えると、かなりかかったことになる。

 ...生身の人間ほどにいい障害物はないよね。

 

 しみじみそんなことを考える。

 

 少し遅れてしまったことを蘭ちゃんと園子ちゃんに謝ってから、少し人が減ったパーティー会場をさっさと抜け出し家路につく。

 

 新一君は、下手に刺激せずに放っておいた方がいい。

 ...変なことをして、これ以上警戒されたくないから。

 

 

 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢

 

 

 ...それにしても、これで良かったのだろうか。

 

 お風呂から上がってきたばっかりで生乾きな自分の髪をタオルで拭きながら、自室のベッドの上で思考の渦に浸る。

 

 会場内で新一君を探したこと。

 蘭ちゃんと園子ちゃんと話したこと。

 新一君と接触したこと。

 僕自身が組織の人間で、しかも幹部だとカミングアウトしたこと。

 

 全て、正しい選択だったのだろうか。

 もしかしたら、これらをしない方が正解だったのではないのか。

 

 小さなきっかけが、この先の展開を大きく変えることだってたくさんある。

 所謂、「バタフライエフェクト」と呼ばれるものだ。

 

 ...僕に、正しいかどうか判断することなんて出来ない。

 この先のことなんてわからないからだ。

 

 僕の発した言葉、行った行動が正しかったことを信じよう。

 ...っていうか、信じて待つことしかできないわけど。

 

 きっと、悪いようにはならないはずさ。

 でもきっと、良いようにもならないだろうね。

 

 これは僕の人生だ。

 

 これからのことなんて全く分からないから、“今”、大切だと思ったことを実行し、言葉として表せばいい。

 これから始まることにも柔軟に対応していこう。

 

 その前に、眠いから寝ようかな。

 

 さっきよりかは乾いた自分の髪を指先で弄びながら、真っ白でしわ一つないベッドの上に身を委ね、電気を消す。

 遮光カーテンだから、この部屋は完全な闇になり、その暗さにほっとしながら、眠い目をこする。

 

 久しぶりに、薬に頼らずに眠れそうだ。

 これも新一君のおかげだよね。

 

 自分でも気づかないほどうっすらと笑みを浮かべ、睡魔にあらがわずにゆっくりと意識が途絶えてゆく。

 

 いつも見ているあの夢も見ないほど、深く眠りについたのはいつぶりだろうか。




 どうでしたか?

 コナン視点と響視点を書きましたが、それのおかげで長くなりすぎてしまいました。
 分けるかどうかすごく悩んだ結果。
 短いのを2回に分けるか、長いけど1回にまとめるかを考えると、後者の方がいいかなぁ、と思い、約二週間かけて書き上げました。

 一応、見直しはしたのですが、誤字脱字等がありましたら報告お願いします。

 次回は心象に入っていく予定です。
 
 それではまた。 
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