世界サイド
俺は夕日を浴びながら、口を尖らせて河川敷を歩いていた。
「なんだよ智明の奴、先に帰るならそう言えよな…」
独り言を呟き、河川敷に視線を移すと、その言葉は意味を無くしてしまった。
そこには、誰か分からない金髪の女子と共にボールを蹴る智明の姿があった。
俺を置いて女子とサッカーをしている智明に対して、呆れよりも感動を覚えていた。
俺はすぐに河川敷の坂を滑り降りる。するとそのまま智明の体へ突進した。
「智明ーー!!」
「ぐっっはあぁ!?」
智明は起こったことが分からないままタックルを喰らい、体勢を崩してしまうが、倒れるまでには至らなかった。
「世界!? 何しやがる! 突然タックルしてきやがって、イノシシか!」
すると、智明の後ろにいた女子がクスリと笑った。
「面白いお友達ね。智明くん」
智明は女子の方を見るが、俺の肩を掴んでその女子に言い放った。
「友達じゃねぇ。親友だよ。唯一無二のな」
「そう、じゃあ私も挨拶しておこうかしら」
女子は俺に近づくと、右手を差し出した。
「私はエム。本名はエミリー・アントワーヌ。私もサッカー部に入れて貰おうと思っているのだけれど」
俺はすぐにエムの右手を両手で掴んだ。
「新入部員なら大歓迎だ! 入ってくれて嬉しいよ!」
エムはまたクスリと笑った。
「えぇ、入れて貰えて私も嬉しいわ」
俺は内心歓喜していた。
今日で一気に三人も部員が集まったのだ。
これほど嬉しいことはない。
だが、そこに智明が割って入った。
「そろそろ帰るぞ世界。エム、今日は付き合って貰ってすまない」
「ふふ、そういうのはありがとうと言うのよ」
「生憎、礼を言うのが苦手な性格なんでな」
智明が河川敷を去ろうとするので、俺も急ぎ足で智明の元に駆け寄った。
河川敷を去り、住宅街に差し掛かったところまで来た時だった。
「なぁ智明、もう残り四人だぞ? あと四人集められたら、俺たちはフットボールフロンティアに出場出来るんだよ!」
目を輝かせながら智明に言った。
だが、智明は真剣な眼差しで突飛なことを俺に言ったのだ。
「……なぁ世界、これから一週間、部員集めはやめさせてもらっていいか?」
「……はぁ?」
俺は口を開けたまま呆然と足を止めることしか出来なかった。
「どうしたんだよ智明!? 一緒にフットボールフロンティアに出場して、優勝するんじゃなかったのか!?」
俺は智明を説得しようとするが、智明の意志は固いようだった。
「だからだよ」
智明は遠い夕日を眺めながら、話を続けた。
「俺はフットボールフロンティアに出れば、そこそこの実力は発揮できるだろうと思ってたんだ。だけどそれは、俺の大きな思い違いだった。だから俺は、もっと強くなりたい。お前の力になりたいんだよ」
それを聞いて、俺は安心した。
智明は、サッカーが嫌いになったわけじゃなかったんだ。良かったぁ。
俺は智明の意志を汲み取ったことの証明に肩を叩いた。
「分かった! 俺も部員が集まれば、すぐに練習するよ!」
「……恩に着る。じゃあ、また明日」
「あぁ! また明日!」
そう言って俺たちは、それぞれの帰り道に別れて行った。
****
翌日の朝、登校時間を知らせるチャイムが鳴り響く一年生の教室に、ドタバタと走り寄る足音が響く。
その正体は、俺の全力疾走だった。
俺は自分のクラスである1-1教室の前で足を止める。
「ギリギリセーフ!」
「大空君っていつも余裕ないよね」
顔を上げると、そう話しかけてきたのは奏太だった。
「あれ? 奏太って同じクラスだったっけ?」
「自分のクラスメイトくらい把握しといてよ……」
俺も苦笑して頭を掻く。するとその奥で、大きな怒号が鳴り響いた。
「おいお前! 何しやがんだよ!」
「ひぃっ! すみません……」
どうやら大柄の男が、気の弱そうな男子に当たっているようだ。
「なんだ? あれ」
状況の分からない俺に、奏太が説明するように言った。
「彼は矢場 武。所謂、このクラスのリーダーだよ。どんなことでも当たってくるし、喧嘩は強いから、皆関わりたがらないんだ」
成る程、そして今がその「当たり」の真っ最中というわけか。
「……見過ごせないな」
俺は矢場の元へ近寄った。
「おい、矢場! 謝ってるんだから、許してやれよ!」
「あぁ? うるせぇ!」
そう言って矢場は、俺に殴りかかろうとするので、俺もしゃしゃり出てきたくせに喧嘩が強いわけではないので、目を瞑ってしまう。が、矢場の腕は俺の体のどこにも当たることはなかった。
ゆっくりと目を開けていく。
「……お前が勝負を選べ。その勝負で俺が勝ったら、もうしゃしゃり出てくんな」
俺は状況を掴めなかったが、取り敢えず真っ先にこう言った。
「サッカーバトルだ! 放課後、河川敷で勝負しよう!」
「そうか分かった。俺も数連れて来るから、お前も連れてこい」
そう言って矢場は自分の席に戻った。
「大空君、なんてことしてんの!? 矢場は運動神経がいいことで有名なんだよ! あぁもう負けだ〜」
奏太が俺の前で体を折った。
「おいおい奏太。まだ始まってもないのに諦めんなよ。頑張れば勝てるさ!」
俺は奏太に言い聞かせる。
すると奏太は、何かに気付いたようだった。
「えっと、なんで僕も参加するみたいに言ってるの?」
俺は首を傾げた。
「え、なんで出ないんだ?」
そう言うと奏太は、死んだような目をして自分の席に戻った。耳を澄ますと、何かブツブツ言っているようだった。
「あの、僕もそのサッカーバトルに入れて貰えませんか?」
そう言って来たのは、さっき矢場に当たられていた気弱そうな少年だった。
「良いけど、君、名前は?」
「あ、僕、池田 若って言います。僕のせいでこうなったし、何か手伝えることがあればしたいんです!」
俺は池田のその誠意に感心した。
「あぁ! こちらこそ宜しく頼むよ!」
サッカーバトルに必要な人数は五人だから、あと二人、一人は根子でいいだろうけど、もう一人は……。
「……あいつにするか」